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16.★小さな不安
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だけど彼に抱かれていると、この身が淫魔だということを忘れそうになる。どうして今まで生命を維持するために見知らぬ相手と体を重ねていたのか、不思議に思うほどだ。
蒼真以外いらないし、彼以外に抱かれたいなんて思わない。
それでも魔法陣が消えて飢餓に苛まれれば、きっと本能は手近にある獲物に手を伸ばしてしまうだろう。
ずっと側で身も心も縛り付けておいてほしい。
命が尽きる瞬間まで溺れさせてほしい。
物心ついた時から欲しいものはなんでも手に入れてきた。
執着なんて知らなかったのに、今は蒼真が目の前から消えてしまうことが何よりも怖い。
***
瞼に感じる光はいっそ不快なほど明るい。
眉を顰めながら意識を取り戻したミルカは、ピンクの瞳を数度瞬かせた。
昨夜の月はすっかり見えなくなっていて、高い日差しが窓から差し込んでいる。
夜通しイチャイチャしたかったミルカとしては少し残念さもあったが、すぐそばにある蒼真の寝顔にだらしなく顔が緩んだ。
それに、しっかり回された腕の感触も幸せだと改めて思う。
余裕を感じさせる笑みも、冷たい月の瞳も、全部全部好きだけど無防備な寝顔だって大好きだ。
うずうずするときめきも蒼真と出会って初めて知った。
そっと顔を近づけても起きる気配はない。軽く重ねたくちびるだけでは止まらなくて、舌を差し込んでみる。
舌先に触れる唾液はやっぱり極上の味がする。
悪戯心が湧いて舌に吸い付くミルカの腰を強い腕が、ぐっと抱きしめた。
ころりと転がされた体はシーツに押し付けられ、あっという間に口内をくまなく丁寧に暴かれる。
「目覚めのキス? それとも、もうお腹すいた?」
指でつうと繋がる銀糸を拭った蒼真の瞳も既に欲情で濡れている。
(朝からこんな顔を見れるなんて幸せすぎる……! )
毎朝こうやって目覚められたら最高なのに。やっぱり何がなんでも同棲しなければ。そんなことを思いながら、すりすりと蒼真に擦り寄る。
「ん、足りないの。もっとソウマ様が欲しいの」
いくら与えられても埋まりきらない。
蒼真の一部になってしまえれば満たされるのかもしれないけど、それだと触れてもらえないし、彼を感じることも出来ない。
こんなに誰か一人を求めるなんて、生まれて初めてのことだ。
何度もキスをせがみ、蕩けるミルカは蒼真を見上げる。
いつも通り、仕方ないなぁと笑う顔を期待していたのに、どこか苦しそうな表情にふわふわした感情は瞬時に飛んでしまった。
思わず頬を包むと一瞬驚いた蒼真だが、次の瞬間にはもういつもの彼と変わりなかった。
「どうしたのソウマ様、どこか痛いの? 大丈夫? 最近疲れてるもんね。ミルカ、癒しの魔法は使えないの。どうしよう……!」
「大丈夫だよ、なんでもないから。それに回復アイテムを補充したから心配ない」
「回復アイテム?」
「うん。浄化とか悪魔の相手とか、そういうのする度にMP消費するんだよね。それを回復させる石を兄さんが定期的に届けてくれてる。置き配でいいのに、絶対に手渡しなんだよねぇ。マジ過保護」
ゲーム好きの蒼真は度々ミルカにはよくわからない言葉を使用する。つまりは消費した魔力は自然に戻るわけではなく、なにか特別な石が必要だと推測した。
そしてあの兄のブラコン具合も把握した。
それにしても淫魔なら精気を吸収すれば消費した魔力も満たされるのに。
そもそも魔力量が多いミルカは意識すらしたことがない。
「天使って……面倒くさいのね」
「んー、まあ……。俺はちょっと特殊だから」
「特殊?」
ミルカの疑問に蓋するよう、再度のキスで言葉を塞がれる。
さっきのお返しとばかりに舌を吸いげられて、ぷるんとしたくちびるから甘ったるい吐息が漏れた。
「ミルカは心配しなくていいよ。なんとかするからさ。月曜からまた学校だし、今日と明日は二人でゆっくりしよ」
そう言って笑う顔はいつもの蒼真だ。さっきの表情は見間違いだったのかもしれない。
それにどれだけ問うても、きっと理由を教えてくれない。
彼はミルカをただの使い魔ではなく恋人にしてくれたし、一番近くにいて言葉でも態度でも愛情を示してくれる。
それだけでも夢のような毎日だ。本音を明かしてくれないことを不満に思うのは贅沢なのかもしれない。
なんとなく感じる不安を押し込め、ミルカは抱きしめる蒼真の首に腕を回した。
蒼真以外いらないし、彼以外に抱かれたいなんて思わない。
それでも魔法陣が消えて飢餓に苛まれれば、きっと本能は手近にある獲物に手を伸ばしてしまうだろう。
ずっと側で身も心も縛り付けておいてほしい。
命が尽きる瞬間まで溺れさせてほしい。
物心ついた時から欲しいものはなんでも手に入れてきた。
執着なんて知らなかったのに、今は蒼真が目の前から消えてしまうことが何よりも怖い。
***
瞼に感じる光はいっそ不快なほど明るい。
眉を顰めながら意識を取り戻したミルカは、ピンクの瞳を数度瞬かせた。
昨夜の月はすっかり見えなくなっていて、高い日差しが窓から差し込んでいる。
夜通しイチャイチャしたかったミルカとしては少し残念さもあったが、すぐそばにある蒼真の寝顔にだらしなく顔が緩んだ。
それに、しっかり回された腕の感触も幸せだと改めて思う。
余裕を感じさせる笑みも、冷たい月の瞳も、全部全部好きだけど無防備な寝顔だって大好きだ。
うずうずするときめきも蒼真と出会って初めて知った。
そっと顔を近づけても起きる気配はない。軽く重ねたくちびるだけでは止まらなくて、舌を差し込んでみる。
舌先に触れる唾液はやっぱり極上の味がする。
悪戯心が湧いて舌に吸い付くミルカの腰を強い腕が、ぐっと抱きしめた。
ころりと転がされた体はシーツに押し付けられ、あっという間に口内をくまなく丁寧に暴かれる。
「目覚めのキス? それとも、もうお腹すいた?」
指でつうと繋がる銀糸を拭った蒼真の瞳も既に欲情で濡れている。
(朝からこんな顔を見れるなんて幸せすぎる……! )
毎朝こうやって目覚められたら最高なのに。やっぱり何がなんでも同棲しなければ。そんなことを思いながら、すりすりと蒼真に擦り寄る。
「ん、足りないの。もっとソウマ様が欲しいの」
いくら与えられても埋まりきらない。
蒼真の一部になってしまえれば満たされるのかもしれないけど、それだと触れてもらえないし、彼を感じることも出来ない。
こんなに誰か一人を求めるなんて、生まれて初めてのことだ。
何度もキスをせがみ、蕩けるミルカは蒼真を見上げる。
いつも通り、仕方ないなぁと笑う顔を期待していたのに、どこか苦しそうな表情にふわふわした感情は瞬時に飛んでしまった。
思わず頬を包むと一瞬驚いた蒼真だが、次の瞬間にはもういつもの彼と変わりなかった。
「どうしたのソウマ様、どこか痛いの? 大丈夫? 最近疲れてるもんね。ミルカ、癒しの魔法は使えないの。どうしよう……!」
「大丈夫だよ、なんでもないから。それに回復アイテムを補充したから心配ない」
「回復アイテム?」
「うん。浄化とか悪魔の相手とか、そういうのする度にMP消費するんだよね。それを回復させる石を兄さんが定期的に届けてくれてる。置き配でいいのに、絶対に手渡しなんだよねぇ。マジ過保護」
ゲーム好きの蒼真は度々ミルカにはよくわからない言葉を使用する。つまりは消費した魔力は自然に戻るわけではなく、なにか特別な石が必要だと推測した。
そしてあの兄のブラコン具合も把握した。
それにしても淫魔なら精気を吸収すれば消費した魔力も満たされるのに。
そもそも魔力量が多いミルカは意識すらしたことがない。
「天使って……面倒くさいのね」
「んー、まあ……。俺はちょっと特殊だから」
「特殊?」
ミルカの疑問に蓋するよう、再度のキスで言葉を塞がれる。
さっきのお返しとばかりに舌を吸いげられて、ぷるんとしたくちびるから甘ったるい吐息が漏れた。
「ミルカは心配しなくていいよ。なんとかするからさ。月曜からまた学校だし、今日と明日は二人でゆっくりしよ」
そう言って笑う顔はいつもの蒼真だ。さっきの表情は見間違いだったのかもしれない。
それにどれだけ問うても、きっと理由を教えてくれない。
彼はミルカをただの使い魔ではなく恋人にしてくれたし、一番近くにいて言葉でも態度でも愛情を示してくれる。
それだけでも夢のような毎日だ。本音を明かしてくれないことを不満に思うのは贅沢なのかもしれない。
なんとなく感じる不安を押し込め、ミルカは抱きしめる蒼真の首に腕を回した。
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