笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

文字の大きさ
217 / 275
第十章 冒険編 反撃の狼煙

覚醒

しおりを挟む
 真緒の目の前で信じられない事が起こった。コウスケの圧倒的な実力を前に、真緒は疲弊しきっていた。最早、戦う気力さえ残されてはいなかった。



 ここまでかと思ったその時、かつては味方だったが、今は敵となってしまったアーメイデが姿を現した。コウスケ一人でも手に余るというのに、もう一人の伝説的な存在とも戦わなければならない。泣きっ面に蜂とはこの事か。残酷な現実に、真緒の心は折れてしまいそうになった。



 しかし、そうはならなかった。何とアーメイデは味方である筈のコウスケに向けて攻撃を仕掛けたのだ。裏切り。真緒にとってはまたと無いチャンスだが、純粋に何故という疑問が残る。



 「アーメイデさん……?」



 「…………」



 いくら思案を巡らせても、裏切る理由が見つからない。真緒は堪らずアーメイデに声を掛ける。するとアーメイデはゆっくりとこっちを向き、倒れている真緒に向かって手をかざす。まさかここでトドメを刺すつもりか!? と、思った矢先……。



 「“キュアオール”」



 「え?」



 何と体力を全快にしてくれたのだ。すっかり傷が癒えた真緒は半信半疑になりながらも、立ち上がる。



 「どうして……?」



 どうして。その言葉しか出なかった。本来ならありがとうや、助かったなどの言葉が出る筈なのだが、今回ばかりは疑問を投げ掛ける事が最優先だった。



 「…………」



 しかし、アーメイデは何も答えない。極力、真緒に目を合わせない様に目線を反らそうとしている。



 「えっと……あの……その……」



 気まずい雰囲気に、言葉が詰まる真緒。この地獄の様な時間が永遠と続くのかと思われたその時、コウスケが吹き飛ばされた先の壁で凄まじい爆音が鳴り響く。



 「い、いったい何が!?」



 「やっぱり……あれ位の攻撃じゃ、死なないわよね」



 「いやー、まいったまいった。まさか君に攻撃されるとは、思ってもみなかったよ」



 アーメイデの攻撃を食らい、腹に風穴が空いたコウスケ。だが、まるで何事も無かったかの様に平然と歩いていた。



 「“キュアオール”」



 そしてその傷も今や消え去った。こちらに近付いて来るコウスケに対して、アーメイデは杖を向けて、これ以上近付くなと警告する。



 「ねぇ、コウスケ……さっきの話、全部本当なの?」



 「さっきの話?」



 「エジタスに協力してるのは、平和とか幸せとかの為じゃなくて、楽しいからって事!!」



 「あぁ、何だ聞いてたのか。うん、全部本当だよ。正直、平和とか幸せとかに興味無いんだよね」



 「そう……」



 「まぁ、そんな事はどうでも良いからさ。悪ふざけが済んだのなら、さっさとそこのマオちゃんを倒しちゃおうよ。二人で力を合わせればきっと……」



 そう言い掛けた次の瞬間、コウスケの真横を何かが物凄い速さで通り抜ける。その正体は、アーメイデが放った結晶体。鋭く尖った結晶がコウスケの頬を掠め、壁に突き刺さる。



 「アーメイデ、冗談にしても度が過ぎると思うよ?」



 「コウスケ……変わっちゃったね。二千年前のあんただったら、世界の平和の為、幸せの為に動いてた。なのに今のあんたは自分の私利私欲で動いてる。そんなのコウスケじゃないよ」



 「…………」



 「お願いだ。あの頃の……真っ直ぐだったコウスケに戻ってくれ。私が愛した誠実で勇猛果敢でお人好しだったあの頃のコウスケに……」



 「アーメイデ……君は少し誤解をしている様だね」



 「え……?」



 「あの頃に戻って欲しいとか言ってるけど……僕は二千年前のあの頃から、何一つ変わってはいないよ」



 「!!!」



 アーメイデの杖を握る力が強くなる。それは当たって欲しくない予想が、当たってしまった事に対する想いの表れなのか。



 「異世界で勇者と言えば、誠実で勇猛果敢でお人好しが定番。その方が感情移入がしやすいし、周りからも勇者だって言われやすいだろう? まぁ、そんな事をしなくても、打倒魔王を志す僕は紛れもない勇者なんだけどね」



 「じゃああれは全部演技だったって言うのか!!?」



 「演技って言うのは人聞きが悪いな。あくまでもあれは……キャラ付け? 異世界デビューとも言うのかな」



 「そんな……」



 「それにしても、アーメイデは僕が思った以上に“尻軽女”なんだね」



 「は?」



 「だってそうでしょ? 一年前まではエジタスさんの敵だったのに、死者を蘇らせる方法をちらつかせた途端、コロッと掌を返して仲間になって……と、思ったら今度は自分の愛する人が理想と違ったから裏切るだなんて……もしこれがアニメやゲームだったら、君はファンから最低最悪のビッチの称号が与えられているだろうね」



 「コウスケさん!! アーメイデさんに何て事を言うんですか!? アーメイデさんは二千年間、ずっとあなたの事を……「もういい!!」……えっ?」



 コウスケのアーメイデに対する非道な言動に、我慢出来なくなった真緒はアーメイデがどれだけコウスケの事を想っていたのか説明しようとするが、アーメイデ本人に遮られてしまう。



 「ありがとうマオ、その気持ちだけで充分だ」



 「アーメイデさん……でもこんなのって……」



 「お陰で目が覚めたよ。私がすべきだった事……全く、こんなハッキリと言われないと気付けないだなんて、恋心ってのは厄介な物だね。“クリスタルチェーン”!!」



 「!!!」



 するとアーメイデは、杖の先から結晶体の鎖を飛ばし、コウスケの体を拘束した。



 「今だ!! あの男に渾身の一撃を食らわしてやりな!!」



 「は、はい!! スキル“ロストブレイク”!!」



 「甘い!!」



 コウスケの身動きを封じたアーメイデ。攻撃のチャンスを託された真緒は、コウスケ目掛けて渾身の一撃を叩き込もうとするが、それよりも前にコウスケは鎖を破り、真緒の一撃を弾き返して見せた。



 「そんな!!?」



 「そしてこれでさよならだ!!」



 「させないよ!! “クリスタルシールド”!!」



 渾身の一撃を弾かれ、隙だらけとなってしまった真緒。そんな真緒目掛けてコウスケの剣が襲い掛かる。しかし突き刺さる瞬間、アーメイデが結晶体の盾を真緒の前に生成し、コウスケの攻撃を防いで見せた。



 「た、助かりました」



 「油断しない事だね。あんなのでも、かつて初代魔王と互角に渡り合った実力者なんだから」



 「はぁー、味方だった筈の仲間が裏切って敵側に付いてしまう。王道ファンタジーじゃ、中々見ない展開だ。なら、この圧倒的不利な状況を乗り越え、見事勝利を掴んで見せよう。僕にはそれが出来る!! 何故かって? 僕は世界を救う勇者で、主人公だからさ!!」



 「何が圧倒的不利な状況だ……明らかにあんたの方が実力は上じゃないか。それに……いつまでその剣の力を“封印”するつもりだい?」



 「えっ、“封印”?」



 真緒はアーメイデの言葉に耳を疑った。あまりにも予想していなかった言葉に、思わず聞き返してしまった。



 「そう言えば、言った事無かったっけ? あいつとあんたが持っているその純白の剣ってのは、真の力が解放されていない言わば封印状態の事を指すんだよ」



 「え、えぇえええええ!!?」



 「その力を解放出来るのは、本来の持ち主であるコウスケだけ……だから一年前は教えなかったのさ。出来ない事を教えたって意味は無いし、修行に雑念が入ると思ってね」



 「そ、そうだったんですか……」



 「それで? まさか私達二人相手に封印状態で戦うつもりじゃ無いだろうね?」



 「ははは、勿論そんなつもりは無いよ。君が相手となると、さすがの僕でも手加減出来ないからね。スキル“解放”」



 その瞬間、コウスケが持つ純白の剣が光輝く。今まで見た事が無い程の目映い光。そのあまりの眩しさに直視する事が出来なかった。やがて光は収束し、肉眼でも捉えられる様になった。が、そこにあったのは純白の剣では無かった。



 青と黄色で基調された柄に、天使の翼を模した鍔があり、そこから伸びる刃は透き通っていた。言葉を呑んでしまう程の美しさ。真緒は目が奪われてしまった。



 「しっかりしなさい」



 そんな真緒の状態を危険と判断したアーメイデは、後頭部を軽く叩いて正気に戻した。



 「す、すみません。あまりに美しくてつい……」



 「まぁ、その気持ち……分からなくも無いけどね。私も久し振りに見たけど、相変わらず目を引く美しさだよ。それに強さもビンビン伝わって来る……」



 「た、確かに……」



 美しさに目を奪われていたが、いざ正気に戻ると真の力を解放した剣からは、これまでに感じた事の無い程の力を感じた。



 「この剣の本当の名前は“ブレイブソード”、直訳すると勇者の剣って訳さ。僕にピッタリだろう?」



 「安直ですね」



 「ふっ、所詮女にはこの名前のかっこ良さは理解出来ないさ。じゃあそろそろ始めようか」



 ブレイブソードを構えるコウスケ。向かい合っているだけでも伝わる。先程までとは比べ物にならない程、強くなっている。こんな相手に勝てるのか、不安と緊張が入り交じる中、真緒は生唾をゴクリと飲み込むのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

【完結】異世界に召喚されたので、好き勝手に無双しようと思います。〜人や精霊を救う?いいえ、ついでに女神様も助けちゃおうと思います!〜

月城 蓮桜音
ファンタジー
仕事に日々全力を注ぎ、モフモフのぬいぐるみ達に癒されつつ、趣味の読書を生き甲斐にしていたハードワーカーの神木莉央は、過労死寸前に女神に頼まれて異世界へ。魔法のある世界に召喚された莉央は、魔力量の少なさから無能扱いされるが、持ち前のマイペースさと素直さで、王子と王子の幼馴染達に愛され無双して行く物語です。 ※この作品は、カクヨムでも掲載しています。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

異世界に降り立った刀匠の孫─真打─

リゥル
ファンタジー
 異世界に降り立った刀匠の孫─影打─が読みやすく修正され戻ってきました。ストーリーの続きも連載されます、是非お楽しみに!  主人公、帯刀奏。彼は刀鍛冶の人間国宝である、帯刀響の孫である。  亡くなった祖父の刀を握り泣いていると、突然異世界へと召喚されてしまう。  召喚されたものの、周囲の人々の期待とは裏腹に、彼の能力が期待していたものと違い、かけ離れて脆弱だったことを知る。  そして失敗と罵られ、彼の祖父が打った形見の刀まで侮辱された。  それに怒りを覚えたカナデは、形見の刀を抜刀。  過去に、勇者が使っていたと言われる聖剣に切りかかる。 ――この物語は、冒険や物作り、によって成長していく少年たちを描く物語。  カナデは、人々と触れ合い、世界を知り、祖父を超える一振りを打つことが出来るのだろうか……。

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

処理中です...