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ベルナデッタの恋
十五話 ヒビが入った音がした
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それからも、私とユージン様、そしてビアンカの関係は変わらなかった。
お茶会は相変わらず三人ですることが多かったし、ユージン様が私とあまり目を合わせてくれないのもいつも通り。
そのくせして、ビアンカには微笑んだり積極的に話しかけたりするのもいつも通りだった。
それでもビアンカは必死に私に話を振ってくれたけれど……。
それを全部台無しにしてしまうのが、ユージン様という方なのよね……。
それでも、なんだかんだ言って私は幸せだったと思う。
例えユージン様がビアンカのことを好きだとしても、私はユージン様のことが好きだし、一緒にいられるだけで幸せだったから。
____そんな薄氷の上を歩んでいるような幸せに大きなヒビが入ったのは、それから二年経った後のことだ。
十六歳になり、私は社交界デビューを果たした。
エスコートはもちろん婚約者であるユージン様。
私は舞踏会に参加するのが初めてだったから知らなかったけれど……ユージン様は、女性にものすごく人気があるらしかった。
考えてみれば当然だ。
伯爵令息でありながら、圧倒的な美貌にクールな性格。頭も良くて、剣の腕前も一流。
人気が出ない方がおかしいというものだ。
私が初めて出会った時から美しい方だったけれど、最近は更にその美しさに磨きがかかったように思える。
舞踏会が始まると、あっという間にユージン様はご令嬢に囲まれてしまった。
私が婚約者だということは皆様ご存知だったみたいだけれど……。
子爵令嬢の私相手なら奪えると思われているのか、堂々とアプローチをするご令嬢が後を絶たなかった。
そんな中、あるご令嬢がユージン様に問いかけたのだ。
「あんな婚約者よりも、私の方が可愛いと思いませんか?」
私にもユージン様にも、これ以上ないくらい失礼な質問である。
さすがに黙っていられないと思って口を挟もうとした私を、ユージン様が手で制した。
そして、堂々とこう告げたのである。
「お言葉だが、あなたよりもビアンカの方が可愛らしい」
私はもう、意味がわからなかった。
いえ、わかってはいたわ。
ユージン様がビアンカのことを好きなことくらい、理解していたつもり。
でも、舞踏会の場くらい、私の顔を立ててくれても良いじゃない。
私にも、立場ってものがあるのよ、ユージン様。
想像通り、周りに群がっていたご令嬢は「ビアンカ……?」「どなたですの?」とざわついている。
冷静なのは、ユージン様ただ一人。
「ビアンカはベルナデッタの妹だ」
「妹……? つまりユージン様は、ベルナデッタ様よりそのビアンカ様の方が可愛らしいと思っているということですの?」
「あぁ、ビアンカのことは妹のように思っている。そしてベルナデッタのことは____」
「では、私達にもチャンスがあるということですか!?」
群がっていたご令嬢のうちの一人が、ユージン様の言葉を遮って叫んだ。
「いや、そういうわけではない。私の婚約者はベルナデッタであり、ベルナデッタは____」
「でも、可愛らしいとは思っていないのでしょう? なら、婚約破棄をされた方がよろしいのでは……」
「ちょっとあなた、言い過ぎよ!!」
またしてもユージン様の言葉を遮ったご令嬢を、流石に取り巻きの一人が止めに入った。
だが、もう遅い。
ユージン様の発言によって、この会場で私は「妹の方が可愛いと思われている婚約者」として覚えられてしまった。
……というか、いくらユージン様がビアンカのことが好きだからって、こんな場でこんなことを言わなくてもいいじゃない……。
____なんだか、疲れたわ。
「ごめんなさい、私少し気分が優れませんので……ここで失礼いたしますね」
「待てベルナデッタ。私も一緒に……」
「いえ、私一人で構いませんわ。ユージン様はどうぞお好きになさって?」
ユージン様を振り切って、一人で会場を出る。
先程ユージン様に群がっていたご令嬢達が、そんな私を見てクスクスと笑っているのが聞こえてきた。
私は早歩きをして、急いで会場のドアを閉める。
それからゲストルームにいる父に会いに行って、「今すぐ子爵邸に帰りたい」と言った。
父は、何か聞きたそうな顔をしていたけれど……何も聞かずに、「わかったよ」と馬車を出してくれた。
私は婚約者の愛には恵まれなかったけれど、家族の愛には本当に恵まれたわ。
静かな馬車の中で、私は胸元のアメジストを震える手で握りしめていた。
いっそ、嫌いになれたらどれだけ楽だったのかしら。
でも、無理でしょうね。このアメジストの思い出がある限り、私はあなたへの想いを捨てられない。
……この涙と一緒に、恋心も流れてしまえばいいのにね。
____こうして、私のデビュタントは苦い思い出となって幕を閉じたのだった。
お茶会は相変わらず三人ですることが多かったし、ユージン様が私とあまり目を合わせてくれないのもいつも通り。
そのくせして、ビアンカには微笑んだり積極的に話しかけたりするのもいつも通りだった。
それでもビアンカは必死に私に話を振ってくれたけれど……。
それを全部台無しにしてしまうのが、ユージン様という方なのよね……。
それでも、なんだかんだ言って私は幸せだったと思う。
例えユージン様がビアンカのことを好きだとしても、私はユージン様のことが好きだし、一緒にいられるだけで幸せだったから。
____そんな薄氷の上を歩んでいるような幸せに大きなヒビが入ったのは、それから二年経った後のことだ。
十六歳になり、私は社交界デビューを果たした。
エスコートはもちろん婚約者であるユージン様。
私は舞踏会に参加するのが初めてだったから知らなかったけれど……ユージン様は、女性にものすごく人気があるらしかった。
考えてみれば当然だ。
伯爵令息でありながら、圧倒的な美貌にクールな性格。頭も良くて、剣の腕前も一流。
人気が出ない方がおかしいというものだ。
私が初めて出会った時から美しい方だったけれど、最近は更にその美しさに磨きがかかったように思える。
舞踏会が始まると、あっという間にユージン様はご令嬢に囲まれてしまった。
私が婚約者だということは皆様ご存知だったみたいだけれど……。
子爵令嬢の私相手なら奪えると思われているのか、堂々とアプローチをするご令嬢が後を絶たなかった。
そんな中、あるご令嬢がユージン様に問いかけたのだ。
「あんな婚約者よりも、私の方が可愛いと思いませんか?」
私にもユージン様にも、これ以上ないくらい失礼な質問である。
さすがに黙っていられないと思って口を挟もうとした私を、ユージン様が手で制した。
そして、堂々とこう告げたのである。
「お言葉だが、あなたよりもビアンカの方が可愛らしい」
私はもう、意味がわからなかった。
いえ、わかってはいたわ。
ユージン様がビアンカのことを好きなことくらい、理解していたつもり。
でも、舞踏会の場くらい、私の顔を立ててくれても良いじゃない。
私にも、立場ってものがあるのよ、ユージン様。
想像通り、周りに群がっていたご令嬢は「ビアンカ……?」「どなたですの?」とざわついている。
冷静なのは、ユージン様ただ一人。
「ビアンカはベルナデッタの妹だ」
「妹……? つまりユージン様は、ベルナデッタ様よりそのビアンカ様の方が可愛らしいと思っているということですの?」
「あぁ、ビアンカのことは妹のように思っている。そしてベルナデッタのことは____」
「では、私達にもチャンスがあるということですか!?」
群がっていたご令嬢のうちの一人が、ユージン様の言葉を遮って叫んだ。
「いや、そういうわけではない。私の婚約者はベルナデッタであり、ベルナデッタは____」
「でも、可愛らしいとは思っていないのでしょう? なら、婚約破棄をされた方がよろしいのでは……」
「ちょっとあなた、言い過ぎよ!!」
またしてもユージン様の言葉を遮ったご令嬢を、流石に取り巻きの一人が止めに入った。
だが、もう遅い。
ユージン様の発言によって、この会場で私は「妹の方が可愛いと思われている婚約者」として覚えられてしまった。
……というか、いくらユージン様がビアンカのことが好きだからって、こんな場でこんなことを言わなくてもいいじゃない……。
____なんだか、疲れたわ。
「ごめんなさい、私少し気分が優れませんので……ここで失礼いたしますね」
「待てベルナデッタ。私も一緒に……」
「いえ、私一人で構いませんわ。ユージン様はどうぞお好きになさって?」
ユージン様を振り切って、一人で会場を出る。
先程ユージン様に群がっていたご令嬢達が、そんな私を見てクスクスと笑っているのが聞こえてきた。
私は早歩きをして、急いで会場のドアを閉める。
それからゲストルームにいる父に会いに行って、「今すぐ子爵邸に帰りたい」と言った。
父は、何か聞きたそうな顔をしていたけれど……何も聞かずに、「わかったよ」と馬車を出してくれた。
私は婚約者の愛には恵まれなかったけれど、家族の愛には本当に恵まれたわ。
静かな馬車の中で、私は胸元のアメジストを震える手で握りしめていた。
いっそ、嫌いになれたらどれだけ楽だったのかしら。
でも、無理でしょうね。このアメジストの思い出がある限り、私はあなたへの想いを捨てられない。
……この涙と一緒に、恋心も流れてしまえばいいのにね。
____こうして、私のデビュタントは苦い思い出となって幕を閉じたのだった。
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