笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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最終章 少女と道化師の物語

ロストの目的

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 「付喪神って……そんなバカな……」



 「一年前の……この世界に来たばかりの私からすれば、当たり前となっている魔法の存在自体、そんなバカなって話でしたよ」



 現実離れした話に思えるが、ここは剣と魔法のファンタジー。元の世界で言い伝えられている物に魂が宿るという話が、現実に起こったとしても何ら不思議では無い。



 「うっ……そうだな。お前の言う通り、常識に囚われて視野を狭めてはいけないな」



 「だけど……それだとまた新たに疑問に思う事があるんだけど……」



 真緒の言葉にフォルスが納得する一方、サタニアが新たに生まれた疑問を提示して来た。



 「何ですか?」



 「ロストがロストマジックアイテムに宿った自我だっていうのは納得したけど、それならロストは何の為に本土に向かっているの?」



 そもそも真緒達は、エジタスが暴走して理性を無くしてしまった為、このまま本土で暴れられたら、只でさえ少なくなっている人類に、更なる甚大な被害が出ると思ったからである。



 しかし今、暴走して理性を無くしてしまったと思われていたエジタスが、実は操られており、それを操っていたのは取り込んだロストマジックアイテムの自我だという事が判明した。そうなると、何故ロストは本土に向かって進行しているのか、それがサタニアには疑問となっている様だ。



 「それは……」



 さすがにそこまでは真緒にも分からなかった。何故ならその答えを知っているのは、ロスト自身なのだから。真緒が困った様子でロストの方に目をやると、ロストは親切にも答えてくれた。



 「私の目的、それは至ってシンプル。私はこの地上、空中、海中、ありとあらゆる場所から……“生命体”を根絶する事なのです」



 「「「!!?」」」



 それは耳を疑う答えだった。そのあまりにも恐ろしい返答に、真緒達の背筋は一瞬で凍り付いた。



 「生命体を根絶って……?」



 「言葉通りの意味です。この世にいる魂を宿す方々を根絶やしにし、本当の意味で誰もいない世界を作り上げるのです」



 「魂を宿すって……まさか人間、亜人、魔族全員!?」



 「その三種族だけではありません。空を飛び回る鳥や、海中に住まう魚、地上で野原を駆け回る動物、そして生き物達と共存する植物など、全ての生命体が対象なのです」



 「狂ってる……そんな事をすれば、この世界から何も無くなってしまうんだぞ!!?」



 「それが?」



 「それがって……生き物が皆いなくなったら、お前だって死んでしまうだろ!!?」



 「死ぬ……ですか。まだ理解出来ていないみたいですので、今一度説明しますが、私は魂の無い存在なのですよ。それはつまり、あなた方が必要とされている食事、睡眠、運動など魂を維持させる行動が全くいらないという事です」



 「そうだとしても、何故生命体を根絶するんですか? あなたの言う様に魂を維持させる行動をしなくて良いのなら、わざわざ滅ぼす意味は何ですか!?」



 「強いて言うのなら……“嫉妬”でしょうか」



 「“嫉妬”?」



 「この千年、私というロストマジックアイテムは、様々な生命体に使われて来ました。そしてそんな方々から複雑でありながらも、純粋な感情を読み取っていました」



 ミルドラ、メユ、アージ、ギャブラー、ユグジィ、リリヤ。ロストマジックアイテムを扱って来た者達。その時もロストはずっと彼らの感情を読み取っていたのだ。



 「最初の内は何も感じませんでした。只、何とも非生産的な事をする方々だと思いました。しかし、長い間供に時間を過ごしていく内、何処か羨ましいと感じる様になってしまったのです」



 「羨ましいだと?」



 「はい、私には無い物を持っている。しかし、それは私からすれば不必要な物、寧ろ邪魔だとさえ言える。なのに、どうしてでしょうね。いつしか私は、それが堪らなく欲しいと感じる様になってしまったのです」



 持たないが故の欲。隣の芝生は青いという言葉がある様に、ロストは他人が持っている感情を欲しいと思ったのだ。



 「しかし現実は無情。どんなに心から欲したとしても、私に感情が宿る事は無かった。何故なら、私には魂が無いから。魂の無い存在は、感情を表現する事すら許されないのでしょうか?」



 そう言いながらロストは空中に両手を伸ばし、何かを必死に掴もうとするが結局何も掴めず、静かに両手を下ろした。



 「私には悲しむ事も、怒る事も、そして笑う事も出来ない。いつしか私は感情を自由に表現する生命体に嫉妬する様になりました」



 「だから滅ぼすのか? 自分が手に入れられない物を他人が持っているからって、その全てを目の前から消そうって言うのか!!?」



 「半分はその通りです。しかしもう半分は無かった事にしたいからです」



 「無かった事に……?」



 「どう言う意味?」



 「私に自我さえ無ければ、こんな苦しまずに済みました。しかし、自我が芽生えてしまった以上、永遠に付き合わなければならない……そう思っていました。しかし、私はこうしてどうにか出来る力を手に入れました。どうせ手に入らないのなら、根本となっている生命体を全て消し去り、初めから存在しなかった事にすれば良いのです。そうすればもう苦しまずに済みます」



 「そんな、そんな自分勝手な理由で!! っ!!」



 その瞬間、ロストの親指から赤い光線が発射され、真緒の頬を掠めて通り過ぎた。それにより皮膚が少し裂け、中から血が流れ出した。



 「マオ!!」



 「お前!!」



 突然の攻撃にサタニアとフォルスは、反射的に武器をロストに向けた。するとロストはゆっくりと口を開いた。



 「自分勝手の何がいけないのでしょうか。あなた方だって自分勝手な理由でここまで来たではありませんか」



 「違う!! 俺達は世界の為に……」



 「それが自分勝手だと言うのです。何故、あなた方なのですか? 勇者だからですか? それとも自分達しかいなかったからですか? 自分達なら、世界を救う事が出来る。ですがもし失敗したら、激しい戦いで余計な死者が増えるでしょう。それも所謂自分勝手な行いに入るんじゃないですか?」



 「そんなの……そんなの只の屁理屈じゃないか!?」



 「そうです屁理屈です。ならばサトウマオ、あなたが私に自分勝手と言うのも屁理屈と言えるのではないですか?」



 「それは違うな。少なくとも俺達は世界を救いたいと思って行動している。端から世界を滅ぼそうとしているお前とは天と地の差だ!!」



 「成る程、確かに一理ありますね。しかしだからと言って、私が滅ぼそうとするのを止めるか止めないかは、また別の話です」



 「一方通行だな……マオ、どうやら対話は無駄だったみたいだ」



 「そうですね。出来れば穏便に済ませたかったけど……こうなったら仕方無い。戦おう!!」



 長い対話を経て、結局真緒達は戦う事を選んだ。真緒とサタニアの二人が連携しながら、ロスト目掛けて剣を振り下ろす。



 当然、容易く弾かれるが、それでも攻撃の手を緩めない二人。そしてその間、フォルスは上空からロストの脳天目掛けて矢を放った。



 「(下半身が固定されて動けない状態なら、真上からの攻撃を避ける事は出来ないだろう!!)」



 「…………」



 フォルスの矢が、ロストの脳天に当たると思われた瞬間、何故か矢が軌道を逸れ、外れてしまった。



 「な、何!!? いったいどうして!!?」



 外れた事に驚くフォルス。何故外れてしまったのか疑問だったが、その答えは直ぐに分かった。



 「こ、これは!!?」



 ロストは動いたのだ。正確には言えば、ロストが操る超巨大なエジタスの体が動いた。それまで真っ直ぐと行進するだけだった超巨大なエジタスの体が、初めて横に動いたのだ。そして上空から見ていたフォルスは、自身の目を疑った。



 「た、立ち上がろうとしているのか!!?」



 何とロストは四つん這いだったエジタスの体を二本足にして、立ち上がらせようとしていた。超巨大なエジタスの体が徐々に傾き始める。



 「マオ!! サタニア!! 急いでシーラに飛び移るんだ!! 立ち上がるぞ!!」



 「「えっ!?」」



 「何だって!?」



 フォルスの叫び声により、漸く現状に気が付く事が出来た真緒達。真緒とサタニアの二人は急いでシーラの背中に乗り込み、超巨大なエジタスの背中から脱出する。残ったエジタス達は、役目を終えたのか、超巨大なエジタスの体に全員吸収された。



 「危なかったな」



 「まさかあの巨体が立ち上がるとは……」



 「それにしても大きい……」



 「一年前のエジタスよりも遥かに大きい……」



 遂に二本足で立った超巨大なエジタス。改めて見てもそのサイズは規格外であり、一年前に戦った化物のエジタスが巨大化した時よりも、比較にならない程に大きかった。



 「ロストは?」



 「まだ首もとか?」



 「いや、あれを見な」



 シーラが見つめる先は超巨大なエジタスの胸。そこには、先程まで首もとにいたロストがいた。相変わらず、下半身は超巨大なエジタスと同化していた。



 「どうやら奴も本気みたいだな」



 「皆、気をを引き締めて行くよ。これが正真正銘、最後の戦いだ!!」



 「「「おぉ!!!」」」



 そして真緒達は決意を新たに、最後の敵であるロストとの戦いに赴くのであった。
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