笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第三章 冒険編 私の理想郷

夢の絵本

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 「やぁあああああ!!!」



 純白の剣を両手で握りながら真緒は、階段上にいるメユに向かって単独で駆け上がる。



 「ごめんねメユちゃん、ちょっと痛いだろうけど我慢してね!!」



 そう言うと真緒は、握り締めていた純白の剣をメユ目掛けて振り下ろそうとする。



 「謝るのはこっちの方よ。死ぬ程痛いだろうけど我慢してね」



 「……っ!!?」



 その瞬間、真緒は横腹をメユでは無い何者かに蹴り飛ばされた。



 「マオぢゃん!!」



 「マオさん、大丈夫ですか!?」



 「私なら大丈夫だよ……それよりも……やっぱり“偽物”だった様ですね。師匠!!」



 真緒を蹴り飛ばした人物。それはエジタスその人であった。しかしその姿はいつもの陽気な格好では無く、黒の燕尾服に黒の革靴で身を包んでいた。



 「偽物……その判断は正しくはありませんよマオさん……この世界においては本物です」



 「ありがとうエジタス。さすがは私の愛する“夫”ね」



 「お、お、夫!?」



 「えぇそうよ。私とエジタスは互いに深く愛し合っているの。お子様であるあなたには到底理解出来ないあんな事や、こんな事までしているんだから」



 そう言いながらメユは、現れたエジタスの腕に両手を絡ませ、頬を当てる様にして寄り添う。



 「くっ……」



 そんな様子に真緒は、苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべる。



 「あらなぁに? もしかして妬いてるの?」



 「べ、別に!!? そこにいる師匠は真っ赤な偽物ですから!! 全然妬いてなんかいませんよ!!」



 「へぇー、それじゃあ……キスしても問題無いわよね」



 「!!?」



 するとメユは何の躊躇いも無く、エジタスの仮面を外し、その唇に自身の唇を重ね合わせた。



 「メユさん、人前ですよ」



 「良いじゃない、あなたは私の夫なんだから」



 「全く仕方ありませんね……でも、そんな強引な所が可愛らしいですよ」



 「もうエジタスったら……大好きよ」



 「私もですよ……メユ……」



 再び唇を重ね合わせる。次第に互いの舌を絡ませ、唾液を交換し合う。つまりディープキスをし始めたのだ。



 「(……妬いてなんか無い……妬いてなんか無い……あの師匠は偽物……あの師匠は偽物……悔しく無い……悔しく無い……でも……何でこんなにもイライラするんだろう!!)」



 いくら頭で偽物と分かっていても、声や姿がそっくりなエジタスが、他の女と愛を育んでいる光景を目にすると、本能的な部分から怒りが沸き上がってしまう。



 「エジタス……」



 「メユ……」



 「イチャイチャしている所悪いが、俺達の事を忘れないで貰おうか?」



 「「!!!」」



 メユとエジタスが愛を育んでいると、二人の間に一本の矢が勢い良く通り過ぎた。二人が慌てて矢が飛んで来た方向に顔を向けると、そこには天井を高く舞い上がったフォルスの姿があった。その手には、ご自慢のクロスボウが握られていた。



 「マオ、気持ちは分かるが、今は絵本を手に入れる事に集中しろ」



 「……そうでしたね、今は絵本を手に入れるのが先決ですよね。フォルスさん、ありがとうございます」



 フォルスに叱られ、改めて現実に引き戻された真緒は、純白の剣を握り締め直す。



 「私達の愛を邪魔するなんて……決して許されない事よ。いいわ、まずはあなたから始末してあげる」



 「殺れる物ならやってみろ。俺にはこのクロスボウがある。矢は既に装填し終えているからな。隙は無いぞ」



 「あらあら、でも大丈夫かしら? そのクロスボウ……この世界の物でしょ?」



 「何?」



 フォルスがクロスボウに目を向けると、クロスボウがカタカタと揺れ始め、まるで花が開いたかの様に形が変形し、フォルスの至る箇所に突き刺さった。



 「ぐっ……がはぁ!!?」



 「「「フォルスさん!!」」」



 あまりに突然の出来事に反応が遅れたフォルスは、変形し襲い掛かって来たクロスボウに対してまともに食らってしまい、そのまま床へと落下した。



 「おーっほっほっほ!! どう? 自分が欲しいと思っていた代物に足元を掬われた気分は?」



 「よくもフォルスさんを……今度は私が相手です!!」



 「あっ、リーマ!! ちょっ、ちょっと待って!!」



 真緒の呼び掛けに耳を貸さず、リーマは魔導書を開いて魔法を唱えようとする。



 「あら? そのイヤリング、いい趣味しているわね」



 「えっ?」



 魔法を唱えようとしたその瞬間、リーマが身に着けていたイヤリングが突如牙を剥き、リーマの顔目掛けて襲い掛かって来た。



 「きゃあああああ!!!」



 「リーマ!!」



 「リーマぢゃん!!」



 その場を転げ回り、何とか噛まれない様必死に抵抗するリーマ。そんなリーマの下に慌てて駆け寄る真緒とハナコ。



 「早くイヤリングを外して!!」



 「うぅ!! くっ!! はぁ……はぁ……はぁ……」



 真緒に言われ、リーマは慌てて耳からイヤリングを取り外し投げ捨てる。すると投げ捨てられた筈のイヤリングは、まるで意思を持っているかの様に、真緒達目掛けて襲い掛かろうと近付いて来た。しかしそんなイヤリングは、真緒達に辿り着く前に踏み潰されてしまった。



 「はぁ……はぁ……素人が下手に新しい物に手を出すべきじゃないな……」



 「「「フォルスさん!!」」」



 息を乱しながら、フォルスは踏み潰したイヤリングから足を離した。



 「フォルスさん、無事だったんですね」



 「まぁ……何とかな……結局の所、俺の相棒はこいつだけって事さ」



 そう言いながらフォルスは、いつも使っている弓を取り出し眺める。



 「そうですね。私も道具に頼るのでは無く、自分自身の力で魔力を高めようと思います」



 「フォルスさん……リーマ……二人供、完全復活ですね」



 「良がっだだぁ!!」



 「それで……傷の舐め合いは終わったのかしら?」



 一連の流れに対して、メユはつまらなそうに爪の形を眺めていた。



 「えぇ、あなたのお陰で完全復活する事が出来ました」



 「そう……それじゃあ、とっとと死になさい」



 「「「「!!!」」」」



 その瞬間、床に敷かれていたカーペットがまるで粘土の様に形を変え、鋭い槍へと変化した。そして真緒達目掛けて襲い掛かって来た。



 「危ない!!」



 咄嗟に攻撃を避ける真緒達。しかし続けて館を支えている柱が形を変え、まるで人の顔の様に変化した。そして息を吸い込む様に、凄まじい吸引力で真緒達を吸い込もうとする。



 「ぐっ……こ、このままじゃ不味い!!」



 「私に……任せて下さい……“スネークフレイム”!!」



 リーマは魔導書を開き、魔法を唱える。その瞬間、リーマの魔導書から炎で形成された蛇が生み出され、顔の形をした柱目掛けて放たれる。



 「あぁあああああ!!!」



 柱はまるで生きているかの様に苦痛な表情を浮かべ、けたたましい叫び声を上げながら元の柱へと戻った。



 「ふーん、中々やるじゃない。これなら充分楽しめそうね」



 「はぁ……はぁ……これが“夢の絵本”の能力か……」



 「無機物に生命を与える……恐ろしい能力です」



 「……はぁ? 何を言ってるの?」



 エジタスの遺したロストマジックアイテム“夢の絵本”。その能力に驚いていると、メユが眉間にシワを寄せて怒りの表情を浮かべた。



 「何っで……夢の絵本の能力に決まっでいるだぁ……」



 「クロスボウ、イヤリング、カーペット、柱。これらに共通しているのは無機物だという事、つまり夢の絵本の能力とは“無機物に生命を与える”……違いますか!!?」



 「…………」



 能力を見破ったと自信満々の真緒達を見て、メユは呆れた表情を浮かべる。そして静かに夢の絵本のページを開き、優しく撫で始める。するとその瞬間、メユの背後に立派な玉座が現れた。



 「「「「!!?」」」」



 「無機物に生命を与える……ねぇ……それならこの玉座は、何処からやって来たと言うのかしら?」



 嫌みを効かせながらメユは玉座に座り、わざとらしく足を組む。そして一階にいる真緒達を蔑む様に見下ろした。



 「ど、どう言う事だ!? 無機物に生命を与える能力じゃ無かったのか!?」



 「何か勘違いしているようだけど、そんな粗末な能力の訳が無いでしょ?」



 メユは静かに絵本を閉じ、その表面を真緒達に向けて見せ付ける。



 「特別に教えてあげる。夢の絵本……その能力は……“描いた空想が現実となる”……よ」



 その時、真緒達の背筋に寒気を感じた。全身の体温が急速に失われて行く。それは絶望から成る危機感からだった。



 「“描いた空想が現実となる”……何だそのふざけた能力は……」



 「ミルドラが持っていた“疫病の腕輪”も恐ろしい能力だったけど……」



 「これはその比ではありませんよ……」



 「オラ達に……勝ち目があるのがなぁ……」



 これまで幾度と無い逆境に立ち向かって来た真緒達だったが、今回のはこれまでとは比べ物にならない程、崖っぷちの状況であった。



 「やっと分かったかしら、自分達がどれだけ愚かな行為をしているのか……泣いて謝るなら許してやっても良いけど……エジタスはどう思う?」



 「……殺すべきでしょうな」



 「「「「!!!」」」」



 「やっぱり? エジタスもそう思う? じゃあそう言う事だから、あなた達には死んで貰うわ」



 そう言うとメユは再び夢の絵本のページを開き、優しく撫で始める。







        ドドドド……







 「な、何だこの地鳴りは!?」



 メユが絵本を撫で始めた途端、激しい地鳴りが聞こえて来た。



           ドドドドド……



 「ち、違います……これは只の地鳴りじゃありません……これは足音!! 何かの大群がこちらに向かって来ています!!」



 リーマの言う通り、地鳴りは次第に大きく鮮明に聞こえて来た。その音から察するに、とてつもない大群が迫って来ていた。




           ドドドドド!!!



 「く、来るぞ!!?」



 音は遂に館の玄関まで近付いて来ていた。フォルスが声を上げたその瞬間、館の玄関が蹴破られ、足音を立てていた大群が押し寄せて来た。



 「こ、こいつらは街の住人!!?」



 それはこの理想郷に住む住人達であった。



 「そ、そんな……アレリテさん……」



 そこにはアレリテの姿もあった。しかしその目は虚ろで、口からは涎が垂れていた。意識は感じ取れなかった。



 「さぁ、楽しい楽しいショーを始めましょう。あなた達たった四人で、私の理想郷に住む住人約百人を倒して見なさい」



 「これは……殺るしかなさそうだ」



 「アレリテさん……ごめんなさい……すぐ楽にしてあげます」



 真緒達は押し寄せて来た街の住人約百人に対して、武器を構える。



 「さぁ、ショーの開始よ!!」



 こうして、理想郷に住む住人達との戦いが始まるのであった。
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