笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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最終章 少女と道化師の物語

勇者 VS 魔王(中編)

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 「スキル“暗黒の魔手”」



 「!!!」



 その瞬間、ロストの斬られた翼から黒い手が伸び、真緒目掛けて襲い掛かって来た。身の危険を感じた真緒は、謎の黒い手をそれぞれ剣で斬り落とす。



 「なっ!!?」



 しかし、斬った直後に生え始め、再び真緒目掛けて襲い掛かる。その度に真緒が斬り落とすが、何回やっても永久的に生え、粘着するが如く何処までも追い掛けて来た。



 「それならっ……!!」



 すると真緒は、迫り来る二本の黒い手から逃げるのでは無く、敢えて真正面から衝突する形で走り出した。そして、黒い手に捕まりそうになった瞬間、仰向けになりながら足場を滑り、二本の黒い手の間を上手く抜けた。



 「黒い手は無視して、直接本体を叩く!!」



 「スキル“トリプルブラックタワー”」



 「っ!!!」



 迫り来る真緒に対して、三本のブラックタワーで右、左、正面に障害物を作るロスト。退路以外の行く手を塞がれた真緒、残された背後からは二本の黒い手が迫って来ていた。



 「“ホーリーランス”!!」



 万事休すかと思われる状況の中、真緒は左手から光輝く槍を生成した。更に、その槍を真正面にある黒いタワーの上部目掛けて、勢い良く投げて突き刺した。



 「はっ!!」



 続いて左右にある黒いタワーで、一度大きく壁ジャンプをして飛距離を稼ぎ、光輝く槍が突き刺さっている上部に向かって思い切り跳んだ。そして刺さった槍を中継役の踏み台として利用し、更に上へと跳び上がった。それにより真緒は、黒いタワーの最上階へと辿り着く。



 「もたもたしてられない。急がないと……」



 無事に辿り着けたという達成感を味わう前に、ロスト目掛けて黒いタワーを飛び降りる真緒。ロストは落下している真緒の存在に気が付いていない。真緒はバレない様に声を上げず、無言のまま剣を突き刺そうとする。



 「……上ですか」



 「(気付かれた!! でも、この距離ならいける!!)」



 ロストに気付かれてしまうが、距離的に避けるまでの猶予は無いと感じ、当たると確信した真緒はそのまま剣をロストに向ける。



 「“デスオーラ”」



 「!!?」



 しかし、真緒の剣が当たる事は無かった。当たる直前、ロストの全身を赤黒いオーラが包み込み、落下して来る真緒の剣を弾いて見せた。



 「“ジャッジメント・ダーク”」



 そして、弾いた事で隙が生まれてしまった真緒目掛けてロストは、両手の掌から黒い光線を放った。



 「(不味い!! 避けられない!!) ブレイブソード!!」



 空中にいる為、避ける事が出来ない。勿論、当たれば致命傷は確実。この絶体絶命の状況で、真緒は自身が持っているブレイブソードの力、MP吸収に賭ける事にした。迫り来る黒い光線を剣一本でガードする。



 「ぐぎぎぎぎ……っ!!!」



 もし、ブレイブソードが持つMP容量を越えてしまったら、余った分が真緒に襲い掛かる事になる。そうなれば、回復ポーションを持っていない真緒にとっては、致命的な痛手となってしまう。



 ブレイブソードが強い光を放ち始める。ロストが放つ黒い光線と真緒の剣、どちらが先に尽きるか。



 「…………」



 「はぁ……はぁ……」



 先に尽きたのは、ロストの黒い光線の方だった。それにより真緒は何とか助かり、更にロストの魔力を吸い取った事で、ブレイブソードの力が増した。



 その時、黒いタワーを乗り越え、二本の黒い手が真緒目掛けて襲い掛かって来た。



 「スキル“乱激斬”」



 「!!!」



 それを真緒は目にも止まらぬ斬撃で、二本の黒い手を原型が分からなくなるまで細切れにした。



 「スキル“サタンインパクト”」



 「スキル“ロストブレイク”」



 するとロストは左腕を肥大化させ、真緒目掛けて勢い良く振り下ろした。対して真緒は避けるのでは無く、真正面から受けて立った。ロストの左腕と真緒の剣がぶつかり合う。そしてその瞬間、大爆発が起こる。



 「……生命体にしてはよく頑張りましたが、最後は呆気ない物です」



 勝利を確信したロスト。舞い上がる黒煙から自身の左腕を引き上げようとする。



 「……そういうセリフは、私が元いた世界では“フラグ”って言うんですよ……」



 「……っ!!?」



 そんな黒煙の中から、真緒の声が聞こえて来た。そしてここで漸く、ロストは自分自身の違和感に気が付いた。引き上げようとしている筈の左腕に、全く感覚が無いのだ。



 すると真緒が剣で黒煙を振り払い、答え合わせをした。そこには、多少の傷は負いながらも平気そうな表情を浮かべる真緒の姿と、肘から先の部分が丸々無くなった自分の左腕だった。



 「なっ!!?」



 予想だにしなかった展開に、思わず驚きの表情を浮かべるロスト。真緒はその一瞬の隙を見逃さず、残っているロストの右腕を斬り飛ばした。



 「あがふっ!!!」



 ロストの右腕は、握られていた剣と共に少し離れた場所まで飛んでいった。両腕を失ったロストは、慌てて真緒から離れようと後ろに向かって跳躍した。



 「逃がさない!!」



 「ぐっ!!!」



 が、それに合わせて真緒もロストに向かって跳躍し、距離を詰めた。そしてロストの体目掛けて剣を突き出す。



 そんな中、ロストは右足を犠牲に迫り来る剣を受け止めた。すると真緒は突き刺さった剣を捻り、ロストの右足を捻り斬った。



 「うぐぁ!!!」



 両手、そして右足を失ったロスト。何とか左足だけで立っているが、今にも転んでしまいそうな程、ふらふらとしていた。



 「もう終わりです。大人しくサタニアの体から出て行って下さい」



 「…………」



 ここに来て、突然無言になるロスト。諦めたのか、それとも何か別の狙いがあるのか。場に流れる緊張感から、思わず生唾を飲み込む真緒。そんな真緒の背後に怪しい影が迫って来ていた。



 「っ!!?」



 それは斬り飛ばした筈の右腕だった。ロストの体から離れた筈の右腕が勝手に動き、持っていた剣で真緒の背中を深く突き刺した。



 「このっ!!」



 焼け付く様な痛みに堪えながら、剣を突き刺している右腕を払い除けようと剣を振るった。すると右腕は突き刺していた剣を引き抜き、主人であるロストの下へと戻っていった。



 「自分自身で言っていたではありませんか、そういうセリフは“フラグ”なのでしょう?」



 「ぐっ!!」



 背中の傷口を抑えながら、必死に剣を構える真緒。するとロストは斬り飛ばされた右腕を付け直した。



 「“ダークアーム”“ダークレッグ”」



 更に失った左腕と右足から、紫色の腕と足が生えて来た。



 「これで元通り……さてと、今から言うセリフは果たして“フラグ”になるでしょうかね……あなたの負けです。大人しく殺されなさい」



 「…………」



 こうして真緒は有利な状況から、一気に絶望的な状況に叩き落とされるのであった。
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