笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第二章 冒険編 不治の村

一人じゃない

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 「…………」



 「…………」



 「…………」



 「……それで? 結局、回収には失敗してしまったのですか?」



 ゴルド城内。ヘッラアーデ本部の会議室にて大司教エイリスと、幹部であるノーフェイス、ロージェ、フェスタスの三人がそれぞれ椅子に座って話し合いをしていた。



 「……はい……」



 「はぁー、回収には失敗……それどころか、11支部から15支部の教団員達を殆ど失ってしまうなんて……」



 「特に15支部の被害は酷い。司教以外、全滅してしまった」



 「はぁー、まさかこんな事になってしまうなんて……ついていませんでしたね……」



 フェスタスが率いた11支部から15支部。失った教団員達のあまりの多さに、エイリスは片手を頬に当てて、深い溜め息を漏らす。



 「……エイリス様、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません……」



 「気にしなくて良いのですよフェスタス。これは避けられない運命だったのかもしれません。あなたが勝手な行動を取らなければ、ここまで甚大な被害は出なかったかもしれない……でもあの時、誰もそんな事は考えていなかった……只、エジタス様のロストマジックアイテムが、予想以上に強力だった……それだけです」



 「…………」



 顔は笑顔だが、目が笑っていないエイリス。そんなエイリスに対してフェスタスは下唇を噛んで、必死に怒りを抑え込む。強く噛み過ぎて、下唇が血で滲む。



 「それでロージェ……残りのロストマジックアイテムの情報は、何か掴めましたか?」



 「……いや、残念ながらこれといった情報は手に入っていない」



 「そう……出来る事なら、情報収集範囲をもっと広げたい所だけど……多くの教団員達を失ってしまったばかりですからね……」



 「…………」



 エイリスの棘のある言葉に、フェスタスは更なる怒りを覚える。下唇だけでなく、手を握る力も強くなり、掌に爪が食い込み血が滲み出る。



 「……前から思っていたが、お前が持っている“エジタスの日記”。それに場所とかは記されていないのか?」



 「残念ながら……書かれているのは、ロストマジックアイテムの主な能力と、渡した人物の特徴だけ……」



 そう言いながらエイリスは、懐からエジタスの日記を取り出し、ページをめくり始める。



 「…………ちょっとその日記、見せてくれないか?」



 その様子にロージェが、エジタスの日記を見せて欲しいと頼んで来た。



 「ごめんなさいロージェ。いくらあなたの頼みでも、それは出来ないわ」



 「ちょっと位、良いじゃないか」



 「ごめんなさい……」



 「何も永久に借りる訳じゃ無いんだ。ほんの二、三分で良いんだ」



 そう言うとロージェは、椅子から立ち上がり、エジタスの日記を受け取ろうとエイリスの下に近付いて行く。



 「…………」



 「……何のつもりだ? ノーフェイス……」



 そんなロージェの行く手を、ノーフェイスが立ち塞がった。



 「…………」



 「そこを退け。用があるのはエイリスだ。お前は関係無い」



 「…………」



 ロージェの言葉に、無反応なノーフェイス。ロージェが迂回しようとしても、それに合わせて立ち塞がって来る。



 「お前……」



 「…………」



 一触即発の雰囲気が流れる。



 「……はいはい!! 喧嘩はそこまでよノーフェイス、ロージェ」



 「「…………」」



 手を叩き、両者の喧嘩を止めるエイリス。エイリスの言葉を聞いたノーフェイスは、足早に自身の席に戻った。



 「内輪揉めしている場合じゃ無いでしょ? ロージェ、あなたの気持ちも分かるけど……この日記には、本当にそれしか書かれていないのよ?」



 「…………っ!!」



 エイリスの言葉に舌打ちをしながら、ロージェは自身の席に座り直した。



 「……はぁー、取り敢えず引き続き、ロストマジックアイテムの情報収集をするとしましょう。だけどフェスタス、あなたは一ヶ月の謹慎よ」



 「な、何でだ!!?」



 予想だにしていなかった言葉に、フェスタスは思わずテーブルに両手をついて、勢い良く立ち上がった。



 「……回収に失敗し、教団員の殆どを失っているのに、何の処分も下らないだなんて……他の教団員達に示しがつかないでしょ? いいわね?」



 「……分かっ……た……」



 エイリスの正論に何も言い返せず、フェスタスはそのまま項垂れるしかなかった。



 「それじゃあ、解散!!」



 そう言うとエイリスは、転移魔法でノーフェイスと供に、その場から一瞬にして姿を消した。その後、ロージェも会議室から出て行こうとする。その際、項垂れるフェスタスに近付き、はっきりと聞き取れる様に呟いた。



 「……無様だな」



 「!!!…………」



 一人取り残されたフェスタス。去り際にロージェが残した言葉によって、抑え込んでいた怒りが頂点に達する。天井を見上げ、失態の原因となった人物の名前を口にする。



 「…………サトウマオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」



 その叫び声は、ゴルド城全体に響き渡るのであった。







***







 「…………」



 ヘッラアーデから命からがら逃げた真緒達は、西の大陸に足を踏み入れた際、最初に立ち寄った町まで戻って来ていた。現在、町の宿で取った部屋のベッドの上で、真緒が一人物思いにふけていた。



         コンコン。



 部屋の扉がノックされる。返事をしないでいると、勝手に部屋の扉が開かれる。



 「……マオぢゃん……大丈夫だがぁ?」



 「マオさん、気分はどうですか?」



 そこには、真緒の安否を心配したハナコとリーマの二人が、部屋を訪ねて来ていた。



 「ハナちゃん……リーマ……私なら大丈夫だよ……」



 「あの……オラ、お腹が空いでいるだろうど思っで……マオぢゃんの分、貰っで来だだぁ……」



 「凄いんですよ。ハナコさんったら、マオさんの分だけ残して、宿にある残りの料理を全て平らげてしまったんです」



 「……そう、それは……凄いね……料理はそこに置いといて……しばらくの間、一人にさせて欲しいんだ……」



 「「…………」」



 いつもと違い、反応が薄い真緒。これ以上、会話をするのは難しいと判断した二人は、言われた通りに食事を部屋の中に置いて、真緒を一人残して部屋を後にした。



 「…………」



 真緒は鞄から黄金色に輝く腕輪、ロストマジックアイテムを取り出し、静かに見つめた。



 「師匠……私……まだまだ弱いみたいです……」



 独り言を呟きながら、取り出した腕輪を人差し指で優しくなぞる。



          コンコン。



 「…………?」



 すると再び、部屋の扉がノックされた。真緒は首を傾げながらも、しばらく様子を伺った。



 「……マオ、ちょっといいか?」



 「フォルスさん……」



 扉の向こう側にいたのは、フォルスだった。



 「すみません……今は誰とも会いたく無いんです……」



 「あぁ、分かっている。だから、このまま扉越しで話を聞いて欲しい」



 人と会う気になれない真緒は、フォルスの入室を断るが、フォルスは扉越しでも良いから話を聞いて欲しいと言って来た。



 「……なぁ、マオ……いったいどうしたんだ? いつものお前らしく無いぞ?」



 「…………」



 「悩みがあるなら聞かせてくれないか? 少しでも力になりたい……」



 「…………フォルスさん」



 「…………?」



 「私って……弱いですか?」



 「何を言っているんだ?」



 真緒が言った言葉の意味が分からず、聞き返すフォルス。



 「……私、師匠が亡くなって……とても悲しかった……でもそれでも、前を向いて歩いて行こうって……でも今回、師匠の息子を名乗る“あの男”が現れて……頭が真っ白になって……正常な判断が取れなくなって……結果、大切な仲間を犠牲にしてしまった……」



 「…………」



 真緒は後悔していた。ミルドラを犠牲にして生き残った事を。例え本人が望んだ事だとしても、罪悪感は拭えなかった。



 「この一年……師匠の死を乗り越え、強くなったと思っていた……だけど、それは勘違いだった……私はあの時から、何一つ成長していない……」



 「…………」



 「私がもっと強ければ……ミルドラは……死なずに済んだ……私が弱かったから……ミルドラは……」



 「マオ、一つ聞かせてくれ……」



 「…………?」



 「“強い”って何だ?」



 「えっ……?」



 フォルスの問い掛けに、真緒は答えられなかった。呆気に取られた訳では無い。明確な答えが見つからなかったからだ。



 「強いにも色々あるだろう……力が強い……スキルが強い……魔法が強い……そして心が強い……」



 「…………」



 「強いかどうか判断するのは自分じゃない。第三者だ」



 「…………」



 「……お前の言う通り、もっと強ければ、ミルドラが犠牲にならずに済んだのかもしれない……だが、それはもう過ぎてしまった事だ……今さら変える事は出来ない……大事なのは、これからどうするかだ……」



 「それは……分かっています……でも……「マオ!!」……は、はい!!?」



 突然フォルスが大声を発した為、真緒は驚きの声を上げる。



 「一人で抱え込むな……“お前は一人じゃない”」



 「フォルスさん……」



 「俺達だってお前と同じ気持ちなんだ……もっと強ければ……って、だがそれを一人で抱え込むな。支え合うのが仲間じゃないのか?」



 「…………」



 真緒はベッドから立ち上がると、部屋の扉の前まで歩み寄る。



 「もう一度言う。マオ、お前は一人じゃない。ハナコが、リーマが、そして俺がいる。もっと俺達を頼ってくれ、一緒に強くなろう……」



 「…………」



 部屋の扉をゆっくりと開ける。そこにはハナコ、リーマ、フォルスの三人が立っていた。



 「……ハナちゃん、リーマ、フォルスさん……皆、ごめん。一人で抱え込んじゃって……」



 「マオぢゃん、一緒に強ぐなろうぉ!!」



 「強くなって、大切な物を全て守りましょう!!」



 「マオ……お前は一人じゃない」



 「ありがとう……ございます!!」



 感極まった真緒達は、その場で抱き合う。互いに支え合う最高の仲間として…………。



 「……あのー、お取り込み中の所、よろしいでしょうか?」



 「「「「えっ?」」」」



 そんな真緒達に水を差す様に、宿屋の店主が声を掛けて来た。



 「皆さんに、お客様が見えております」



 「お客様……?」



 「皆さん、お久しぶりです。お元気でしたか?」



 宿屋の店主の影に隠れる様について来ていた人物が、真緒達の前に姿を見せた。



 「あっ……あぁ!!?」



 その人物は、真緒達のよく知る人物だった。



 「「「「リップ!!!」」」」



 その人物は、カルド王国でリリヤ女王の近衛兵を勤めているリップだった。



 「どうしてここに!?」



 「はい、ロストマジックアイテムの回収作業が少しでも上手く行く様にと、リリヤ女王から皆様に物資を運んで来ました!!」



 「「「「…………」」」」



 「ん? 何かあったんですか?」







***







 「成る程……そんな事が……」



 真緒達はリップを部屋に招き入れ、これまであった出来事を事細かに伝えた。疫病の村の事、ミルドラの事、そしてエジタスの息子を名乗るフェスタスの事。



 「この短い間に……随分と大変な目に遭われたんですね」



 「いや……まぁ、はい……」



 「わかりました。そのフェスタス? という男の事は、こちらで調べて見たいと思います」



 「リップ、ありがとう」



 「いえいえ、これ位当然の事ですよ……あっ、そうだ。マオさん、そのロストマジックアイテムは、今持っていますか?」



 「えっ、うん……持ってるけど……?」



 リップに問われた真緒は、懐からロストマジックアイテムである腕輪を取り出し、リップに見せた。



 「これが……そうなんですか……成る程……マオさん……」



 「はい?」



 「これから先、ロストマジックアイテムの回収に成功したら、僕に渡して頂けないでしょうか?」



 「えっ!!? ど、どうして!!?」



 渡して欲しいというリップの言葉に警戒して、真緒は目にも止まらぬ速さで腕輪を懐に仕舞った。



 「そのロストマジックアイテムは、使い方によっては一国をも落とす事が出来ます。そんな危険なアイテムを、個人で持たせる訳にはいきません」



 「で、でもこれは……」



 「分かっています。そのアイテムが大切な人との繋がりだという事は……ですがそのアイテムを狙って、いつヘッラアーデが来るか分からない以上、より厳重に守る必要があります。渡して頂ければ、僕が責任を持って、カルド王国に持ち帰り、厳重に保管します」



 「…………」



 確かにこの腕輪を持っている限り、ヘッラアーデに狙われるであろう。それで万が一奪われでもしたら、世界は混沌と化してしまう。しかしだからといって、そう易々と渡す事は出来ない。この腕輪は、エジタスだけじゃなくミルドラとの繋がりでもあるのだから。



 「マオぢゃん……」



 「マオさん……」



 「マオ……」



 「……よろしく……お願い……します……」



 悩んだ結果、真緒は腕輪をリップに手渡した。ヘッラアーデに奪われるよりは良いと判断したのだ。



 「はい、確かに受け取りました。安心して下さい。必ず、カルド王国に持ち帰って見せます!!」



 「あ、ありがとうございます……」



 真緒から腕輪を受け取ったリップは、大事に懐へと仕舞い込んだ。そしてゆっくりと立ち上がり、部屋を出ようとする。



 「それじゃあ物資も届けましたので、僕は早速この腕輪をカルド王国に持ち帰らせて頂きます……あっ、その前に良いですか?」



 「「「「……?」」」」



 「皆さん……この後、何処に向かえば良いのか。分かっていますか?」



 「……いや、それが実は全く情報が無いんだ……」



 疫病の村一件以来、ロストマジックアイテムのそれらしい情報を探っていたが全くと言っていい程、見つからなかった。



 「良かった!! 実はこちらでも極秘に調査をしていたのですが……それらしい情報を見つけたんですよ!!」



 「いったいどんな情報なんですか?」



 するとリップは真緒達を側に寄せ、耳打ちするかの様に、ヒソヒソ声で話始めた。



 「……この町からずっと北西に向かった場所に、“奇妙な館”があるらしいんですよ……」



 「“奇妙な館”?」



 「何でもその館に入った人は皆、口を揃えてこう言うんです……『あそここそ、正に“理想郷”だ』……って……」



 「“理想郷”……?」









































 「~~♪~~~~♪~~♪~~~~♪」



 陽気な鼻歌が聞こえる巨大な館。そんな館の屋根の上、紫色が特徴的な屋根の上に、一組の男女が寄り添う様に座っていた。



 男はオーバーオールに腕と足の部分に綿を詰めた様な膨らみのある服を着ており、頭には二本の触角の様な物の先端に、丸い飾りの付いた帽子を被り、そして顔は仮面で覆われていた。それはいやらしく細みがかった目に、口角を限界まで伸ばしたにやけた口、一言で表すとしたら“笑顔”だった。



 もう片方の女は古めかしいがとても豪華なドレスに身を包み、清らかな水を思わせる水色のロングヘアーに光輝くティアラを被り、鼻歌を歌っている男の片腕に体を寄せ、頬を赤く染めていた。



 「……ここは本当に“理想郷”ね……そうは思わない……“エジタス”?」



 「えぇ~、仰る通りです」
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