78 / 81
キス 《竜之介》
しおりを挟む
「有栖ちゃん、俺からの宿題ちゃんとやってくれてるね」
桃は、有栖が病院に運ばれてからずっとあれこれ僕らによくしてくれていて、兄と僕が疲れたとき、有栖の看護を買ってでてくれたり、こんなふうに僕が苦手な英語の勉強を有栖に教えにきてくれたりしている。
いつか、桃は、僕と有栖が好きだとさらっと言っていた。あれがloveなのか、 likeなのかはわからないまま時が流れている。
桃が、たまにそっと有栖の肩や髪に触れることがあるけれど、有栖自身嫌がっている素振りはみせないし、不思議なことに僕も不快な気持ちにならないのだ。こんなこと初めてで自分でもちょっと驚いている。
有栖は何も話さないから水族館での一件は覚えているのかどうかもわからない。
でも、学校で会っていただけのクラスメイトとしての桃よりも、親しい雰囲気で話しているのはよくわかる。
***
桃と有栖が楽しそうに話しているから、僕は少し席を外そうとして、桃の花束を手にする。
「この花束、花瓶に生けてくるね」
水道で水を注いでいると、桃が追いかけてきた。
「なんでおまえまで来ちゃうんだよ」
僕が呟くように言うと、桃が金色に染めた髪をがしがしとかく。
この髪で大学行くつもりなのかな…。
「竜之介、前からちょっと思ってたけど、なんか誤解してない?」
え、べつに?
と言って振り返ろうとすると、急に桃に唇を塞がれた。
「…⁉︎⁉︎」
一瞬なにが起きたかわからず、固まってしまったが、キスをされていると気づき、咄嗟にバッと桃から身体を離す。
な、なにが起きたんだ…⁈
桃はイタズラっぽくにやにや笑いながら、親指の腹で唇を撫でている。
「言っただろ?俺は竜之介が好きだって。有栖ちゃんも好きだけど」
「……」
「好きな人から好きな人を奪う趣味はないの。むしろ2人セットでいてくれたら、俺はありがたいんだって…」
「何、言ってんだよ、意味がわからない…」
僕がたじたじと言うと、桃はにやっと笑って少し顎をあげながら小首を傾けた。
「わからないかな?好きな人に幸せでいてほしい気持ち」
それは…わかるけど…。
「とにかく」
と、桃は言葉を切って、片側の肩にかけたリュックを背負いなおす。
「次、変な誤解したら、今度は有栖ちゃんにキスするから覚悟しなよ」.
「……!」
***
病室に戻ると、有栖は真面目に桃が置いていった英語の宿題を解いていた。
「おかえり……あれ?桃くん帰っちゃったの?」
顔をあげて有栖が尋ねる。
「?? リュウ、顔が赤いよ?なんかあった…?」
「はは…桃にファーストキスを奪われちゃった……」
あまりに有栖が無垢な顔で尋ねるので、つい正直に答えてしまう。
言った瞬間、しまった、驚かれるかな?と思ったら、有栖はきょとんとした顔をしたあとにっこりと笑って、
「うふふ、桃くん、リュウが大好きだものね…」
と、続ける。
「え、知ってたの…?」
つい僕は声のボリュームをあげてしまう。
「見てたらわかるよ。いつも桃くん言ってるし。竜之介がかわいいーって」
えー…
有栖はパタンとノートを閉じる。
「だから、私も言ってるの。でしょ?リュウはかわいくてかっこいいでしょ?って。私の弟だもん…」
有栖は口元に手を当ててくすくすと笑う。手首にはもう包帯は巻かれておらず、微かに古傷が残るだけだ。
かわいいとは心外だし、弟としか見られていないと言われているようなものなんだけど、なんだかくすぐったい気持ちになる。
そして追い討ちをかけるように有栖は続ける。
「それにリュウは、桃くんがファーストキスじゃないよ?」
「え!?」
「私、高校にあがるくらいまで、リュウの寝顔見るたびにかわいくってキスしてたもの。リュウはぜんぜん起きなかったけど。だから、ファーストキスは桃くんじゃなくて、私だね♡」
と、いたずらっぽく笑う。
「えっ、ほっぺとかじゃなく、く……」
「くちに……」
有栖が動揺した僕の言葉に重ねた。
両手をあわせて、にっこりとうれしそうに笑った。
目眩がする……寝耳に水だ。
そして、中学生の僕はなぜ起きないんだ!(もったいない)
有栖の記憶がどこまで本物でどこから幻想なのかはわからないけれど、地獄でしかないと思っていた有栖の中学時代に、幻想だとしても、そんなかわいい記憶に塗り替えられていたなら、そんな幸せなことってない。
僕の知らない有栖のかわいい思い出(それが有栖の作り出したものだとしても)をもっともっと聞いてみたい。
ガラッと病室の扉が開いて、ラフなスプリングコートを羽織った兄が入ってくる。
「今、病院の入り口で桃にあったよ。あれ?竜之介、なんでそんなに赤い顔してるんだ?」
桃は、有栖が病院に運ばれてからずっとあれこれ僕らによくしてくれていて、兄と僕が疲れたとき、有栖の看護を買ってでてくれたり、こんなふうに僕が苦手な英語の勉強を有栖に教えにきてくれたりしている。
いつか、桃は、僕と有栖が好きだとさらっと言っていた。あれがloveなのか、 likeなのかはわからないまま時が流れている。
桃が、たまにそっと有栖の肩や髪に触れることがあるけれど、有栖自身嫌がっている素振りはみせないし、不思議なことに僕も不快な気持ちにならないのだ。こんなこと初めてで自分でもちょっと驚いている。
有栖は何も話さないから水族館での一件は覚えているのかどうかもわからない。
でも、学校で会っていただけのクラスメイトとしての桃よりも、親しい雰囲気で話しているのはよくわかる。
***
桃と有栖が楽しそうに話しているから、僕は少し席を外そうとして、桃の花束を手にする。
「この花束、花瓶に生けてくるね」
水道で水を注いでいると、桃が追いかけてきた。
「なんでおまえまで来ちゃうんだよ」
僕が呟くように言うと、桃が金色に染めた髪をがしがしとかく。
この髪で大学行くつもりなのかな…。
「竜之介、前からちょっと思ってたけど、なんか誤解してない?」
え、べつに?
と言って振り返ろうとすると、急に桃に唇を塞がれた。
「…⁉︎⁉︎」
一瞬なにが起きたかわからず、固まってしまったが、キスをされていると気づき、咄嗟にバッと桃から身体を離す。
な、なにが起きたんだ…⁈
桃はイタズラっぽくにやにや笑いながら、親指の腹で唇を撫でている。
「言っただろ?俺は竜之介が好きだって。有栖ちゃんも好きだけど」
「……」
「好きな人から好きな人を奪う趣味はないの。むしろ2人セットでいてくれたら、俺はありがたいんだって…」
「何、言ってんだよ、意味がわからない…」
僕がたじたじと言うと、桃はにやっと笑って少し顎をあげながら小首を傾けた。
「わからないかな?好きな人に幸せでいてほしい気持ち」
それは…わかるけど…。
「とにかく」
と、桃は言葉を切って、片側の肩にかけたリュックを背負いなおす。
「次、変な誤解したら、今度は有栖ちゃんにキスするから覚悟しなよ」.
「……!」
***
病室に戻ると、有栖は真面目に桃が置いていった英語の宿題を解いていた。
「おかえり……あれ?桃くん帰っちゃったの?」
顔をあげて有栖が尋ねる。
「?? リュウ、顔が赤いよ?なんかあった…?」
「はは…桃にファーストキスを奪われちゃった……」
あまりに有栖が無垢な顔で尋ねるので、つい正直に答えてしまう。
言った瞬間、しまった、驚かれるかな?と思ったら、有栖はきょとんとした顔をしたあとにっこりと笑って、
「うふふ、桃くん、リュウが大好きだものね…」
と、続ける。
「え、知ってたの…?」
つい僕は声のボリュームをあげてしまう。
「見てたらわかるよ。いつも桃くん言ってるし。竜之介がかわいいーって」
えー…
有栖はパタンとノートを閉じる。
「だから、私も言ってるの。でしょ?リュウはかわいくてかっこいいでしょ?って。私の弟だもん…」
有栖は口元に手を当ててくすくすと笑う。手首にはもう包帯は巻かれておらず、微かに古傷が残るだけだ。
かわいいとは心外だし、弟としか見られていないと言われているようなものなんだけど、なんだかくすぐったい気持ちになる。
そして追い討ちをかけるように有栖は続ける。
「それにリュウは、桃くんがファーストキスじゃないよ?」
「え!?」
「私、高校にあがるくらいまで、リュウの寝顔見るたびにかわいくってキスしてたもの。リュウはぜんぜん起きなかったけど。だから、ファーストキスは桃くんじゃなくて、私だね♡」
と、いたずらっぽく笑う。
「えっ、ほっぺとかじゃなく、く……」
「くちに……」
有栖が動揺した僕の言葉に重ねた。
両手をあわせて、にっこりとうれしそうに笑った。
目眩がする……寝耳に水だ。
そして、中学生の僕はなぜ起きないんだ!(もったいない)
有栖の記憶がどこまで本物でどこから幻想なのかはわからないけれど、地獄でしかないと思っていた有栖の中学時代に、幻想だとしても、そんなかわいい記憶に塗り替えられていたなら、そんな幸せなことってない。
僕の知らない有栖のかわいい思い出(それが有栖の作り出したものだとしても)をもっともっと聞いてみたい。
ガラッと病室の扉が開いて、ラフなスプリングコートを羽織った兄が入ってくる。
「今、病院の入り口で桃にあったよ。あれ?竜之介、なんでそんなに赤い顔してるんだ?」
0
あなたにおすすめの小説
記憶をなくしても君は忘れない
水城ひさぎ
恋愛
本田光莉(ほんだひかり)、アメリカ・ロサンゼルス在住フォトグラファー、28歳。光莉には、松村理乃(まつむらりの)という同い年の異母姉がいる。行方不明になった理乃を探すため、日本へやってきた光莉は、高校時代の元カレ、月島拓海(つきしまたくみ)と再会する。しかし、彼は高校時代以降の記憶を喪失していた……。
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
【R18】熱い夜の相手は王太子!? ~婚約者だと告げられましたが、記憶がございません~
世界のボボブラ汁(エロル)
恋愛
激しい夜を過ごしたあと、私は気づいてしまった。
──え……この方、誰?
相手は王太子で、しかも私の婚約者だという。
けれど私は、自分の名前すら思い出せない。
訳も分からず散った純潔、家族や自分の姿への違和感──混乱する私に追い打ちをかけるように、親友(?)が告げた。
「あなた、わたくしのお兄様と恋人同士だったのよ」
……え、私、恋人がいたのに王太子とベッドを共に!?
しかも王太子も恋人も、社交界を騒がすモテ男子。
もしかして、そのせいで私は命を狙われている?
公爵令嬢ベアトリス(?)が記憶を取り戻した先に待つのは── 愛か、陰謀か、それとも破滅か。
全米がハラハラする宮廷恋愛ストーリー……になっていてほしいですね!
※本作品はR18表現があります、ご注意ください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
十八歳で必ず死ぬ令嬢ですが、今日もまた目を覚ましました【完結】
藤原遊
恋愛
十八歳で、私はいつも死ぬ。
そしてなぜか、また目を覚ましてしまう。
記憶を抱えたまま、幼い頃に――。
どれほど愛されても、どれほど誰かを愛しても、
結末は変わらない。
何度生きても、十八歳のその日が、私の最後になる。
それでも私は今日も微笑む。
過去を知るのは、私だけ。
もう一度、大切な人たちと過ごすために。
もう一度、恋をするために。
「どうせ死ぬのなら、あなたにまた、恋をしたいの」
十一度目の人生。
これは、記憶を繰り返す令嬢が紡ぐ、優しくて、少しだけ残酷な物語。
12年目の恋物語
真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。
だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。
すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。
2人が結ばれるまでの物語。
第一部「12年目の恋物語」完結
第二部「13年目のやさしい願い」完結
第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中
※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる