笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第九章 冒険編 蘇る英雄達

真緒パーティー VS ヘグレル(後編)

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 先程までの可愛らしい少女から一変、筋肉ムキムキの化物ゴリラになってしまった。そのあまりの変貌に、真緒達は絶句していた。



 また、元のサイズに収まっていた下着が、膨れ上がった筋肉によって、今にもはち切れそうな程、パツパツになっていた。



 「うふふ……驚いた? 本当はこの力を出すつもりは無かったけど……もう手加減しない。圧倒的な力であんた達を捩じ伏せてあげるんだから!!!」



 どうやら声帯までは変わっていない様だった。ゴツい見た目に反して、可愛らしい声が聞こえる。



 「死んじゃえ!!!」



 その瞬間、側にいた真緒が吹き飛ばされる。ヘグレルが真緒目掛けてタックルしたらしいが、肝心の動きが全く見えなかった。まるで弾丸。肉の弾が発射されたかの様だった。



 「マオぢゃん!!」



 「余所見してる場合かな!!」



 「っ!!?」



 吹き飛ばされた真緒の安否を確かめようとするハナコ。が、その行く手をヘグレルが止める。大きく膨れ上がった上腕でハナコの首目掛けてラリアットを繰り出す。



 「スキル“鋼鉄化”!!! がはぁ!!?」



 咄嗟に全身を鋼鉄に変化させ、ガードを試みる。しかし変身する前の愛くるしい姿のヘグレルからは想像も付かない程、重く太い攻撃。



 さすがのハナコも受け止めきれず、吹き飛ばされてしまう。



 「ハナコ!! くそっ!! “ブースト”!!」



 「“ジャイアントフレイム”!!」



 ここで遅れながら、フォルスとリーマも反応した。フォルスは風属性魔法で強化した矢で、リーマは生み出した炎の巨人でヘグレル目掛けて攻撃を仕掛ける。



 「そんなちんけな攻撃で、私を倒せると思ってるの!!」



 ヘグレルの言う事は正しかった。フォルスの矢は当たるには当たったが、膨れ上がった筋肉に突き刺さらず、虚しく地面に落ちてしまった。



 そして炎の巨人と真っ向から力で勝負を挑む。互いの両手を握り締め、押し倒そうとする。炎の巨人は文字通り、全身が炎で作られた巨人。勿論、その両手も炎で出来ている為、それに触れているヘグレルは火傷を負う筈だが、当の本人は全く熱さを感じてはいない様子だった。



 「今の私に力で敵う訳が無いでしょ!!」



 そう言うとヘグレルはあっという間に、炎の巨人を力で押し倒し、そのまま鎮火させてしまった。



 「そんな!!? 私の新しい魔法が……こんなにあっさり……」



 「あら、嘆いている余裕があるのかしら!!」



 「!!!」



 自身の新しい魔法が容易く破られ、動揺が隠せないリーマ。そんなリーマ目掛けてヘグレルが握り拳を勢い良く振り下ろす。



 激しい衝撃音と地響きが伝わる。地面には大きなクレーターが出来ていた。ヘグレルが拳を上げる。しかし、そこには血痕が残されているだけで、リーマの姿は無かった。



 「はぁ……はぁ……くっ、あ、危ない所だったわね……」



 「エレットさん……」



 何とエレットが雷魔法で速度を上げ、潰される直前にリーマを助け出していた。だが何故かリーマは浮かない顔をしていた。そしてその視線はエレットの顔では無く、右足に向けられていた。



 「足が……!!!」



 エレットの右足は完全に潰れていた。骨はバラバラで外に飛び出し、神経はぐちゃぐちゃになっていた。



 「た、大した事……ないさ……けど、もう動けそうにないかも……」



 「……エレットさん、ありがとうございます。お陰で助かりました。後は私に……いえ、私達に任せて下さい!!」



 「そ、そう……じゃあ遠慮無く、休ませて……貰おうか……な……」



 その言葉を最後に、エレットは力無く倒れてしまった。



 「エレットさん!! エレットさん!!」



 「心配するな。気絶しただけだ」



 突然倒れたエレットを心配して、何度も呼び掛けるリーマ。そんなリーマの下にシーラが歩み寄って来た。



 「良かった……気絶しただけか……」



 「全く……片足が潰されて相当痛い筈なのに泣き言一つ言わないとは……それでこそ魔王軍の新四天王だ」



 労いの言葉を掛け、シーラはエレットの頭を優しく撫でた。



 「さて、それじゃあ行くとするか。くそ生意気な小娘を倒しに」



 「分かりました!!」



 リーマとシーラがエレットを介抱していたその頃、ヘグレルの方では真緒、ハナコ、フォルスの三人が戦っていた。



 「スキル“乱激斬”!!」



 無数の斬撃がヘグレル目掛けて放たれる。が、厚く覆われた皮膚が傷付く事は無かった。



 「っ……硬い!!」



 「ぞれなら、スキル“獣王の一撃”!!」



 ハナコは両手を縦に合わせ、まるで獣が牙を剥く様な構えで勢い良く突き出した。あの魔王サタニアでさえ、仰向けに倒れた渾身の一撃。必ず効くと思った。



 「くすぐったい」



 「!!?」



 残念ながらハナコの一撃が通る事は無かった。ヘグレルのぶ厚い胸板で見事に受け止められてしまった。



 「お返しね!!」



 するとヘグレルは見よう見まねで、ハナコの“獣王の一撃”の構えを取り、ハナコ目掛けて勢い良く放つ。



 「ぐぶっ!!!」



 勿論、そんなので放てる程、甘くはない。しかしそれでも、ヘグレルの太い二本の腕から放たれる攻撃は純粋に力強く、ハナコを吹き飛ばすには充分だった。



 「ハナちゃん!!」



 「次はあなたね」



 一人ずつ確実にやられていく。そんな中、ヘグレルは遂に真緒に標的を定めた。が、それと同時に首筋辺りからチクチクと痛みを感じていた。まるで小さな針につつかれている感覚だった。



 「何なのいったい……」



 振り返るとそこには空中から休み無く、矢を放つフォルスの姿があった。



 「やっとこっちを向いたな。お嬢ちゃん、俺が相手をしてやる」



 「ふーん、そんなオモチャで私を傷付けようって言うの?」



 「そう言うお前だって、まだ俺に一度も傷を負わせていないが?」



 「っ!! へぇー、そんなに死にたいんだ。良いよ、先に殺してあげる」



 フォルスの挑発に乗ったヘグレル。標的を真緒からフォルスに変更した。



 「フォルスさん!!」



 「俺の事なら心配するな!! それよりハナコの方を頼む!!」



 「わ、分かりました。でも、決して無理はしないで下さい!!」



 ヘグレルの対処をフォルスに任せ、真緒はハナコの介抱へと向かう。



 「もしかして、空中にいるから安全かと思ってる? だとしたら大間違い。私にとって、その程度の距離……」



 そう言いながらヘグレルは両膝を屈め、両足に力を込める。



 「ま、まさか!!?」



 嫌な予感を覚えたフォルスは、ヘグレルからより遠くに離れようとする。



 「オラァアアアアア!!!」



 ヘグレルは凄まじい跳躍力で、フォルスがいる位置まで跳び、その勢いのまま拳を叩き込む。



 「ぐはぁ!!!」



 さすがのフォルスも対応が遅れ、ヘグレルの拳を食らってしまい、勢い良く地面に叩き付けられた。



 「これでおしまい!!」



 するとヘグレルは、倒れているフォルス目掛けて落下して来る。



 「く、くそっ……ここまでか」



 フォルスが諦め、潰されそうになったその時!!



 「ぐべっ!!?」



 「!!?」



 落下していたヘグレルが、突然巨大な何かにぶつかり、弾き飛ばされてしまう。



 「い、いったい何が!!?」



 『大丈夫だったか?』



 「そ、その声は!?」



 声のする方向に顔を向けると、そこにはドラゴンの姿になったシーラが立っていた。側にはリーマもいた。



 「助かった」



 『礼には及ばないよ。おい、小娘!!』



 「痛た……何なのよ……って、何でドラゴンがここに!!?」



 『その口振り、どうやらエジタスからは何も聞かされていなかった様だな』



 「……ううん、言ってた。魔王軍四天王のシーラはドラゴンだから用心する様にって……でもそこまで警戒する必要無いと思って、今の今まで忘れてた」



 『ふん、そう言う所はまだまだガキだな』



 「何ですって!!? ちょっと図体がでかくなったからって、いい気にならないでよね!! 煩い!! ちょっと黙ってて!!」



 「……?」



 小馬鹿にされたヘグレルは、怒り任せにシーラ目掛けて突進しようとする。



 「なっ!!?」



 が、ドラゴンとなったシーラの体は、びくともしなかった。



 『お前みたいな付け焼き刃に教えてやる。本当の力ってのは……こういう物なんだよ!!』



 「!!!」



 その瞬間、ヘグレルは遠くに吹き飛ばされる。軽く叩いた程度だったが、所詮はスキルで強制的に鍛え上げた肉体。想像以上の攻撃には耐えられない。



 「がはっ!! げはっ!!」



 吹き飛ばされた先で舞い上がった土煙が収まる。そこには元の可愛らしい姿の少女がいた。しかし既に体はボロボロで、最早立ち上がるのは困難であった。



 『終わったな』



 「どうやらあの“ペイン・ストレンクセン”には、それなりの副作用があった様だな」



 「凄いですシーラさん!!」



 「皆、無事で良かった!!」



 皆の下に真緒が駆け付ける。真緒は負傷したハナコを肩で支えていた。どうやら命に別状は無い様だ。



 「お前達も無事で何よりだ」



 『それで? これからどうする? もう一人の奴が起きるかもしれないぞ』



 「そうですね。その前にあの子を取り押さえ……あっ!!?」



 そう思ったのも束の間。倒れ伏せているヘグレルの側には、いつの間にかヘゼンルーテの姿があった。



 「い、いつの間に!!?」



 「お、お兄ちゃん……」



 「だから言っただろー。不用意に近付くなってー」



 「ご、ごめんなさい……」



 「もう良いよー。それじゃあそろそろいいかなー?」



 「うん……お願い……」



 すると次の瞬間、ヘゼンルーテはヘグレルの頭を潰した。



 「「「「「!!?」」」」」



 「ん……んん……ょっと……うへぇ、バッチいなー」



 「な、な、何やってるんですか!!?」



 足に付いた血を地面に擦り付け、拭い取るヘゼンルーテ。このあまりに狂気の行動に真緒は思わず声を荒げる。



 「えーと、殺したのー。あのまま放置したらいつまで経っても苦しいしー、それに敵に捕まったら大変だからー」



 「つまり口封じか」



 「そうとも言うかなー。えっとそれじゃあ僕はそろそろ引き上げるねー」



 『お前は戦わないのか?』



 「僕はヘグレルみたいに好戦的じゃないっていうかー。面倒臭いのはごめんかなー。じゃあねー、バイバーイ」



 そう言うとヘゼンルーテは、姿を眩ませてしまった。



 「これは……勝ったっていう事でしょうか?」



 「取り敢えずはな……」



 顔を見合わせる一同。そして同時に喜びが込み上げ、真緒とリーマが嬉しさのあまり両手を上げる。



 「「やったぁあああああ!!!」」



 こうして真緒達は、ヘグレルとの勝負に辛くも勝利を収めるのであった。
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