笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

文字の大きさ
251 / 275
最終章 少女と道化師の物語

アルマゲドン

しおりを挟む
 「…………」



 エジタスが放った“終焉の宴”により、パラディースアイランドは一瞬にして、瓦礫の山と化してしまった。



 外に出ていた者は、衝撃で体がバラバラとなり、その肉片は海へと散らばってしまった。澄んだ青色の海は瞬く間に血生臭い赤色へと変色した。



 また、運良く建物の中にいた者達も、崩れ落ちて来た瓦礫に押し潰されてしまった。最後まで助けを求めたのだろう、瓦礫の隙間から生き絶えた女性の腕が飛び出していた。



 賑やかだった島の面影が跡形も無くなってしまった。真緒は瓦礫の山の上で変わり果てた島の様子を、呆然と眺めていた。



 「そ、そうだ、皆を捜さないと……」



 ふと、仲間達の事を思い出した真緒。自分と同じ様に瓦礫に埋もれているかもしれないと思い、近くの瓦礫を掘り返し始める。



 「皆、何処にいるの!!? 返事をして!!」



 必死に捜す真緒だったが、誰一人見つからなかった。大声を上げて、返事が来る事を期待するが、真緒の声は虚しく響き渡るだけだった。



 「まさか……海に放り出されたんじゃ……」



 無い話ではなかった。真緒は瓦礫に埋もれた事で、遠くに吹き飛ばされずに済んだが、他の皆も同じとは限らない。最悪の場合、島の住人達と同じ様に体がバラバラになって、海まで飛ばされてしまったかもしれない。



 真緒の脳裏に思い浮かぶのは、海に浮かぶ仲間達の無惨な死体。しかし、直ぐ様頭を振り払い、その考えを否定する。



 「皆がそんな簡単に死ぬ玉じゃない事は、私が一番よく知ってる。きっと皆は生きてる。私は信じてる」



 『信じる者は救われるというやつかな~?』



 「!!?」



 声のした方向に慌てて振り返る真緒。そこには、天使と悪魔の翼で空中を飛んでいるエジタスの姿があった。真緒は急いで二本のブレイブソードを引き抜き、構える。



 「じゃあ、信じない者は救われないって言うのか? そんな訳が無い。信じるという行為は、一種の精神的な支えだ。例えば嫌な事が起こった時、信じていなかったからこうなってしまったと感じるよりも、信じていたけど駄目だったと感じる方が受けるダメージは少なくて済む。つまり信じるというのは、良い結果を期待する事では無く、望まぬ結果になってしまった時の精神的苦痛を和らげる為の行為に過ぎない訳だ~」



 「よくもまぁ、そんなに長々と嫌みが言えますね……」



 「あぁ、どうやら三人の人格が一つになった事で、それぞれの特徴が現れているらしい。この論理的で回りくどい喋り方は道化師としてのエジタス、化け物としてのエジタス、両方の喋り方が組み合わさった様だな~」



 「そうですか、それでいったい何の様ですか? まさか私の信じるという発言に対して、物申す為だけに来た訳じゃないでしょう?」



 「あぁ、その通り。わざわざ目の前に現れたのは、ここでお前を殺す為だ!!」



 「!!!」



 するとエジタスは、腕の先からそれぞれ炎、水、風、土の魔法を真緒目掛けて順番に放っていく。



 真緒は咄嗟に瓦礫の影に隠れ、攻撃をやり過ごそうとするが、隠れていた瓦礫に魔法が当たると、あっという間に崩れ去ってしまい、その度に次の隠れ場所を探し出し、身を隠そうとする。



 炎、水、風と三つの魔法を耐え抜いた真緒だったが、とうとう身を隠せる瓦礫が無くなってしまった。



 「悪足掻きもここまでだ。大人しく殺されるが良い」



 「くっ……スキル“ロストブレイク”!!」



 窮鼠猫を噛む。追い詰められた真緒は、最後の魔法が放たれる前に攻撃を仕掛ける。しかし、敢えなく他の三本の腕によって、拘束されてしまう。



 「ぐっ……うぅ……離して……!!」



 「一年前、私はお前と仲間達によって破れ去った。それが巡り巡って今度は私がお前を葬り去る事になろうとは……」



 何とか逃れようと必死にもがく真緒だが、三本の腕による腕力の前には、全く歯が立たなかった。最後に残った四本目の土属性魔法が宿った腕が、真緒の方に近付いて来る。



 「所詮、お前は仲間がいなければ無力なのさ」



 「皆……」



 「死ね」



 遂に真緒は諦め、項垂れてしまう。そしてエジタスの腕から土属性魔法が真緒目掛けて放たれようとする……次の瞬間!!



 「ぐがはぁ!!?」



 エジタスの体を何か大きな物が直撃した。突然の痛みに驚いたエジタスは、思わず掴んでいた真緒を離してしまった。



 「い、今のはいったい……?」



 「マオ、大丈夫!!?」



 「そ、その声は!!?」



 聞き慣れた声に真緒が振り返ると、そこにはサタニアの姿があった。側にはフォルス、リーマの姿もあった。



 「サタニア!! フォルスさん!! リーマ!! 無事だったんだね!!」



 「何とかね……瓦礫の中で気を失っていたんだけど、マオの声が聞こえて来て……死に物狂いで這い出して来たよ」



 「俺達も同じだ。マオの声が聞こえて来たから、急いで出て来たんだ」



 「間に合って良かったです」



 「皆、助けてくれてありがとう」



 「礼なら、弾になってくれたそいつに言ってくれ」



 「え……?」



 フォルスが指差す方向には、エジタスにダメージを与え、真緒の窮地を救った物があった。そしてそれは思わず目を疑う信じられない物だった。



 「ハナちゃん……?」



 何とそれはハナコの亡骸だった。死体となったハナコをリーマが炎の巨人で勢い良く投げ飛ばしたのだ。



 「並大抵の物じゃ歯が立たないからな。ちょっと気は引けるが、マオを助ける為に手伝って貰った」



 「死んでまで私を助けてくれた……ハナちゃん、ありがとう……」



 「まさか死者を武器として扱うとはな……」



 「「「「!!!」」」」



 そう言いながらハナコの亡骸にすがり付く真緒。そんな中、怯んでいたエジタスが真緒達の前に現れた。



 「死者への冒涜だぞ……」



 「そう言うお前だって、死んだ奴らを好き勝手蘇らせているじゃないか」



 「っ!!!」



 痛い所を突かれてしまったエジタス。それ以上、何も言い返す事が出来なかった。するとフォルスが続けて口を開く。



 「ハナコは俺達の仲間だ。それは死んでしまった今でも変わらない。もし、ここにハナコがいたら、あいつは喜んでマオを助ける弾になるだろう」



 「それでも死者の冒涜だと言うのなら、私達は甘んじて受け入れます」



 「受け入れた上で、僕達は君を倒して見せる」



 「それが私達なりの罪滅ぼしだから!!」



 「…………」



 遂に黙り込んでしまったエジタス。無言で四本の腕を空高く上げる。すると次の瞬間、足下の瓦礫が次々と浮かび上がり、空中で固まり始める。



 「な、何をするつもりだ!!?」



 「ま、まさかあれをここに落とすつもりじゃ……」



 「「「!!!」」」



 リーマの予想は的中してしまった。瓦礫が寄せ集まり、一つの巨大な塊となったその瞬間、重力に従ってゆっくりと落下し始めた。



 「“アルマゲドン”、今一度瓦礫の下敷きになるがいい」



 そう言うとエジタスは、転移魔法でその場から一瞬で姿を消してしまった。しかし、今の状況からすればそんなのはどうでもいい事だ。どうにかして、あの巨大な瓦礫の塊が落下するのを防がなければならない。



 「ど、どうしましょう!!?」



 「もう一度、ハナコを投げ飛ばしてみるか!?」



 「そんな事したら、ハナちゃんの体がバラバラになっちゃうよ!!」



 「それにハナコ一人の体で、あれを壊せるとは思えないしね」



 「じゃあいったいどうする!? 今の俺の体じゃ、運べるのは一人だけだぞ!?」



 「……マオ、君はフォルスと一緒に避難するんだ」



 「!!? そんな、サタニア達はどうするの!!?」



 「僕達なら心配ない。どうにかして、生き延びて見せるさ」



 嘘だ。どんなに頑張っても、あの巨大な瓦礫の塊から生き延びる事は出来ない。つまりこれは真緒を生き延びさせる為の優しい嘘なのだ。そしてそれは、ここにいる全員が気が付いている。



 「…………っ!!!」



 フォルスは悔しさから歯を食い縛り、真緒を無理矢理空高く持ち上げる。



 「フォルスさん!!? 何するんですか!? 離して下さい!! サタニアが!! リーマがまだ残っているんですよ!!? 戻って!! 戻って!!」



 「……分かって……くれ……これがあいつらの願いなんだ……」



 「嫌だ!! もうこれ以上、誰も失いたくない!! 戻って!! サタニア!! リーマ!!」



 「……ごめんね、勝手にこんな事しちゃって……」



 「別に気にしてません。私だって、マオさんが生き残るべきだって……分かってますから……」



 島から離れていく真緒とフォルスを眺めるサタニアとリーマ。やがて、巨大な瓦礫の塊が島に落下した。



 「いやぁあああああああ!!!」



 「ちくしょ……ちくしょおおおおおお!!!」



 真緒の悲痛な叫びとフォルスの悔しさが響き渡る。こうしてハナコに続いて、サタニアとリーマの二人を失ってしまうのであった。

























 「ぐすっ……サタニア……リーマ……」



 「…………」



 『全く、何て情けない顔をしているんだ。みっともない』



 「「!!?」」



 声のした方向に振り返る真緒とフォルス。するとそこには……。



 「「シ、シーラ!!!」」



 「泣くのはまだ早いよ」



 “龍覚醒”で完全なドラゴンの姿となったシーラがいた。そしてその背中には、サタニア、リーマ、そしてゴルガの姿があった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私、魅了魔法なんて使ってません! なのに冷徹魔道士様の視線が熱すぎるんですけど

紗幸
恋愛
社畜女子だったユイは、気づけば異世界に召喚されていた。 慣れない魔法の世界と貴族社会の中で右往左往しながらも、なんとか穏やかに暮らし始めたある日。 なぜか王立魔道士団の団長カイルが、やたらと家に顔を出すようになる。 氷のように冷静で、美しく、周囲の誰もが一目置く男。 そんな彼が、ある日突然ユイの前で言い放った。 「……俺にかけた魅了魔法を解け」 私、そんな魔法かけてないんですけど!? 穏やかなはずの日々に彼の存在が、ユイの心を少しずつ波立たせていく。 まったりとした日常の中に、時折起こる小さな事件。 人との絆、魔法の力、そして胸の奥に芽生え始めた“想い” 異世界で、ユイは少しずつ——この世界で生きる力と、誰かを想う心を知っていく。 ※タイトルのシーンは7話辺りからになります。 ゆったりと話が進みますが、よろしければお付き合いください。 ※カクヨム様にも投稿しています。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー

白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。 その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。 人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。 異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ 主人公はあまり戦ったりはしません。

【完結】まもの牧場へようこそ!~転移先は魔物牧場でした ~-ドラゴンの子育てから始める異世界田舎暮らし-

いっぺいちゃん
ファンタジー
平凡なサラリーマン、相原正人が目を覚ましたのは、 見知らぬ草原に佇むひとつの牧場だった。 そこは、人に捨てられ、行き場を失った魔物の孤児たちが集う場所。 泣き虫の赤子ドラゴン「リュー」。 やんちゃなフェンリルの仔「ギン」。 臆病なユニコーンの仔「フィーネ」。 ぷるぷる働き者のスライム「モチョ」。 彼らを「処分すべき危険種」と呼ぶ声が、王都や冒険者から届く。 けれど正人は誓う。 ――この子たちは、ただの“危険”なんかじゃない。 ――ここは、家族の居場所だ。 癒やしのスキル【癒やしの手】を頼りに、 命を守り、日々を紡ぎ、 “人と魔物が共に生きる未来”を探していく。 ◇ 🐉 癒やしと涙と、もふもふと。 ――これは、小さな牧場から始まる大きな物語。 ――世界に抗いながら、共に暮らすことを選んだ者たちの、優しい日常譚。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

転移特典としてゲットしたチートな箱庭で現代技術アリのスローライフをしていたら訳アリの女性たちが迷い込んできました。

山椒
ファンタジー
そのコンビニにいた人たち全員が異世界転移された。 異世界転移する前に神に世界を救うために呼んだと言われ特典のようなものを決めるように言われた。 その中の一人であるフリーターの優斗は異世界に行くのは納得しても世界を救う気などなくまったりと過ごすつもりだった。 攻撃、防御、速度、魔法、特殊の五項目に割り振るためのポイントは一億ポイントあったが、特殊に八割割り振り、魔法に二割割り振ったことでチートな箱庭をゲットする。 そのチートな箱庭は優斗が思った通りにできるチートな箱庭だった。 前の世界でやっている番組が見れるテレビが出せたり、両親に電話できるスマホを出せたりなど異世界にいることを嘲笑っているようであった。 そんなチートな箱庭でまったりと過ごしていれば迷い込んでくる女性たちがいた。 偽物の聖女が現れたせいで追放された本物の聖女やら国を乗っ取られて追放されたサキュバスの王女など。 チートな箱庭で作った現代技術たちを前に、女性たちは現代技術にどっぷりとはまっていく。

【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする

楠結衣
恋愛
女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。 ところが花恋を召喚した王様や黒ローブの集団に偽聖女と言われて知らない森に放り出されてしまう。 涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。 女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。 ◇表紙イラスト/知さま ◇鯉のぼりについては諸説あります。 ◇小説家になろうさまでも連載しています。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

処理中です...