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第三章 冒険編 私の理想郷

理想郷を目指して

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 広大な草原に澄み切った青空。わた雲が優雅に流れる中、リップから伝えられた情報を元に、真緒達は奇妙な館があるとされる北西へと方角を合わせ、歩いていた。



 「“理想郷”……いったいどんな所なんでしょうか?」



 そんな中、リーマが至極当然の疑問を口にする。これから辿り着く事になっている“理想郷”と呼ばれる館。どんな形で、誰が住んでいるのか、全く知らない。



 「理想郷って言う位だから……自然豊かで住みやすい場所なんじゃないかな?」



 「いや、ぎっど世界中のありどあらゆる食べ物が揃っでいるに違いないだぁ!!」



 「お前はそればっかりだな……」



 理想郷という言葉に、各々が想像を膨らませる中、フォルスが呆れた様子で反応を示す。



 「じゃあ、フォルスさんはどんな所だと思います?」



 「俺か? そうだなぁ……自分の望む物が全て揃っているんじゃないか?」



 「「「…………」」」



 「な、何だよ?」



 その言葉で三人は一斉に立ち止まり、冷ややかな目がフォルスに集中する。そんな状況に思わず狼狽えるフォルス。



 「……流石にそれは無いと思いますよ……?」



 「いくら理想郷って言っても、限度がありますからね……望んだ物が全て揃っているなんて……」



 「フォルスざんは、ロマンヂズドだなぁ……」



 「…………ほ、ほら!! 無駄話をしていないで、先を急ぐぞ!!」



 真面目に受け止められ、急に恥ずかしくなったフォルスは話題を切り替えると、一人先へと足早に歩き出した。



 「あっ、ちょ、フォルスさん!! 待って下さいよ!!」



 「気に障ったのなら謝ります!!」



 「悪がっだだよぉ!!」



 「知らん!! お前達の事なんか知らん!!」



 へそを曲げてしまったフォルスを宥める様に、三人は慌てて後を追い掛ける。



 「(……でもこうして、皆でふざけ合うのも良いですね。何だか一年前に戻った感じがします)」



 まるで新喜劇の様なやり取りに、真緒はかつての旅を思い返し、密かに喜んでいた。



 「(あぁ……ここに師匠もいてくれたら良かったのに……もしあの時、師匠と和解する事が出来ていれば、師匠と一緒に旅をする事が出来たのかな……)」



 最早叶わぬ夢を思い浮かべる真緒。過ぎてしまった時は、もう元には戻らない。前を向いて歩こうと決意を固めたが、それでもまだ一年しか経っていない。時々、思い出してしまう。そんな事を考えながら、真緒はフォルスの後を追い掛ける。







***







 「もぉー、そろそろ機嫌直して下さいよー」



 「…………」



 フォルスが拗ねて数時間。足早に先へと急ぐフォルスの後を追い掛ける真緒達は、何とか機嫌を直して貰おうと、後ろから声を掛け続けていた。



 「フォルスさん、ごめんなさい。悪ふざけが過ぎました……」



 「ずいまぜんだぁ……」



 「…………」



 奇妙な館に向けて歩き続ける中、先程までの広大な草原や澄み切った青空から離れ、代わりに草木が一本も生えていない岩だらけの道、厚い曇り空の下を歩いていた。



 「それにしても……何だか不気味な雰囲気ですね……」



 「ざっぎの草原どは大違いだぁ……」



 「……フォルスさんもそうは思いませんか?」



 「…………」



 何とか会話をしようと、世間話を試みる。しかし、相変わらずフォルスは無言のまま、足早に先へと進んで行く。



 「……フォルスさん、本当にすみませんでした……勝手な事だと分かっているんですけど、許して貰えないでしょうか?」



 「…………」



 悪ふざけが過ぎたと、深く反省したリーマはフォルスの前に出て、頭を下げて謝罪した。しかしフォルスは、そんなリーマの真横を無言で通り過ぎる。



 「ちょっと!? フォルスさん!!」



 フォルスの失礼極まり無い態度に、真緒が大声を上げながら、フォルスを呼び止めようとする。



 「しっ!! 静かに!!」



 「「「えっ……?」」」



 するとフォルスは、真緒の呼び掛けとは別に、突然立ち止まった。そしていきなり、後ろにいる真緒達の方に振り返って、右手の人差し指を唇に当てて、静かにする様に促した。そのあまりに咄嗟の出来事に真緒達は一瞬で静かになり、一斉に動きを止めて立ち止まる。



 「……物音がする……何かこちらに近付いて来るぞ!!?」



 「えっ……『……キシャアア……』……ほ、本当だぁ!?」



 耳の良いハナコが慌てて両耳を立てると、何処からか不気味な声が聞こえて来た。そしてフォルスの言う通り、その声の主はこちら側にどんどん近付いて来ていた。



 「キシャアアア……」



 「き、聞こえた!!?」



 「今の鳴き声は!?」



 「来るぞ!! 皆、側を離れるなよ!!」



 真緒やリーマの常人的な耳でも聞こえる程に、声の主が近付いて来ていた。その声に対して咄嗟に真緒達は、武器を取り出して構える。声の主は、側にある岩影まで迫って来ていた。



 「キシャアアアアア!!!」



 「あ、あれは……!!?」



 岩影から姿を現したのは、全く見た事の無い生物だった。頭が蛇なのに対して、体は豚の様に肥えていた。もっと端的に言えば、豚の体に蛇の頭を持った生物が姿を現したのだ。



 「な、何だあの生き物は!!?」



 「あんな生き物、見た事がありませんよ!!?」



 「気持ぢ悪い見だ目だぁ……」



 「キシャアアアアア!!!」



 「「「「!!!」」」」



 突如、目の前に現れた異様な見た目をした生物に狼狽えていると、その生物は真緒達目掛けて襲い掛かって来た。



 「くそっ!! こうなっては戦うしかない!!」



 そう言うとフォルスは、翼を羽ばたかせて空高く舞い上がった。



 「こちらも行きますよ!! “スネークフレイム”!!」



 リーマの魔導書から、炎で形成された蛇が生み出され、異様な見た目の生物目掛けて放たれる。



 「キシャアアアアア!!!」



 しかし、その生物はリーマの放った炎の蛇を素早いフットワークで避けた。



 「あ、頭は蛇の癖に以外と素早いんですね……」



 「キシャアアアアア!!!」



 すると異様な見た目の生物は、まるで本物の豚の様に、四足歩行でハナコ目掛けて突進を繰り出した。



 「ハナコさん!! そっちに向かいましたよ!!」



 「任ぜるだぁ!! スキル“インパクト……「キシャアアアアア!!!」……!?」



 ハナコが、迫り来る異様な見た目の生物に向けて、スキル“インパクト・ベア”を繰り出そうと両腕を引いたその瞬間、その生物の頭である蛇が牙を剥き、ハナコに襲い掛かって来た。



 「ぐっ!? スキル“鋼鉄化(腕)”!!」



 咄嗟の機転で、ハナコはスキル“インパクト・ベア”を中断して、代わりにスキル“鋼鉄化(腕)”を発動し、自身の腕を鋼鉄に変化させ、わざと噛み付かせる事で見事に防いだ。



 「ハナコさん、大丈夫ですか!!?」



 「な、何どか大丈夫だぁ……」



 「ハナちゃん!!、そのまま押さえ込んでいて!!」



 「「!!!」」



 ハナコが、自身の腕を噛み付かせる事で、動きを押さえ込んでいる中、真緒がそのまま押さえ込んでいて欲しいと頼んだ。ハナコは言われた通り、未だに噛み付いている異様な見た目の生物を押さえ込んだ。幸いにも、この生物は体が豚の様に肥えていた為、押さえ込むのは容易だった。



 「そのまま……そのまま……スキル“乱激斬”!!」



 「ギシャアアア…………」



 ハナコが異様な見た目の生物を押さえ込んでいると、真緒はその生物目掛けて目にも止まらぬ斬激を繰り出す。体を切り刻まれたその生物は、野太い悲鳴を叫び、息絶えた。



 「ふぅ……終わりましたね」



 「うん……ハナちゃんありがとう、押さえ込んでいてくれて……」



 「いやぁ、役に立でで良がっだだぁ……」



 無事に戦闘が終わった事に、ホッと胸を撫で下ろす三人は、改めて息絶えた生物を観察する。



 「それにしても……この生き物はいったい何だったんでしょうか?」



 「新種の生命体……いや、でもこの見た目はどう見たって……」



 「蛇ど豚だぁ……」



 「まるで……二つの生き物を無理矢理合体させた様な感じですね……」



 「そうだね……あれ、そう言えばフォルスさんは?」



 「あっ、もしかしてまだ空の上にいるんでしょうか?」



 そう考えながら、三人は空を見上げる。すると未だにフォルスは飛んでおり、遠くの方を見つめていた。



 「フォルスさん!! もう終わりましたよ!! 降りて来て下さい!!」



 「何を言っているんだ!? 戦いはまだ終わっていないぞ!?」



 「いやでも、現にもう倒してしまいましたよ!?」



 「聞こえないのか!? この“地鳴り”が!?」



 「「「えっ!?」」」



 フォルスの言葉に、真緒達は慌てて聞き耳を立てる。すると…………。







        ドドドド……







 「い、今のって!?」



 「さっきから言っているだろう!! 何か近付いて来る!!」



 真緒達が聞いたのは鳴き声。しかし、フォルスが聞いたのは“物音”。つまり、真緒達は先程の生物の鳴き声を、フォルスは地鳴りの様な物音を聞いていたのだ。



        ドドドドドド!!!



 地鳴りの様な物音は、徐々に大きくなってやって来た。すると地平線の向こう側から、砂埃を巻き上げながら大量の生物が押し寄せて来た。



 「た、大群だぁ!!!」



 「皆、戦闘体勢に入れ!! 少しでも気を抜いたら、死ぬ事になるぞ!!」



 押し寄せる大群。そのどれもが、先程の生物と同じ様に異様な見た目をしていた。ある者は頭が鳥なのに、体は蟹だった。またある者は頭はハエなのに、体は蛇だった。そしてある者は頭は人間なのに、体は兎だった。そんな地獄絵図の様な大群が、真緒達目掛けて襲い掛かって来るのであった。
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