47 / 81
熱帯魚のいる部屋 《有栖》 *性暴力表現あり
しおりを挟む
車は滑るように雨の街を走ってゆく。
行き先を尋ねても、父は車の中ではあれきり黙ってしまった。
雨なのか、汗なのか、首筋から胸元に生ぬるい滴が流れていくのがわかった。
「パパ…ここは?
私…リュウにすぐ帰ると伝えてきたから、あまりゆっくりできないの……」
腕を引かれて埠頭近くのマンションの最上階の部屋に辿り着く。
大理石の玄関から部屋に入ると、ガラス張りの窓の向こうは雨で、灰色に曇っていたけど、晴れた夜なら夜景がきれいにみえるだろう。
革張りのソファのそばには、ショーウィンドウの宝石を飾るように照明に照らされ大きな水槽が飾らせていて、中には黄金色の名も知らぬ熱帯魚がたった一匹、尾鰭をふわふわ揺らしながら泳いでいた。
アンティークのチェストの上には写真立てが3つ几帳面に並んでいる。
見ると写真はすべて私だった。
小学生の頃のものが一枚。
残りの二枚は中学生になってからのものだった。
「…今日はあいにくの雨だが、眺めがいいだろう?…まだパパしか住んでいない秘密の場所だよ」
父の気配を背後に感じて振り返る。
振り向くと雨に濡れた髪をかきあげ、パパが長い指でネクタイをぐっと緩めていた。
私は一歩後ろに下がる。
「おうちには…戻っていないの……?」
雨で濡れたブラウスがべっとり背中にくっついて気持ちが悪い。
「自宅は海里の奴が、私の留守中に鍵を変えてしまってね…酷いだろう…お前の兄さんは…」
頭がズキズキと痛む。
ここに入ってはいけなかったと本能が訴えているのに、私はそれ以上動くことができなかった。
父は黙ったまま、眼鏡の奥からじっと私を見ている。
もうその瞳は笑っていなかった。
思い出の中の父はいつも笑っていた。
私は今まで一度も思い出すことのなかったその眼差しを、確かに知っているような不思議な感覚を覚えた。
私はぎゅっと鞄を握りしめた。
相変わらず鞄の中では携帯電話のバイブレーションが小さく鳴り続けている。
私はやっとの思いで、もう一歩後ずさる。
それに反応するかのように父はわたしのほうに歩を進め、抱きかかえるようにしてソファに腰掛ける。
そして大きな手で私の顔を包み込むと、雨で濡れた髪をかきあげて額にキスをした。
父の唇は驚くほど熱を帯びていた。
「有栖…パパがどれほど有栖に会いたかったかわかるかい?」
まるで、ずっと離れて暮らしていた恋人のように父は耳元で囁いた。
「お願い……パパ…お兄ちゃんとリュウと仲直りして…」
懇願すると、父がぎゅっと私を抱きしめた。
「お前は、本当に優しいな……パパの自慢の娘だよ……」
パパは私の手首を抑えると耳たぶをそっと咥え、口の中で弄びながら、囁く。
「や、やめて……パパ……」
抵抗しようとした私の腕はいとも簡単にねじ伏せられ、私は膝の力が抜け、ずるずるとソファに沈み込んだ。
「可哀想な子だね……本当になにもかも忘れてしまったんだね」
父が悲しそうに言う。
手がスカートの裾から差し込まれ、太ももを撫でる。長い指がまるで蛇のように蠢く。
私は頭の中で何かがいくつも弾けるのを感じた。ズキンズキンと脈打つような痛みのなかで、白い閃光が爆ぜる。
「いや…離して…」
逃れようとすると、腕を掴まれてソファの上に押し倒された。
「暴れてはいけないよ、有栖…昔からこうしていたじゃないか…ほら、お前の一番好きな場所だ……」
耳の中にズルリと舌が入り込んでくる。抵抗しようとする腕は頭の上で片手で押さえつけられる。
「あっ……!や、やめ……て……パパ……お願い…」
頭が割れるように痛い。
「仲直りして欲しかったんじゃないのか…海里と竜之介と…」
耳元で父が囁く。
「有栖がいい子にしていたら、すべて元通りになるんだよ…?」
父の言葉に抵抗する力が自然に弱くなる。
私が…我慢すれば……!
「そうだ、やっぱり有栖はいいこだね」
父ら私の耳から口を離すと、ネクタイをほどくとそれを私の両手首に巻き付けて強く結んだ。
胸をぐっと強く鷲掴みにされて、一瞬息が詰まる。私の足の間に、父の膝が入り込んでくる。
頭のサイレンが鳴り止まない。
記憶が捩れる。
下着の中に父の手が滑り込み、指はやがて私の敏感な部分にたどり着いた時、私は悟った。
ああ、そうだ…この行為は初めてではない。
何度も何度も繰り返し行われた行為。
まるで身体に刻み込まれるような、私を支配する恐ろしい時間。
焼け爛れた皮膚が捲れ上がるように記憶が滴り落ちる。
「ああ、有栖、ゾクゾクするほどかわいいよ……おまえはずっと私のものだ……」
はあっと吐息を漏らすように父がうわずった声を出している。
私は、ただただ、兄の優しい手や竜之介の健やかな寝息や、チャチャの柔らかな毛並みを思った。
意識が混濁していく。
私の意識と記憶はそんなふうにして何度も何度も弄ばれ、死んでいったんだ。
髪をぐっと乱暴に掴まれて意識を引き戻される。
「さあ、有栖……自分で舌を出してごらん…」
父の熱い息が唇にかかり、私は自分が舌をだしていることに気づく。
私の舌は父の口の中に飲み込まれていった。
行き先を尋ねても、父は車の中ではあれきり黙ってしまった。
雨なのか、汗なのか、首筋から胸元に生ぬるい滴が流れていくのがわかった。
「パパ…ここは?
私…リュウにすぐ帰ると伝えてきたから、あまりゆっくりできないの……」
腕を引かれて埠頭近くのマンションの最上階の部屋に辿り着く。
大理石の玄関から部屋に入ると、ガラス張りの窓の向こうは雨で、灰色に曇っていたけど、晴れた夜なら夜景がきれいにみえるだろう。
革張りのソファのそばには、ショーウィンドウの宝石を飾るように照明に照らされ大きな水槽が飾らせていて、中には黄金色の名も知らぬ熱帯魚がたった一匹、尾鰭をふわふわ揺らしながら泳いでいた。
アンティークのチェストの上には写真立てが3つ几帳面に並んでいる。
見ると写真はすべて私だった。
小学生の頃のものが一枚。
残りの二枚は中学生になってからのものだった。
「…今日はあいにくの雨だが、眺めがいいだろう?…まだパパしか住んでいない秘密の場所だよ」
父の気配を背後に感じて振り返る。
振り向くと雨に濡れた髪をかきあげ、パパが長い指でネクタイをぐっと緩めていた。
私は一歩後ろに下がる。
「おうちには…戻っていないの……?」
雨で濡れたブラウスがべっとり背中にくっついて気持ちが悪い。
「自宅は海里の奴が、私の留守中に鍵を変えてしまってね…酷いだろう…お前の兄さんは…」
頭がズキズキと痛む。
ここに入ってはいけなかったと本能が訴えているのに、私はそれ以上動くことができなかった。
父は黙ったまま、眼鏡の奥からじっと私を見ている。
もうその瞳は笑っていなかった。
思い出の中の父はいつも笑っていた。
私は今まで一度も思い出すことのなかったその眼差しを、確かに知っているような不思議な感覚を覚えた。
私はぎゅっと鞄を握りしめた。
相変わらず鞄の中では携帯電話のバイブレーションが小さく鳴り続けている。
私はやっとの思いで、もう一歩後ずさる。
それに反応するかのように父はわたしのほうに歩を進め、抱きかかえるようにしてソファに腰掛ける。
そして大きな手で私の顔を包み込むと、雨で濡れた髪をかきあげて額にキスをした。
父の唇は驚くほど熱を帯びていた。
「有栖…パパがどれほど有栖に会いたかったかわかるかい?」
まるで、ずっと離れて暮らしていた恋人のように父は耳元で囁いた。
「お願い……パパ…お兄ちゃんとリュウと仲直りして…」
懇願すると、父がぎゅっと私を抱きしめた。
「お前は、本当に優しいな……パパの自慢の娘だよ……」
パパは私の手首を抑えると耳たぶをそっと咥え、口の中で弄びながら、囁く。
「や、やめて……パパ……」
抵抗しようとした私の腕はいとも簡単にねじ伏せられ、私は膝の力が抜け、ずるずるとソファに沈み込んだ。
「可哀想な子だね……本当になにもかも忘れてしまったんだね」
父が悲しそうに言う。
手がスカートの裾から差し込まれ、太ももを撫でる。長い指がまるで蛇のように蠢く。
私は頭の中で何かがいくつも弾けるのを感じた。ズキンズキンと脈打つような痛みのなかで、白い閃光が爆ぜる。
「いや…離して…」
逃れようとすると、腕を掴まれてソファの上に押し倒された。
「暴れてはいけないよ、有栖…昔からこうしていたじゃないか…ほら、お前の一番好きな場所だ……」
耳の中にズルリと舌が入り込んでくる。抵抗しようとする腕は頭の上で片手で押さえつけられる。
「あっ……!や、やめ……て……パパ……お願い…」
頭が割れるように痛い。
「仲直りして欲しかったんじゃないのか…海里と竜之介と…」
耳元で父が囁く。
「有栖がいい子にしていたら、すべて元通りになるんだよ…?」
父の言葉に抵抗する力が自然に弱くなる。
私が…我慢すれば……!
「そうだ、やっぱり有栖はいいこだね」
父ら私の耳から口を離すと、ネクタイをほどくとそれを私の両手首に巻き付けて強く結んだ。
胸をぐっと強く鷲掴みにされて、一瞬息が詰まる。私の足の間に、父の膝が入り込んでくる。
頭のサイレンが鳴り止まない。
記憶が捩れる。
下着の中に父の手が滑り込み、指はやがて私の敏感な部分にたどり着いた時、私は悟った。
ああ、そうだ…この行為は初めてではない。
何度も何度も繰り返し行われた行為。
まるで身体に刻み込まれるような、私を支配する恐ろしい時間。
焼け爛れた皮膚が捲れ上がるように記憶が滴り落ちる。
「ああ、有栖、ゾクゾクするほどかわいいよ……おまえはずっと私のものだ……」
はあっと吐息を漏らすように父がうわずった声を出している。
私は、ただただ、兄の優しい手や竜之介の健やかな寝息や、チャチャの柔らかな毛並みを思った。
意識が混濁していく。
私の意識と記憶はそんなふうにして何度も何度も弄ばれ、死んでいったんだ。
髪をぐっと乱暴に掴まれて意識を引き戻される。
「さあ、有栖……自分で舌を出してごらん…」
父の熱い息が唇にかかり、私は自分が舌をだしていることに気づく。
私の舌は父の口の中に飲み込まれていった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【R18】熱い夜の相手は王太子!? ~婚約者だと告げられましたが、記憶がございません~
世界のボボブラ汁(エロル)
恋愛
激しい夜を過ごしたあと、私は気づいてしまった。
──え……この方、誰?
相手は王太子で、しかも私の婚約者だという。
けれど私は、自分の名前すら思い出せない。
訳も分からず散った純潔、家族や自分の姿への違和感──混乱する私に追い打ちをかけるように、親友(?)が告げた。
「あなた、わたくしのお兄様と恋人同士だったのよ」
……え、私、恋人がいたのに王太子とベッドを共に!?
しかも王太子も恋人も、社交界を騒がすモテ男子。
もしかして、そのせいで私は命を狙われている?
公爵令嬢ベアトリス(?)が記憶を取り戻した先に待つのは── 愛か、陰謀か、それとも破滅か。
全米がハラハラする宮廷恋愛ストーリー……になっていてほしいですね!
※本作品はR18表現があります、ご注意ください。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる