笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第五章 冒険編 幸運の巣窟

暴かれるイカサマ

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 「幸運のコイン……コイントスに成功すれば全ての物事に対して確実な勝利をもたらす」



 「しかし失敗すれば確実な死が訪れる。正にハイリスクハイリターンだな」



 「えぇ、だからこそずっと気になっていた。あなたのコイントスが百発百中なのを……そして漸く辿り着いた百発百中のコイントスの秘密。それはこの本物にそっくりな偽物の幸運のコインを扱ったイカサマだった」



 「ハイリスクをノーリスクに? そんなの無理に決まっているだろう……コイントスは運要素が強いゲームだ。俺が今まで当てられて来たのは、運が良かったからだよ」



 「いえ、あなたは事前に知る事が出来た。コイントスで弾かれた幸運のコインが表か裏かなのかを」



 「世迷い言を……俺はいつも客の目の前でコイントスを行っている。そんな監視の目がある状態でどうやって知る事が出来ると言うんだ?」



 すると真緒は手に持っていた偽物の幸運のコインを自身の親指の上に置いた。



 「まずあなたは本物の幸運のコインをコイントスで弾き……」



 そう言いながら親指の上に置いたコインを上空に強く弾いた。



 「客の目が弾かれたコインに注目している間に、偽物の幸運のコインを掌に隠し持っておく」



 真緒が説明している間に弾かれたコインは最高点に到達し、そのまま重力に従って落下し始める。



 「そして落ちてくる幸運のコインを手の甲に乗せる“振り”をして、わざと床下に落とす」



 「床下に落とす? そんな事をすれば床に落ちる音で客が気付いてしまうだろうが」



 「床には絨毯が敷かれています。コイン一枚が落ちた所で音は立ちません」



 「っ!!!」



 真緒の言う通り、床下に勢い良く落下したコインは絨毯に包まれ、一切物音を立てなかった。



 「そうして幸運のコインが床下に落ちると同時に隠し持っていた偽物の幸運のコインをそのまま手の甲に被せる。後は床下に落ちている幸運のコインの面を確認しながら、言い当てれば良いという訳です」



 「だが、それだと手の甲に被せたコインと間違っている可能性があるじゃないか!?」



 「そんなの関係ありませんよ。当てたいのは本物の幸運のコインの方で、偽物の幸運のコインじゃ無いんですから」



 「ぐっ……だとしてもだ、そんな分かりやすいイカサマなど長続きする訳が無い!! いつかはバレるじゃないか!!?」



 「そうですね。事実、あなたは何度かバレている様ですね」



 「!!?」



 「ですがこのコイントスはゲーム前に行われる順番決めの様な物だと客は思っている。まさかこのコイントスによって勝敗が決定するなど夢にも思わないでしょう。だからこそあなたは客にイカサマがバレた時、イカサマした詫びとして客に順番を決めさせる。あなたにとって大事なのはイカサマがバレない事では無く、コイントスを成功させる事ですからね」



 「……なら、何故偽物など用意する必要がある……床下に落として確認すればそれで済む話じゃないか」



 「世間体……もしくは幸運のコインの発動条件があるから……違いますか?」



 「…………」



 「コイントスする度、床下に落とす総支配人だなんて、格好が付きませんからね。そして発動条件……詳しい事は分かりませんがこれまでの事を推察するに、弾いたコインを手の甲に乗せて言い当てる事でしょう……ここからは私の考察に過ぎませんが、恐らく幸運のコインの発動条件には抜け道がある」



 「…………」



 「この偽物のコインの事から考えるに、弾くのは本物でも手の甲に乗せるのは別の物を代用出来る……という所じゃないでしょうか?」



 「…………」



 一言も喋らないギャブラー。反論しようにも言葉が見つからない。そして無言は一種の肯定とも受け取れる。



 「それにこのイカサマに気付く者は極僅か……だから私が初めて来た時、この部屋は薄暗かったんですね。床下に落下するコインを目で捉えられない様に……」



 「…………」



 真緒達の脳裏には初めて訪れたVIPルームの時の様子が過っていた。部屋は薄暗く、唯一の光源は台の上に置かれた蝋燭だけだった。



 「さぁ、これであなたのイカサマは全て明らかにしました。今度はこちらの要求を呑んで貰う番ですよ!!」



 「…………」



 「もう一度言わないと分かりませんか!? この偽物の幸運のコインを返して欲しければ、私ともう一度勝負して下さい!! 勿論、今度は幸運のコイン無しでの正々堂々とした勝負で!!」



 「…………」



 「さぁ!!」



 「…………ちぃ、分かった。望み通り、もう一度だけ勝負してやるよ」



 真緒の威圧的な態度に根負けしたギャブラーは、舌打ちをしながらも真緒との再戦を受けれ入れた。



 「ゲームの準備をしてくる……ちょっと待ってろ」



 「あっ、その前にあなたが持っている本物の幸運のコインをこちらに渡して貰えますか? 準備している間にコイントスをされては敵いませんから」



 「ちぃ!! ならお前が持っている偽物の方もこちらに渡して貰おうか!!? 素直に渡して俺と同じイカサマをされちゃ敵わないからな」



 「……良いでしょう、では同時に投げて下さい……1、2、3!!!」



 3の合図と共にギャブラーは本物の幸運のコインを、真緒は偽物の幸運のコインを互いに放り投げた。



 「…………」



 ギャブラーは受け取った偽物の幸運のコインを見つめると、強く握り締めてゲームの準備に向かった。VIPルームには真緒達だけが残っている。何とか交渉に成功した真緒はホッと胸を撫で下ろす。そんな真緒に興奮した様子で駆け寄る仲間達。



 「マオぢゃん、やっだだなぁ!!」



 「やりましたね、マオさん!!」



 「上手くいったな!!」



 「いやぁ、たまたまだよ」



 仲間達に褒められ、頬を赤く染めてテレる真緒。



 「まだ気を抜くんじゃないよ。本番はこれからなんだからね」



 「は、はい!!」



 「所でマオさん、良かったんですか? 偽物の幸運のコインを渡してしまって?」



 「うん、代わりに本物の幸運のコインが手に入ったからね。これで向こうは幸運のコイン無しでの勝負をしなくてはならなくなった訳だよ」



 「だけどそのコインが本物だって保証はあるんですか? もしかしたらまた偽物かも……」



 「それは大丈夫、偽物はあの一枚だけだからね」



 「えっ!? そうなんですか!?」



 「どうしてそんな事が分かる?」



 「成る程……ギャブラーの記憶ね?」



 「その通りですエレットさん。真・変化の指輪を嵌めてギャブラーの記憶を読み取った時、偽物を何枚作ったのかも読み取りました」



 「そうだったのか……しかし、ギャブラーは何故一枚だけしか偽物を作らなかったんだろうな?」



 「真・変化の指輪ではその時の感情までは読み取る事は出来ません……でも私が思うに、ギャブラーは安心したかったんじゃないでしょうか?」



 「どう言う意味だ?」



 「ギャブラーは師匠に言っていました。自分が最も望むのは安心だって……偽物のコインを大量に作ってしまうと何枚かは外に流失してしまう可能性があります。そうなれば私達の様な者達がやって来るかもしれない。そうした不安が無い様に一枚だけしか偽物を作らなかったんじゃないでしょうか」



 「そうか……俺達もあの偽物があったからこそ、今回の交渉が上手くいったんだよな」



 「ねぇ、そんな話よりも折角本物の幸運のコインが手に入ったんだから、試しに一回だけ使って見ない?」



 小悪魔的な笑みを浮かべるエレットが二人の会話に割り込み、幸運のコインを使おうと提案する。



 「ちょ、ちょっとエレットさん!! 話聞いていましたか!? 私達には代用出来るコインが無いんですよ!? もしコイントスに失敗したら死んじゃうんですよ!?」



 「冗談よ冗談、マオったら本気にしちゃって可愛い」



 「もう……笑えませんよ……」



 エレットのブラックジョークに溜め息を漏らす中、真緒達のいるVIPルームに足音が近付いて来るのが聞こえた。音のする方向に顔を向けると、そこにはギャブラーが立っていた。



 「準備が整った……ついて来い」



 「よし……皆、リベンジの時だ!!」



 そうして、一度敗北を味わった真緒達はオーロカジノの総支配人ギャブラーにリベンジするのであった。
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