笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第十章 冒険編 反撃の狼煙

救世主

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 「いったい何がどうなっているの!?」



 「エジタスが……二人!?」



 突如、真緒達の前に現れた黒いローブを着た謎の人物。その黒いローブを脱いだ姿は、エジタスと瓜二つだった。



 驚きと混乱の中、ボコボコにされていた方のエジタスが外れた仮面を拾い上げ、顔に嵌める。



 「ふぅ~、もう少しで死ぬ所でしたよ~」



 「死ぬ所というか、死んでいただろ。俺が代わりの皮膚と内蔵を生成するのに数秒遅れてたら、本当に死んでたぞ」



 「もぉ~、だから私がわざわざ転移魔法で呼び出したんじゃありませんか~。蹴られながら座標を合わせるのって、結構大変なんですよ~?」



 「そもそもこうなったのは、お前があの女を生かしたからだろ。自業自得だ」



 「手厳しいですな~」



 まるで気の合う友人同士の様に、フランクに会話し始める二人。そんな二人の会話に割って入るのは不粋だが、真緒達は聞かずにいられなかった。



 「だ、誰なんですかその人は!?」



 「ん? あぁ、こいつのアホさ加減にすっかり忘れてた。会うのはこれで二度目だが、こうして会うのは初めてだったな。俺は“エジタス”だ。勿論、知ってるよな」



 「エジタスって……そんなあり得ないですよ!!? だって……だってエジタスはそこにいるじゃないですか!!?」



 そう言いながら真緒は、仮面を被っているエジタスの方を指差した。



 「そうだ。こいつも紛れもない“エジタス”本人だ」



 「え?」



 爛れた顔のエジタスと名乗る男は、真緒の質問を否定せず、肯定して見せた。それが余計に真緒達の頭を混乱させた。すると仮面を被ったエジタスが得意気に話し始める。



 「それでは種明かしと行きましょう~」



 すると仮面を被ったエジタスは、指をパチンと鳴らし、床に散らばっていた死体の一つを空中に転移させた。



 「皆さんはもうご存知だと思いますが~、元々私達は一つの“体”に三つの“心”が入っていました~」



 そう言いながら、分かりやすく解説する為、他の死体から心臓を三つ取り出し、空中に浮いている死体の周りをくるくると回して見せる。



 「仮面を被った時は“道化師”としてのエジタスに~。外して素顔を晒した時は“化物”としてのエジタスに~。後、表に出て来ない主人格としてのエジタス……まぁ、実質私と彼で一つの体を使い分けていた訳ですね~」



 道化師のエジタスは、化物のエジタスと肩を組むが、鬱陶しいと直ぐに外されてしまう。わざとらしく残念そうな様子を見せつつ、話を元に戻す。



 「それが一年前、あなた方と戦った時の話な訳ですが~、今はもう違うんですよね~」



 その瞬間、道化師のエジタスは指をパチンと鳴らし、空中に浮かばせる死体を二つ増やした。



 「そもそも生き物としての定義とは何なのか、分かりますか~?」



 真緒達に問い掛けるも、話が飛躍し過ぎて頭が追い付いていなかった。誰も答えない様子を見て、道化師のエジタスは深い溜め息を漏らした。



 「心臓がある事~? 脳ミソがある事~? いえいえ、それは意識……つまり人格があるかどうかなのです~」



 「人格?」



 「そうですよ~、真面目、クール、短気、楽観的、能天気、悲観的、想像力豊か、だらしない……などなど、全ての生物には、それぞれ異なる性格が備わっています。つまり、生き物として認識される基準は、心臓や脳ミソなど物理的な要素では無く、そこに宿る意識や考え方などの精神的な要素という事なのです~」



 「そ、それがいったい何だと言うんだ!?」



 「生き物としての解釈なんて、人それぞれじゃないか!?」



 「確かにそうかもしれません。けど、私達にとっての解釈はそうであり、重要なのはその先にあるのですよ~」



 「その先……?」



 「生き物としての基準が精神的な要素なら、一つの体に三つの心が私達は、実質三人分の魂があるという事と同じなのではないかと思いました~」



 するとエジタスは、空中に浮かばせている死体に、周りをくるくると回っていた心臓をそれぞれの死体に埋め込んだ。



 「ま、まさか……!!?」



 その様子を見ていたサタニアが何かに気が付いた。しかし、それはあまりにも常識から逸脱した考えであり、思い付けたのは奇跡としか言い様が無かった。



 「そのまさかですよ~、サタニアさん。私達はこの三つの心をそれぞれ別の体に定着させたのです!!」



 「「「「「!!!」」」」」



 三つの心に三体の体。つまり道化師としてのエジタス、化物としてのエジタス、そして主人格としてのエジタス。合計、三人のエジタスが生まれてしまったのだ。



 そんなのあり得ない。そう思いたかったが、目の前にいる二人のエジタスが紛れもない証拠だった。



 魔法やスキル、異種族が織り成すこの異世界でもあり得ない、現実的じゃない出来事に真緒達の頭はパンク寸前だった。因みにハナコは会話が始まって、数秒でパンクしている。



 「さて、種明かしも済んだ所で……そろそろ始めようか」



 そう言いながら化物のエジタスは、自身の右腕を複数本の触手に、左腕を鋭い鎌に変化させた。



 それを見た真緒達は咄嗟に武器を構えるが、そこで意外にも道化師のエジタスが間に割って入って来た。



 「ちょっとちょっと、待って下さいよ~」



 「何のつもりだ?」



 「このまま二人で戦ってあっさり殺してしまうのは、勿体無いと思うんですよ~」



 「勿体無いとか、そういう話じゃないだろ。八英雄の殆どが倒され、ここまで攻め込まれた。最早、一刻の猶予も無い。さっさと片付けるべきだ」



 「分かっていませんね~。こういう時こそ、冷静になって一度戦力の補給をするべきなんですよ~」



 「つまり当初の予定通り、ここで八英雄を蘇らせ、こいつらに絶望を与えると?」



 「その通り~」



 すると道化師のエジタスは、化物のエジタスから死者復活の紙を奪い取り、死体の下へと歩いて行く。



 「不味い!! 止めるんだ!!」



 只でさえ、エジタスが二人になったという事実に絶望しているのに、ここで更に八英雄まで蘇ってしまったら、もう真緒達に勝ち目は無くなってしまうだろう。



 真緒達は慌てて道化師のエジタスを止めようと、走り出した。しかし次の瞬間、真緒達目掛けて巨大な鎌が襲い掛かる。



 「「「「「!!!」」」」」



 足にブレーキを掛け、寸での所で回避する真緒達。そこには変化させた左腕の鎌を振り回す化物のエジタスが、行く手を塞ぐ様に立っていた。



 「正直、あいつの提案は反対だが、みすみすお前らを見逃す訳にもいかない。悪いが蘇るまで大人しく待つか、絶望を味わう前に殺されて貰おうか」



 そう言うと化物のエジタスは、複数本の触手に変化させた右腕を伸ばし、真緒達を拘束しようとする。



 「避けて!!」



 迫り来る触手に各々避けたり、武器で弾き返すなど、様々な方法で攻撃を回避していく。真緒達が夢中になっている隙に、化物のエジタスは左腕の鎌を鋭い槍に変化させ、真緒一人目掛けて勢い良く突き出した。



 「マオぢゃん!! 危ないだぁ!!」



 そんな真緒をハナコが全身を鋼鉄に変化させて守って見せる。だが、全身を鋼鉄にした事で動きが鈍くなり、触手に捕まってしまった。



 「ハナちゃん!!」



 咄嗟に真緒が剣で触手を斬り飛ばすが、斬り飛ばされた瞬間、まるで別の生き物の様に真緒の体に纏わり付いて来た。



 「こ、この離れろ!!」



 真緒が取り外すのに手間取っていると、その間にハナコが連れ去られてしまう。



 「いけない!! 皆、ハナちゃんが!!!」



 「何っ!? くそっ!!」



 助けに行こうとするが、他の触手と突き出される槍に行く手を阻まれ、思う様に動けない。



 「ぐぅ……動げないだぁ……」



 ハナコ自身、抜け出そうと必死にもがくが、動けば動く程、触手が体に食い込み、身動きが取れなくなった。



 「こうなったら私の“音魔法”で……っ!!?」



 リーマが鼻から空気を吸い込み、一気に口から放出しようとすると、化物のエジタスは体の骨を一本外し、猿ぐつわの要領で音魔法が発動する前に、リーマの口を塞いだ。



 「口を閉じてろ」



 「リーマ!! こうなったら……“ブラック・ファンタジア”!!」



 その瞬間、化物のエジタスの周りを回る様に複数の黒い玉が生成された。



 「これで確実にダメージを与えられる筈……っ!!!」



 すると化物のエジタスは、左足を食虫植物の様に変化させ、周りを回っていた黒い玉を飲み込み始めた。そして飲み込んだ玉をサタニア目掛けて吐き出した。



 「ぐぁあああああ!!!」



 跳ね返されると予期していなかったサタニアは避ける事が出来ず、まともに食らってしまった。



 「サタニア!!」



 真緒達が化物のエジタスに手こずっていると、道化師のエジタスが死者復活の紙を高く掲げ、詠唱し始めた。



 「こ、このままじゃ!!!」



 「早く……早くしないと!!」



 「くそっ!! 後、もう一人仲間がいてくれたら……」



 このままでは間に合わない。決定的な仲間不足に真緒達が焦っている中、真緒達の向いている方向とは反対方向で、何やらゴソゴソと動いている人影があった。



 「漸く始まったか……何かボソボソ話していたみたいだが、戦いが始まった今、背後からの攻撃が当たる筈だ……」



 それは真緒達と一緒にコッソリと入って来たマントンだった。マントンは持っていた特殊な槍に“炎”と刻まれたメダルを嵌め込む。その瞬間、槍の先端が炎に包まれた。



 「この俺が奴らを仕留めてやるんだ。俺に恥をかかせた事、後悔するがいい!!」



 そう言うとマントンは、勢い良く燃え上がる槍を真緒達目掛けて投げ飛ばした。



 「えっ、何!?」



 投げる直前、大声を上げてしまった事と、あまりにも離れた場所から投げてしまった事で、槍が届く前に振り向かれてしまい、容易く避けられてしまう。そのまま槍は真っ直ぐ化物のエジタス目掛けて飛んで行く。



 「貧弱な攻撃だな」



 そう言うと化物のエジタスは、槍が突き刺さるであろう部分の肉と骨を移動させ、大きな穴を作る。槍はそのまま穴を抜け、真っ直ぐ飛んで行った。



 「“そして私が新たなる神となり、終わる事の無い命を与えよう。死は終わりでは無い、また死は始まりでも無い。死は恐怖では無い、また永遠の安らぎでも無い。今ここに、死という概念の撤廃を宣言……”」



 そして槍は道化師のエジタスが掲げていた死者復活の紙を見事に貫き、そのまま一緒に壁へと突き刺さった。頑丈に作られているとはいえ、突き刺さったのは仮にも名だたるマジックアイテムの一つ。死者復活の紙は、あっという間に燃えカスとなってしまった。



 「「「「「「あっ……」」」」」」



 「や、やべっ……!!」



 「…………」



 間抜けな声が出る真緒達と化物のエジタス。やってしまった感を出すマントン。そして仮面で表情は隠れているが、道化師のエジタスは間違いなくガチギレしていた。
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