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【A章:まいきゃん混ぜ混ぜ】
10、11「舌の先は荼毘に蛇尾で」
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10
ライブの後は、ファンがメンバーと握手をしたり写真を撮ったりする時間となった。あれだけのライブをした後にファンとの交流だなんて、アイドルは大変だ。
義吟は「まいきゃんとチェキ撮ります~」と云って行列に並んだが、俺は先にキャンピングカーに戻った。亜愛はサードシートに座り、タブレット端末で読書していた。
「お帰りなさい。どうだったの? お遊戯レベルだったことは想像に難くないけど」
涼しげに自分の黒髪を撫で、見下すように云ってくる。
俺は「はあ……」と大きく溜息を吐いて、向かいに腰を下ろした。
「分かってないなあ、お前」
「な、なによその目は」
「いや、よくネットで批判とかしてるのも、こういうなにも知らない連中なんだろうなって」
「私をそんな低俗な奴らと一緒にしないで頂戴!」
「まんざら馬鹿にできたもんじゃないぜ、地下アイドルって。少なくとも〈悪ごめ〉は」
「ハマったということ? そう……なら良かったじゃない」
当てが外れて恥ずかしいのを誤魔化すように、彼女は視線をタブレット端末に戻す。
「亜愛はMIXって知ってるか? アイドルのライブでは定番みたいなんだが」
「なによ、にわか知識をひけらかして。みっともないわよ」
「いや、これは真面目な話。ちょっと調べてみてほしいんだ」
いくつかの曲のイントロや間奏で、客が叫んでいた掛け声のことだ。ライブ終わりに義吟に訊いたところ、その名称を教えてくれた。
ネットで検索した亜愛が、その概要を読み上げる。
「『MIX――主にアイドルのライブにおいて、客が伴奏に合わせて叫ぶ所定の掛け声。演者へ向けて、気持ちの昂ぶりを表現することを目的とする。会場の一体感を強め、ライブを盛り上げる効果もある。イントロにおけるそれは、Aメロに対する一種のカウントダウンとしても機能する』……なによこれ?」
「その掛け声の具体例も書いてないか?」
「種類が多いわ。スタンダードというのがあるけど……『タイガー、ファイヤー、サイバー、ファイバー、ダイバー、バイバー、ジャージャー』? どういう意味かしら?」
「特に意味はないと義吟は話してたよ。もう一度、スタンダードを読み上げてくれるか」
「タイガー、ファイヤー、サイバー、ファイバー、ダイバー、バイバー、ジャージャー」
俺は手帳にそれを書き連ねた。
やっぱりだ。これはふざけた符号じゃないか。
しかし完全ではない。単純な解釈では通じない箇所がある。
「読書家の亜愛に訊きたいんだが、急性アルコール中毒を、虎という単語を使って表現するような云い回しってあるかな」
「酒に酔うことを『虎になる』と云うわよ」
「それは出鱈目でなく?」
「失礼ね。自分で調べたらいいじゃない」
俺は携帯を手に取った。ライブのためマナーモードにしていたけれど、見ると着信が一件入っている。知らない番号だ。
一旦無視して、ネットで『虎になる』を検索。たしかに『ひどく酔う』『手がつけられないくらい泥酔する』等の意味が出てきた。
「サナエの急性アルコール中毒がタイガー。メグの自宅の火事がファイヤー。ユーナのフィッシング詐欺は、いわゆるサイバー攻撃だ。……リリアの首吊りはなんだろう?」
亜愛が「まさか」と顔を上げた。
「一連の不幸は、このMIXとやらをなぞっていたということ?」
俺は頷いて、『テープ ファイバー』で検索した。リリアはロープやワイヤーでなく、テープで首を吊っていたという話を思い出したのだ。
「分かった。ファイバーテープという名前のテープなんだ。これ、そんな名前だったんだな。それからダイバーは潜水士だが、風呂に沈められたミヤを指してると見ていい」
「そんな――限定的な、内輪ネタみたいなものじゃない。見立てに使われたって、気付けるはずがないわ」
亜愛は不満を露わにする。しかも知っていたところで、両者を結び付けるのは容易ではない。義吟やまいかに気付けというのは無理な話だろう。
「次はバイバーだが……バイバーってなんだろうな」
「そんな言葉ないわよ」
「ここから次のユーナの動きを読むのは難しいか……」
ただし、いずれも偶然でなく、意図された犯行であることは分かった。そしてサバトのメンバーのうち、まだ被害に遭っていないのはまいかだけか? 彼女はスタンガンで気絶させられたが、バイバーという言葉には結び付かない。
俺は着信が残っていた番号に電話を掛けた。
『もしもしー?』
応答した男の声には、やはり聞き覚えがない。
「着信があったので折り返したのですが」
『あー、俺もよく分からないんですけど、なんかお金ももらっちゃったんで』
「なんの話ですか?」
『電話しろって、知らない人から。メモを渡されたんですよ。それから一万円』
「貴方は誰です?」
『俺? いや、無関係ですよ俺はたぶん。でも一万もらったら、無視できないじゃないですか。その人には逃げられるし。探偵事務所なんですよね? 匿名依頼ってことなのかな』
状況が飲み込めない。電話口の男も分かっていない様子だ。
『俺は本当、心当たりないんですけど。探偵事務所GAOの番号を調べて、このメモの内容を電話で伝えろって、一万円つきのメモなんです』
「分かりました。そのメモを読み上げてください」
『えっと……私はミホといいます。お話がありますので、荻尾さんひとりで、会いに来てください。このことは誰にも話さずに。お忙しいところ、不躾なお願いで申し訳ありませんが、どうかお願いします。時間によって、場所が変わります。まず二十時までは――』
11
まいかを彼女の部屋に送り届けたころには、二十三時に差し掛かっていた。素晴らしいライブだったと感想を伝えたところ、彼女は「ありがとー。褒め上手探偵さんだね。すごく嬉しいよー」と喜んでいた。その顔は満足感でいっぱいになっていた。
それから俺は、十五分ほどかけて秋牙橋まで車を走らせた。適当な路肩に駐車して単身、二十三時から翌一時まで謎の依頼人がいるという『カラオケ宮』まで歩いた。誰にも話さずにという条件を守り、義吟と亜愛にも夕食を調達すると云ってある。
受付でミホという名前を告げると、四〇四号室と案内された。エレベーターで四階に上がり、四〇四のプレートが貼られた擦りガラスのドアを開けた途端、開いたノートが眼前に突き出された。
『喋らないで。盗聴されているから筆談。音を立てないように』
そう書き殴られている。ノートを持っているのは、スーツ姿のユーナだった。
なるほど、俺はおびき出されたわけだ。このタイミングでの奇妙な依頼。無論、可能性のひとつとして想定はしていた。しかし、混乱も生じる。『盗聴されている』だって?
とにかく俺は、黙って首を縦に振った。
ユーナは腰を折って、苦しそうに顔を歪めている。室内は適温なのに、汗もひどい。トイレでも我慢しているみたいだ。腹をさすりながら、ソファーにゆっくりと腰を下ろした。
俺はその対角線上に腰掛ける。するとノートのページがめくられて、差し出される。
『驚いても声を出さないでください。これはすべて本当のことです。私は悪くないんです。ニュースになったから名前も隠して荻尾さんを呼びました。いろいろ考えて、こうするしかなかったんです。ケータイは取り上げられたし、盗聴もされてます。』
汗でインクが滲んでいるうえ、字がぐにゃぐにゃと曲がっていて読みづらい。
『ミヤちゃんとまいかちゃんを襲ったのは命令されたんです。私は逆らえません。絶対に声を出さないで。口を手で塞いで、私のお腹を見てください。』
嫌な予感。俺は右手を口に当てて、ユーナの腹のあたりに視線を遣る。
ユーナはシャツを掴んで、ゆっくりとたくし上げる。
素肌をさらされた腹部。その真ん中がぼこぼこと、不自然に膨らんでいる。よく見るとそれは、小刻みに振動を続けている。さらには傷口を縫合した痕。プロの手によるものとは思えない、滅茶苦茶な縫い方だ。まわりの皮膚が紫色に変色している。
ひっく、ひっく、とユーナは涙を流してしゃくり上げながら、ノートを指差す。俺は呆然とした気持ちで、自らページをめくる。
『私が悪いんです。私はフィッシング詐欺に引っ掛かったおぼえがありません。いきなり口座の残高がなくなってて銀行とそれから警察に調べてもらったらいつの間にか。それでミヤちゃんに私のケータイを勝手に操作したかきいたんです。ミヤちゃんは私の部屋に泊まってたから。そうしたらうちを疑うのかってミヤちゃんを怒らせてしまいました。私が悪いんです。これはお仕置きなんです。お腹を切り開かれてバイブを突っ込まれました。』
文章はまだ続いているが、俺はノートを掴んで部屋を飛び出した。
とんでもないミスを犯した。
なぜ疑わなかった?
ユーナがただの操り人形である可能性を!
階段を駆け下りて店を出て夜の繁華街を走り抜けながら、携帯でまいかに電話をかける。だが繋がらない。延々とコール音が続くのみ。俺は自分の間抜けっぷりを呪う。
キャンピングカーの運転席に飛び込み、後ろの義吟と亜愛に向かって「出すぞ!」と叫んだ。息が上がって、肺が破裂しそうなほど苦しいが、咳き込みつつ発進する。
「なになに? どうしたのですか!」
仕切り窓から顔を覗かせた義吟にノートを渡して、読み上げるように頼む。
「ユーナと会ってきた! あいつは犯人じゃない! そこに経緯が書いてある!」
バイバーとは、バイブを腹に入れられたユーナのことだったのだ。ノートによれば、バイブはミヤの持つリモコンによって遠隔操作でき、出力を最大にしたら内蔵がシェイクされて絶命するらしい。
さらにミヤは、ユーナがこれを誰にも話せないよう、発信機と盗聴器を取り付け、定期的になにをしているか報告するように指示した。ミヤが片耳にイヤホンをしていたのは、その音声を聞いていたのだろう。おかしな動きがあれば、いつでも殺せるという脅しである。
「犯人はミヤだったのね?」
亜愛の言葉を、俺は「そうだ」と肯定する。義吟が「そんな!」と悲鳴を上げる。
「ミヤちゃんは今、まいきゃんの部屋にいるのですよ? 二人きりで!」
「だから急いでいるんだ!」
ライブの後は、ファンがメンバーと握手をしたり写真を撮ったりする時間となった。あれだけのライブをした後にファンとの交流だなんて、アイドルは大変だ。
義吟は「まいきゃんとチェキ撮ります~」と云って行列に並んだが、俺は先にキャンピングカーに戻った。亜愛はサードシートに座り、タブレット端末で読書していた。
「お帰りなさい。どうだったの? お遊戯レベルだったことは想像に難くないけど」
涼しげに自分の黒髪を撫で、見下すように云ってくる。
俺は「はあ……」と大きく溜息を吐いて、向かいに腰を下ろした。
「分かってないなあ、お前」
「な、なによその目は」
「いや、よくネットで批判とかしてるのも、こういうなにも知らない連中なんだろうなって」
「私をそんな低俗な奴らと一緒にしないで頂戴!」
「まんざら馬鹿にできたもんじゃないぜ、地下アイドルって。少なくとも〈悪ごめ〉は」
「ハマったということ? そう……なら良かったじゃない」
当てが外れて恥ずかしいのを誤魔化すように、彼女は視線をタブレット端末に戻す。
「亜愛はMIXって知ってるか? アイドルのライブでは定番みたいなんだが」
「なによ、にわか知識をひけらかして。みっともないわよ」
「いや、これは真面目な話。ちょっと調べてみてほしいんだ」
いくつかの曲のイントロや間奏で、客が叫んでいた掛け声のことだ。ライブ終わりに義吟に訊いたところ、その名称を教えてくれた。
ネットで検索した亜愛が、その概要を読み上げる。
「『MIX――主にアイドルのライブにおいて、客が伴奏に合わせて叫ぶ所定の掛け声。演者へ向けて、気持ちの昂ぶりを表現することを目的とする。会場の一体感を強め、ライブを盛り上げる効果もある。イントロにおけるそれは、Aメロに対する一種のカウントダウンとしても機能する』……なによこれ?」
「その掛け声の具体例も書いてないか?」
「種類が多いわ。スタンダードというのがあるけど……『タイガー、ファイヤー、サイバー、ファイバー、ダイバー、バイバー、ジャージャー』? どういう意味かしら?」
「特に意味はないと義吟は話してたよ。もう一度、スタンダードを読み上げてくれるか」
「タイガー、ファイヤー、サイバー、ファイバー、ダイバー、バイバー、ジャージャー」
俺は手帳にそれを書き連ねた。
やっぱりだ。これはふざけた符号じゃないか。
しかし完全ではない。単純な解釈では通じない箇所がある。
「読書家の亜愛に訊きたいんだが、急性アルコール中毒を、虎という単語を使って表現するような云い回しってあるかな」
「酒に酔うことを『虎になる』と云うわよ」
「それは出鱈目でなく?」
「失礼ね。自分で調べたらいいじゃない」
俺は携帯を手に取った。ライブのためマナーモードにしていたけれど、見ると着信が一件入っている。知らない番号だ。
一旦無視して、ネットで『虎になる』を検索。たしかに『ひどく酔う』『手がつけられないくらい泥酔する』等の意味が出てきた。
「サナエの急性アルコール中毒がタイガー。メグの自宅の火事がファイヤー。ユーナのフィッシング詐欺は、いわゆるサイバー攻撃だ。……リリアの首吊りはなんだろう?」
亜愛が「まさか」と顔を上げた。
「一連の不幸は、このMIXとやらをなぞっていたということ?」
俺は頷いて、『テープ ファイバー』で検索した。リリアはロープやワイヤーでなく、テープで首を吊っていたという話を思い出したのだ。
「分かった。ファイバーテープという名前のテープなんだ。これ、そんな名前だったんだな。それからダイバーは潜水士だが、風呂に沈められたミヤを指してると見ていい」
「そんな――限定的な、内輪ネタみたいなものじゃない。見立てに使われたって、気付けるはずがないわ」
亜愛は不満を露わにする。しかも知っていたところで、両者を結び付けるのは容易ではない。義吟やまいかに気付けというのは無理な話だろう。
「次はバイバーだが……バイバーってなんだろうな」
「そんな言葉ないわよ」
「ここから次のユーナの動きを読むのは難しいか……」
ただし、いずれも偶然でなく、意図された犯行であることは分かった。そしてサバトのメンバーのうち、まだ被害に遭っていないのはまいかだけか? 彼女はスタンガンで気絶させられたが、バイバーという言葉には結び付かない。
俺は着信が残っていた番号に電話を掛けた。
『もしもしー?』
応答した男の声には、やはり聞き覚えがない。
「着信があったので折り返したのですが」
『あー、俺もよく分からないんですけど、なんかお金ももらっちゃったんで』
「なんの話ですか?」
『電話しろって、知らない人から。メモを渡されたんですよ。それから一万円』
「貴方は誰です?」
『俺? いや、無関係ですよ俺はたぶん。でも一万もらったら、無視できないじゃないですか。その人には逃げられるし。探偵事務所なんですよね? 匿名依頼ってことなのかな』
状況が飲み込めない。電話口の男も分かっていない様子だ。
『俺は本当、心当たりないんですけど。探偵事務所GAOの番号を調べて、このメモの内容を電話で伝えろって、一万円つきのメモなんです』
「分かりました。そのメモを読み上げてください」
『えっと……私はミホといいます。お話がありますので、荻尾さんひとりで、会いに来てください。このことは誰にも話さずに。お忙しいところ、不躾なお願いで申し訳ありませんが、どうかお願いします。時間によって、場所が変わります。まず二十時までは――』
11
まいかを彼女の部屋に送り届けたころには、二十三時に差し掛かっていた。素晴らしいライブだったと感想を伝えたところ、彼女は「ありがとー。褒め上手探偵さんだね。すごく嬉しいよー」と喜んでいた。その顔は満足感でいっぱいになっていた。
それから俺は、十五分ほどかけて秋牙橋まで車を走らせた。適当な路肩に駐車して単身、二十三時から翌一時まで謎の依頼人がいるという『カラオケ宮』まで歩いた。誰にも話さずにという条件を守り、義吟と亜愛にも夕食を調達すると云ってある。
受付でミホという名前を告げると、四〇四号室と案内された。エレベーターで四階に上がり、四〇四のプレートが貼られた擦りガラスのドアを開けた途端、開いたノートが眼前に突き出された。
『喋らないで。盗聴されているから筆談。音を立てないように』
そう書き殴られている。ノートを持っているのは、スーツ姿のユーナだった。
なるほど、俺はおびき出されたわけだ。このタイミングでの奇妙な依頼。無論、可能性のひとつとして想定はしていた。しかし、混乱も生じる。『盗聴されている』だって?
とにかく俺は、黙って首を縦に振った。
ユーナは腰を折って、苦しそうに顔を歪めている。室内は適温なのに、汗もひどい。トイレでも我慢しているみたいだ。腹をさすりながら、ソファーにゆっくりと腰を下ろした。
俺はその対角線上に腰掛ける。するとノートのページがめくられて、差し出される。
『驚いても声を出さないでください。これはすべて本当のことです。私は悪くないんです。ニュースになったから名前も隠して荻尾さんを呼びました。いろいろ考えて、こうするしかなかったんです。ケータイは取り上げられたし、盗聴もされてます。』
汗でインクが滲んでいるうえ、字がぐにゃぐにゃと曲がっていて読みづらい。
『ミヤちゃんとまいかちゃんを襲ったのは命令されたんです。私は逆らえません。絶対に声を出さないで。口を手で塞いで、私のお腹を見てください。』
嫌な予感。俺は右手を口に当てて、ユーナの腹のあたりに視線を遣る。
ユーナはシャツを掴んで、ゆっくりとたくし上げる。
素肌をさらされた腹部。その真ん中がぼこぼこと、不自然に膨らんでいる。よく見るとそれは、小刻みに振動を続けている。さらには傷口を縫合した痕。プロの手によるものとは思えない、滅茶苦茶な縫い方だ。まわりの皮膚が紫色に変色している。
ひっく、ひっく、とユーナは涙を流してしゃくり上げながら、ノートを指差す。俺は呆然とした気持ちで、自らページをめくる。
『私が悪いんです。私はフィッシング詐欺に引っ掛かったおぼえがありません。いきなり口座の残高がなくなってて銀行とそれから警察に調べてもらったらいつの間にか。それでミヤちゃんに私のケータイを勝手に操作したかきいたんです。ミヤちゃんは私の部屋に泊まってたから。そうしたらうちを疑うのかってミヤちゃんを怒らせてしまいました。私が悪いんです。これはお仕置きなんです。お腹を切り開かれてバイブを突っ込まれました。』
文章はまだ続いているが、俺はノートを掴んで部屋を飛び出した。
とんでもないミスを犯した。
なぜ疑わなかった?
ユーナがただの操り人形である可能性を!
階段を駆け下りて店を出て夜の繁華街を走り抜けながら、携帯でまいかに電話をかける。だが繋がらない。延々とコール音が続くのみ。俺は自分の間抜けっぷりを呪う。
キャンピングカーの運転席に飛び込み、後ろの義吟と亜愛に向かって「出すぞ!」と叫んだ。息が上がって、肺が破裂しそうなほど苦しいが、咳き込みつつ発進する。
「なになに? どうしたのですか!」
仕切り窓から顔を覗かせた義吟にノートを渡して、読み上げるように頼む。
「ユーナと会ってきた! あいつは犯人じゃない! そこに経緯が書いてある!」
バイバーとは、バイブを腹に入れられたユーナのことだったのだ。ノートによれば、バイブはミヤの持つリモコンによって遠隔操作でき、出力を最大にしたら内蔵がシェイクされて絶命するらしい。
さらにミヤは、ユーナがこれを誰にも話せないよう、発信機と盗聴器を取り付け、定期的になにをしているか報告するように指示した。ミヤが片耳にイヤホンをしていたのは、その音声を聞いていたのだろう。おかしな動きがあれば、いつでも殺せるという脅しである。
「犯人はミヤだったのね?」
亜愛の言葉を、俺は「そうだ」と肯定する。義吟が「そんな!」と悲鳴を上げる。
「ミヤちゃんは今、まいきゃんの部屋にいるのですよ? 二人きりで!」
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