笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第十章 冒険編 反撃の狼煙

伝説の最後

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 「……終わったわね」



 そう言うとアーメイデは、今の今までずっと拘束していた真緒を解放する。自由に動ける様になった真緒は、急いでアーメイデの側へと駆け寄る。



 するとそこには、結晶による集中攻撃の末、大の字になって仰向けで倒れているコウスケがいた。全身傷だらけで、所々に風穴が空いていた。



 「やりましたね。アーメイデさんの大勝利です」



 素直に喜ぶ真緒。が、勝利したアーメイデの表情は喜びと反して、額に汗を流しながら暗い表情を浮かべていた。



 「いや……どうやら相討ちだったらしい……」



 「え……っ!!?」



 真緒は驚きの声を上げ、改めてアーメイデの体を見直すと、腹部にコウスケの剣が深く突き刺さっていた。流れ出る血が剣を伝って床に滴り落ちる。



 「うっ……」



 アーメイデは突き刺さった剣を引き抜き、そこら辺に放り投げる。そして崩れる様にコウスケの隣で仰向けになって倒れる。



 「最後の最後で油断しちゃった……本当に悪足掻きが好きだね……」



 「あはは……いつだって勇者は、絶体絶命の状況に強い……けど、今回ばかりは相討ちが限界だった……」



 コウスケはまだ事切れていなかった。だが、その声に生気は感じられず、もう間も無く息を引き取る事が明白だった。



 「だ、大丈夫です!! 私、こういう時の為にポーションを何本か持って来ているので、直ぐに回復を……」



 回復ポーションを取り出そうとする真緒だが、アーメイデに手首を掴まれ、制止させられてしまう。



 「いい……必要無いよ」



 「でもこのままじゃ!!?」



 「これで良いんだよ。私とこいつは、本来いるべき場所に帰る。なのにこれで助かってしまったら、本末転倒じゃないか。マオ、あんたはエジタスのやり方に反対なんだろう?」



 「それはそうですけど……」



 「私の人生は一年前に終わったんだ。それが何の因果か、こうして蘇ってしまった。でも、それも漸く終わる事が出来る……」



 「だけど……またエジタスが蘇らせたら?」



 「いや……それは無いよ。少なくとも私の事はもう蘇らせようとはしない」



 「どうして?」



 「私の心は……こっちに傾いて無いからね……もし蘇ったら、真っ先にエジタスの奴を殺してやる」



 「アーメイデさん……」



 「さぁ、とっとと先に進みな。あんたには、まだやるべき事があるんだろう。こんな所で油売ってていいのかい?」



 「…………」



 流れ落ちそうになった涙を拭き取り、取り出そうとしていたポーションを仕舞った。



 「あっ、ちょっと待ってくれるかな?」



 その場を離れようとしたその時、声を掛けて真緒の歩みを止めるコウスケ。



 「良かったら君の剣……貸してくれないかな?」



 「あんた……この期に及んで、まだ何かするつもり!?」



 「違う違う。強敵に立ち向かう後輩勇者に先輩勇者として、ちょっとしたプレゼントを送りたいんだ」



 「……分かりました」



 マオ自身、常識的に考えてこの男に剣を渡すなど正気の沙汰じゃないと思っている。しかし、何故だか分からないが、今は渡しても良いと思っている。それは単なる気まぐれか、それとも同じ異世界から転移した勇者として、何か感じる物があったのか。



 「ありがとう……スキル“解放”」



 「「!!!」」



 真緒から剣を受け取った次の瞬間、純白の剣は目映い光を放ち始める。やがて光は収束し、コウスケが持っていた“ブレイブソード”と同じ形状に変わっていた。



 「はい、どうぞ」



 「えっ、あっ、ありがとう……ございます……」



 そしてあっさりと真緒に剣を返す。このあまりに突然な出来事に、困惑を隠せない真緒。隣で見ていたアーメイデも驚きの表情を浮かべていた。



 「それと、さっきアーメイデが放り投げたもう一つを一緒に使うと良いよ。世界で一番強い剣を両手に持っている君は、恐らく世界で一番強い筈だよ」



 「ど、どうしてこんな……?」



 「言っただろう。先輩勇者から、後輩勇者である君へのプレゼントだよ」



 「…………」



 「あれ? もしかして疑ってる? まぁ、それもそうだよね。ついさっきまで本気の殺し合いをしていた男から突然の施しなんて、罠以外の何物でも無いからね」



 「分かっているなら、どうしてこんな真似をしたんですか? あなたはエジタスの仲間……こんなのエジタス側が不利になるのは明らかです」



 「んー、何て言うかなー。今のままじゃ、君は絶対にエジタスさんには勝てないと思ってさ」



 「!!!」



 「確かに君は一度、エジタスさんを倒したよ。けどそれは多くの仲間達の力を借りて出来た事……今回みたいな少数では、絶対に勝てない。だから少しでも良い勝負が出来る様にアシストしてあげたのさ」



 「それでエジタスさんが負けても良いんですか?」



 「別に構わないよ。正直、僕は平和や幸せよりも、面白い展開を求める派なんだよね」



 「狂ってますね」



 「はは、師匠譲りだよ……ほら、さっさと行ったら? 英雄達はまだ残ってるよ」



 「……お礼は言いません」



 そう言うと真緒は、コウスケに言われた通り、アーメイデが放り投げた剣を拾い上げ、二本のブレイブソードを手にすると、そのまま部屋を後にした。



 「それで良い。進め若人よ。君の冒険はまだまだこれからだ……はは、こんな事を言うなんて……僕も歳を取ったな……」



 「あんたまだ十代でしょ」



 「あれ? まだ生きてたんだ。声が聞こえなかったから、死んだのかと思ったよ」



 「心配しなくても、もうすぐ死ぬわよ。意識がぼんやりして来たし……」



 「あぁ、僕もだ。実は剣を返した辺りから、眠たくなって来たんだ……」



 「マオの奴……エジタスに勝てるかしら?」



 「さぁね。僕の知っている限り、エジタスさんは史上最強……万に一つ勝ち目は無いだろう……けど……」



 「けど?」



 「そういう存在に勝ってこそ、本物の勇者だろう」



 「はぁ……どうしてこんなのを好きになっちゃったんだろう……」



 「おいおい、こんなのは言い過ぎだろう」



 「あんたみたいのは、心残りとか無さそうだから羨ましいよ」



 「いやいや、僕だって心残りは一杯あるよ。例えば、魔王をこの手で倒さなかった事や、世界一周しなかった事や、勇者サブレや勇者まんじゅうを売り出さなかった事や……」



 「それはそれは……さぞ悔しいでしょうね「後は……」……?」



 すると突然、コウスケのテンションが下がり、声も沈んだ。



 「あっちの世界のお父さんとお母さんに……親孝行出来なかった事かな……」



 「コウスケ……」



 真緒とコウスケの決定的な違い。それは元の世界に帰りを待つ存在がいるか否か。十代半ばで、ほぼ誘拐並みの異世界転移。更に二度と元の世界には帰れないというおまけ付き。普通なら発狂してもおかしくはない。



 「でも僕は泣かないよ。勇者は皆の希望……涙は決して流してはいけないんだ」



 「……最後位、泣いたって良いんじゃない?」



 「……いや、それでも僕は泣かないよ。そうじゃないと、勇者を名乗ってる意味が無くなるからね……」



 「そうかい……コウスケ……やっと分かったよ。私がどうしてあんたを好きに……」



 アーメイデの言葉はコウスケに届かなかった。まるで眠りに付くかの様に、安らかな表情で息を引き取っていた。



 「……続きはあの世で……全く良い人生……だったよ……」



 こうして後世にまで名を轟かせた、伝説的な勇者と魔法使いは死んだ。しかしその最後は、歴史に残らない程、穏やかに亡くなるのであった。







***







 真緒とアーメイデがコウスケと一悶着をしている一方、ハナコとリーマは転移させられた真緒を探していた。



 「マオさん、いったい何処に飛ばされたんでしょうか?」



 「屋敷の外にいるのが、ぞれども中にいるのが、全然分がらないだぁ……」



 迷宮と化した屋敷内をぐるぐると歩き回る二人。ふと部屋の扉を開けたかと思うと、そこはトイレになっていたり、ふと窓を開けて外に出ようとすれば、そこはメインホールになっていたり、摩訶不思議な体験をしていた。



 「兎も角、このままマオさんと合流出来ないのは不味いですよ」



 「ぞうは言っでも、何処にいるが分がらない以上、探ずのは難じいだぁ」



 「取り敢えず手当たり次第、部屋を探索するしか方法はありません。このまま先に進みましょう」



 「ぞれじゃあ次は……あの扉だぁ」



 ハナコが指差す方向に一枚の扉があった。通常であれば、そこは客室へと通じる扉の筈だが、迷宮と化している今となっては、何処に通じているのか皆目検討が付かない。



 「鬼が出るか蛇が出るか……」



 リーマは意を決して扉を開ける。するとそこに広がっていたのは……。



 「「え?」」



 血生臭い。全体的に暗く陰鬱とした雰囲気。壁には血で汚れたナイフや爪を剥がす為の道具、ハンマーなんかも掛けられていた。そして部屋の中央には死体が山の様に積み上げられていた。



 「まさかここって……拷問部屋?」



 『大正解だよー』



 「「!!?」」



 初めて見る拷問部屋に驚き戸惑っていると、聞いた事のある声が響き渡る。二人が慌てて声のする方向に顔を向けると、そこには見覚えのある“双子”が立っていた。



 「久し振りだねー」



 「ちょっと、あの女は何処に行ったの!? 折角、仕返しが出来るチャンスだと思ったのに!!」



 「あなた達は確か……ヘゼンルーテとヘグレル……」



 「あっ、覚えててくれたんだー。嬉しいなー」



 「まぁ、別に忘れてても良かったけどね。だってどうせあんた達はここで死ぬんだから!!」



 「「っ!!!」」



 敵意を剥き出しにするヘグレルに、二人は咄嗟に武器を構える。



 「それじゃあー、後はよろしくねー。僕は一眠りするからー」



 「ちょっとお兄ちゃん!! はぁー、良いわ。この程度の相手、私一人で充分よ!!」



 「来ます!! 油断しないで下さいね!!」



 「分がっでるだよぉ!!」



 そして二人は、ヘゼンルーテとヘグレルの双子と戦う事になるのであった。
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