異世界定住希望の相方に巻き込まれました(なんでやねん)

鋼雅 暁

文字の大きさ
4 / 5

【第四話】

しおりを挟む
「ええかー! これから行くでー」
「……どこへ?」
「ゴブリンの森」
 げっそりしたリサとは対照的に、リュージはるんるんと今にもスキップしそうな勢いだ。
「……リュージ、えらい楽しそうやな」
「ふふん、そらもう……がっぽり、やからな」
 地面に転がり出たあと、スッと立ったリュージは、駆け寄ってきた老人を捕まえるなり、「ギャラ……ちゃうな、報酬はどんくらいや?」といきなり値段交渉を始めた。
「かの有名な女騎士リサ様をやな、こんなやっすい報酬でこき使うとかないわーありえへん」
「……ほんならな、リュージさまがご自分の取り分から、いくらかわけたったらよろしいやんか」
 リサはツッコミを入れたくて仕方がなかった。なぜ異世界の住人が、揃いも揃ってコテコテの関西弁なのか。
 そのせいで、リュージと神官の本来なら深刻なはずの報酬交渉が、コントに聞こえてしまう。
(まぁ、それにしても……ローブに杖に……見た目だけはいいのよね……)
 ビジュアルだけ芸人と言われるだけあって、イケメン芸人ランキングや男前ランキングとなると、とたんに常連になる。
「……もっとリュージがボケやすいネタを考えても良いと思うんだけどねぇ……」
 目の前にぽこん、と現れたスライムを無造作に斬る。ぱっかり割れたそれは、あろうことかそれぞれがスライムとなって再生した。
「げっ、増えた……」
 すぱんすぱん、とそれらも斬る。
「……うそやん……」
 ぽこんぽこん、とスライムは増える。斬っても斬っても増える。それでも斬らざるを得ない。
「……ええ加減にせんかい!」
 イライラが募り思わず叫んだ瞬間、剣が光った。その光が、窒息しそうなほどに増殖していたスライムを一掃した。
「はぁ……テンプレ展開すぎん?」
 しかし拍手も、リュージの賞賛も聞こえない。そちらを見れば、神官と額を突き合わせて何か話し込んでいる。
 握りしめていた剣を鞘に納め、リサは神官と相方の元へ走った。
「リュージ、どう?」
「まとまらへん」
「どゆこと?」
 二人の会話を聞いてはみたが、リュージはボケ、神官もどうやらボケ。ボケとボケが話すので、もどかしくてたまらない。
 ついにリサは、両者をベシッ! と、叩いた。
「あんまボケるな! 話をちゃんと進めて!」
 そしてリュージの交渉の結果、今日は「ゴブリン狩り」と決まった。
 増えすぎたゴブリンが群れとなって村を襲い、農作物や家畜が根こそぎ奪われてしまうらしい。
 そこで、ゴブリンたちを根こそぎ駆除し、出来ればボスゴブリンを倒してほしいとのことである。
「俺一人やったら、絶対うけへんバイトや」
「なんで?」
「俺は見てのとおり魔法使い、ソロで戦うには火力不足。リサの剣が頼りやな」
 ふーん、とリサは剣を掲げる。こちらに来た時、なぜ自分が剣を持たされたのか不思議だったが、リュージと一緒にいるとその理由がわかる。
「敵を倒すのはあたしに任せとき!」
「サポートは俺の役割や」
 そのまま渡された地図を頼りに歩くこと十五分。平地にいきなり、こんもりした森が出現した。その森のすぐそばには村があり、そこから人が逃げ出している。
「リサ、あの茶色い物体がゴブリンや!」
 え、とリサの目が点になった。ぎこちなく、リュージを見る。
「あり得ないくらいの人数がいるけど……あり得ないくらいの力持ちみたいよ? ほら、小さいゴブリンが牛を担いで走ってる」
「……帰ろか……」
 リサも同意しかけた瞬間、その牛が飛んできた。確認するまでもないが、ゴブリンが投げたのである。
「ひゃああ!」
「リサ、危ない……鉄壁のガード!」
 リュージの持つ杖が光り、リサを守る防御シールドが展開された。それが完成するとほぼ同時に牛がリサにぶつかり、地面に落ちた。
 まさに危機一髪。
「おおお……リュージ、ありがと。あんたカッコいいなぁ……」
「美女芸人常連のリサは顔も体も全部が武器や……傷一つつけることは許されへんのや」
「それはリュージもおんなじや。自分にもバリア張っときぃ」
 言いながらリサは、剣を構えて走り出した。 
 もう行くんか!? と、リュージの慌てた声がする。
「あたしは正義の女騎士リサさまやぞー! どりゃーっ!」
 ゴブリンがすぱっ! すぱっ! と斬られていく。
「えええ!? 何で増えんねん!」
「リサ、仲間が斬られて怒ってるみたいや。続々と……」
「さっさと村から退散しろーっ!」
 リサが剣を大きく振り回した。ばたばた、とゴブリンが倒れる。しかし仲間の死骸を乗り越えて、ゴブリンは押し寄せてくる。
「何で逃げへんのかな? あたしに立ち向かう勇気はどっから来るんかな?」
「俺に聞くなっ! 前、前見てーっ!」
「任せろっ!」
 一振りごとに、リサがあれこれ叫ぶ。いちいち必殺技のような叫びではあるが、
「リサ、繰り出す技は、全部同じやんか……」
「剣握ったのはじめてやもん、仕方ないやんか」
 リサの剣が水平に煌めき、ゴブリンが宙を舞う。
 その傍らでリュージは、ゴブリンがドロップするアイテムをせっせと回収する。これはあとで換金できる貴重な収入源なのだ。
(舞台でもここでも、同じや……リサが前に出るなら俺はしっかり支えるからな……)
「そこ! あたしの話を聞けぇ!」
「……話を聞け、て、言い終わった時には殺してもうてるやん……」
「二度と村を襲うなボケェェェ!」
「おーおー……声張っちゃって……ツッコミは今日も絶好調……」
 相手が俺ではなくゴブリンなのがおもろない、と独り言ちるのも忘れない。
「リサ、張り切りすぎ。ほい、疲労回復魔法」
「すごーい! ありがとー!」
 ふとリュージは、リサが「なんでやねん!」と叫ぶたびに近くにいるゴブリンがびくっと反応することに気が付いた。
「よっしょ、リサ、そこまで声張らんでもええでー。ほい、キャパ1000人想定や」
 直後、リサの「なんでやねん、そんな臨場感いらんわ!」という声が森中に響き渡った。
 ゴブリンが一斉に動きを止めたのみならず、村人も、空を飛ぶ鳥も、足元のアリも動きを止める。
「リサ、今や! ツッコミ……いや、必殺技を叩きこむタイミングは今や! 補助魔法連続でかけるで!」
「うわ!? 加速とパワーと……なんやこれ!?」
「どうとでも動けるで。どや、どーんと受けること間違いなしや!」
「そんなわけあるか! 滑り倒すに決まってるわ! こんなん……必殺、回転斬りぃ!」
 リュージは腹を抱えて大笑いした。ゲームの主人公が使うような見事な「必殺技」をリサが繰り出したのだ。
「よしっ、雑魚の駆逐完了……リュージ笑いすぎ!」
 涙を流して笑うリュージを、リサはちょっと得意げに見た。
(やっぱ、リュージを思いっきり笑わせられるんは、あたしだけやな!)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス召喚されて助かりました、逃げます!

水野(仮)
ファンタジー
クラスでちょっとした騒動が起きていた時にその場に居た全員が異世界へ召喚されたみたいです。

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。  彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。  彼女は思った。 (今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。  今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。  小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

義弟の婚約者が私の婚約者の番でした

五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」 金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。 自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。 視界の先には 私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。

処理中です...