63 / 81
ベランダ 《竜之介》
しおりを挟む
あの夜、あの後、僕は父に言った通り警察に行った。
ただ話したのは、今日の暴力のことだけ。
それくらいじゃもちろん、父を刑務所に送ることはできないけれど、牽制くらいはできたんじゃないかな。
骨の一本でも折れていたらもっと罪を重くしてやれたのに、残念ながら僕の骨は丈夫だった。
兄はボロボロになって帰宅した僕を黙って迎えてくれ、有栖はわかっているのかわかっていないのか、僕の頬に触れて涙をぽろぽろ溢してと泣いてくれた。
父ではなく、兄でもなく僕のために。
もうそれだけで、僕はじゅうぶんだ。
***
珍しく有栖がすやすや眠っている夜、兄が見当たらないなと思ったら、ベランダに出てタバコを吸っていた。
季節はいつのまにか夏になっていた。
兄の背中は少し痩せたような気がする。
僕は有栖がよく眠っているのを確認してからベランダに出て兄の隣に並んでみた。
兄はこちらをちらりとも見ずに、夜の街を眺めている。
「一本ちょうだい…」
僕は兄の手にあるタバコの箱に手を伸ばすと、フイッと避けられる。
「タバコは20になってから、だ…」
そう言うと兄はふーっと紫煙を吐き出した。僕はチッと小さく舌打ちして、ベランダの手すりにもたれかかって、兄の顔を盗み見る。
ライターが鈍く光っていた。
「なあ…兄貴はなんでそんなに大人なんだ?」
ーーーたった四つしか離れてないのに。
兄はようやくこちらを見た。少し眉間にしわをよせて、怪訝な顔をしている。
「急にどうした」
「……なんとなく……」
兄貴には絶対敵わない。くやしいけど。
「兄貴なら仕方ないかなと思うこともある…」
有栖のこと。
有栖には兄貴みたいな男がいい。
そこまでは言わなかった。
兄貴はまたタバコをふかし、ふーーっと煙を吐き出した。それから僕の頭をわしゃわしゃ撫でる。
「バカ言うな、おまえのほうが一枚も二枚も上手だよ…」
「おまえは…」
兄はタバコを携帯灰皿でもみ消しながら続けた。
「ほんとに大した男だよ…もっと自信持て」
兄はそれだけ言うと、僕の肩をポンと叩いて部屋に入ってしまった。
僕が無茶をやれるのは兄がいてくれるからだ。
夜空を見ると街の明かりに星が霞んで見えた。それでも一等星はキラリと控えめに輝いている。
早くこのベランダに並んで有栖と星をみたい。
そうだ、兄貴も一緒に3人で。
ただ話したのは、今日の暴力のことだけ。
それくらいじゃもちろん、父を刑務所に送ることはできないけれど、牽制くらいはできたんじゃないかな。
骨の一本でも折れていたらもっと罪を重くしてやれたのに、残念ながら僕の骨は丈夫だった。
兄はボロボロになって帰宅した僕を黙って迎えてくれ、有栖はわかっているのかわかっていないのか、僕の頬に触れて涙をぽろぽろ溢してと泣いてくれた。
父ではなく、兄でもなく僕のために。
もうそれだけで、僕はじゅうぶんだ。
***
珍しく有栖がすやすや眠っている夜、兄が見当たらないなと思ったら、ベランダに出てタバコを吸っていた。
季節はいつのまにか夏になっていた。
兄の背中は少し痩せたような気がする。
僕は有栖がよく眠っているのを確認してからベランダに出て兄の隣に並んでみた。
兄はこちらをちらりとも見ずに、夜の街を眺めている。
「一本ちょうだい…」
僕は兄の手にあるタバコの箱に手を伸ばすと、フイッと避けられる。
「タバコは20になってから、だ…」
そう言うと兄はふーっと紫煙を吐き出した。僕はチッと小さく舌打ちして、ベランダの手すりにもたれかかって、兄の顔を盗み見る。
ライターが鈍く光っていた。
「なあ…兄貴はなんでそんなに大人なんだ?」
ーーーたった四つしか離れてないのに。
兄はようやくこちらを見た。少し眉間にしわをよせて、怪訝な顔をしている。
「急にどうした」
「……なんとなく……」
兄貴には絶対敵わない。くやしいけど。
「兄貴なら仕方ないかなと思うこともある…」
有栖のこと。
有栖には兄貴みたいな男がいい。
そこまでは言わなかった。
兄貴はまたタバコをふかし、ふーーっと煙を吐き出した。それから僕の頭をわしゃわしゃ撫でる。
「バカ言うな、おまえのほうが一枚も二枚も上手だよ…」
「おまえは…」
兄はタバコを携帯灰皿でもみ消しながら続けた。
「ほんとに大した男だよ…もっと自信持て」
兄はそれだけ言うと、僕の肩をポンと叩いて部屋に入ってしまった。
僕が無茶をやれるのは兄がいてくれるからだ。
夜空を見ると街の明かりに星が霞んで見えた。それでも一等星はキラリと控えめに輝いている。
早くこのベランダに並んで有栖と星をみたい。
そうだ、兄貴も一緒に3人で。
0
あなたにおすすめの小説
【R18】熱い夜の相手は王太子!? ~婚約者だと告げられましたが、記憶がございません~
世界のボボブラ汁(エロル)
恋愛
激しい夜を過ごしたあと、私は気づいてしまった。
──え……この方、誰?
相手は王太子で、しかも私の婚約者だという。
けれど私は、自分の名前すら思い出せない。
訳も分からず散った純潔、家族や自分の姿への違和感──混乱する私に追い打ちをかけるように、親友(?)が告げた。
「あなた、わたくしのお兄様と恋人同士だったのよ」
……え、私、恋人がいたのに王太子とベッドを共に!?
しかも王太子も恋人も、社交界を騒がすモテ男子。
もしかして、そのせいで私は命を狙われている?
公爵令嬢ベアトリス(?)が記憶を取り戻した先に待つのは── 愛か、陰謀か、それとも破滅か。
全米がハラハラする宮廷恋愛ストーリー……になっていてほしいですね!
※本作品はR18表現があります、ご注意ください。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
溺愛彼氏は消防士!?
すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。
「別れよう。」
その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。
飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。
「男ならキスの先をは期待させないとな。」
「俺とこの先・・・してみない?」
「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」
私の身は持つの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。
※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる