笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第三章 冒険編 私の理想郷

何も無かった

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 「……んっ……こ、ここは……?」



 気が付くと真緒は、墓場では無く館のエントランスホールに立っていた。側にはハナコ、リーマ、フォルスの三人もいた。



 「あ、あれ……ここは?」



 「いったい何が起こったんだ……?」



 リーマとフォルスの二人は、真緒と同様に立っており、ハナコだけが横たわっていた。周囲の状況を確認する中、リーマがある明確な事実に気が付いた。



 「フォ、フォルスさん!! う、腕が!!?」



 「ん? 腕がどうかした……っ!!?」



 リーマは驚きの声を上げながら指を差す。それに対してフォルスは、今まで押さえていた腕に視線を向ける。するとそこには、メユに切り落とされてしまった筈の腕が元通りになっていた。



 「こ、これはいったい……?」



 「……大丈夫なんですか?」



 「…………あぁ、何とも無い」



 切り落とされてしまった筈の腕を羽ばたかせるが、まるで何事も無かったかの様に問題無く動いた。



 「何が起こったんでしょうか? フォルスさんの腕……それにこの“館の有り様”は……」



 周囲の状況を確認する中で、真っ先にフォルスの失われた筈の腕に注目したが、それ以前に館の様子が可笑しかった。



 「確か私達……裏庭にいましたよね?」



 「うん……」



 「裏庭からも館は見えていましたが……ここまで“ボロボロ”ではありませんでしたよね?」



 「うん……」



 リーマの言う通り、館はボロボロだった。天井や壁の至る所に穴が空いており、隙間風が入り込んで来る。二階へと続く階段は完全に崩壊し、玄関に至っては両開きの扉の内、片方の扉が無くなっており、半開き状態になっていた。残った扉も金具が壊れているのか、完全に閉まっておらず、ギィギィと音を立てていた。



 「……木が完全に腐っている……まるで何百年間、ずっと放置されていたかの様だ……」



 そう言いながら、フォルスが触る床の木板には所々カビが生えており、少し押しただけで腐り落ちてしまった。



 「どうしてこんな……あの時、何かしましたっけ?」



 「……夢の絵本に水を掛けて……それで……「うぅ……」……今の声って……?」



 「「「!!?」」」



 それは聞き覚えのある声。明るく楽しそうなその声に、いつも元気を貰っていた。あの時、もう二度と声を聞く事は出来ないと思っていた。だけど、今ハッキリと聞こえた。大切な“友”の声が。



 「うぅーん、あれ? オラ、何でごんな所で寝でいるんだぁ?」



 「「「ハ、ハ、ハ、ハナコ!!!」」」



 朝目覚める様に、上半身を起こして眠たい目を擦る。そして辺りを見回しながら、頭を掻く。そのいつもの様子に、三人は慌てて側へと駆け寄る。



 「ハナコさん!! 良かった!! 良かった!!」



 「どわぁあああ!!? み、皆どうじだだぁ!!?」



 リーマに至っては、あまりの嬉しさから目から涙を流して、ハナコに抱き付く。リーマの涙が、ハナコの服を湿らせる。



 「ハナちゃん……本当に良かった……生きてて……本当に……本当に……」



 「正直、もう駄目かと思っていたが……無事で何よりだ……」



 「無事で何より? ぞう言えば……確がオラ、メユぢゃんに切り刻まれで……ぞれがら……ぞれがら……」



 「ハナちゃん……」



 急な状況に理解が追い付かないハナコだったが、次第に気を失う直前の出来事を思い出し始めるが、見る見る内に顔色が悪くなる。そんなハナコを見兼ねたフォルスは、ハナコの肩に手を置く。



 「ハナコ……」



 「フォルスざん……」



 「ハナコ……それは悪い夢だ」



 「…………えっ?」



 「悪い夢を見ていたんだ……」



 「悪い夢……」



 「その方が気も楽になるって物だ」



 「…………」



 フォルスの言葉に、あまり納得のいかないハナコだったが、静かに頷くのであった。



 「……所で、肝心の夢の絵本は?」



 「あっ、そう言えば!?」



 ハナコの安否にホッとした後、当初の目的である夢の絵本をリーマとフォルスが周囲を見回して探索する中、真緒がある物を発見する。



 「…………」



 「マオさん? 見つかりましたか?」



 「どうしたマオ?」



 「マオぢゃん?」



 仲間達が声を掛けるが、真緒は返事をせずにじっと見続けていた。



 「マオさん、いったいどうし……!!!」



 「これは……」



 「…………」



 真緒が見続けるある物に、三人は思わず言葉を失った。それは朽ち果てた死体だった。否、死体と呼べるかどうかも分からない。既に白骨化しており、体の大半は朽ちて風化してしまっていた。唯一残っていたのは、下顎が無い頭蓋骨の前面部分と、指数本だけだった。そしてその数本の指には、酷く色褪せ、所々虫食いになっている古ぼけた一冊の本が握られていた。



 「ま、まさか……これって……」



 「…………」



 真緒は何も答えず、無言で握られた本を拾い上げる。



 「!!!」



 その瞬間、まるで役目を終えたかの様に、ずっと縛られていた呪縛から解放されるかの様に、握っていた数本の指と頭蓋骨は、チリとなって消えてしまった。



 「……漸く……眠れるんだね……おやすみ……」



 「マオ……」



 天井に空いた穴から空を見上げるその時の真緒は、何処か寂しげな表情を浮かべていた。



 「…………ぉーぃ……」



 「? 今、何が聞ごえながっだがぁ?」



 「「「?」」」



 余韻に浸っていると、ハナコの耳がピクピクと反応する。



 「…………ぉーい……」



 「やっばり、聞ごえだだぁ!! 誰ががごっぢに向がっで来でいるだぁ!!」



 「まさか……“ヘッラアーデ”の連中か!!?」



 「「「!!!」」」



 フォルスの言う通り、前回ロストマジックアイテムを回収した際、一段落着いた後に襲われた為、充分に考えられる。真緒達は慌てて武器を構える。



 「……おーい、おーい!! マオさーん!! 皆さーん!!」



 「ん? この声って……?」



 他の三人にも聞こえる程、徐々に近づいて来る声の主。しかしその声は、ハナコの時と同じく聞き覚えのある声であった。



 「あっ、皆さんこんな所にいたんですか!!」



 「リ、リップさん……」



 半開きの扉から現れた声の主。それはリップだった。近付いて来る声の主がリップだと分かった真緒達は、静かに武器を仕舞う。



 「どうしてリップさんがこんな所に?」



 「はい、実は皆さんと別れた後、伝え忘れてしまった事がありまして、皆さんが理想郷に向かう前にお伝えしようと思いまして」



 「伝えるって……別れてからもう一週間になるぞ?」



 リップの呑気振りに、真緒達は呆れる様に笑う。しかし、リップの次の言葉で全員の背筋が凍り付く。



 「一週間? 何言っているんですか? 皆さんと別れてから、まだ“一日”しか経っていませんよ?」



 「「「「!!?」」」」



 真緒達は自分の耳を疑った。



 「い、今何て……?」



 「だから、皆さんと別れてからまだ一日しか経っていませんよ」



 「「「「…………」」」」



 リップの口から知らされた衝撃の事実。その事実に真緒達は困惑し、互いに見つめ合う。



 「もしかして……理想郷を目指して歩き続けたあの道って……」



 真緒達は慌てて外へと飛び出す。



 「あっ、ちょ、皆さん!!?」







***







 「「「「…………」」」」



 外に出ると、見渡す限りの草原が広がっていた。心地好い風が頬を撫でる。以前にも通った事のある道だった。しかしその地平線の先には、ぼんやりとリップと別れた街の姿が確認出来た。



 「……こんなにも近かったんだな……」



 「ロストマジックアイテムの影響で……時間の感覚が狂っていたんですね……」



 「ビッグリだぁ……」



 「さ、さすがは師匠の遺したロストマジックアイテム……あはははは……」



 夢の絵本の能力には驚かされたが、その効果範囲の広さにはもっと驚かされた。



 「あ、あのー…………」



 呆気に取られている真緒達に、恐る恐る声を掛けるリップ



 「あっ、すみません……ちょっと色々ありまして……それで伝え忘れた事って何ですか?」



 「はい、実は理想郷に向かっている途中、異様な見た目をした生物に襲われる事があるらしいので、気を付けて下さい」



 「「「「あぁー……」」」」



 一同、何と返せば良いか分からず、苦笑いを浮かべる。



 「どうしました?」



 「リップさん……実は私達も伝えたい事があるんですが……」



 「はい?」



 「これなんですけどね……」



 そう言うと真緒は、リップに夢の絵本を見せる。



 「これは?」



 「…………二つ目のロストマジックアイテムです」



 「………えっ? えぇえええええええええええええええええ!!?」



 鼓膜が破れんばかりの大声。目を見開き、真緒の持つ夢の絵本を見つめる。



 「な、な、何ですか!!? えっ!!? ロストマジックアイテム!!? これが!!? この古ぼけた本が!!? い、い、いったい何処で!!?」



 「えっと……この館で……」



 「はぁあああああ!!?」



 「嘘に思えるだろうが……全て事実だ……」



 「えっ、ちょ、えぇ……じゃ、じゃあこの館が……理想郷って事ですか……?」



 「……そうなりますかね」



 「…………」



 真緒達以上に驚くリップ。頭を掻きむしり、何度も瞬きをする。



 「はぁ……噂ってのは信用出来ませんね……まさかこんな荒れ果てた館が理想郷だなんて……」



 「そんな事ありませんよ」



 「え?」



 思わず溜め息を漏らし、がっかりするリップに、真緒が否定する。



 「確かに荒れ果ててはいますが……この館には……夢が……沢山詰まっているんです……それを理想郷じゃないって……真っ向から否定する事なんて出来ません……」



 「マオぢゃん……」



 「マオさん……」



 「マオ……」



 「……何か……あったんですか?」



 「…………それは……っ!!?」



 真緒が言い掛けたその時、少し強めの風が吹き、真緒が持っていた夢の絵本のページがめくられる。



 「…………」



 しかし、そこには何も書かれておらず白紙のページであった。



 「…………」



 「マオ……さん?」



 「……何も無かったです……」



 「へ?」



 「そう……何も無かったんです……」



 そう言うと真緒は少し笑みを見せ、静かに夢の絵本を閉じた。



 「そ、そうですか……それじゃあ、そのロストマジックアイテムは責任を持って、カルド王国に運ばさせて頂きます」



 「うん、よろしくね」



 少し困惑しながらも、リップは真緒から夢の絵本を手渡される。



 「それでリップ、次のロストマジックアイテムに関する情報は?」



 「いえ、ありません」



 「……ありません?」



 「はい、ありません」



 「ど、どうして!?」



 「どうしても何も、まさかこんなに早く見つかるだなんて思っていなかったからですよ」



 「…………あっ」



 よくよく考えればその通り。真緒達からすれば一週間だが、リップからすればまだ一日しか経っていないのだ。



 「取り敢えず、何か情報を手に入れるまでは、西の大陸を自由に旅していて下さい。情報を手に入れ次第、すぐに伝えに参ります!!」



 「あ、ありがとう……」



 「それでは!!」



 そう言うとリップは、足早にその場を去って行くのであった。



 「「「「…………」」」」



 思わぬ自由を手にした真緒達は一瞬言葉に詰まるが、真緒が口を開く。



 「それじゃあ……まぁ、歩こうか」



 「そうだな……」



 「まだ行った事の無い場所へ」



 「出発だぁ!!」



 「「「「おぉ!!!」」」」



 そうして真緒達は元気良く、歩き始めるのであった。








 「“サトウマオ”!! 貴様には殺人の容疑が掛けられている!! 悪いが牢屋まで連行させて貰うぞ!!」



 「ぞんなマオぢゃん!!」



 「マオさん!! どうして!!」



 「嘘だろ!!? マオ!!」



 「…………皆、ごめん……」
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