魔王ちゃんの恩返し~さきほど助けていただいた、あなたの妻です~

今井三太郎/マライヤ・ムー

文字の大きさ
34 / 36
第三章「魔王ちゃん、王都を救う」

第三十四話「いきなりランクアップ」

しおりを挟む
 冒険者ギルドの執務室。
 フィンとクレイはソファーに座ってテーブルを挟み、ギルド長キリルと対面していた。

「なるほど、君はリーンベイル出身ですか」

 そう言いながら、キリルはたもとから小さな包みを取り出す。
 中に入った粉薬を口に入れると、秘書が用意した水で喉に流し込んだ。

「リーンベイルをご存知なんですね」

 フィンが尋ねると、キリルはハンカチで口元をぬぐって答えた。

「もちろん。〈治癒の薬草〉の有名な産地ではないですか」

 自分の腹を撫でながら、キリルは言った。

「リーンベイルの〈治癒の薬草〉は〈ヌメヌメ草〉と調合することで、素晴らしい胃薬になるんです」

 キリルは青白い顔でニヤリと笑う。

「私は状況に合わせて数種類の胃薬を使い分けています。今のは“冒険者に謝罪するとき用”の胃薬です。久々に飲みましたよ」
「それはどうも……」

 フィンはなんだか、逆にこちらが謝らなければいけないような気がしてくる。
 キリルはもういちど、頭を下げた。

「本当に申し訳ございませんでした。モルデン侯爵の推薦とあらば無碍むげには致しませんでしたものを……失敬。早速ですが本題に入りましょう」

 そうして、書類をテーブルに広げる。

「手紙には、バーチボルトさんの功績について詳しく書かれていました。それらを勘案かんあん致しますと……」

 キリルは羽ペンで、書類に書き込んだ。

「冒険者ランクはCからのスタートが妥当でしょう」
「いきなりCですか!?」

 フィンは目を見開いた。
 リーンベイルではあまり用いられない冒険者ランクだが、フィンとクレイは便宜上“F”ということになっている。
 それがフィンだけ、一足飛びに“C”だ。

「シーってすごいんですか? 旦那さま」
「ちょっとめまいがするくらいにはね……」

 フィンは王都に来てから、驚いてばかりだ。
 まさかモルデン侯爵の推薦が、これほど力を発揮するとは。

「地域を悩ませていた賊をひとりで一掃し、連続殺人犯の逮捕に大きく貢献……あなたをただの狩人と評価するのは間違いでしょう」
「よくわかってるじゃないですか! 寿命が短そうな人間だなと思って見てましたけれど、判断力はあるんですね!」

 クレイは無邪気な笑顔を見せる。
 キリルは黙って、新しい胃薬を取り出した。

「これは“冒険者に侮辱されたとき用”の胃薬です」
「いろいろ持ってますね! やはり長生きしたいんですか?」
「長生きよりも、今の痛みをどうにかしたいんですよ。我々“胃薬の民”は」

 はかない顔で微笑むキリルに、フィンは謝るタイミングを完全に見失った。
 キリルは腹をさすりながら、それでも真剣な目をフィンに向ける。

「王都の冒険者ギルドは実力主義です、フィン・バーチボルトさん。活躍を期待していますよ」
「……ええ、力を尽くします」

 キリルとの手続きを済ませて、フィンたちは執務室から出た。



 再びホールに戻ると“Cランク”と書かれた掲示板から、クエストを見繕う。

「着いていきなりハードなのは、避けたいな……となると」

 本来、狩人の受けるクエストというのは、ちょっとした弱い魔物の狩猟や調査がメインだ。
 戦術面においても、戦略面においても、サポート役としての立ち回りを求められるのが狩人である。

 だから冒険者ランクにおいて、Cまでたどり着く狩人は、基本的にいない。

 つまりフィンが弓矢を背負って、Cランクのクエストを選んでいる姿は目立つのだ。
 あちこちから声が聞こえた。

「リーンベイルとかいう街の英雄らしいぜ……」
「あのモルデン侯爵に気に入られたとか……」
「だから狩人のくせにCランクなのか……」

 そんなフィンの背後を、イスに座って睨みつけている男がいた。
 フィンは当然、その視線に気づいている。

(田舎者が嫌いなやつもいるんだろうな)

 そんなことを思いながら、フィンはクエストを掲示板からはがした。
 再び列に並ぼうとした矢先、さっきの男がフィンの足をひっかけようと、つま先を前に突き出した。

「………………」

 そんなものに引っかかるほど、フィンは抜けてはいない。
 やれやれとばかりに足を軽くまたぐと、男が難癖をつけてきた。

「そこのお前、俺の前を黙って横切ったな?」

 見れば、筋骨隆々の大男だ。
 巨大な盾と頑丈そうな鎧を見るに“タンク”の役割を負っている戦士だろう。

「誰もあんたに頭を下げて通っちゃいないようだけど」
「新入りは別なんだよ」

 そう言って、男は立ち上がる。

「リーンベイルの英雄だかなんだか知らねえが、ずいぶんとラクに出世してるみたいじゃねえか……だがなあ」

 男は胸にぶら下げた“冒険者の証”をかざして言った。

「俺の名はダブーン・オーガスタ。冒険者ランクは……Bだ!」

 ガン、と、これもまた巨大なメイスの柄で床を叩いた。

「冒険者には冒険者の秩序ってもんがあるだろうが。CランクごときがBランク様に口答えするんじゃねえ、特に俺にはな! わかるかァ?」
「………………」

 フィンがなんとも答えられずにいると、ダブーンは大声で怒鳴った。

「俺がこの冒険者ギルドのルールだ! Aランクを超えるとも言われる耐久力と攻撃力、それらを兼ね備えた俺には、ふさわしい態度で接してもらわないとなァ」
「それはすまなかった」

 ただでも目立っているらしいのに、来て早々に問題は起こしたくない。
 軽く頭を下げて列に並ぼうとするが、ダブーンはまだ文句が言い足りないらしい。

「ポッと出の田舎者がさらすには、それなりのツラってもんがあるだろうが?」

 完全にいいがかりだ。

「なんだその反抗的な顔は? 俺はお前みたいな田舎者が俺はいちばん嫌いなんだよ!」

 メイスをガンガン鳴らしながら、ダブーンは続ける。

「知ってるぜ? リーンベイルとかいう田舎じゃあ、狩人は戦士の靴をなめて生きてるんだろ? 俺の靴もなめてみろよ。お?」
「悪いが、俺の故郷じゃそんな習慣はなかったよ」
「だったら改めて命令してやるよ! 俺の靴をなめろ! Bランク様に反抗して、このギルドで生きていけるわけねえんだよ! わかってんのか!?」

 場を収めるためだとはいえ、さすがに靴をなめるわけにはいかない。
 さてどう対処したものかとフィンが考えていると、クレイがとんでもないことを言い出した。


「Bランクって、ヒマなんですね」


 場の空気が、凍りついた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。

四季
恋愛
明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。

再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる

まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」 父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。 清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。 なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。 学校では誰もが憧れる高嶺の花。 家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。 しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。 「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」 秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。 彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。 「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」 これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。 完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。 『著者より』 もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。 https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

処理中です...