《完結) エフ -- 夢見るありすと、ある兄弟の物--

夜の雨

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熱帯魚のいる部屋 《有栖》 *性暴力表現あり

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車は滑るように雨の街を走ってゆく。
行き先を尋ねても、父は車の中ではあれきり黙ってしまった。
雨なのか、汗なのか、首筋から胸元に生ぬるい滴が流れていくのがわかった。

「パパ…ここは?
私…リュウにすぐ帰ると伝えてきたから、あまりゆっくりできないの……」
腕を引かれて埠頭近くのマンションの最上階の部屋に辿り着く。

大理石の玄関から部屋に入ると、ガラス張りの窓の向こうは雨で、灰色に曇っていたけど、晴れた夜なら夜景がきれいにみえるだろう。
革張りのソファのそばには、ショーウィンドウの宝石を飾るように照明に照らされ大きな水槽が飾らせていて、中には黄金色の名も知らぬ熱帯魚がたった一匹、尾鰭をふわふわ揺らしながら泳いでいた。
アンティークのチェストの上には写真立てが3つ几帳面に並んでいる。

見ると写真はすべて私だった。

小学生の頃のものが一枚。
残りの二枚は中学生になってからのものだった。

「…今日はあいにくの雨だが、眺めがいいだろう?…まだパパしか住んでいない秘密の場所だよ」
父の気配を背後に感じて振り返る。
振り向くと雨に濡れた髪をかきあげ、パパが長い指でネクタイをぐっと緩めていた。

私は一歩後ろに下がる。
「おうちには…戻っていないの……?」
雨で濡れたブラウスがべっとり背中にくっついて気持ちが悪い。
「自宅は海里の奴が、私の留守中に鍵を変えてしまってね…酷いだろう…お前の兄さんは…」
頭がズキズキと痛む。
ここに入ってはいけなかったと本能が訴えているのに、私はそれ以上動くことができなかった。

父は黙ったまま、眼鏡の奥からじっと私を見ている。
もうその瞳は笑っていなかった。
思い出の中の父はいつも笑っていた。
私は今まで一度も思い出すことのなかったその眼差しを、確かに知っているような不思議な感覚を覚えた。

私はぎゅっと鞄を握りしめた。
相変わらず鞄の中では携帯電話のバイブレーションが小さく鳴り続けている。
私はやっとの思いで、もう一歩後ずさる。

それに反応するかのように父はわたしのほうに歩を進め、抱きかかえるようにしてソファに腰掛ける。
そして大きな手で私の顔を包み込むと、雨で濡れた髪をかきあげて額にキスをした。
父の唇は驚くほど熱を帯びていた。

「有栖…パパがどれほど有栖に会いたかったかわかるかい?」
まるで、ずっと離れて暮らしていた恋人のように父は耳元で囁いた。
「お願い……パパ…お兄ちゃんとリュウと仲直りして…」
懇願すると、父がぎゅっと私を抱きしめた。
「お前は、本当に優しいな……パパの自慢の娘だよ……」
パパは私の手首を抑えると耳たぶをそっと咥え、口の中で弄びながら、囁く。

「や、やめて……パパ……」
抵抗しようとした私の腕はいとも簡単にねじ伏せられ、私は膝の力が抜け、ずるずるとソファに沈み込んだ。
「可哀想な子だね……本当になにもかも忘れてしまったんだね」
父が悲しそうに言う。
手がスカートの裾から差し込まれ、太ももを撫でる。長い指がまるで蛇のように蠢く。

私は頭の中で何かがいくつも弾けるのを感じた。ズキンズキンと脈打つような痛みのなかで、白い閃光が爆ぜる。
「いや…離して…」
逃れようとすると、腕を掴まれてソファの上に押し倒された。
「暴れてはいけないよ、有栖…昔からこうしていたじゃないか…ほら、お前の一番好きな場所だ……」
耳の中にズルリと舌が入り込んでくる。抵抗しようとする腕は頭の上で片手で押さえつけられる。
「あっ……!や、やめ……て……パパ……お願い…」
頭が割れるように痛い。
「仲直りして欲しかったんじゃないのか…海里と竜之介と…」
耳元で父が囁く。
「有栖がいい子にしていたら、すべて元通りになるんだよ…?」
父の言葉に抵抗する力が自然に弱くなる。
私が…我慢すれば……!
「そうだ、やっぱり有栖はいいこだね」
父ら私の耳から口を離すと、ネクタイをほどくとそれを私の両手首に巻き付けて強く結んだ。
胸をぐっと強く鷲掴みにされて、一瞬息が詰まる。私の足の間に、父の膝が入り込んでくる。

頭のサイレンが鳴り止まない。
記憶が捩れる。

下着の中に父の手が滑り込み、指はやがて私の敏感な部分にたどり着いた時、私は悟った。

ああ、そうだ…この行為は初めてではない。
何度も何度も繰り返し行われた行為。

まるで身体に刻み込まれるような、私を支配する恐ろしい時間。
焼け爛れた皮膚が捲れ上がるように記憶が滴り落ちる。

「ああ、有栖、ゾクゾクするほどかわいいよ……おまえはずっと私のものだ……」
はあっと吐息を漏らすように父がうわずった声を出している。

私は、ただただ、兄の優しい手や竜之介の健やかな寝息や、チャチャの柔らかな毛並みを思った。
意識が混濁していく。
私の意識と記憶はそんなふうにして何度も何度も弄ばれ、死んでいったんだ。

髪をぐっと乱暴に掴まれて意識を引き戻される。
「さあ、有栖……自分で舌を出してごらん…」
父の熱い息が唇にかかり、私は自分が舌をだしていることに気づく。

私の舌は父の口の中に飲み込まれていった。
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