笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第七章 冒険編 大戦争

衝撃の告白

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 五つ目のロストマジックアイテムを手に入れた真緒達は、リップと合流を果たす為、最初の街に戻って来た。



 「リップは?」



 「どうやらまだ来ていないみたいだな」



 「そっか……どうしようか?」



 「焦る事は無い。気長に待つとしよう」



 「それなら待っている間に、買い物して来ても良いですか? 買い溜めしていたポーションが切れちゃいそうなんですよ」



 「オラも、食べに行っで良いだがぁ? もうお腹ど背中が、ぐっ付ぎぞうだぁ……」



 「実は俺も、矢の補充がしたくてな。武器屋に行きたいんだ」



 「そうだね、じゃあ各自やっておきたい事が終わったら、再びこの場所で集合しようか」



 真緒の言葉に三人は頷き、各々別方向へと別れた。



 「さてと……私はどうしようかな……」



 一人になった真緒は、街をぶらぶらと歩いていた。周囲を見回すと様々な店が立ち並び、それぞれの店には絶え間無く客が出入りを繰り返しており、非常に賑わっていた。



 「ポーション系はリーマが買ってくれるし、ハナちゃんみたいにお腹が空いている訳じゃ無いし、それならフォルスさんみたいに武器屋に行って、新しい武器でも手に入れるか……でもな、今はこの“純白の剣”で足りてるんだよね……うーん、何して時間を潰そう……」



 他の三人とは違い、やっておきたい事が見つからず、只街を歩き回る真緒。いつしか賑やかな通りを離れ、人気の無い通りへと出てしまった。



 「この街にこんな通りがあったんだ。さっきまであんなに騒がしかったのに、今はとても静か……不気味だな……」



 あまりに人通りが少なく、思わず寒気を覚えてしまう。そんな中、真緒は開けた場所へと辿り着いた。



 「ここは広場かな?」



 薄汚れた家々が囲う様に立ち並んでおり、家の中から視線を感じた。真ん中には古ぼけた井戸が置かれ、長い間使われていなかったのか、水を汲み上げる木材は腐っていた。



 「嫌な感じ……」



 「お嬢さん……お嬢さん……」



 「!!?」



 真緒がこの場所に嫌悪感を抱いていると、背の低い腰の曲がった黒いローブを身に纏った老婆に突然声を掛けられた。



 「な、何でしょうか?」



 「あんた……“死相”が見えるね……」



 「し、死相!!?」



 死相。所謂、死の近い事を思わせる顔付き。そんな突拍子も無い言葉に、真緒は面食らってしまった。



 「近々、あんたに良くない出来事が降り掛かる。そんなの嫌だろう」



 「ま、まぁ……嫌ですけど……」



 面倒臭い人物に絡まれてしまったなと思いながらも、老婆の相手をしていると、懐から怪しげなフラスコ瓶を取り出した。中にはピンクと赤が混ざり合った怪しげな液体が入っていた。



 「これをあげよう」



 「何ですかこれ……?」



 「もうどうしようも無いと思ったら、飲みなさい。きっと役に立つ筈だから……」



 「は、はぁ……ありがとうございます……」



 真緒が大人しく謎の液体が入ったフラスコ瓶を受け取ると、老婆は右手を突き出し、手首をクイクイと動かした。



 「何ですか?」



 「何ですかじゃないよ。金だよ、金」



 「えっ!? タダじゃないんですか!!?」



 「当たり前だろ。死にそうだって忠告して貰って、更には対処出来る物まで渡したんだ。それなりの謝礼を頂かないと……」



 「こっちは頼んでいないんですけど……」



 「つべこべ言わず、さっさと払っておくれ」



 「分かりましたよ……何でこんな事に……いくらですか?」



 「うむ、本来なら金貨一枚の所じゃが、今回は初回という事で銀貨三枚にしてやろう」



 「ぎ、銀貨三枚!!?」



 それなりの高額請求に、思わず大声を上げてしまった。



 「払えるのかい? 払えないのかい?」



 「いや……払えますけど……でも、幾らなんでも銀貨三枚って言うのは……」



 「あぁー、何て酷い勇者様なんだろうねー、こんな貧しい老婆に銀貨三枚も恵んでくれないだなんて……もうおしまいだ……死ぬしかない……」



 そう言いながら、老婆は懐から先端がわっかになっているロープを取り出し、自身の首に通そうとする。



 「わぁあああああ!!! ちょ、ちょっと待って下さい!! 早まらないで下さい!! 払います!! 払いますから!!」



 「……本当かい?」



 「はい!! 銀貨三枚丁度です!!」



 慌てて老婆からロープを奪い取ると、銀貨三枚を老婆の手に確りと握らせた。



 「おぉ!! ありがたいねぇ、まだまだ世の中も捨てたもんじゃないねぇ!!」



 「ははは……喜んでくれてなによりです……」



 お金を受け取り、分かりやすく喜ぶ老婆。そんな老婆に真緒は、疲れた表情で笑って見せた。



 「ありがとうね。優しい勇者様には、良い事を教えてあげよう」



 「良い事?」



 すると老婆は、真緒の右手を両手で優しく包み込んだ。しわくちゃな両手から温もりを感じていると、老婆は顔を近づけ、耳元で囁く。



 「…………え?」



 「それじゃあね」



 真緒が呆気に取られている間に、老婆は足早にその場を去った。取り残された真緒は、呆然と立ち尽くすのであった。







***







 真緒が唖然とした表情で待ち合わせ場所に戻ると、既に他の三人は集まっており、リップも来ていた。



 「おっ、やっと来たか」



 「マオぢゃん、遅いだよぉ」



 「あっ、ごめん……」



 「いったい“五時間”もの間、何処で何をやっていたんですか?」



 「“五時間”!!?」



 体感的には一時間も経っていなかった。しかし、実際は五時間の時が流れていた。不思議な出来事の連続に、真緒は混乱していた。そんな中、リップが口を開く。



 「まぁ、こうして集まれたんですから良いじゃないですか。それよりも、早く行きましょう」



 「……えっ、行くって何処に?」



 「どうやらな、リリヤ女王が俺達を呼んでいるみたいなんだ」



 「リリヤが? どうして?」



 「何でも、これまで集めたロストマジックアイテムの功績を称えたいらしいですよ」



 「称えたいって……まだ全部集まって無いよ。後、一個残ってるんだよ?」



 「ご安心下さい。リリヤ様曰く、最後の一個は見当が付いているとの事です」



 「そうなの? だったら話を聞く為にも行くしかないか」



 「そう言う事です。行きましょう」







***







 「カルド城……何だか久し振りな気がするよ」



 「そんなに経ってない筈なんですけどね。でも確かに、何だか久し振りな気がします」



 「懐がじいだぁ」



 「ずっと西の大陸で旅していたからな。そう感じるのも当然なのかもな」



 リップに先導されながら、カルド王国に帰って来た真緒達は、現在カルド城内を歩いていた。



 「皆さん、干渉に浸るのは結構ですが、リリヤ様に呼ばれている事を忘れないで下さいよ」



 「大丈夫、ちゃんと覚えているよ」



 「全く……リリヤ様から直接呼ばれるなんて、中々無い事なんですよ。光栄な事なんですよ。自分が幸運な事をもっと自覚して下さい」



 「リップは本当にリリヤが好きなんだね」



 「す、好きとかじゃなく、忠誠を誓っているんです!!」



 「照れちゃって可愛い」



 「ふざけないで下さい!!」



 「ごめんごめん」



 顔を真っ赤にさせて怒るリップをからかう真緒達一向は、和気あいあいとリリヤ女王の待つ玉座の間へと向かった。



 「リリヤ様、マオさん達を連れて参りました」



 玉座の間に入ると、リリヤ女王が玉座に座って真緒達を待っていた。護衛の兵士はおらず、少々不用心に感じた。



 「リップ、ご苦労様。お久し振りですね、皆さん」



 「久し振りだね、リリヤ。リップから話は聞いているけど、最後のロストマジックアイテムの在処に見当が付いているんだって?」



 「はい、それについては後でお話しします。まずは今回手に入れたロストマジックアイテムを渡して頂けますでしょうか?」



 「あぁ、そうだね」



 そう言うと真緒は、鞄から記憶の杖を取り出し、リリヤ女王に手渡した。



 「そう……これが……」



 「それは記憶の杖って言って、対象者の……「対象者の記憶に自我を持たせたり、使用者の記憶を自身の体に投影する事が出来る」……えっ?」



 「本当に素晴らしい能力ばかりね……エジタス“様”の遺したロストマジックアイテムは……」



 「「「「「!!?」」」」」



 リリヤ女王の口から発せられたエジタス“様”という言葉。真緒達とリップの五人は、驚きの表情を浮かべた。



 「やっと……やっと全てが揃った……これで六つのロストマジックアイテムが全て揃ったわ!!」



 「全てのロストマジックアイテムだと!!?」



 「リ、リリヤ様……これは……いったいどういう事なんでしょうか?」



 「リップ……あなたは本当に忠実な犬だったわ。私の言う事に素直に従ってくれて……」



 そう言いながら、リリヤ女王がリップに笑みを見せた。しかしその笑みに優しさは一切込められておらず、同情と哀れみだけが込められた皮肉の笑みだった。



 「リリヤ、あなたはいったい……」



 「あら、ここまで来てまだ気付かないの? つまり……」



 「つまり、こう言う事ですよ」



 「「「「「!!!」」」」」



 その瞬間、リリヤ女王の隣にレッマイル、ヘッラアーデの創始者“エイリス”が突然姿を現した。



 「お、お前は!!?」



 「エイリス!!」



 「どうじでごごに!!?」



 「勿論、転移魔法を使ってですよ」



 さも当然の様に答えるエイリス。



 「そんな……あり得ない……転移魔法は、一度目にした場所にしか移動する事が出来ない筈……それなのに、こんなカルド城の玉座に転移して来るなんて……そんなのまるで……まさか!!?」



 その時、真緒は最悪の真実に気が付いてしまった。それは今まで自分達が単なる操り人形であったという、残酷な真実だった。



 「えぇ、マオさんが思っている通りです。私リリヤ・アストラス・カルドは、ヘッラアーデの人間です」
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