笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第六章 冒険編 記憶の森

デジャブ

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 「……んっ……」



 目を開けると、真緒はある一室に立っていた。真緒はその部屋に見覚えがあった。



 「……あれ? ここは……?」



 規則的に並べられた机と椅子。隅には少しへこみのある鉄製の入れ物が置かれ、前面の壁には緑色の板が嵌め込まれていた。緑色の板には白い文字で『佐藤真緒は犯罪者』と、大きく書き込まれていた。



 「そんな……まさかここって……!!?」



 紛れも無い。それはかつて真緒が通っていた教室の内装その物だった。鉄製の入れ物とはロッカー、緑色の板とは黒板だったのだ。



 「夢? それとも何か精神的な攻撃を受けている? もしかしたら幻覚を見せられているのかもしれ……っと……」



 真緒は頭を抱えながら、冷静に現状を理解しようとする。すると背中が背後の机にぶつかってしまった。真緒は距離を取ろうとぶつかった机に振り返る。



 「!!?」



 そこには更に目を疑う光景が広がっていた。真緒がぶつかった机には一本の花が添えられた花瓶が置かれており、その席には制服を着た、おさげで丸眼鏡を掛けた少女が座っていた。



 「あ、あなたは!!?」



 それは決して有り得ない光景だった。真緒はその少女の事を誰よりも知っていた。忘れる事の出来ない忌々しいその少女の正体は……。



 「どうして……“私”が……?」



 少女の正体は真緒自身だった。異世界に転移する前の周囲から虐めを受けていた弱い頃の自分。



 「…………」



 目の前の光景に酷く困惑する真緒。何故、過去の自分が存在しているのか、全く理解出来なかった。しかしいつまでも黙っている訳にはいかない。真緒は恐る恐る過去の自分に声を掛ける。



 「こ、こんにちは…………」



 「…………」



 返事は無い。それどころか、机にぶつかった真緒にすら気付いている様子は無かった。只、ひたすらに俯いているだけだった。どうしたら良いものかと考えていると、教室の扉が開き、誰かが入って来た。



 「あれ? あんたまだいたんだ?」



 「う、嘘……まさかそんな……“愛子”まで……」



 教室に入って来たのは愛子だった。真緒が虐められる切っ掛けを作った人物であり、供に異世界へと転移し、そして最後は仲間である聖一によって首を切り落とされて、殺されてしまった。そんな悲惨な最後を送った筈の愛子が目の前に現れた。



 「黒板の文字が読めないの? あんたは人の物を盗んだ犯罪者なんだよ? 生きてる価値無いよね?」



 「…………」



 愛子は今の真緒に気が付いている様子は無く、席に座っている方の真緒に話し掛けていた。そして教室の入口から一直線に、真緒が座っている机に向かって歩き始めた。



 「だからわざわざ花まで添えてあげたのに……何で学校に来てるのよ? ねぇ?」



 「…………」



 真緒が座っている席まで歩み寄って来た愛子は威圧する様に机に片手を置き、真緒に詰め寄る。



 「何で来てるのかって聞いてるのよ!!」



 「っ!!!」



 「!!!」



 すると痺れを切らした愛子は真緒のおさげを掴み、思い切り引っ張った。引っ張られた真緒は席から崩れ落ち、勢い良く倒れ込んだ。その時、端から見ていた今の真緒が何かを思い出した。



 「覚えてる……そうだ……この光景……私、前に一度同じ経験をしてる!!」



 黒板に書かれている『佐藤真緒は犯罪者』という文字。自身の机に置かれた花瓶。そして愛子に髪を引っ張られる事。これら全て真緒がかつて実際に体験した出来事であった。



 「という事はつまり……過去に飛ばされた? いや、もしそれなら二人には私の存在が見えている筈……あっ、そう言えば!!」



 その時、真緒はここに来る前に聞いたリップの話を思い出した。



 “ニンフェの森に迷い込んだ旅人の話によれば、亡くなった筈の祖母に再会したとか……またある者の話によれば、子供の頃の自分と会ったと言っているんです”



 “つまり……幻覚作用をもたらしているという事か?”



 “いえ、それがどうも自身の記憶らしいんですよ”



 “記憶?”



 “亡くなった祖母も子供の頃の自分も、過去に体験した事のある記憶だったらしいんです”



 「まさか……それがこれ……?」



 周囲を確認する真緒。窓を開け、校庭を確認するが、物の配置や匂いまで、何から何まで全てかつての真緒の記憶と一致していた。



 「現実としか思えない……」



 「ねぇ? 早く私の目の前から消えてくれない? 目障りなのよ!!」



 「うっ……」



 真緒が感傷に浸っている間にも、かつての真緒と愛子のやり取りは繰り広げられていた。



 「……あの時は本当に辛かったな……毎日毎日……愛子もよく飽きずに虐め続けたもんだよ……」



 「……っ!!!」



 過去を懐かしみながら見届けていると、かつての真緒は引っ張られた髪を乱しながら慌てて教室から出て行った。



 「そうそう……この後、家でずっと泣き続けて……結局、泣き疲れて寝ちゃったんだよね……」



 当時の記憶を辿りながら、走り去るかつての自分を眺める。



 「へぇー、あの程度で泣くなんて情けないわね」



 「!!?」



 そんな筈が無い。ここは真緒の記憶の中の出来事であり、既に過ぎ去りし思い出。今まで認識すらされていなかった筈の真緒に何者かが声を掛けた。それは先程まで怒鳴り声を上げていた人物と同じ声だった。真緒は恐る恐る振り返る。



 「聞こえなかったの? 早く私の目の前から消えてくれない? 目障りなのよ!!」



 「なっ!!?」



 紛れも無い。記憶の存在である筈の愛子が今の真緒に話し掛けていた。しかし、そこに立っていたのは先程の制服を着た転移前の愛子では無く、魔法使いのローブを着込んだ転移後の愛子であった。



 「そんな!!? どうして!!?」



 「そんなに不思議? そうよね、あんたからすれば私は記憶の存在……でも私はこうして生きている!! 自分の意思でここに立っている!! 憎たらしいあんたをこの手で葬り去る為に!!」



 そう言うと愛子は持っていた杖を真緒に向ける。



 「“アイスニードル”!!」



 「!!!」



 愛子が魔法を唱えると、鋭く尖った氷のトゲが目の前に生み出され、真緒目掛けて勢い良く放たれた。



 「くっ!!」



 咄嗟に鞘から剣を引き抜き、迫り来る氷のトゲを切り落とした。



 「……咄嗟の状況にも直ぐに適応して、まるで何事も無かったかの様な涼しげな表情……あんたのそういう所がムカつく!!」



 「愛子……あなたはいったい何者なの!!?」



 「それはあんたが一番よく知ってるでしょ!! “アイスニードル”!!」



 「っ!!!」



 再び愛子は魔法を唱え、目の前に鋭く尖った氷のトゲを生み出した。そして勢い良く真緒目掛けて放った。しかし、真緒も再び迫り来る氷のトゲを切り落とした。



 「あぁ、もう!! 大人しく食らっておきなさいよ!!」



 「もう諦めて!! 何度やっても同じだよ!!」



 「……やっぱりあんたの記憶だけじゃ、バリエーションが少な過ぎるか……」



 「えっ?」



 すると愛子は持っていた杖を横に払った。その瞬間、まるで場面が飛んだかの様に教室から、だだっ広い殺風景な荒野へと移り変わった。



 「こ、ここは!!?」



 「何驚いてるのよ、ここも見覚えがあるでしょ? そう……私にとって因縁のある場所……私はここで死んだのよ」



 そこは一年前、愛子が聖一に首を切り落とされて亡くなった場所であった。



 「……所詮私はあんたの記憶に過ぎない……技だってあんたが見たアイスニードルしか放つ事が出来ない……確かにあんたの言う通り、このままじゃ何度やっても無駄……けど知ってる? 記憶も時に誤認識するって……」



 「!!?」



 そう言うと愛子の体が突然、ぶるぶると小刻みに震え始めた。



 「よくこういう場面無い? “あれっ? 前にも一度こういう事があった様な……”って? かつて同じ様な事を体験した事があるかの様な感覚に包まれる事……」



 震えは更に激しさを増し、愛子の声が二重に重なり合っているかの様に聞こえ始める。



 「「人はそれを……」」



 二重に重なり合って聞こえていた愛子の声は、次第にハッキリと二種類に分かれて聞こえ始めた。そして震えが収まった頃には、愛子は二人に分裂していた。



 「「“デジャブ”と言う!!」」



 「!!?」



 真緒は自身の目を疑った。先程まで一人であった筈の愛子が、今や二人になっていた。顔付きから服装まで何から何まで瓜二つだった。



 「「さぁ、第二ラウンドを始めましょうか?」」



 「これはもしかしたら……非常に不味いかもしれない……」



 かつて無い事態に、真緒は言い知れぬ不安を募らせるのであった。
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