笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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最終章 少女と道化師の物語

魂の戦い

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 「“命の灯火”」



 先手必勝と言わんばかりに、素早く攻撃を仕掛けようとした真緒達だったが、先に攻撃を仕掛けて来たのは向こうだった。



 ロストが操る超巨大なエジタスが口を開けたかと思うと、中から無数の揺らめく青白い玉が飛び出して来た。



 飛び出して来た青白い玉は、一斉に真緒達目掛けて飛んで来る。その内の一つがシーラの体に当たった。



 「っ!!?」



 その瞬間、当たった箇所が爆発し、肉の一部が抉られてしまった。



 「気を付けろ!! この玉に触れると爆発するぞ!!」



 「「「!!!」」」



 その言葉に真緒とサタニアは身を縮め、飛んでいるフォルスは器用に玉を避けていく。シーラも何とか避けようと試みるも、ドラゴンであるが故の体の大きさに足元を掬われ、幾つか玉に当たってしまう。



 「がはぁ!!!」



 次々と玉が当たった箇所が爆発していく。爆発が終わる頃には、シーラの体はボロボロになっていた。



 「シーラ!! 大丈夫!!?」



 「え、えぇ……問題ありません……まだ戦えます……」



 「無茶しないで!! 早くポーションで回復して!!」



 そう言うとサタニアは、ジェドから貰ったポーションをシーラに渡した。そのお陰で全快とはいかないまでも、かなり回復する事が出来た。



 「魔王様、ありがとうございます」



 「シーラ、ここから反撃の時間だよ!!」



 「はい!! 確り捕まってて下さい!!」



 するとシーラは広げていた翼を畳み、一気に急降下し始めると、海面すれすれで翼を広げ、低空飛行で超巨大なエジタスに近付く。そして今度は超巨大なエジタスの足下から、ロストがいる胸目掛けて急上昇していく。



 「サタニア!!」



 「マオ!!」



 互いに声を掛け合い、タイミングを図る。やがてロストの姿が見え始めた時、先程のお返しと言わんばかりにシーラが口を開け、巨大な火の玉を放った。



 「“ギガフレイム”!!」



 放たれた火の玉は、真っ直ぐとロスト目掛けて飛んでいく。するとロストの周りにある超巨大なエジタスの体から、骨が何本も突き出し、ドーム状のシェルターとなってロストを包み込んだ。シーラの火の玉はそれに着弾するが、傷は一つも付いていなかった。



 無事に対処出来た事を確認すると、骨のシェルターは元の体に収まり、中からロストが何事も無かったかの様に顔を出した。



 「くそっ!! 私の“ギガフレイム”で傷一つ付かないだなんて!!」



 「「うぉおおおおおお!!」」



 悔しがるシーラを尻目に、今度は真緒とサタニアの二人がシーラの背中から飛び出し、ロスト目掛けて剣を勢い良く突き出す。



 「…………」



 するとロストは迫り来る真緒とサタニアに対して、右手を下から上に動かした。その瞬間、ロストと二人の間から超巨大なエジタスの皮膚が伸び、壁となってロストを守った。



 「「!!?」」



 二人の剣が伸びて来た超巨大なエジタスの皮膚に突き刺さり、急いで抜こうとしても、がっちりと固められてしまい、抜けなくなってしまった。二人が焦りの表情を見せたその時、ロストが超巨大なエジタスの皮膚の中を移動し、二人の背後に回り込んだ。



 「しまった!!」



 「“ソウル・レイ”」



 ロストは二人に両手を向けると、十本の指から黄色い光線を放った。



 「スキル“ブラックタワー”!!」



 咄嗟にサタニアは剣を掴んでいないもう片方の手を超巨大なエジタスに勢い良く付ける。すると黄色い光線の目の前に黒く円形型のタワーが出現し、二人の代わりに盾となってくれた。



 「サタニア、ちょっとこの塔借りるよ!!」



 窮地を脱した真緒は、流れる様にサタニアが出現させた黒い塔を足場にして、向こう側にいるロスト目掛けてもう一本のブレイブソードを勢い良く振り下ろす。



 「ぐふっ!!」



 「やった!!」



 見事、真緒の剣はロストの体を捉え、傷を負わせる事に成功した。しかし……。



 「浅い……!!」



 ロストは真緒に斬られる直前、下半身が埋め込まれている事を利用し、上半身を限界以上に仰け反らせた。それにより、本来根元まで入る筈だった真緒の剣は、剣先までしか通らず、傷も致命傷とは程遠かった。



 更にロストは仰け反った体制から腹部分の空間を弄り、小さなブラックホールを生成した。凄まじい吸引力が真緒に襲い掛かる。



 「マオ!! 何かに掴まって!!」



 真緒は急いで黒い塔に戻ろうとするが、手が届かなかった。手に持っている剣を側の超巨大なエジタスに突き刺し、それに掴まろうとするが、既に振り下ろしたモーションをした後だった為、突き刺すモーションに移行するまで時間が掛かってしまう。



 「ま、間に合わない!!」



 剣を突き刺すよりも前に吸引する力に引っ張られる真緒。



 「マオ!!」



 もう駄目かと思われた次の瞬間、真緒の側に一本の矢が突き刺さった。



 「それに掴まれ!!」



 「!!!」



 その言葉と同時に、真緒は突き刺さった矢を掴んだ。それにより、ギリギリの所で吸い込まれずに済んだ。



 「無駄な足掻きを……」



 するとロストは、超巨大なエジタスの皮膚の一部を粘土の様に動かし、矢に掴まっている真緒を弾き落とそうとする。



 「させるか!!」



 しかし、それをシーラが巨大な爪で引き裂く事で、真緒を助けた。



 「無駄な足掻きをと言った筈です」



 安心したのも束の間、今度はブラックホールを発生させているロスト自身が、真緒に近付いていく。



 「直接吸い込んでしまえば、掴まっていようが関係ありません」



 「そうだな、けど何でも吸い込む事が仇となる事だってあるんだ!!」



 「!!?」



 その時、フォルスがロスト目掛けて矢を放った。当然、矢はロストのブラックホールに吸い込まれていく。しかし、その場にいる全員は見逃さなかった。放った矢の先端には“揺らめく青白い玉”が突き刺さっていた。



 「ぐぼはぁ!!!」



 気が付いたロストが途中で吸い込むのを中断するも、既に矢は吸い込まれた後であり、次の瞬間ロストの体は爆発した。



 「凄いですフォルスさん!!」



 「遅れてすまなかった。あの玉を矢に突き刺すのに時間が掛かってしまった」



 「いえ、お陰で助かりました」



 「ほらマオ、乗って」



 「ありがとう」



 先にシーラの背中に乗ったサタニアの手を取り、真緒もシーラの背中に乗った。



 「やったか?」



 「いや、まだだ……」



 その言葉通り、爆発して腹に大きな穴が空いたロストだが、直ぐ様穴は塞がり、傷も癒えてしまった。



 「この……糞生命体共がぁああああああ!!! 貴様らの様な無価値な存在が、よくもこの私の体に傷を付けてくれたな!! 絶対、絶対にぶっ殺してやる!!」



 「「「「!!!」」」」



 傷が癒えた途端、ロストは声を荒げて怒りを露にした。透けて見える血管が怒りに合わせて太くなり、全体的に口調も荒々しくなり、真緒達も驚きを隠せなかった。



 「やっぱり……あなたには感情があるんじゃないですか」



 しかし、それにより真緒達はロストに関する大きな矛盾を見つける事が出来た。



 「あぁ? どう言う意味だ?」



 「自分には感情が無い。あなたはそう言いました。けど、今あなたは怒っている。傷付けられ、私達を殺したいと思っている。もし、本当に感情が無いと言うのなら、その怒りという感情だって無い筈じゃないですか?」



 「…………そう言う事ですか」



 「「「「!!?」」」」



 完全に論破したと思った矢先、口調が元に戻り、太くなっていた血管も一瞬で元の太さに戻った。



 「何度も言いますが、私には感情という物が存在しません」



 「で、でも現に怒っていたじゃないか!?」



 「えぇ、怒っていましたよ」



 「「「「??」」」」



 まるで話が噛み合わず、真緒達は困惑してしまった。



 「私は千年もの間、様々な感情に触れて来た事は話しましたね。それだけ長い間、感情について学んでいれば……」



 「「「「!!?」」」」



 その瞬間、ロストは満面の笑みを浮かべていた。作り笑いだとか、そんな安っぽい物では無かった。誰がどう見ようと、それは紛れもない笑顔だった。



 「笑みを浮かべたり……」



 「「「「!!?」」」」



 と、思ったら今度は泣き始めた。ボロボロと目から涙を溢し、鼻水まで垂らしていた。そして泣き声までも上げる程であった。



 「悲しんでみたり……」



 「「「「…………」」」」



 するとロストは一瞬で泣き止み、今度は頬を赤らめ、まるで恋する乙女の様な表情を浮かべていた。



 「誰かを愛おしく想ったり……など、ありとあらゆる感情を“模倣”する事が出来る訳です」



 「“模倣”だって……?」



 「えぇ、全て演技ですよ。それっぽく見せていただけです」



 「全部演技……」



 少なくとも真緒達から見たロストの笑顔、泣き、恋する乙女は決して演技では無かった。それ程までにリアルだった。しかし、一瞬で表情が変わったりするのを見た以上、先程の怒りも演技だったという可能性が高い。



 「ですが……サトウマオが仰った事は半分正解です」



 「え?」



 「感情は無くとも、傷つけられて、あなた方を殺したいと思っていますよ」



 「「「「!!!」」」」



 その瞬間、シーラ目掛けて超巨大なエジタスの拳が飛んで来た。ロストの説明に気を取られてしまい、シーラは避ける事が出来ずに思い切り吹き飛ばされ、真緒とサタニアを背負ったまま、海面に勢い良く叩き付けられる。



 「マオ!! サタニア!! シーラ!!」



 海面に浮かび上がって来るシーラ。どうやら咄嗟に真緒とサタニアの二人を庇ったらしい。しかしその代償は大きく、ドラゴンの姿から元の姿に戻ってしまっていた。



 「シーラ!! シーラ!!」



 「はぁ……はぁ……魔王……様……」



 「シーラ、確りして!!」



 「これ位の傷……大……丈夫……ごふっ!!」



 「シーラ!!」



 受けた傷も深く、あばら骨が肺に突き刺さっていた。シーラは口から血を吐いた。



 「サタニア……前……」



 「…………」



 海面に浮かぶ三人を大きな影が覆う。雲じゃない。それはロストが操る超巨大なエジタスだった。



 真緒達は早くも絶望の淵に突き落とされるのであった。
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