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海へ 《有栖》
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どのくらい時間が経っただろう…
父が電話で隣の部屋で誰かと話している声で目が覚めた。仕事の話をしているようだった。
繰り返し父に陵辱された身体中が軋むように傷む。
中学生の頃は陵辱って言葉も知らなかったな……ただ、誰にも言えないことをされているのはわかっていた。
もう全てがどうでもいいような気がした。
愚かで非力すぎる自分に吐き気がする。
兄と竜之介が必死に守ろうとしてくれたものを、私は自分で一夜にしてめちゃくちゃにしてしまった。
「ごめんなさい…」
誰に対する言葉なのか自分でもわからないまま呟くと、唇の端が切れていることに気づく。抵抗した時平手撃ちされて切れたことを思い出す。
兄も殴られたとき、こんなふうに痛んだろうか…
生ぬるい涙が頬を流れていった。
ふいに鞄の中でまた携帯電話が鳴っていることに気づく。
いつのまにか手首のネクタイは緩み、両手は自由になっていた。
私は愚かにも震える手で鞄から携帯電話を取り出して耳に当てる。今更何を言おうというのだ。
ただ、ただ愛しい声が聞きたかった。
こんなに汚れた浅ましい私のくせに。
最後でもいいから声を聞かせて。
飛び込んできたのは竜之介の声だった。
「有栖!逃げて!」
彼は余計なことは何も言わず、ただ、それだけ言った。
あんなに必死に止めようとしてくれた彼を振り払い、私は自分でここにきてしまったのに。
そんな彼が今まっすぐに逃げろという。虚な私の心に最後の啓示のように響いた。
足音が聞こえる。父がこちらの部屋に戻ってくる。
私は最後の気力を振り絞って、乱れた服をなんとか身につけ、もつれる足を必死に動かしてその部屋を走って出た。
靴がない。
玄関を見渡しても履いてきたはずのローヒールのパンプスが見当たらない。
私は裸足のまま静かに外に出る。
エレベーターのボタンを震える手で押して父が追ってこないことを祈った。
エレベーターは音もなく下へ下へと下がってゆく。
扉が開くと、そこには真っ暗な海が広がっていた。私は倒れ込むようにエレベーターから降りると、ぺたんと腰が抜けたみたいに尻もちをついてしまった。這うように立ち上がり、足を引きずりながらコンクリートの地面を歩き始める。
私はふらふらと手すりにつかまって海へと続く階段を下りてゆく。
海から生ぬるい風が私の頬を撫でた。
このまま海に吸い込まれていきそうだった。
父が電話で隣の部屋で誰かと話している声で目が覚めた。仕事の話をしているようだった。
繰り返し父に陵辱された身体中が軋むように傷む。
中学生の頃は陵辱って言葉も知らなかったな……ただ、誰にも言えないことをされているのはわかっていた。
もう全てがどうでもいいような気がした。
愚かで非力すぎる自分に吐き気がする。
兄と竜之介が必死に守ろうとしてくれたものを、私は自分で一夜にしてめちゃくちゃにしてしまった。
「ごめんなさい…」
誰に対する言葉なのか自分でもわからないまま呟くと、唇の端が切れていることに気づく。抵抗した時平手撃ちされて切れたことを思い出す。
兄も殴られたとき、こんなふうに痛んだろうか…
生ぬるい涙が頬を流れていった。
ふいに鞄の中でまた携帯電話が鳴っていることに気づく。
いつのまにか手首のネクタイは緩み、両手は自由になっていた。
私は愚かにも震える手で鞄から携帯電話を取り出して耳に当てる。今更何を言おうというのだ。
ただ、ただ愛しい声が聞きたかった。
こんなに汚れた浅ましい私のくせに。
最後でもいいから声を聞かせて。
飛び込んできたのは竜之介の声だった。
「有栖!逃げて!」
彼は余計なことは何も言わず、ただ、それだけ言った。
あんなに必死に止めようとしてくれた彼を振り払い、私は自分でここにきてしまったのに。
そんな彼が今まっすぐに逃げろという。虚な私の心に最後の啓示のように響いた。
足音が聞こえる。父がこちらの部屋に戻ってくる。
私は最後の気力を振り絞って、乱れた服をなんとか身につけ、もつれる足を必死に動かしてその部屋を走って出た。
靴がない。
玄関を見渡しても履いてきたはずのローヒールのパンプスが見当たらない。
私は裸足のまま静かに外に出る。
エレベーターのボタンを震える手で押して父が追ってこないことを祈った。
エレベーターは音もなく下へ下へと下がってゆく。
扉が開くと、そこには真っ暗な海が広がっていた。私は倒れ込むようにエレベーターから降りると、ぺたんと腰が抜けたみたいに尻もちをついてしまった。這うように立ち上がり、足を引きずりながらコンクリートの地面を歩き始める。
私はふらふらと手すりにつかまって海へと続く階段を下りてゆく。
海から生ぬるい風が私の頬を撫でた。
このまま海に吸い込まれていきそうだった。
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