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第十一話
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しかし襲われた方は、驚いた。
一人の美しい令嬢が、髪を靡かせて魔物を引き連れて乗り込んできたのだ。しかも『高級召喚獣』『高位従魔』と呼ばれるものをゾロゾロ引き連れている。
さらに、いつの間にか領主の館をはじめとした村一帯は鉄壁の守護魔法がかけてある。
「あなたたち、何者? 動かないで。魔法も武力も無駄よ、わたくしが制御してるわ。さぁ、身元を明らかにしなさい」
彼女が紡いだ言葉はすべて、魔力が乗っていた。彼女以外のあらゆる魔法はすべて抑え込まれ、武器の類も保護がかけられて使えなくなった。
そのうえで、全員魔力で縛り上げられてしまったのだ。
ーー強い!
魔法研究に余念のない国の研究者たちだからこそ、アリサの強さを一瞬で理解し、敵わないと察した。
だが、不思議なことに、彼らはアリサの魔力に触れて恍惚、いや、魅了されてしまったかのようだった。
「おおお……なんと素晴らしい魔力……!」
「殿下、魔力計測器が計測不可能と表示しています」
「異常な魔力は、彼女一人の力だったのか……いやはや、恐ろしい……」
だがアリサは、彼らの会話の意味がさっぱり分からない。ゆえに、変な人たちだわ、と判断してしまったアリサが、さっと手を挙げた。人間の兵隊に姿を変えた妖精たちが、どっと小屋に入ってくる。
「おおおお……殿下、この兵隊たち元の姿は四大元素の妖精たちです!」
「なにっ、すごいぞ……想像以上だ……」
そこでアリサは、ようやく首を傾げた。
「……殿下? あなたが?」
耳の下で切り揃えられた漆黒の髪が、さらりと揺れる。黒にも紫にも見える瞳の青年が、はい、と頷いた。
「う、嘘おっしゃい!」
「ウソではありませんよ。この方は、我がアーデルライト皇国の皇太子殿下です」
慌てたように、兵士の1人が言う。場合によっては殿下と呼ばれる身分は命取りになるが、今回は、皇太子という身元を明かす方が安全だと思われた。
「証拠は……そうですね、わたしの持ち物を見てください。皇王家の紋章が刻まれています。ご存知ですよね、アーデルライト皇国の紋章」
「はい、勿論です……」
剣や甲冑、あちこちにそれを認めたアリサは、真っ赤になってひれ伏した。
「た、た、大変なご無礼を……お許しください」
皇太子が乗り込んできた。やはり、この土地を欲しがっているのだろう。
かくなる上は魔力で一網打尽にするか、と、ちらっと脳裏をかすめたが、皇太子たちがやたら軽装なことに、気が付いた。
「どういったご用件で……その、我が領地を見ていらしたのでしょう?」
「あ、いや……申し訳ない。驚かせる気はなくて……その……あなたの魔力が知りたいんです!」
ぐいっと近寄られて、アリサは思わず後退る。ずいぶん積極的な皇太子である。
「わたくし、の、魔力のみに、ご興味が? 土地ではなくて?」
はい! と、その場の男たちが一斉に頷く。彼らはすでに、アリサが使役している魔獣や妖精たちに興味津々である。
どうやって彼らを使役しているのか、どのくらい魔力が必要なのか。そして疲れはどの程度なのか。
「え、えと、すべてにお答えするには時間が必要そうですわね。えーと……わたくしが、こちらに通う形でよろしいですか?」
「もちろんです!」
こうしてアリサは皇太子と親しくなり、仮小屋に通うことになったのである。
「一応、お養父さまにご報告しましょう……」
久しぶりに、王都の神殿に向けて手紙を書く。
「王都は今、どうなっているのかしらね……」
その独り言に、答えがあった。緋竜だ。
「わざわざ知らせることもないかと思っていたがーー王族で生きていることが確認されているのは末王子のアイズと言ったか、あれだけだ。元婚約者の王子と女は、あの娘が偽聖女だと民にバレ、民の怒りを買って暴徒に処刑された。国王と妃たちは、偽聖女と知りつつ黙認し本来の聖女を追放した罪で、暴徒に処刑された。他の王子どもは行方知れずだ」
ごくり、と、アリサは唾を飲み込み、動揺を押えた。
「あ……アイズ様は……それら全て背負う覚悟でいらっしゃるんですね」
「そうだ」
「……わたくしが戻れば、殿下の復興作業のお邪魔になってしまう」
わたくしは祖国には二度と帰りません。
アリサは、そう呟いた。
一人の美しい令嬢が、髪を靡かせて魔物を引き連れて乗り込んできたのだ。しかも『高級召喚獣』『高位従魔』と呼ばれるものをゾロゾロ引き連れている。
さらに、いつの間にか領主の館をはじめとした村一帯は鉄壁の守護魔法がかけてある。
「あなたたち、何者? 動かないで。魔法も武力も無駄よ、わたくしが制御してるわ。さぁ、身元を明らかにしなさい」
彼女が紡いだ言葉はすべて、魔力が乗っていた。彼女以外のあらゆる魔法はすべて抑え込まれ、武器の類も保護がかけられて使えなくなった。
そのうえで、全員魔力で縛り上げられてしまったのだ。
ーー強い!
魔法研究に余念のない国の研究者たちだからこそ、アリサの強さを一瞬で理解し、敵わないと察した。
だが、不思議なことに、彼らはアリサの魔力に触れて恍惚、いや、魅了されてしまったかのようだった。
「おおお……なんと素晴らしい魔力……!」
「殿下、魔力計測器が計測不可能と表示しています」
「異常な魔力は、彼女一人の力だったのか……いやはや、恐ろしい……」
だがアリサは、彼らの会話の意味がさっぱり分からない。ゆえに、変な人たちだわ、と判断してしまったアリサが、さっと手を挙げた。人間の兵隊に姿を変えた妖精たちが、どっと小屋に入ってくる。
「おおおお……殿下、この兵隊たち元の姿は四大元素の妖精たちです!」
「なにっ、すごいぞ……想像以上だ……」
そこでアリサは、ようやく首を傾げた。
「……殿下? あなたが?」
耳の下で切り揃えられた漆黒の髪が、さらりと揺れる。黒にも紫にも見える瞳の青年が、はい、と頷いた。
「う、嘘おっしゃい!」
「ウソではありませんよ。この方は、我がアーデルライト皇国の皇太子殿下です」
慌てたように、兵士の1人が言う。場合によっては殿下と呼ばれる身分は命取りになるが、今回は、皇太子という身元を明かす方が安全だと思われた。
「証拠は……そうですね、わたしの持ち物を見てください。皇王家の紋章が刻まれています。ご存知ですよね、アーデルライト皇国の紋章」
「はい、勿論です……」
剣や甲冑、あちこちにそれを認めたアリサは、真っ赤になってひれ伏した。
「た、た、大変なご無礼を……お許しください」
皇太子が乗り込んできた。やはり、この土地を欲しがっているのだろう。
かくなる上は魔力で一網打尽にするか、と、ちらっと脳裏をかすめたが、皇太子たちがやたら軽装なことに、気が付いた。
「どういったご用件で……その、我が領地を見ていらしたのでしょう?」
「あ、いや……申し訳ない。驚かせる気はなくて……その……あなたの魔力が知りたいんです!」
ぐいっと近寄られて、アリサは思わず後退る。ずいぶん積極的な皇太子である。
「わたくし、の、魔力のみに、ご興味が? 土地ではなくて?」
はい! と、その場の男たちが一斉に頷く。彼らはすでに、アリサが使役している魔獣や妖精たちに興味津々である。
どうやって彼らを使役しているのか、どのくらい魔力が必要なのか。そして疲れはどの程度なのか。
「え、えと、すべてにお答えするには時間が必要そうですわね。えーと……わたくしが、こちらに通う形でよろしいですか?」
「もちろんです!」
こうしてアリサは皇太子と親しくなり、仮小屋に通うことになったのである。
「一応、お養父さまにご報告しましょう……」
久しぶりに、王都の神殿に向けて手紙を書く。
「王都は今、どうなっているのかしらね……」
その独り言に、答えがあった。緋竜だ。
「わざわざ知らせることもないかと思っていたがーー王族で生きていることが確認されているのは末王子のアイズと言ったか、あれだけだ。元婚約者の王子と女は、あの娘が偽聖女だと民にバレ、民の怒りを買って暴徒に処刑された。国王と妃たちは、偽聖女と知りつつ黙認し本来の聖女を追放した罪で、暴徒に処刑された。他の王子どもは行方知れずだ」
ごくり、と、アリサは唾を飲み込み、動揺を押えた。
「あ……アイズ様は……それら全て背負う覚悟でいらっしゃるんですね」
「そうだ」
「……わたくしが戻れば、殿下の復興作業のお邪魔になってしまう」
わたくしは祖国には二度と帰りません。
アリサは、そう呟いた。
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