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三章
四十話 私にできること
翌日、マリアンヌ様は朝十時に公爵邸にやってきた。
大きなカバンを持って、ドレスは控えめながら上品で美しく、髪も綺麗に纏められている。
私の案内によって屋敷に足を踏み入れたマリアンヌ様は、ズラリと並ぶ使用人、そしてクラウド様と私に向かって丁寧に礼をした。
「本日からお世話になります。マリアンヌ・コーニッシュと申します。不束者ではございますが、本日からグレンウィル公爵の補佐をさせていただきます。皆様、よろしくお願いいたしますわ」
完璧なカーテシー。
とても、昨日挨拶もなしにクラウド様の自室へ入室してきた方と同一人物とは思えない。流石は侯爵令嬢と思わせる気品だった。
「よく来てくれたな、マリアンヌ」
「いいえ、むしろ少し遅くなってしまい、申し訳ございません。クラウド様さえよければ、早速ですが公爵邸に案内していただけますか?」
「わかった。まずは俺の仕事部屋に案内するよ」
クラウド様が一歩前に出て、マリアンヌ様を先導する。
いくらクラウド様と旧知の仲だからといって、クラウド様自らに屋敷の案内役を指名しなくても……と、つい嫉妬してしまった。
だめね、私。これからは毎日この二人が一緒にいる風景を見なきゃいけないのに、こんな小さなことを気にするなんて……。
ぺちん、と小さく頬を両手で叩く。切り替えしないとね。
私は、グレンウィル公爵夫人なんですもの。私は私にできること……あの二人が円滑に仕事できるよう、裏方に徹しなければ。
そう思って、私は後ろで控えてくれていたセーラに声をかけた。
「セーラ、ちょっとお願いを聞いてもらえるかしら?」
「はい、アイリス様のお願いでしたらなんでも叶えますよ!」
***
「すみません、無理です……」
「あら、なんでも叶えてくれるんじゃなかったの?」
「言いましたけど! 流石にこれは私には無理ですよ! アイリス様に……使用人と同じ服を着させる、なんて!!!」
セーラは涙ぐみながらぶんぶんと首を振った。
でも、私だってここで引くわけには行かない。
「私にできることを探した結果なのよ。今週は特に招待状も来ていないし……。それなら、私は少しでも公爵邸の皆を安心させるために、一緒に働きたいと思ったの」
「……私はアイリス様のそういうところが好きです。でも、アイリス様がクラウド様やマリアンヌ様の使用人のような扱いを受けることになるのは……私、耐えられないです」
セーラは、本当に優しい子だ。
そして、私のことを誰よりも『公爵夫人』として慕ってくれている。
「第一、私はマリアンヌ様のことを……あまり良い感情で見ることができません! だって、クラウド様の妻はアイリス様なのに、あんな風に近付くなんて……! それに、クラウド様もクラウド様ですよ! 未婚の令嬢を自分の仕事部屋に入れるなんて……」
そんな風に、セーラは燻っていた感情を爆発させたように叫んだ。
____ねぇセーラ。あなたのその優しさが、私に勇気をくれるのよ。今だって、そう。
私はセーラに笑いかけて、穏やかな気持ちで告げた。
「あのね、セーラ。私は……クラウド様のことを愛してる。でも、マリアンヌ様のことだって嫌いにはなれないし……何より、屋敷の皆のことが心配なの」
「アイリス様……」
「せっかくの機会だもの、私も皆の仕事を理解するのにちょうど良いタイミングだと思わない?」
「……私、やっぱりアイリス様が好きです」
「ふふ、私もあなたが好きよ」
少し複雑な表情をしながらも、セーラがやっと笑った。
それから少しして、諦めたように自室から侍女用の仕事着を持ってきてくれたのだった。
____さて、頑張らなくっちゃ……ね……。
***
※次回、クラウド様視点です。
大きなカバンを持って、ドレスは控えめながら上品で美しく、髪も綺麗に纏められている。
私の案内によって屋敷に足を踏み入れたマリアンヌ様は、ズラリと並ぶ使用人、そしてクラウド様と私に向かって丁寧に礼をした。
「本日からお世話になります。マリアンヌ・コーニッシュと申します。不束者ではございますが、本日からグレンウィル公爵の補佐をさせていただきます。皆様、よろしくお願いいたしますわ」
完璧なカーテシー。
とても、昨日挨拶もなしにクラウド様の自室へ入室してきた方と同一人物とは思えない。流石は侯爵令嬢と思わせる気品だった。
「よく来てくれたな、マリアンヌ」
「いいえ、むしろ少し遅くなってしまい、申し訳ございません。クラウド様さえよければ、早速ですが公爵邸に案内していただけますか?」
「わかった。まずは俺の仕事部屋に案内するよ」
クラウド様が一歩前に出て、マリアンヌ様を先導する。
いくらクラウド様と旧知の仲だからといって、クラウド様自らに屋敷の案内役を指名しなくても……と、つい嫉妬してしまった。
だめね、私。これからは毎日この二人が一緒にいる風景を見なきゃいけないのに、こんな小さなことを気にするなんて……。
ぺちん、と小さく頬を両手で叩く。切り替えしないとね。
私は、グレンウィル公爵夫人なんですもの。私は私にできること……あの二人が円滑に仕事できるよう、裏方に徹しなければ。
そう思って、私は後ろで控えてくれていたセーラに声をかけた。
「セーラ、ちょっとお願いを聞いてもらえるかしら?」
「はい、アイリス様のお願いでしたらなんでも叶えますよ!」
***
「すみません、無理です……」
「あら、なんでも叶えてくれるんじゃなかったの?」
「言いましたけど! 流石にこれは私には無理ですよ! アイリス様に……使用人と同じ服を着させる、なんて!!!」
セーラは涙ぐみながらぶんぶんと首を振った。
でも、私だってここで引くわけには行かない。
「私にできることを探した結果なのよ。今週は特に招待状も来ていないし……。それなら、私は少しでも公爵邸の皆を安心させるために、一緒に働きたいと思ったの」
「……私はアイリス様のそういうところが好きです。でも、アイリス様がクラウド様やマリアンヌ様の使用人のような扱いを受けることになるのは……私、耐えられないです」
セーラは、本当に優しい子だ。
そして、私のことを誰よりも『公爵夫人』として慕ってくれている。
「第一、私はマリアンヌ様のことを……あまり良い感情で見ることができません! だって、クラウド様の妻はアイリス様なのに、あんな風に近付くなんて……! それに、クラウド様もクラウド様ですよ! 未婚の令嬢を自分の仕事部屋に入れるなんて……」
そんな風に、セーラは燻っていた感情を爆発させたように叫んだ。
____ねぇセーラ。あなたのその優しさが、私に勇気をくれるのよ。今だって、そう。
私はセーラに笑いかけて、穏やかな気持ちで告げた。
「あのね、セーラ。私は……クラウド様のことを愛してる。でも、マリアンヌ様のことだって嫌いにはなれないし……何より、屋敷の皆のことが心配なの」
「アイリス様……」
「せっかくの機会だもの、私も皆の仕事を理解するのにちょうど良いタイミングだと思わない?」
「……私、やっぱりアイリス様が好きです」
「ふふ、私もあなたが好きよ」
少し複雑な表情をしながらも、セーラがやっと笑った。
それから少しして、諦めたように自室から侍女用の仕事着を持ってきてくれたのだった。
____さて、頑張らなくっちゃ……ね……。
***
※次回、クラウド様視点です。
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