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最終章 少女と道化師の物語
魔王ロスト
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「サタニア……ねぇ、大丈夫?」
「…………」
ロストに体を刺され、もがき苦しんだと思ったら、今度は恐ろしい程静かになったサタニア。真緒が恐る恐る声を掛けると、紫色に妖しく光輝く瞳をこちらに向け、無言のまま近付いて来た。
「サ、サタニア……?」
「…………」
「どうしたの? ねぇ、本当に大丈……っ!!?」
次の瞬間、真緒はサタニアに顔面を勢い良く殴り飛ばされ、そのまま流れる様に海面へと落下した。
「……ぷはぁ!! げほっ!! げほっ!! サ、サタニア!? 急に何する……っ!!?」
海面から顔を出した真緒。口から血を流しながら、サタニアに文句を言おうと顔を上げたその時、サタニアは剣を振り回し、真緒目掛けて無数の斬撃を飛ばして来た。
「くっ!!」
海中に潜り、咄嗟に避けようとする真緒だったが、サタニアが放った斬撃は海中まで届き、何発かその身に食らってしまった。
「ぶはぁ!! はぁ……はぁ……サタニア……いったいどうしたの……冗談のつもりなら今すぐ止めて!!」
「…………」
するとサタニアは、背中に白い翼を生やすと羽ばたかせ、真緒に近付いて来た。そして真緒に向けて手を伸ばした。
「……良かった……分かってくれたんだね……」
ホッと一安心し、真緒は伸ばされた手を取ろうとする。
「“ジャッジメント・ダーク”」
「!!!」
次の瞬間、サタニアは伸ばした掌を真緒に向け、そこから真っ黒な光線を放った。幸いにも光線は真緒の頬を掠め、体に当たる事は無かったが、もしまともに食らっていたらどうなっていたか、海面から海底まで一直線上に出来上がった穴を見れば、一目瞭然だった。
「サタ……ニア……どうして……?」
漸く真緒は理解した。サタニアは本気で自分を殺しに来ている。驚きや悲しみもあるが、それよりもどうしてという疑問に対する感情の方が大きかった。真緒の両目から涙が流れる。
「…………」
真緒による訴えにも全く耳を貸さないサタニア。絶望した真緒は何もかも諦め、只黙って死を受け入れようとする。そしてサタニア、今度は外すまいと両手で放とうと構える。
その時、ふと目の端に超巨大なエジタスが飛び込んで来た。涙で霞んでよく見えないが、どうやら超巨大な拳をこちら目掛けて振り上げているみたいだった。しかし、今の真緒にはどうでもいい事だ。
「……サタニア……私、サタニアと友達になれて……嬉しかったよ……」
「…………」
そう述べた真緒に対して、サタニアは容赦なく“ジャッジメント・ダーク”を放とうとする。両手が真っ黒なオーラに包まれる。そして次の瞬間……。
「………ごふっ……」
「!!?」
超巨大なエジタスによる拳が“サタニア”の体を捉え、勢い良く海中へと叩き付けた。それにより、真緒は九死に一生を得た。
「えっ!? え、えっ!?」
いったい何がどうなっているのか、訳が分からない真緒。突然の状況に慌てふためいていると、超巨大なエジタスの拳がこちらに近付いていた。
「こ、今度は私の番……って、あれ?」
そう思ったのも束の間、気が付けば真緒は超巨大なエジタスの掌の上にいた。どうやら海面にいる真緒を掬い上げたらしい。
上へ上へと持ち上げられる真緒。やがて超巨大なエジタスの顔に辿り着いた。目まぐるしい動きに動揺が隠せないでいると……。
『危ない所でしたね~、マオさん大丈夫ですか~?』
「し、師匠……?」
目の前の超巨大なエジタスから、道化師のエジタスの声が聞こえて来た。
『いや~、もう少し助けるのが遅かったら、今頃消し炭になっていたかもしれませんね~』
「あ、あの師匠!!」
『はい?』
「サタニアは……サタニアはいったいどうしたんでしょうか? まるで人が変わったみたいで……」
『……みたいじゃなくて、本当に人が変わっているんだよ』
「え?」
『まだ気付かないのか、あいつはもうサタニアであってサタニアじゃないんだよ』
「ど、どう言う意味ですか!?」
『分かりやすく言うとね。彼は精神を乗っ取られている状態なんだよ』
「乗っ取られているって……いったい誰に!?」
『あらら~、もう忘れてしまったんですか~? ついさっきまで死闘を繰り広げていたじゃありませんか~』
「死闘……まさかそんな!?」
『そう……奴は魂を持たないが故に体となる“器”さえあれば、例えどんな生物にだろうと乗っ取る事が出来る』
その瞬間、海面から爆音が鳴り響き、高い水飛沫が舞い上がる。真緒が音のした方を振り向くと、そこには翼を羽ばたかせ、空中を飛び上がるサタニアの姿があった。
『言うなれば奴はサタニアという名の体を借りた存在……“魔王ロスト”……』
「サタニアが……そんな……サタニア!! サタニア聞こえる!! お願い、目を覚まして!! ロストなんかに負けないで!!」
「…………」
真緒による必死の呼び掛けも、全く効果が無かった。
『こうなってしまっては、サタニアさんごと殺るしかありませんね~』
「そんな事、私には出来ません!! そうだ、ある程度追い詰めればきっとまた別の器に乗り移ろうとして来る筈、その時骨肉魔法で代わりの器を用意すれば……」
『成る程、確かにそれならサタニアを殺さずに済むかもしれないな』
「そうと決まればまず追い詰めましょう。師匠、サポートお願いしますね!!」
『嫌だよ~』
「…………え?」
意気揚々と武器を構える真緒だったが、道化師のエジタスからまさかの返事に耳を疑った。
「今、何て……?」
『だから嫌だって言ったんですよ~。どうして私がマオさんのサポートをしなくちゃいけないんですか~?』
「だからそれはサタニアを助ける為に……」
『そもそも私達がマオさん達に協力していたのは、ロストからこの体を取り返す為なんですよ~。それが果たされた今、もうマオさんを手伝う理由はありませ~ん』
「わ、分かりました……じゃあ、せめて骨肉魔法で代わりとなる器を用意して下さい!!」
『断る』
「え?」
サポートを諦めた真緒。せめて作戦の要である代わりの器を用意して貰おうとするが、ここで更に化物のエジタスから耳を疑う返事を貰った。
『こいつも言っていたが、俺達の目的はあくまでも自由を手に入れる事だ。それが叶った今、お前に手を貸す義理は無い』
「そんな……じゃ、じゃあどうして海面で殺されそうになった私を助けたんですか!?」
『それは勿論、ロストと戦って貰う為だよ』
そう答えたのは主人格のエジタスだった。
「戦って貰うって……どう言う意味ですか?」
『そのままの意味だよ。いくら器が変わったと言っても、またいつ乗り移られるか分からない。下手に僕達が戦って乗っ取られたら本末転倒だ。そこで君の出番という訳さ』
「……?」
『君は勇者として、そしてサタニアの友人としてこの状況を見捨てる事が出来ない。だから一度、君をロストにぶつける。勝てば御の字、例え負けたとしても、それなりに相手を消耗させる事は出来る。そうしたら最後は僕達でトドメを刺す』
「そんなの……そんなのあまりに身勝手ですよ!! そんなのに私が協力するとでも……」
『そうなると彼は一生あのままになっちゃうよ? 君がそれでも構わないって言うのなら良いけど?』
「くっ……師匠呼びは今を持って撤回します。今まで通り“エジタス”と呼びます……」
『別に構いませんけど~、コロコロ呼び名を変えて、忙しい人ですね~』
『だけどまぁ、こちらも何もせずに見守り続けるのは気が引けるから…………お願い』
『仕方ありませんね~』
「「!!!」」
その時、真緒とサタニア……もといロストの間に半透明な広いフィールドが出現した。
『そこを足場にして、思う存分戦うと良いよ』
「…………」
遂に真緒は無言になり、一言も発する事無く、半透明な広いフィールドに降り立った。すると空気を読んでロストも、真緒と同様に半透明なフィールドに降り立った。
『それとですね~、勝ったら勝ったで今度は私達と戦って貰いますから、そのつもりでお願いしますよ~』
「っ!!!」
勝っても地獄、負けても地獄。かつてこれ程までに絶望的な状況があっただろうか。真緒の心はエジタス達に対する怒りと、乗っ取られているとはいえサタニアと戦わなければならない悲しさで一杯だった。
「一年振りだね。こうしてサタニアと本気で殺し合うのは……」
「…………」
「あの時は愛する人を失った悲しみと怒りでお互い戦っていたけど……今はサタニアと戦う事自体が悲しいし、そんな事をさせるロストとエジタスに怒りを覚えてる……」
「…………」
「私達、不思議な縁で繋がってるね」
「…………」
「サタニア、必ずあなたを助けて見せる。勇者の名に賭けて……」
「…………」
それ以上は何も語らなかった。真緒が走り出すと同時にサタニアも走り出す。
「はぁあああああああ!!!」
「…………」
二人の剣が激しくぶつかり合う。遂に戦いの火蓋が切られた。
勇者と魔王。運命という名の歯車によって翻弄された少年少女。この戦いで生き残るのはたった一人。
「…………」
ロストに体を刺され、もがき苦しんだと思ったら、今度は恐ろしい程静かになったサタニア。真緒が恐る恐る声を掛けると、紫色に妖しく光輝く瞳をこちらに向け、無言のまま近付いて来た。
「サ、サタニア……?」
「…………」
「どうしたの? ねぇ、本当に大丈……っ!!?」
次の瞬間、真緒はサタニアに顔面を勢い良く殴り飛ばされ、そのまま流れる様に海面へと落下した。
「……ぷはぁ!! げほっ!! げほっ!! サ、サタニア!? 急に何する……っ!!?」
海面から顔を出した真緒。口から血を流しながら、サタニアに文句を言おうと顔を上げたその時、サタニアは剣を振り回し、真緒目掛けて無数の斬撃を飛ばして来た。
「くっ!!」
海中に潜り、咄嗟に避けようとする真緒だったが、サタニアが放った斬撃は海中まで届き、何発かその身に食らってしまった。
「ぶはぁ!! はぁ……はぁ……サタニア……いったいどうしたの……冗談のつもりなら今すぐ止めて!!」
「…………」
するとサタニアは、背中に白い翼を生やすと羽ばたかせ、真緒に近付いて来た。そして真緒に向けて手を伸ばした。
「……良かった……分かってくれたんだね……」
ホッと一安心し、真緒は伸ばされた手を取ろうとする。
「“ジャッジメント・ダーク”」
「!!!」
次の瞬間、サタニアは伸ばした掌を真緒に向け、そこから真っ黒な光線を放った。幸いにも光線は真緒の頬を掠め、体に当たる事は無かったが、もしまともに食らっていたらどうなっていたか、海面から海底まで一直線上に出来上がった穴を見れば、一目瞭然だった。
「サタ……ニア……どうして……?」
漸く真緒は理解した。サタニアは本気で自分を殺しに来ている。驚きや悲しみもあるが、それよりもどうしてという疑問に対する感情の方が大きかった。真緒の両目から涙が流れる。
「…………」
真緒による訴えにも全く耳を貸さないサタニア。絶望した真緒は何もかも諦め、只黙って死を受け入れようとする。そしてサタニア、今度は外すまいと両手で放とうと構える。
その時、ふと目の端に超巨大なエジタスが飛び込んで来た。涙で霞んでよく見えないが、どうやら超巨大な拳をこちら目掛けて振り上げているみたいだった。しかし、今の真緒にはどうでもいい事だ。
「……サタニア……私、サタニアと友達になれて……嬉しかったよ……」
「…………」
そう述べた真緒に対して、サタニアは容赦なく“ジャッジメント・ダーク”を放とうとする。両手が真っ黒なオーラに包まれる。そして次の瞬間……。
「………ごふっ……」
「!!?」
超巨大なエジタスによる拳が“サタニア”の体を捉え、勢い良く海中へと叩き付けた。それにより、真緒は九死に一生を得た。
「えっ!? え、えっ!?」
いったい何がどうなっているのか、訳が分からない真緒。突然の状況に慌てふためいていると、超巨大なエジタスの拳がこちらに近付いていた。
「こ、今度は私の番……って、あれ?」
そう思ったのも束の間、気が付けば真緒は超巨大なエジタスの掌の上にいた。どうやら海面にいる真緒を掬い上げたらしい。
上へ上へと持ち上げられる真緒。やがて超巨大なエジタスの顔に辿り着いた。目まぐるしい動きに動揺が隠せないでいると……。
『危ない所でしたね~、マオさん大丈夫ですか~?』
「し、師匠……?」
目の前の超巨大なエジタスから、道化師のエジタスの声が聞こえて来た。
『いや~、もう少し助けるのが遅かったら、今頃消し炭になっていたかもしれませんね~』
「あ、あの師匠!!」
『はい?』
「サタニアは……サタニアはいったいどうしたんでしょうか? まるで人が変わったみたいで……」
『……みたいじゃなくて、本当に人が変わっているんだよ』
「え?」
『まだ気付かないのか、あいつはもうサタニアであってサタニアじゃないんだよ』
「ど、どう言う意味ですか!?」
『分かりやすく言うとね。彼は精神を乗っ取られている状態なんだよ』
「乗っ取られているって……いったい誰に!?」
『あらら~、もう忘れてしまったんですか~? ついさっきまで死闘を繰り広げていたじゃありませんか~』
「死闘……まさかそんな!?」
『そう……奴は魂を持たないが故に体となる“器”さえあれば、例えどんな生物にだろうと乗っ取る事が出来る』
その瞬間、海面から爆音が鳴り響き、高い水飛沫が舞い上がる。真緒が音のした方を振り向くと、そこには翼を羽ばたかせ、空中を飛び上がるサタニアの姿があった。
『言うなれば奴はサタニアという名の体を借りた存在……“魔王ロスト”……』
「サタニアが……そんな……サタニア!! サタニア聞こえる!! お願い、目を覚まして!! ロストなんかに負けないで!!」
「…………」
真緒による必死の呼び掛けも、全く効果が無かった。
『こうなってしまっては、サタニアさんごと殺るしかありませんね~』
「そんな事、私には出来ません!! そうだ、ある程度追い詰めればきっとまた別の器に乗り移ろうとして来る筈、その時骨肉魔法で代わりの器を用意すれば……」
『成る程、確かにそれならサタニアを殺さずに済むかもしれないな』
「そうと決まればまず追い詰めましょう。師匠、サポートお願いしますね!!」
『嫌だよ~』
「…………え?」
意気揚々と武器を構える真緒だったが、道化師のエジタスからまさかの返事に耳を疑った。
「今、何て……?」
『だから嫌だって言ったんですよ~。どうして私がマオさんのサポートをしなくちゃいけないんですか~?』
「だからそれはサタニアを助ける為に……」
『そもそも私達がマオさん達に協力していたのは、ロストからこの体を取り返す為なんですよ~。それが果たされた今、もうマオさんを手伝う理由はありませ~ん』
「わ、分かりました……じゃあ、せめて骨肉魔法で代わりとなる器を用意して下さい!!」
『断る』
「え?」
サポートを諦めた真緒。せめて作戦の要である代わりの器を用意して貰おうとするが、ここで更に化物のエジタスから耳を疑う返事を貰った。
『こいつも言っていたが、俺達の目的はあくまでも自由を手に入れる事だ。それが叶った今、お前に手を貸す義理は無い』
「そんな……じゃ、じゃあどうして海面で殺されそうになった私を助けたんですか!?」
『それは勿論、ロストと戦って貰う為だよ』
そう答えたのは主人格のエジタスだった。
「戦って貰うって……どう言う意味ですか?」
『そのままの意味だよ。いくら器が変わったと言っても、またいつ乗り移られるか分からない。下手に僕達が戦って乗っ取られたら本末転倒だ。そこで君の出番という訳さ』
「……?」
『君は勇者として、そしてサタニアの友人としてこの状況を見捨てる事が出来ない。だから一度、君をロストにぶつける。勝てば御の字、例え負けたとしても、それなりに相手を消耗させる事は出来る。そうしたら最後は僕達でトドメを刺す』
「そんなの……そんなのあまりに身勝手ですよ!! そんなのに私が協力するとでも……」
『そうなると彼は一生あのままになっちゃうよ? 君がそれでも構わないって言うのなら良いけど?』
「くっ……師匠呼びは今を持って撤回します。今まで通り“エジタス”と呼びます……」
『別に構いませんけど~、コロコロ呼び名を変えて、忙しい人ですね~』
『だけどまぁ、こちらも何もせずに見守り続けるのは気が引けるから…………お願い』
『仕方ありませんね~』
「「!!!」」
その時、真緒とサタニア……もといロストの間に半透明な広いフィールドが出現した。
『そこを足場にして、思う存分戦うと良いよ』
「…………」
遂に真緒は無言になり、一言も発する事無く、半透明な広いフィールドに降り立った。すると空気を読んでロストも、真緒と同様に半透明なフィールドに降り立った。
『それとですね~、勝ったら勝ったで今度は私達と戦って貰いますから、そのつもりでお願いしますよ~』
「っ!!!」
勝っても地獄、負けても地獄。かつてこれ程までに絶望的な状況があっただろうか。真緒の心はエジタス達に対する怒りと、乗っ取られているとはいえサタニアと戦わなければならない悲しさで一杯だった。
「一年振りだね。こうしてサタニアと本気で殺し合うのは……」
「…………」
「あの時は愛する人を失った悲しみと怒りでお互い戦っていたけど……今はサタニアと戦う事自体が悲しいし、そんな事をさせるロストとエジタスに怒りを覚えてる……」
「…………」
「私達、不思議な縁で繋がってるね」
「…………」
「サタニア、必ずあなたを助けて見せる。勇者の名に賭けて……」
「…………」
それ以上は何も語らなかった。真緒が走り出すと同時にサタニアも走り出す。
「はぁあああああああ!!!」
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