35 / 43
二人の決断
三十五話 私の痛みはこんなものじゃない
しおりを挟む
ユージン様がヨロ……と体勢を崩す。
____パシンッ!
私はそれに構わず、もう一度逆方向から平手打ちをお見舞いしてやった。
これには流石にユージン様も驚いたらしく、呆然とした表情で私を見ている。
「痛いですか?」
私は淡々と問いかける。
ユージン様は困惑した様子で口を開いた。
「いや……まぁ……結構強くいったな……とは」
「……こんなの、生温いくらいですわ。私はユージン様に出会ってからの八年間、もっとずっと痛かったんです……!」
つい感情が昂って小さく叫ぶと、ユージン様は顔をぐしゃりと歪めた。
「第一……ビアンカにはお土産でピンクダイヤを渡したくせに、どうして私へのプロポーズにもピンクダイヤの指輪なんですか!?」
「……それは、プロポーズをしたいと店員に相談したら、オススメされて……」
「考えが浅すぎます!! それに、文通されていたのだって、いつもビアンカを先に褒めるのだって、全部私は辛かったし、痛かった……!」
握った手のひらに爪が食い込んで、痛い。
……でも、もっと痛いのは、悲鳴をあげている私の心だった。
ユージン様はゆっくりと目を瞑って、懺悔するように小さく呟いた。
「…………そうだな。君の苦しみに気付けなかった私が痛がっていいはずがない」
「……」
涙が溢れそうになるのを必死で堪える。
でも、泣いちゃダメ。
強い女性になるんなら、こんなところで泣いてはいられない。
「……幻滅しましたか? 夫に手を上げる妻だなんて……離縁したって構わないんですよ」
「それは、嫌だ……! 君の気が済むまで、何度でも殴っていい!」
「……それはもう、いいです。私の手も痛くなりますもの」
「なら、なんでもする、君のためならなんだってするから……! ……捨てないで、ほしい……」
____驚いた。
まさかあのユージン様が、こんな弱音を吐くなんて思っていなかったもの。
……私達、本当にお互いのことをなんにも知らないのね。
私はふぅ、と息を整えてから、ユージン様に向き直った。
「捨てませんよ。悔しいですが、私もあなたのことを愛してしまっているのですから……。まぁ、嫌いになりたいとは何度も思いましたが……」
「……すまなかった」
「そうですね。……でも、これでようやく私達、スタートラインに立てたと思いませんか?」
私は涙を堪えながらも、必死で笑顔を作る。
ユージン様は、私の発言を聞いてぱちんと瞬きをした。
「スタートライン?」
「はい。だって私達、八年間も婚約者をやっていたのに、お互いのこと何も知らなかったでしょう? だから、このまま離縁することもできるんですよ」
「……それは、嫌だ」
ユージン様が泣きそうな顔で声を絞り出す。
……少し、意地悪をしすぎてしまったかしら。
「でしたら、ここが始まりです。今までのことは……正直、許すことはできません。でも、私達に気持ちがある限りは、まだこれからやり直すことができます」
私はそう告げて、ユージン様の頬に今度はそっと優しく手を添えた。
……私のせいで、真っ赤になっちゃったわね。
「ですから……私達、今日からやり直しましょう。もっとお互いのことを知りましょう」
「……私から、離れないでいてくれるのか」
「先ほど挙げた約束を守ってくださる限りは、隣であなたを支えます。だから……約束、ちゃんと守ってくださいね」
「あぁ、約束する。本当に……今まで、すまなかった……!」
そう言って、ユージン様は深々と頭を下げた。
その姿を見て、今まで苦しんできた私もようやく、少しだけ報われたような気がした。
「……君の両親と私の両親にも、今までのことを全て話させてくれ。例え殴られようと、何度でも頭を下げて許しを乞う」
「えっ……いえ、そこまでしていただく必要は……」
「いや、必要なことだ。これから私達は……家族になるのだから」
ユージン様がゆっくりと頭を上げて、ハッキリと宣言した。
「はい、そうですね……。私達、ようやく向き合うことが出来たんですもの。……お互いの両親に話をして、その後は二人でこれからのことを話しましょう。……時間は、いくらでもあるのですから」
「…………君は本当に、優しすぎるな」
「あら、誰かさんのせいで、随分寛大になってしまったのですわ」
「うぐ……」
「ふふ、冗談です」
ユージン様がバツの悪そうな顔をする。
そんなユージン様の姿を見て、私はやっと心から笑うことができたのだった。
____これでようやく私達は、スタートラインに立てたのだ。
____パシンッ!
私はそれに構わず、もう一度逆方向から平手打ちをお見舞いしてやった。
これには流石にユージン様も驚いたらしく、呆然とした表情で私を見ている。
「痛いですか?」
私は淡々と問いかける。
ユージン様は困惑した様子で口を開いた。
「いや……まぁ……結構強くいったな……とは」
「……こんなの、生温いくらいですわ。私はユージン様に出会ってからの八年間、もっとずっと痛かったんです……!」
つい感情が昂って小さく叫ぶと、ユージン様は顔をぐしゃりと歪めた。
「第一……ビアンカにはお土産でピンクダイヤを渡したくせに、どうして私へのプロポーズにもピンクダイヤの指輪なんですか!?」
「……それは、プロポーズをしたいと店員に相談したら、オススメされて……」
「考えが浅すぎます!! それに、文通されていたのだって、いつもビアンカを先に褒めるのだって、全部私は辛かったし、痛かった……!」
握った手のひらに爪が食い込んで、痛い。
……でも、もっと痛いのは、悲鳴をあげている私の心だった。
ユージン様はゆっくりと目を瞑って、懺悔するように小さく呟いた。
「…………そうだな。君の苦しみに気付けなかった私が痛がっていいはずがない」
「……」
涙が溢れそうになるのを必死で堪える。
でも、泣いちゃダメ。
強い女性になるんなら、こんなところで泣いてはいられない。
「……幻滅しましたか? 夫に手を上げる妻だなんて……離縁したって構わないんですよ」
「それは、嫌だ……! 君の気が済むまで、何度でも殴っていい!」
「……それはもう、いいです。私の手も痛くなりますもの」
「なら、なんでもする、君のためならなんだってするから……! ……捨てないで、ほしい……」
____驚いた。
まさかあのユージン様が、こんな弱音を吐くなんて思っていなかったもの。
……私達、本当にお互いのことをなんにも知らないのね。
私はふぅ、と息を整えてから、ユージン様に向き直った。
「捨てませんよ。悔しいですが、私もあなたのことを愛してしまっているのですから……。まぁ、嫌いになりたいとは何度も思いましたが……」
「……すまなかった」
「そうですね。……でも、これでようやく私達、スタートラインに立てたと思いませんか?」
私は涙を堪えながらも、必死で笑顔を作る。
ユージン様は、私の発言を聞いてぱちんと瞬きをした。
「スタートライン?」
「はい。だって私達、八年間も婚約者をやっていたのに、お互いのこと何も知らなかったでしょう? だから、このまま離縁することもできるんですよ」
「……それは、嫌だ」
ユージン様が泣きそうな顔で声を絞り出す。
……少し、意地悪をしすぎてしまったかしら。
「でしたら、ここが始まりです。今までのことは……正直、許すことはできません。でも、私達に気持ちがある限りは、まだこれからやり直すことができます」
私はそう告げて、ユージン様の頬に今度はそっと優しく手を添えた。
……私のせいで、真っ赤になっちゃったわね。
「ですから……私達、今日からやり直しましょう。もっとお互いのことを知りましょう」
「……私から、離れないでいてくれるのか」
「先ほど挙げた約束を守ってくださる限りは、隣であなたを支えます。だから……約束、ちゃんと守ってくださいね」
「あぁ、約束する。本当に……今まで、すまなかった……!」
そう言って、ユージン様は深々と頭を下げた。
その姿を見て、今まで苦しんできた私もようやく、少しだけ報われたような気がした。
「……君の両親と私の両親にも、今までのことを全て話させてくれ。例え殴られようと、何度でも頭を下げて許しを乞う」
「えっ……いえ、そこまでしていただく必要は……」
「いや、必要なことだ。これから私達は……家族になるのだから」
ユージン様がゆっくりと頭を上げて、ハッキリと宣言した。
「はい、そうですね……。私達、ようやく向き合うことが出来たんですもの。……お互いの両親に話をして、その後は二人でこれからのことを話しましょう。……時間は、いくらでもあるのですから」
「…………君は本当に、優しすぎるな」
「あら、誰かさんのせいで、随分寛大になってしまったのですわ」
「うぐ……」
「ふふ、冗談です」
ユージン様がバツの悪そうな顔をする。
そんなユージン様の姿を見て、私はやっと心から笑うことができたのだった。
____これでようやく私達は、スタートラインに立てたのだ。
635
あなたにおすすめの小説
一年だけの夫婦でも私は幸せでした。
クロユキ
恋愛
騎士のブライドと結婚をしたフローズンは夫がまだ婚約者だった姉を今でも想っている事を知っていた。
フローズンとブライドは政略結婚で結婚式当日にブライドの婚約者だった姉が姿を消してしまった。
フローズンは姉が戻るまでの一年の夫婦の生活が始まった。
更新が不定期です。誤字脱字がありますが宜しくお願いします。
余命わずかな私は、好きな人に愛を伝えて素っ気なくあしらわれる日々を楽しんでいる
ラム猫
恋愛
王城の図書室で働くルーナは、見た目には全く分からない特殊な病により、余命わずかであった。悲観はせず、彼女はかねてより憧れていた冷徹な第一騎士団長アシェンに毎日愛を告白し、彼の困惑した反応を見ることを最後の人生の楽しみとする。アシェンは一貫してそっけない態度を取り続けるが、ルーナのひたむきな告白は、彼の無関心だった心に少しずつ波紋を広げていった。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも同じ作品を投稿しています
※全十七話で完結の予定でしたが、勝手ながら二話ほど追加させていただきます。公開は同時に行うので、完結予定日は変わりません。本編は十五話まで、その後は番外編になります。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
2番目の1番【完】
綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。
騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。
それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。
王女様には私は勝てない。
結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。
※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです
自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。
批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…
嫌われたと思って離れたのに
ラム猫
恋愛
私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。
距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。
もう演じなくて結構です
梨丸
恋愛
侯爵令嬢セリーヌは最愛の婚約者が自分のことを愛していないことに気づく。
愛しの婚約者様、もう婚約者を演じなくて結構です。
11/5HOTランキング入りしました。ありがとうございます。
感想などいただけると、嬉しいです。
11/14 完結いたしました。
11/16 完結小説ランキング総合8位、恋愛部門4位ありがとうございます。
妹さんが婚約者の私より大切なのですね
はまみ
恋愛
私の婚約者、オリオン子爵令息様は、
妹のフローラ様をとても大切にされているの。
家族と仲の良いオリオン様は、きっととてもお優しいのだわ。
でも彼は、妹君のことばかり…
この頃、ずっとお会いできていないの。
☆お気に入りやエール、♥など、ありがとうございます!励みになります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる