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【第二話】
しおりを挟むその夜の寄席。
「なあ、リサ」
舞台に立ったリサは、スポットライトを浴びてきらきらしている。
そんなリサを眩しく思いながら、台本にはない一言を、リュージは口にした。
「俺な、実は――異世界に定住したいねん」
一瞬、時間が止まった。
「……はぁ?」
リサの目が、まん丸になった。でも、リサの体が先に動いた。
「なんでやねん!」
渾身だった。これ以上ないくらいの、全力のツッコミ。タイミングもばっちり、久しぶりに客席がどっと沸いた。
しかしその瞬間、リサは「ええ!?」と叫んでいた。視界がぐにゃりと歪んだのだ。
足元が消える。
スポットライトも、客席も、リュージも、全部が全部、遠ざかっていく。
「ちょ、待っ――」
次の瞬間、リサの体は、ごろん、と冷たく硬い地面に放り出されていた。
鼻先に、土と草の匂い。さらさら、と葉擦れまで聞こえてくる。明らかに自然界である。
「……なんでやねん」
呆然と呟いたその耳に、聞き慣れない声が降ってきた。
「おお、お待ちしておりました、騎士様」
ゆっくり顔を上げると、そこは森だった。そして森の向こうには――炎、いや。
「なんでドラゴンがおるん?」
いやその前に、なんでわたしが騎士様!?
「はい、騎士様、こちらが甲冑にございますぞ」
黒いマントを羽織って、つるつる頭の見知らぬ老人が、嬉々として差し出してくる。
「か、甲冑なんて着たことない……ことはないか……」
去年だったか、お笑い合戦ナントカという番組で着たことがある。もちろんプラスチックのレプリカだったけれども。
「おお、お似合いです。はい、剣はこちら。盾はこっち」
「はぁ……これでどうしろと?」
「どうって……あれに決まってるでしょう」
「アレってアレ!?」
うん、と満面の笑みの老人が頷く。老人の周りには、いかにも「村人男A」「村人女A」といった人たちが群がっている。
「さ、ドラゴン退治お願いしますよ、騎士様!」
「なんでやねん!」
リサの「なんでやねん」が聞こえたのかどうかは知らないが、赤いドラゴンが、くわっ! とリサを見据えた。
「ひえええ……」
ファンタジー小説や映画で見る通りの、大きなドラゴン。二枚の翼に長い尻尾、黄色い眼に鉤のついた足。
大きな口は鋭い歯がびっしりと並び、カッ! と炎が吹き付けられる。
「きゃあああ」
リュージどこ!? と思わず相方の姿を探してしまうが、彼が隣に居ようはずがない。
それでも炎が襲ってくれば、思わず両手を前に突き出してしまう。だが偶然にも、盾が炎を受けてくれた。
おおおお、と背後でお客……いや、見知らぬ人々が沸いているのがわかって、こんな時だというのにリサのテンションが上がる。
「ええい、なるようになれ! 来なさい、わたしが相手よ!」
一方のリュージも、焦っていた。
「やべぇ、リサがあっちに転移した!」
リサが転移した瞬間こちらの時間は止まってしまうので、転移を察した瞬間に慌ててリサの手を掴んだが、ちょっと遅かった。
後を追って異世界への回廊に飛び込んだが、すぐに追いつけるかどうかわからない。
「だからバグさっさと直しとけって言うたやろが! しばき倒すぞコラァ……」
独り言だったはずだが、返事があった。
「……リュージさまは、ツッコミの加減をご存知ないからいやだ! あのお方のツッコミは最適ですが」
「……んあ? その声、神官やな?」
「はい、リュージさまはお呼びしておりませんが、どうなさったのですか?」
「どうもこうもあるかい! リサを返せ!」
「えぇー?」
神官を押しのけ、森を見る。
「……おお、さすがだ……」
持ち前の華やかさと、華奢な見た目からは想像つかない声量で、リサは己の存在をアピールしている。
唖然とするリュージの目の前で、女騎士・リサはドラゴンを相手に大健闘。
リサもリサで、周囲に「ありがとうございましたー!」と挨拶する始末。きっと彼女の耳には、いつもの拍手が聞こえているのだろう。
「まいったなぁ……。俺、こっちでもいらないんじゃね?」
「ほう、なら騎士さまをこちらでしばらくお借りしても?」
「んなわけあるかい! とっとと返さんかい、コラァ!」
何で怒ってんねん、と神官が首を竦めて呟いた。
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