《完結) エフ -- 夢見るありすと、ある兄弟の物--

夜の雨

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迎えに行く 《竜之介》

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電話の向こうは無言だったけれど、確かに有栖の気配を感じた。
息を押し殺しているのまで感じられるような、空気が震えているのすら伝わってくるようだった。
だから僕は短く叫んだ。
「有栖、逃げろ!」
有栖に届いただろうか。

彼女の携帯電話にGPS機能をつけておかなかったことが心の底から悔やまれた。まさか彼女の電話番号を父が入手して、有栖を呼び出すなんて…。

考えが甘かった。
僕と兄は携帯電話を鳴らし続けながら、有栖が再び電話を取ってくれることを祈りながら、父が向かいそうな場所を片っ端から探すくらいしかできなかった。
いつ父親に気づかれて、有栖の携帯を切ったり叩き壊してしまわないか、鳴らし続けるのは生きた心地がしない。

父親と娘がどこへ行ったって警察は取り合ってくれるはずもない。
なにも出来ない無力な自分が憎かった。

時刻は午前3時を回っていた。
どこにいるんだ、有栖……
有栖、有栖……有栖……祈るような気持ちと胸騒ぎが交錯する。
有栖、もう一度、電話にでて……

その時、ふいに着信音が途切れた。
「有栖!」
電話口から風の音が聞こえるような気がする…
いや、これは風の音ではない。…波…??
「有栖…?今、どこにいるの…っ!?」
電話の向こうで有栖が息を飲んだような気がした。
「有栖、お願い……答えて……」
僕は絞り出すような声で問いかける。
これで電話が切れてしまったら、もう二度と有栖に会えないような気がした。
「お願い…答えて…なんでもいいから。必ず迎えに行く」
僕は繰り返す。
ためらう気配が感じられるような気がした。
有栖、切らないで。
電話口の向こうで聞き取れないほど小さな声がする。声は震えていた。
「……N埠頭…」
僕は安堵と、何か言い知れぬ不安が入り交じったような気持ちになる。
「わかった!すぐ行く!
 そこにいて……お願い……!!」
僕が言い終わるか終わらないかのうちに、電話は切れてしまった。
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