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回想◆ 俺の妹 《海里》 修正
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俺たちは確かに最初幸せな家族だった。
それまで、家事は家政婦がこなし、父と俺と竜之介で殺伐としていた家に、言葉通り花が咲いたように明るくなった。
家族ってこういうものなのかな…と胸が溫まる思いがした。
花と夫が大好きな優しい母と、天使のように無垢で愛らしい妹。
仕事ばかりだった父が、きちんと帰宅するようになり、同級生の有棲と竜之介は気があったようでまるで本當の雙子のように笑い転げて、広いだけで閑散としていた家に笑い聲が響いた。
家族団欒なんて、思い描いたこともなかったけど、たしかにそんな家族に俺たちはなっていった。
それをくれたのは紛れもなく新しい母と有棲だった。
束の間の満ち足りた時間。
だとしたらそれを壊したのはやっぱり俺なのか…
***
有棲や母の前では朗らかに笑うようになっていた父に、ふと廊下で固い聲で呼び止められる。
俺が有棲への戀心と劣情に悩まされて始めていた高校の冬だった。
「海裡…」
「なに?」
短く聞き返す。
父の眼が鋭く俺を射た。
その眼を、俺はよく知っている。
父の自分の気に入らないものを見る眼だ。
昔、よく見た瞳。
幼い俺や、追い出した俺の実の母を見ていたあの眼。
「あまり有棲を動揺させるな」
「……は?」
突然のことにうまく頭が回らない。
「なんのことだよ、父さん」
俺の聲は動揺に震えていただろうか。
「お前も有棲も年頃だ…ちょっと距離が近いんじゃないか?」
俺の心を見透かすように父が言う。
「そんなこと……」
言いかけて、言葉が喉の奥で溶けた。
兄妹なんだろ?──そう言うことが、できなかった。
「お前が年上なんだからしっかりしなさい。家族なのだから…母さんだって心配してる…」
そう言われて、耳がかっと赤くなるのがわかった。
誰にもバレないようにと思っていた。バレていないと思っていた。
俺の有棲への押し殺した感情を悟られていたなんて…。
「とにかく…すこし距離を置きなさい…有棲を傷つけないように…」
言い返せなかった。
有栖の柔らかな唇の感触が、脳裏を貫いていく感触に言葉を奪われる。
父親のドアを閉めて音がやけに大きく聞こえた。
俺は廊下に立ちつくした。
父親を嫌悪していた。
義理の娘を異性としてみている父親を。
だが、自分の思いや、欲望は全くそれと同じなんじゃないか。
胸が、痛い。
なにをどうすればいいのかわからない。
父の言葉がまだ耳にこびりついていた。
──有栖を動揺させるな。
──家族なのだから。
…そんなの、わかってる。
俺たちは兄妹。家族。
けれど、どれだけ言葉を並べても、そのひとつひとつの裏で、有栖の笑顔を思い出すたびに、胸の奥が熱くなる。
有栖に触れたくなる手。
名前を呼ぶだけで高鳴る心臓。
そのすべてを、家族という言葉で抑え込もうとしていた。
「…俺が、壊すのか…?」
──有栖を動揺させるな。
それが命令なのか、忠告なのか、父の牽制なのか、もうわからなかった。
この気持ちを、なかったことにはできない。
けれど、この気持ちを、言葉にしてしまったら──
もう、きっと戻れなくなる。
それまで、家事は家政婦がこなし、父と俺と竜之介で殺伐としていた家に、言葉通り花が咲いたように明るくなった。
家族ってこういうものなのかな…と胸が溫まる思いがした。
花と夫が大好きな優しい母と、天使のように無垢で愛らしい妹。
仕事ばかりだった父が、きちんと帰宅するようになり、同級生の有棲と竜之介は気があったようでまるで本當の雙子のように笑い転げて、広いだけで閑散としていた家に笑い聲が響いた。
家族団欒なんて、思い描いたこともなかったけど、たしかにそんな家族に俺たちはなっていった。
それをくれたのは紛れもなく新しい母と有棲だった。
束の間の満ち足りた時間。
だとしたらそれを壊したのはやっぱり俺なのか…
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有棲や母の前では朗らかに笑うようになっていた父に、ふと廊下で固い聲で呼び止められる。
俺が有棲への戀心と劣情に悩まされて始めていた高校の冬だった。
「海裡…」
「なに?」
短く聞き返す。
父の眼が鋭く俺を射た。
その眼を、俺はよく知っている。
父の自分の気に入らないものを見る眼だ。
昔、よく見た瞳。
幼い俺や、追い出した俺の実の母を見ていたあの眼。
「あまり有棲を動揺させるな」
「……は?」
突然のことにうまく頭が回らない。
「なんのことだよ、父さん」
俺の聲は動揺に震えていただろうか。
「お前も有棲も年頃だ…ちょっと距離が近いんじゃないか?」
俺の心を見透かすように父が言う。
「そんなこと……」
言いかけて、言葉が喉の奥で溶けた。
兄妹なんだろ?──そう言うことが、できなかった。
「お前が年上なんだからしっかりしなさい。家族なのだから…母さんだって心配してる…」
そう言われて、耳がかっと赤くなるのがわかった。
誰にもバレないようにと思っていた。バレていないと思っていた。
俺の有棲への押し殺した感情を悟られていたなんて…。
「とにかく…すこし距離を置きなさい…有棲を傷つけないように…」
言い返せなかった。
有栖の柔らかな唇の感触が、脳裏を貫いていく感触に言葉を奪われる。
父親のドアを閉めて音がやけに大きく聞こえた。
俺は廊下に立ちつくした。
父親を嫌悪していた。
義理の娘を異性としてみている父親を。
だが、自分の思いや、欲望は全くそれと同じなんじゃないか。
胸が、痛い。
なにをどうすればいいのかわからない。
父の言葉がまだ耳にこびりついていた。
──有栖を動揺させるな。
──家族なのだから。
…そんなの、わかってる。
俺たちは兄妹。家族。
けれど、どれだけ言葉を並べても、そのひとつひとつの裏で、有栖の笑顔を思い出すたびに、胸の奥が熱くなる。
有栖に触れたくなる手。
名前を呼ぶだけで高鳴る心臓。
そのすべてを、家族という言葉で抑え込もうとしていた。
「…俺が、壊すのか…?」
──有栖を動揺させるな。
それが命令なのか、忠告なのか、父の牽制なのか、もうわからなかった。
この気持ちを、なかったことにはできない。
けれど、この気持ちを、言葉にしてしまったら──
もう、きっと戻れなくなる。
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