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第4.5話 うさぎと猟犬
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# 第4.5話 うさぎと猟犬
――時は遡り、クラウンの居場所へ向かう直前の車内。
エンジン音だけが流れる沈黙の中、ナオがぽつりと呟いた。
「……雪って、あんな声出すんだな。」
助手席のルカがちらりと横目を向ける。
「ああ、…刺さったろ?」
「……正直、背筋が冷えた。」
ナオの声には、わずかな警戒がにじんでいた。
ルカは笑った。
けれど、それはどこか苦笑に近い。
「まあ、初見はそうなるよな。雪、ああいうとき“狩り”に入ってんだ。」
ナオが目を細める。
「“狩り”?……雪が?」
「うん。普段はふわふわしてるけど、ああなると――」
窓の外に目をやったまま、ルカはゆっくりと続けた。
「――例えば前に……俺のPCに、外部からウイルス仕込まれててさ。
ファイル壊れるわ、マウス暴走するわで、どうしようもなくて……雪に頼んだ。」
ナオは目線だけで反応する。
「……で?」
「画面越しに黙って見てた雪が、ぽつりと言ったんだ。
“ルカ兄ちゃんのPCに……何してくれてんの”って、冷えた声で。」
ナオの眉がぴくりと動く。
「うさぎの逆鱗に触れた、と。」
「ああ、そっからはもう…」
ルカはふっと息を吐き、肩をすくめる。
「そのまますげぇ勢いで、ウイルス駆除、発信元逆探知、回線潰し、掃除。
PC画面、すげーチカチカして訳分かんなかったわ。」
ナオは息を吐く。
ルカは少しだけ笑って、でも声の奥に微かな圧をにじませた。
「何が怖いって、あの雪がぶつぶつ喋ってんの。
“やったなこのやろう……”とか、“駆逐してやる”とか。」
車内に、言葉の余韻だけが落ちた。
ナオがフロントガラスの向こうに目を向けながら、小さく漏らす。
「……ギャップありすぎだろ。」
「だろ?いつもは小動物みたいな顔してるけど、あれは……肉食獣だな。」
…本当の“異常”は、そんな雪を、
俺たちが笑って受け入れてることかもしれない。
「それ、本人に言ったら怒られるぞ」
「言わねぇよ……っていうかさ。」
ルカは、ちらりと自分の肩を見やった。
そこには、肩に貼りつく、うさぎ型の小さなドローン。
ぴこぴこと、無言で揺れる耳。
『……ねぇ、聞こえてるんだけど?』
ピシリと空気を裂くような雪の声が、ドローン越しに落ちた。
ルカとナオが同時に固まる。
「……やべ。」
「……忘れてた。」
ドローンの"目"が、じっとこちらを見ている。
『…………。』
うさぎは、ただその耳を小さく揺らした。
その沈黙が逆に恐ろしく、
二人はただ前を見ていることしかできなかった。
――…。
「……クラウン、大丈夫かな。」
ルカがぽつりとつぶやくと、ナオが眉をひそめた。
「……どっちの味方だよ。」
アクセルを踏む足が、微かに震えた。
――時は遡り、クラウンの居場所へ向かう直前の車内。
エンジン音だけが流れる沈黙の中、ナオがぽつりと呟いた。
「……雪って、あんな声出すんだな。」
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「ああ、…刺さったろ?」
「……正直、背筋が冷えた。」
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けれど、それはどこか苦笑に近い。
「まあ、初見はそうなるよな。雪、ああいうとき“狩り”に入ってんだ。」
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「うん。普段はふわふわしてるけど、ああなると――」
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「……で?」
「画面越しに黙って見てた雪が、ぽつりと言ったんだ。
“ルカ兄ちゃんのPCに……何してくれてんの”って、冷えた声で。」
ナオの眉がぴくりと動く。
「うさぎの逆鱗に触れた、と。」
「ああ、そっからはもう…」
ルカはふっと息を吐き、肩をすくめる。
「そのまますげぇ勢いで、ウイルス駆除、発信元逆探知、回線潰し、掃除。
PC画面、すげーチカチカして訳分かんなかったわ。」
ナオは息を吐く。
ルカは少しだけ笑って、でも声の奥に微かな圧をにじませた。
「何が怖いって、あの雪がぶつぶつ喋ってんの。
“やったなこのやろう……”とか、“駆逐してやる”とか。」
車内に、言葉の余韻だけが落ちた。
ナオがフロントガラスの向こうに目を向けながら、小さく漏らす。
「……ギャップありすぎだろ。」
「だろ?いつもは小動物みたいな顔してるけど、あれは……肉食獣だな。」
…本当の“異常”は、そんな雪を、
俺たちが笑って受け入れてることかもしれない。
「それ、本人に言ったら怒られるぞ」
「言わねぇよ……っていうかさ。」
ルカは、ちらりと自分の肩を見やった。
そこには、肩に貼りつく、うさぎ型の小さなドローン。
ぴこぴこと、無言で揺れる耳。
『……ねぇ、聞こえてるんだけど?』
ピシリと空気を裂くような雪の声が、ドローン越しに落ちた。
ルカとナオが同時に固まる。
「……やべ。」
「……忘れてた。」
ドローンの"目"が、じっとこちらを見ている。
『…………。』
うさぎは、ただその耳を小さく揺らした。
その沈黙が逆に恐ろしく、
二人はただ前を見ていることしかできなかった。
――…。
「……クラウン、大丈夫かな。」
ルカがぽつりとつぶやくと、ナオが眉をひそめた。
「……どっちの味方だよ。」
アクセルを踏む足が、微かに震えた。
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