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夢みる国の有栖 《竜之介》
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コンコンコンと扉をノックする音がして、ひょこっと桃が顔を出す。
「有栖ちゃん、お見舞いにきたよ。もうすぐ退院できるんだってね。おめでとう。」
桃はにこっと笑って、背中に隠していた大きな花束をぱっと出す。
淡いピンクスイトピーの花束は、いかにも有栖の好みだった。
「桃くん、いつもありがとう…!」
有栖は花束を受け取り、無邪気な笑顔を見せた。
桃はこの春、見事に名門大学の法学部に合格した。
僕もなんとか国公立大学に受かることができた。(僕たちに私立大学に行く余裕はなかったからほっとしている)
「退院したら華さんたちが有栖ちゃんちに遊びに行きたいって言っていたよ」
桃の言葉に、有栖は目を輝かせる。
あの日あのあと、有栖は病院に運び込まれ、傷ついた脊髄の手術を受けた。
命は取り留めたが、後遺症として右半身に軽い麻痺が残った。
もし、僕が、あの強さで金属製特殊警棒を頭にくらっていたら、おそらく命はなかっただろうと警察の人が言っていた。
「お姉さんは、命懸けで君を守ろうとしたんだね」
僕が有栖を守りたかったのに。
悔しかった。
どうして…。
兄は自分を責めるなと言ってくれたけれど、僕は一生自分を許せそうにない。
有栖をこの記憶の迷宮に閉じ込めるもともとの発端は俺にあるのだから……と、兄は言っていたけれど、僕にはその意味がわからない。
父は、人を雇ってまで自分の子どもたちに危害を加えたことが原因で逮捕起訴された。有栖の背中を打った特殊警棒も、日本では持つことが許されない違法のものだったらしい。
前回の僕への暴力もあったから、実刑判決となった。有栖への性虐待も僕が提出した録音によって明るみになり、そちらも加味された。
父は社会的にそれなりの地位を持つ人間だったから、一時はメディアでも少し取り上げられたけど、警察の配慮で、有栖への性暴力の件は、暴力および精神的虐待というような表現で報道された。
どちらにしてもその報道は当の有栖は病院のベッドで横になっていて、知る由もなかったのだけど。
手術が終わり、目覚めた有栖が一言目に発した台詞は、
「リュウは?」
だった。
自分が生死の間を彷徨っている間も僕のことを心配していてくれたのだと思うと胸が潰れそうになる。
そして有栖の記憶はというと……
きれいに父親から受けた酷い出来事たちは忘れ去られ、脳にはほとんど残らなかった。
自分が怪我をした理由も、知らない暴漢に襲われたことになっているし、マンションに引っ越したのも僕らが親元を離れて自立するためだということになっている。
医者も首を捻るばかりで、どこまで事実を覚えているのかわからなかった。
それが彼女にとっていちばん優しい幻想であるのなら、僕はずっとつきあっていきたい。
いつか彼女の記憶が再び目覚めるまで。
僕は、彼女が幸せでいてくれるなら、もうなんでもいいんだ。
「有栖ちゃん、お見舞いにきたよ。もうすぐ退院できるんだってね。おめでとう。」
桃はにこっと笑って、背中に隠していた大きな花束をぱっと出す。
淡いピンクスイトピーの花束は、いかにも有栖の好みだった。
「桃くん、いつもありがとう…!」
有栖は花束を受け取り、無邪気な笑顔を見せた。
桃はこの春、見事に名門大学の法学部に合格した。
僕もなんとか国公立大学に受かることができた。(僕たちに私立大学に行く余裕はなかったからほっとしている)
「退院したら華さんたちが有栖ちゃんちに遊びに行きたいって言っていたよ」
桃の言葉に、有栖は目を輝かせる。
あの日あのあと、有栖は病院に運び込まれ、傷ついた脊髄の手術を受けた。
命は取り留めたが、後遺症として右半身に軽い麻痺が残った。
もし、僕が、あの強さで金属製特殊警棒を頭にくらっていたら、おそらく命はなかっただろうと警察の人が言っていた。
「お姉さんは、命懸けで君を守ろうとしたんだね」
僕が有栖を守りたかったのに。
悔しかった。
どうして…。
兄は自分を責めるなと言ってくれたけれど、僕は一生自分を許せそうにない。
有栖をこの記憶の迷宮に閉じ込めるもともとの発端は俺にあるのだから……と、兄は言っていたけれど、僕にはその意味がわからない。
父は、人を雇ってまで自分の子どもたちに危害を加えたことが原因で逮捕起訴された。有栖の背中を打った特殊警棒も、日本では持つことが許されない違法のものだったらしい。
前回の僕への暴力もあったから、実刑判決となった。有栖への性虐待も僕が提出した録音によって明るみになり、そちらも加味された。
父は社会的にそれなりの地位を持つ人間だったから、一時はメディアでも少し取り上げられたけど、警察の配慮で、有栖への性暴力の件は、暴力および精神的虐待というような表現で報道された。
どちらにしてもその報道は当の有栖は病院のベッドで横になっていて、知る由もなかったのだけど。
手術が終わり、目覚めた有栖が一言目に発した台詞は、
「リュウは?」
だった。
自分が生死の間を彷徨っている間も僕のことを心配していてくれたのだと思うと胸が潰れそうになる。
そして有栖の記憶はというと……
きれいに父親から受けた酷い出来事たちは忘れ去られ、脳にはほとんど残らなかった。
自分が怪我をした理由も、知らない暴漢に襲われたことになっているし、マンションに引っ越したのも僕らが親元を離れて自立するためだということになっている。
医者も首を捻るばかりで、どこまで事実を覚えているのかわからなかった。
それが彼女にとっていちばん優しい幻想であるのなら、僕はずっとつきあっていきたい。
いつか彼女の記憶が再び目覚めるまで。
僕は、彼女が幸せでいてくれるなら、もうなんでもいいんだ。
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