笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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最終章 少女と道化師の物語

勇者 VS 魔王(前編)

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 真緒の剣とサタニアの剣が激しくぶつかり合い、その度に細かな火花が散る。真緒が押し斬ろうも、サタニアが押し返し、逆に真緒を押し斬ろうとする。しかし、それを真緒が再び押し返す事で互いの剣を元の位置に戻した。



 一進一退の攻防が続く中、蓄積して来た疲労が真緒の表情に現れ始めた。一方、ロストに体を乗っ取られた影響からか、表情どころか汗すらも掻いていなかった。



 「はぁ……はぁ……」



 「……哀れですね……」



 「!!?」



 それまで一切口を閉じていたサタニアが、真緒の疲れた表情を見て、遂に口を開いた。



 だが、その口調は取って付けた様な丁寧さで、普段のサタニアの物では無かった。そう、この口調は……。



 「ロスト……」



 「はい、少々この体の主に手を焼きましたが、つい先程この体を掌握する事に成功しました」



 「それじゃあ……サタニアは……」



 「まず間違い無く、表に現れる事は無いでしょう」



 「…………いや、まだ諦めません。本当に目覚めないか、あなたを追い詰めてから確かめます!!」



 「だから哀れだと言うのです。ありもしない希望を抱くなど、私には到底理解出来ません」



 「あなたには分からないでしょうね!!」



 そう言うと真緒は、剣を構えて走り出した。そしてロスト目掛けて剣を振り下ろす。当然、ロストはそれを難なく回避する。すると真緒は避けたタイミングを見計らい、掌から光輝く玉を生成した。



 「“ライト”!!」



 目が眩む程の強い光の中、ロストは思わず目を瞑ってしまった。その隙を突き、真緒はロスト目掛けて渾身の一撃を叩き込む。



 「スキル“ロストブレイク”!!」



 「スキル“ブラックタワー”」



 するとロストは、両手を床に勢い良く付ける。その瞬間、真緒の目の前に黒く巨大な円形型のタワーが出現した。



 「これはサタニアの!!?」



 突然目の前に現れたタワーに阻まれ、真緒の一撃は空振りに終わる。



 「“ブラック・ファンタジア”」



 「!!!」



 ロストが魔法を唱えると、真緒を囲う様に無数の黒い玉が生成された。黒い玉は、まるで踊っているかの様に真緒を中心に、上下に揺れながら回り始めた。



 「この技は……いけない!! 早くここから脱出しないと……!!」



 「そうはさせません。“シャドウロック”」



 「しまった!!」



 ロストが手から黒い針の様な物を生成したかと思うと、真緒の影に突き刺した。すると真緒は、その場から一歩も動けなくなってしまった。



 そして次の瞬間、真緒目掛けて無数の黒い玉が襲い掛かる。



 「これで終わりです」



 「…………っ!!」



 当たる直前、真緒は影に突き刺さっていた黒い針を抜き、動ける様になったかと思うと、持っていた剣を床に突き刺し、その上に乗る事で無数の黒い玉をギリギリで回避した。



 「しぶといですね……」



 「まだまだこれからですよ!!」



 そう言うと真緒は剣を引き抜き、右手をかざした。すると剣が暖かそうな黄色に光輝き始めた。



 「“エンチャント・ホーリー”」



 「光属性を付与しましたか、例え武器を強化しようとも、私に勝つ事は出来ません」



 「そんなのやってみないと分からない!!」



 光属性を付与した剣を片手に、真緒はロストに向かって走り出した。剣を振るう真緒に対して、ロストは剣で丁寧に弾いていく。



 光属性を付与した影響で、例え弾かれたとしても攻撃の余波で体が傷付いていくロスト。しかし、まるで何事も無い様に平然としていた。



 「(これじゃあ、効いてるのか効いてないのか分かりづらい!!)」



 「お遊びはここまでです」



 するとロストは途中で弾くのを止め、背中から翼を生やし、空高く舞い上がった。



 「知っていますよサトウマオ。あなたは空を飛ぶ事が出来ません。つまり、ここから攻撃すれば、一方的にあなたを殺せるという事です」



 「……確かに私は空を飛ぶ術を持っていません。だけど空は飛べなくても、空中にいる敵に向かって攻撃する事は出来ます」



 「何……?」



 「“ロングエンチャント・ホーリー”!!」



 すると真緒は、光属性が付与されている剣に対して、更に光属性を重ね掛けした。そして重ね掛けした部分を手で掴み、無理矢理引き伸ばした。それにより通常よりも数倍剣が伸びた。それこそ、空中にいるロストに届く程に。



 「…………」



 「一刀両断!!」



 「!!!」



 そのあまりの長さに圧倒され、思わず見つめてしまっていたロスト。そんな隙を突いて、真緒は長くなった剣を勢い良く振り下ろす。



 さすがに身の危険を感じたロストは、その場から急いで離れようとするが、ギリギリ間に合わず、片翼がバッサリと斬られ、飛ぶ事が出来なくなったロストはそのまま足場に落下した。



 「よくもやってくれました……ね!!?」



 ふらふらと立ち上がるロスト。その瞬間、真緒はロストとの距離を一気に詰める。振り下ろされる剣に対して、咄嗟に剣でガードしようとするロストの腕を足で踏みつけ、動けなくなった状態にした。そして振り下ろされた剣は、ロストもといサタニアの体を切り裂いた。



 真緒は反撃を食らわない様、急いで後ろに跳んだ。幸いにもロストは反撃の素振りを見せず、ゆっくりと立ち上がった。すると真緒は自身の目を疑った。



 「そ、そんな……どうして!? 血が……一滴も流れていない!?」



 体を斬られた筈だが、その傷口からは血が一滴も流れ落ちていなかった。まるで出血する前に、血が固まってしまったかの様だった。



 「まさか……ここまでやるとは……やはりあなたを器にするべきだった……いくらこの体が適応し始めたとはいえ、あなた以上の可能性は見出だせない」



 「適応……つまりその異常な回復は、サタニアの体があなたに適応し始めた証拠という訳ですか……」



 「その通りです。この体が私に馴染めば馴染む程、生命体という枠組みから外れるのです」



 「なら、適応する前に倒した方が良さそうですね!!」



 長期戦は不利だと考え、真緒は一気に勝負を付けようとロストとの距離を詰める。



 「スキル“サタンインパクト”」



 「!!!」



 その瞬間、ロストの左腕が紫色に変色し、はち切れんばかりに膨れ上がった。その禍々しい見た目は、まるで悪魔その物だった。そしてそんな膨れ上がった左腕を、距離を詰めて来る真緒目掛けて勢い良く振り下ろした。



 「くっ!!」



 両足でブレーキを掛け、咄嗟に真横へと飛ぶ真緒。そして、ロストが放った拳が足場に叩き付けられる。すると、叩き付けられた足場周辺が大爆発を起こした。



 「ぐぁあああああ!!!」



 運悪く爆発に巻き込まれた真緒。左腕の肉が削がれ、皮膚も焼き爛れてしまった。



 「ポーションを……」



 ポーションを取り出し、急いで傷を癒すが、ここで恐ろしい事に気が付いてしまった。



 「さ、最後の一本だ……」



 もう手元にポーションは残っていない。これ以上の回復は望めない為、万が一深傷を負ったとしても、治す事は出来ない。



 「ぐぅ……っ!!」



 ズキズキと痛む左腕に堪えながら、何とか立ち上がる真緒。すると目線の先では、ロストが余裕な態度でこちらを見ていた。



 「どうしましたか? 適応する前に倒すんじゃなかったんですか?」



 「っ……うぉおおおおおお!!!」



 挑発して来るロストに対して、真緒は剣を構えて真正面から突っ込んで行く。



 「スキル“サタンインパクト”」



 すると再び、ロストは左腕を肥大化させ、迫り来る真緒目掛けて勢い良く振り下ろした。



 「同じ手には二度と引っ掛かりません!!」



 そう言うと真緒は、振り下ろされた左腕を踏み台にし、空中へと跳び上がる。そして太陽を背にして、ロスト目掛けて剣を振り下ろす。



 「はぁあああああ!!!」



 「太陽を目眩ましにすれば、攻撃は当たらないと思いましたか? しかし、それは甘いですよ。“ダークフィルター”」



 ロストは、目を暗く薄い幕の様な物で覆った。そして肥大化させた左腕を元に戻し、空中にいる真緒目掛けて構える。



 「これであなたの位置が分かる。そしてこれでお別れです。“ジャッジメント・ダーク”」



 「!!!」



 すると真緒に向けたロストの掌から、真っ黒な光線が放たれる。光線は真っ直ぐ真緒の体を貫いた。



 しかし次の瞬間、貫かれた真緒の体はまるで幻の如く、煙の様に消えてしまった。



 「これは……」



 「“サン・ミラージュ”」



 「!!!」



 背後から声が聞こえる。慌てて振り返るロストだったが、真緒の剣に体を斬られてしまう。同じ箇所を斬られてしまい、止血していた傷口が開き、血が吹き出した。



 「ごふっ……!!」



 傷口を抑えながら後退りするロスト。するとまたしても、斬った筈の傷口が異常なスピードで塞がっていた。



 「これはいったい……?」



 「あなたが貫いたのは、私が作り出した幻です。太陽を背にして、光の屈折を利用する事で自分の幻を生み出す技。それが“サン・ミラージュ”」



 今度は打って変わって真緒の方がロストに対して、余裕な態度で見つめていた。



 「これは考えを改めなければいけないかもしれません。確かに生命体は取るに足らない存在ですが……サトウマオ、あなただけは例外みたいですね」



 そうしてロストは、真緒の事を同格の存在であると認めた。そして戦いは更に激化するのであった。
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