《完結) エフ -- 夢見るありすと、ある兄弟の物--

夜の雨

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ベランダ 《竜之介》

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あの夜、あの後、僕は父に言った通り警察に行った。

ただ話したのは、今日の暴力のことだけ。
それくらいじゃもちろん、父を刑務所に送ることはできないけれど、牽制くらいはできたんじゃないかな。

骨の一本でも折れていたらもっと罪を重くしてやれたのに、残念ながら僕の骨は丈夫だった。

兄はボロボロになって帰宅した僕を黙って迎えてくれ、有栖はわかっているのかわかっていないのか、僕の頬に触れて涙をぽろぽろ溢してと泣いてくれた。

父ではなく、兄でもなく僕のために。
もうそれだけで、僕はじゅうぶんだ。

***

珍しく有栖がすやすや眠っている夜、兄が見当たらないなと思ったら、ベランダに出てタバコを吸っていた。

季節はいつのまにか夏になっていた。

兄の背中は少し痩せたような気がする。
僕は有栖がよく眠っているのを確認してからベランダに出て兄の隣に並んでみた。

兄はこちらをちらりとも見ずに、夜の街を眺めている。
「一本ちょうだい…」
僕は兄の手にあるタバコの箱に手を伸ばすと、フイッと避けられる。
「タバコは20になってから、だ…」
そう言うと兄はふーっと紫煙を吐き出した。僕はチッと小さく舌打ちして、ベランダの手すりにもたれかかって、兄の顔を盗み見る。
ライターが鈍く光っていた。

「なあ…兄貴はなんでそんなに大人なんだ?」
ーーーたった四つしか離れてないのに。
兄はようやくこちらを見た。少し眉間にしわをよせて、怪訝な顔をしている。

「急にどうした」
「……なんとなく……」
兄貴には絶対敵わない。くやしいけど。

「兄貴なら仕方ないかなと思うこともある…」
有栖のこと。
有栖には兄貴みたいな男がいい。
そこまでは言わなかった。

兄貴はまたタバコをふかし、ふーーっと煙を吐き出した。それから僕の頭をわしゃわしゃ撫でる。
「バカ言うな、おまえのほうが一枚も二枚も上手だよ…」

「おまえは…」
兄はタバコを携帯灰皿でもみ消しながら続けた。
「ほんとに大した男だよ…もっと自信持て」
兄はそれだけ言うと、僕の肩をポンと叩いて部屋に入ってしまった。

僕が無茶をやれるのは兄がいてくれるからだ。

夜空を見ると街の明かりに星が霞んで見えた。それでも一等星はキラリと控えめに輝いている。

早くこのベランダに並んで有栖と星をみたい。
そうだ、兄貴も一緒に3人で。
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