笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第七章 冒険編 大戦争

クイト一族(前編)

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 「ど~も初めまして“道楽の道化師”エジタスと申しま~す」



 そいつは突然目の前に現れた。何の前触れも無く、文字通り“突然”だ。数秒前までは誰もいなかった筈なのに、まるで最初からそこにいたかの様に姿を現した。



 そのあまりに唐突な登場に、私達はパニックに陥ってしまった。女子供を民家に避難させ、男達は武器を手に取って突然現れたエジタスと名乗る謎の訪問者を取り囲んだ。



 「貴様、いったい何者だ!!?」



 そう訪ねると、エジタスは首を傾げて不思議そうな態度を取った。



 「おや~? もしかして聞こえていませんでしたか~? では改めまして……ど~も初めまして“道楽の道化師”エジタスと申しま~す」



 エジタスは自己紹介が聞こえていなかったのかと勝手に解釈し、先程と全く同じ自己紹介を繰り返した。



 「名前を聞いているんじゃない!! 何の目的でこの集落に来たのか聞いているんだ!!」



 すると漸く言葉の意味を理解したのか。右手の拳を左手の掌にポンっと乗せ、納得した様子を見せた。



 「あぁ~、そう言う意味でしたか~。いやはや失礼、私は世界中を旅する言わば旅人なのです。ここには偶々通り掛かっただけなんですね~」



 「偶々通り掛かっただけだと……嘘を付くな!!」



 「嘘だなんて、私は本当の事を言っているだけですよ~」



 「第一、どうやってここまでやって来た!? 誰一人として貴様の姿を見掛けなかったぞ!!」



 ここの集落に外壁など視線を遮る物は存在しない。小さな民家が幾つか建っているだけで、殆ど野晒し状態だ。つまり人であろうと魔物であろうと、こちらに近付く事があれば、すぐに誰かが気づける筈なのだ。しかし今回、近付く気配すら無かったのにも関わらず、突如として訪問者が目の前に現れた。混乱するのは当然と言える。



 「それはですね~……」



 するとエジタスは右手の親指と中指を合わせ、パチンと勢い良く打ち鳴らした。



 「「「「!!?」」」」



 その瞬間、取り囲んでいた筈のエジタスが姿を消した。周囲の者達が慌てて駆け寄るも、いない事実は変わらなかった。



 「い、いったい何処に……?」



 「ここですよ……ここ」



 「「「「っ!!!」」」」



 意外にもエジタスはあっさりと見つかった。声を掛けた男の背後に、寄り添う様に立っていたのだ。突然耳元で囁かれた事で驚いた男は、咄嗟に持っていた武器をエジタスに向けて振り回した。



 「おっと、危ないですね~」



 が、難無く掴まれてしまった。武器を取り返そうと必死に引っ張るが、ビクともしなかった。



 「くそっ!! どうなってやがる!!」



 「実は私、転移魔法の使い手でしてね~。一度見た場所や人ならば、何処にいようとも空間を飛び越え、この様に一瞬で移動する事が出来るのですよ~」



 「魔法……だと!?」



 当時、魔法を扱える者は世界でも稀であった。いたとしても、即座に国の宮廷魔導師として一生仕える事となるだろう。それだけ希少な存在である魔法を持つ者が何故こんな辺境の集落に訪れたのか、ますます分からなかった。



 「い、いったい何なんだお前は!! 何の目的でこの集落に来たんだ!!」



 「もう落ち着いて下さいよ~。私は別に争う為に来た訳じゃないんです。先程も言った通り、偶々通り掛かっただけで……おや~?」



 するとエジタスは話を途中で止め、掴んだ武器をマジマジと眺め始めた。



 「な、何だ!?」



 「これはこれは……只の武器ではありませんね~、魔法が付与された魔法武器という物ですか~?」



 「あんた……これを知っているのか?」



 魔法武器。それは真緒が持っている“純白の剣”や、サタニアが持っている“ティルスレイブ”の様な、特別な武器とは異なり魔法が直接施されている武器の事である。例えば火属性の魔法が施された魔法武器ならば、斬り付けた相手に火傷を負わせる事が出来るのだ。



 「当然ですよ~、魔法武器は魔法を扱えない者達にとって唯一魔法に関わる事の出来る代物ですからね~。ん、よく見れば他の方々が持っている武器にも、魔法が施されているではありませんか~」



 「えっ、あ、あぁ……」



 エジタスは掴んでいた武器を手放し、他の者が持っている武器を舐める様に見始めた。その異様とも思える行動にいつの間にか戦意は削がれ、各々武器を下ろしていた。



 「それにしても凄いですね~、こんなにも魔法武器を取り揃えているだなんて~。もしかして皆さんは商人なんですか~?」



 「いや、俺達は別に商人って訳じゃねぇよ」



 「? ではどうやってこの様な素晴らしい武器を手に入れたのですか~?」



 「作ったのさ」



 「作った?」



 「俺達はクイト一族、魔法が施された特別な武器や道具を生成するのに長けた一族なのさ」



 「な、何ですって~!!?」



 私達の言葉があまりに衝撃的だったのか、エジタスは腰を抜かして驚いていた。だけど今思えば、何ともわざとらしい演技だったよ。







***







 「次はこのバケツだ。このバケツに水を入れて放置しても半年は腐らない」



 「凄い、凄過ぎますよ~」



 エジタスは他にもあるのなら、もっと見せて欲しいと言って来た。少し悩んだが、別に見せて困る様な物は作っていなかった。そして争う気は無いというエジタスの言葉を信じて、一人の若者が代表して集落に置いてある物を色々と見せて回る事にした。だが……。



 「それにしても物好きな奴だな。魔法が施された武器よりも、道具の方が見たいだなんてよ」



 そう、エジタスが見せて欲しいと望んだのは武器では無く道具、即ちアイテムの方であった。



 「武器の方がいざという時に戦う事が出来るし、上手く行けば国の兵士として雇って貰えるかもしれない。そうすれば将来は約束された様な物だ」



 「確かにそうかもしれませんけどね~。私からすれば、武器よりもアイテムの方が未来への可能性があると思うんですよ~」



 「未来への可能性?」



 「はい、いつの日か魔法という存在は当たり前になるでしょう。そうなればいちいち魔法武器で戦うよりも、魔法で直接戦った方が有利と言えます。すると必然的に魔法武器の需要は無くなり、自然消滅するのが末路です」



 「…………」



 「それに魔法武器は普通の魔法とは違って武器を媒介している分、威力が半減されてしまう」



 「知ってたのか……いや、こんなに興味を示すんだ。知っていても可笑しくは無いのか……」



 エジタスの言っている事は正しい。魔法武器と聞こえは良いが、実際の所は普通の武器と変わらない。火属性の魔法が施されている武器で相手を斬り付ければ、確かに火傷を負わせる事は出来るが、それはかなり微々たる物であり、肌の表面が少し焦げる程度にしかならないのだ。



 「その点、マジックアイテムは素晴らしい。日常生活の手助けになるのは勿論、時代が進んでも決して廃れる事は無いでしょう~。何故なら、生活とは人間が必ず行わなければならない義務。ほぼ毎日利用されると見て間違いありません!!」



 先程まで魔法武器の脆弱性を語っていたのに対して、今度はマジックアイテムについて称賛し始めた。



 「そ、そうだよな!! やっぱりあんたもそう思うよな!!」



 正直な話、一族全員が魔法武器よりもマジックアイテムの方が優れていると感じていた。魔法武器とマジックアイテムの両方を作っている為、尚更感じていた。しかし、時代は便利よりも戦いを求めていた。それに魔法武器の方が高く売れる。明日を生き抜く為にも、利益の高い魔法武器を作る方が合理的だった。



 「俺達も本当なら自慢のマジックアイテムを売りたい。だけど、今はそんな我が儘言っている場合じゃないんだよな……」



 しかし物作りのプロとして、自分達が作った物で周りがもっと笑顔になれば良いなという思いはあった。しかしそう上手くは行かず、歯痒い思いをずっとして来た。



 「……それなら、私が全て買い取りましょうか~?」



 「……えっ!?」



 そんな私達に対してエジタスは、売れ残っているマジックアイテムを全て買い取ると言い出した。



 「ほ、本当に良いのか!? 売る側が言うのもなんだが、それなりの値段はするんだぞ!?」



 「別に大丈夫ですよ~、こう見えて私けっこう持ってますから~。その代わり……」



 「その代わり?」



 「新しいマジックアイテムを開発したら、真っ先に私へと報告してくれませんか~? 勿論、言い値で買いますよ~」



 「あ……ちょっと皆に相談して来る!!」



 そう言い残して若者は、エジタスを一人残してその場を去った。



 「えぇ、楽しみにしてますよ……第一段階終了……これから第二段階に移行する……」



 私達は気付く事が出来なかった。エジタスが本当は、私達クイト一族の事を知っていて接触を図って来た事を……。
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