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【G章:悪魔の私と私の神様】
8、9「出来損ないの探偵神話」
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8
「どうして、俺に義吟を殺させようとした?」
目の前の友餌に問う。先程までの演技とは違う、本物の狼狽を見せる彼女に。
「数々の事件を、俺が解決するように仕組んできたのはなぜだ?」
「待って、荻尾クン。あたしは、そんなこと……」
「教えてくれ。ここまできて、隠す理由があるのか?」
友餌は唇を噛む。血が滲むほど噛み締める。
それから、観念するみたく項垂れた。
俺の肩に額を乗せて、絞り出すように呟く。
「……〈悪魔のイケニエ〉なんて、クズの集まりだよ」
それだけでは俺は相槌を打たない。
待っていると、友餌は訥々と語り始めた。
「悪魔の崇拝なんて嘘だ。みんな、ドラッグとか、セックスとか、殺人とか……本当に浅ましい、低俗な快楽を欲しがってるだけのくせに、それを正当化してくれるイデオロギー的な外観として、悪魔主義を謳ってる」
「だから、義吟を使って虐殺したのか? 自分の部下を」
「ねえ荻尾クン、貴方は悪魔がなぜ生まれたのか、知ってる?」
「さあ……それは、神話上の話として訊いてる?」
「ううん。もっと本質的な、構造の話だよ」
ゲームをして酒を飲んでいるときの彼女とは違う。
表面ではなく、内側のもの。冷たく研ぎ澄まされた言葉を、彼女は紡いでいく。
「一神教では、この世界は唯一絶対の神様によって創られたとされる。だけどこの世界は、決して素晴らしいものではない。目を背けたくなる悪で溢れてる。人生は苦しみばかりだ。これじゃあ、こんな世界を創った神様を信仰なんてできなくなる。そこで、それらの悪は、悪魔という別の存在が創り出したものとされた。この世界は神様が創ったのだとしながらも、その中に含まれる悪の責任だけを切り離して負わせる存在として、悪魔は生み出された。神様の敵である悪魔は、神様のために生まれたんだよ。でも、それじゃあ神様は唯一絶対の存在にならない。善に対立する悪、神様に対立する悪魔として、両者は並列の関係となる。だってそうでしょ? 悪魔が創り出した悪を、神様は消し去ることができていないんだから」
それは、神学者の間では古くから議論されている話だ。
一神教は必ず二元論的世界観に陥り、パラドックスを解消できなくなる。
悪は単に善の欠如した状態――〈非・存在〉であるという解釈もあるけれど、結局は言葉遊びに過ぎない。多神教であれば二元論とは無縁でいられるが、唯一絶対を求める者にとって、それも解決策にはならない。
「高校生のあたしは、これに気付いてしまったの。嗚呼、唯一絶対の神様なんていないんだって。あたしは神様を失った。あたしを救う存在はいないんだと思って、絶望した」
「自殺未遂を繰り返したと云っていたね」
「そう」
「その後に、自分で解決したとも云っていた」
「そうだよ。あたしは考えた。考えに考えて、正解に辿り着いたの。まず神様がいて、それから悪魔が生じる――この順序が駄目なんだ。みんなはじめに神様ありきで考えるから、唯一絶対の神様を創れないんだ。それなら、順序を逆転させればいい……」
友餌は顔を上げた。そこにあったのは、陶酔の表情だった。
その目は爛々と輝き、頬には赤みが差し、口元は緩んでいる。
「はじめに大量の悪魔がいて、悪を蔓延させている。だからこの世界は、こんなに最悪なんだ。そこに後から、唯一絶対の神様が現れる。神様は悪を消し去って、真実の世界を創ってくれる。そうやってあたしを、救い出してくれるの」
彼女の大きな瞳に映っているのは俺だ。
俺は理解した。
鉛友餌という人間の目的、そのすべてを。
「荻尾クンが、その神様だよ。悪魔共が起こす事件を次々に解決していって、最後には悪魔を一掃する。あたしのために、そうしてくれる。あたしだけの、唯一絶対の神様」
「最初から、そのために〈悪魔のイケニエ〉に入ったのか」
「当然だよ。あたしが悪魔なんて崇拝するわけがない。全部、このときのためだった。このために、茜条斎支部のリーダーにまで上り詰めた。そうすれば、支部が実行する犯罪をあたしがデザインできるようになるから」
「どうして俺なんだ」
「荻尾クン以外にいないよ! あたしはこの支部のリーダーになってもまだ、神様となる人だけは見つけられないでいた。二十二歳の誕生日という期限を決めているのに、全然。だけど半年前、荻尾クンの話を聞いた。埜呂瀬支部を潰した探偵の男の人がいるって。あたしは直感した。その人だって思った。だからツテを辿って、犬屋さんに辿り着いて、荻尾クンがこの街に来てくれるように取り計らってもらった。荻尾クンが来たその日に、此処で直接会った。実際に事件を起こして試した。〈オケアの巣〉の事件では、この目で確かめた。間違いなかった。やっと見つけたの。あたしの神様になる人を!」
恍惚として、友餌は俺に絡みつく。
俺の頬に手を添えて、間近から顔をまじまじと見詰めてくる。
「ねえ荻尾クン……あたしを救い出して? 最後の悪魔を殺してよ」
「最後の悪魔というのは、義吟のことか?」
「そうだよ。愚かな悪魔は殺し合いをした。その結果、最後に残った悪魔がこの子。この子を殺して、あたしと一緒になろう? あたしとの愛に生きるんだよ。悪の存在しない、真実の世界を創ろう?」
狂おしい期待を込めた眼差し。
これが、彼女が描いた神話というわけだ。
彼女はきっと、この世界で上手く生きることができなかった。だから一切の望みを、自前の神話を実現することに託して生きてきた。悪魔を利用して新たな神を創り、その神から愛されること。それが彼女にとっての救済。
理解したうえで、俺は答える。
「断るよ。義吟を殺すことはできない」
「なんで?」
友餌の表情は変わらない。酔い痴れた笑顔のままだ。
「この子は虐殺をしたんだよ? 見てきたでしょ? 大量殺人鬼なんだよ?」
「それは義吟の意思じゃない。大量殺人鬼はきみの方だろ?」
彼女の神話は既に破綻している。最後の悪魔は彼女自身だ。
神を創るために、彼女は誰よりも悪に手を染めた。
なのに自分だけが救済されようなんて、むしがよすぎる話だ。
「ねえ……嘘でしょ、荻尾クン。あたしのこと、好きじゃないの?」
「もう一度、はっきり云う。きみの願いは叶わない」
俺は銃口を友餌の額に押しつけた。
その瞳が揺れる。酔いが醒めるみたいに、血の気が失せていく。
「撃たないよね? 撃つわけないよ。荻尾クンが……」
「ごめん、友餌」
その瞬間、友餌は鬼のような形相となって叫んだ。
「郷義吟、この男を取り押さえて!」
「義吟、停止しろ!」
果たして――義吟は動かない。
「えっ?」
銃口を突き付けられていることすら忘れたらしく、友餌は義吟の方へ振り向いた。
「この男を取り押さえて。早く!」
「無駄だ。きみの使う制御コードよりも優先される命令がある」
もう一度、銃口をこめかみに強く押しつける。
友餌は固まるが、その横顔からは動揺がありありと見て取れる。
「世界にただひとり、〈悪魔のイケニエ〉創始者の声認証だ。開発者が勝手に組み込んでいてね。まあ当然と云えば当然だけど」
「待って、なに? どういうこと?」
「俺だよ。〈悪魔のイケニエ〉を組織したのは」
9
ロープの結び目がすべて解かれて、俺は思い出した。
〈死霊のハラワタ〉を逃げ出した俺と亜愛は、なにもかもを奪われた。自分達の身になにが起きたのかさえ分からなかった。そこで俺は〈悪魔のイケニエ〉を組織した。目的は〈死霊のハラワタ〉の暗部を白日のもとにさらすことである。
組織のコンセプトとしては心霊主義と対応するように、と云うよりもアンチテーゼとして、悪魔主義を掲げることにした。
〈死霊のハラワタ〉はその裏で、魔術を実践している。魔術は悪魔主義者の行いだ。
また、それだけでなく、心霊主義者には悪魔主義に落ちやすい気質の者が多分に含まれている。心霊術のサロンを構成する人々の精神病理学的人物像を分析した人物にマルセル・ヴィオレがいるが、曰く、精神的に脆弱な者、偏執狂質の者、小心者、根暗な者、内気な者、神経症質の者……要するにそういった人々は不安定な心の拠り所としてオカルトに傾倒しているだけであり、ちょっとした切っ掛けで傾倒の対象が変わるのだ。
現に俺は〈死霊のハラワタ〉から〈悪魔のイケニエ〉へと、次々に人を引き込むことができた。〈死霊のハラワタ〉に関係のない、この社会で生きづらい者もやって来た。悪魔主義というコンセプトは、想像以上に多くの人々を惹きつけた。
組織は順調に拡大していき、このままいけば、本当に〈死霊のハラワタ〉を壊すことができると思った。
そう、実のところ俺は、〈死霊のハラワタ〉に復讐しようとしていた。青臭い正義感もあったけれど、きっと本心は、俺達がそうされたように、〈死霊のハラワタ〉を滅茶苦茶にしてやりたいという子供じみた衝動だった。
そして俺は失敗する。拡大した組織はもはや、俺の手に負えなくなっていた。俺は所詮、世間知らずの子供に過ぎなかった。創始者とは云っても名ばかりで、もっと悪賢い連中につけ込まれて、組織を乗っ取られていた。
〈死霊のハラワタ〉のときと――亜愛のときと――まるで同じだ。
気付けば、組織は犯罪集団と化していた。子供たちの誘拐と非人道的な人体改造まで知ったとき、俺は決意して、組織を自ら壊そうとした。しかし、それさえも中途半端に終わった。俺ひとりの力でできることなど、たかが知れていた。
俺のもとに残ったのは、亜愛と、義吟だけだった。
これが二年前の話。
探偵事務所GAOを立ち上げるまでの、失敗にまみれた俺の人生の話だ。
「どうして、俺に義吟を殺させようとした?」
目の前の友餌に問う。先程までの演技とは違う、本物の狼狽を見せる彼女に。
「数々の事件を、俺が解決するように仕組んできたのはなぜだ?」
「待って、荻尾クン。あたしは、そんなこと……」
「教えてくれ。ここまできて、隠す理由があるのか?」
友餌は唇を噛む。血が滲むほど噛み締める。
それから、観念するみたく項垂れた。
俺の肩に額を乗せて、絞り出すように呟く。
「……〈悪魔のイケニエ〉なんて、クズの集まりだよ」
それだけでは俺は相槌を打たない。
待っていると、友餌は訥々と語り始めた。
「悪魔の崇拝なんて嘘だ。みんな、ドラッグとか、セックスとか、殺人とか……本当に浅ましい、低俗な快楽を欲しがってるだけのくせに、それを正当化してくれるイデオロギー的な外観として、悪魔主義を謳ってる」
「だから、義吟を使って虐殺したのか? 自分の部下を」
「ねえ荻尾クン、貴方は悪魔がなぜ生まれたのか、知ってる?」
「さあ……それは、神話上の話として訊いてる?」
「ううん。もっと本質的な、構造の話だよ」
ゲームをして酒を飲んでいるときの彼女とは違う。
表面ではなく、内側のもの。冷たく研ぎ澄まされた言葉を、彼女は紡いでいく。
「一神教では、この世界は唯一絶対の神様によって創られたとされる。だけどこの世界は、決して素晴らしいものではない。目を背けたくなる悪で溢れてる。人生は苦しみばかりだ。これじゃあ、こんな世界を創った神様を信仰なんてできなくなる。そこで、それらの悪は、悪魔という別の存在が創り出したものとされた。この世界は神様が創ったのだとしながらも、その中に含まれる悪の責任だけを切り離して負わせる存在として、悪魔は生み出された。神様の敵である悪魔は、神様のために生まれたんだよ。でも、それじゃあ神様は唯一絶対の存在にならない。善に対立する悪、神様に対立する悪魔として、両者は並列の関係となる。だってそうでしょ? 悪魔が創り出した悪を、神様は消し去ることができていないんだから」
それは、神学者の間では古くから議論されている話だ。
一神教は必ず二元論的世界観に陥り、パラドックスを解消できなくなる。
悪は単に善の欠如した状態――〈非・存在〉であるという解釈もあるけれど、結局は言葉遊びに過ぎない。多神教であれば二元論とは無縁でいられるが、唯一絶対を求める者にとって、それも解決策にはならない。
「高校生のあたしは、これに気付いてしまったの。嗚呼、唯一絶対の神様なんていないんだって。あたしは神様を失った。あたしを救う存在はいないんだと思って、絶望した」
「自殺未遂を繰り返したと云っていたね」
「そう」
「その後に、自分で解決したとも云っていた」
「そうだよ。あたしは考えた。考えに考えて、正解に辿り着いたの。まず神様がいて、それから悪魔が生じる――この順序が駄目なんだ。みんなはじめに神様ありきで考えるから、唯一絶対の神様を創れないんだ。それなら、順序を逆転させればいい……」
友餌は顔を上げた。そこにあったのは、陶酔の表情だった。
その目は爛々と輝き、頬には赤みが差し、口元は緩んでいる。
「はじめに大量の悪魔がいて、悪を蔓延させている。だからこの世界は、こんなに最悪なんだ。そこに後から、唯一絶対の神様が現れる。神様は悪を消し去って、真実の世界を創ってくれる。そうやってあたしを、救い出してくれるの」
彼女の大きな瞳に映っているのは俺だ。
俺は理解した。
鉛友餌という人間の目的、そのすべてを。
「荻尾クンが、その神様だよ。悪魔共が起こす事件を次々に解決していって、最後には悪魔を一掃する。あたしのために、そうしてくれる。あたしだけの、唯一絶対の神様」
「最初から、そのために〈悪魔のイケニエ〉に入ったのか」
「当然だよ。あたしが悪魔なんて崇拝するわけがない。全部、このときのためだった。このために、茜条斎支部のリーダーにまで上り詰めた。そうすれば、支部が実行する犯罪をあたしがデザインできるようになるから」
「どうして俺なんだ」
「荻尾クン以外にいないよ! あたしはこの支部のリーダーになってもまだ、神様となる人だけは見つけられないでいた。二十二歳の誕生日という期限を決めているのに、全然。だけど半年前、荻尾クンの話を聞いた。埜呂瀬支部を潰した探偵の男の人がいるって。あたしは直感した。その人だって思った。だからツテを辿って、犬屋さんに辿り着いて、荻尾クンがこの街に来てくれるように取り計らってもらった。荻尾クンが来たその日に、此処で直接会った。実際に事件を起こして試した。〈オケアの巣〉の事件では、この目で確かめた。間違いなかった。やっと見つけたの。あたしの神様になる人を!」
恍惚として、友餌は俺に絡みつく。
俺の頬に手を添えて、間近から顔をまじまじと見詰めてくる。
「ねえ荻尾クン……あたしを救い出して? 最後の悪魔を殺してよ」
「最後の悪魔というのは、義吟のことか?」
「そうだよ。愚かな悪魔は殺し合いをした。その結果、最後に残った悪魔がこの子。この子を殺して、あたしと一緒になろう? あたしとの愛に生きるんだよ。悪の存在しない、真実の世界を創ろう?」
狂おしい期待を込めた眼差し。
これが、彼女が描いた神話というわけだ。
彼女はきっと、この世界で上手く生きることができなかった。だから一切の望みを、自前の神話を実現することに託して生きてきた。悪魔を利用して新たな神を創り、その神から愛されること。それが彼女にとっての救済。
理解したうえで、俺は答える。
「断るよ。義吟を殺すことはできない」
「なんで?」
友餌の表情は変わらない。酔い痴れた笑顔のままだ。
「この子は虐殺をしたんだよ? 見てきたでしょ? 大量殺人鬼なんだよ?」
「それは義吟の意思じゃない。大量殺人鬼はきみの方だろ?」
彼女の神話は既に破綻している。最後の悪魔は彼女自身だ。
神を創るために、彼女は誰よりも悪に手を染めた。
なのに自分だけが救済されようなんて、むしがよすぎる話だ。
「ねえ……嘘でしょ、荻尾クン。あたしのこと、好きじゃないの?」
「もう一度、はっきり云う。きみの願いは叶わない」
俺は銃口を友餌の額に押しつけた。
その瞳が揺れる。酔いが醒めるみたいに、血の気が失せていく。
「撃たないよね? 撃つわけないよ。荻尾クンが……」
「ごめん、友餌」
その瞬間、友餌は鬼のような形相となって叫んだ。
「郷義吟、この男を取り押さえて!」
「義吟、停止しろ!」
果たして――義吟は動かない。
「えっ?」
銃口を突き付けられていることすら忘れたらしく、友餌は義吟の方へ振り向いた。
「この男を取り押さえて。早く!」
「無駄だ。きみの使う制御コードよりも優先される命令がある」
もう一度、銃口をこめかみに強く押しつける。
友餌は固まるが、その横顔からは動揺がありありと見て取れる。
「世界にただひとり、〈悪魔のイケニエ〉創始者の声認証だ。開発者が勝手に組み込んでいてね。まあ当然と云えば当然だけど」
「待って、なに? どういうこと?」
「俺だよ。〈悪魔のイケニエ〉を組織したのは」
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ロープの結び目がすべて解かれて、俺は思い出した。
〈死霊のハラワタ〉を逃げ出した俺と亜愛は、なにもかもを奪われた。自分達の身になにが起きたのかさえ分からなかった。そこで俺は〈悪魔のイケニエ〉を組織した。目的は〈死霊のハラワタ〉の暗部を白日のもとにさらすことである。
組織のコンセプトとしては心霊主義と対応するように、と云うよりもアンチテーゼとして、悪魔主義を掲げることにした。
〈死霊のハラワタ〉はその裏で、魔術を実践している。魔術は悪魔主義者の行いだ。
また、それだけでなく、心霊主義者には悪魔主義に落ちやすい気質の者が多分に含まれている。心霊術のサロンを構成する人々の精神病理学的人物像を分析した人物にマルセル・ヴィオレがいるが、曰く、精神的に脆弱な者、偏執狂質の者、小心者、根暗な者、内気な者、神経症質の者……要するにそういった人々は不安定な心の拠り所としてオカルトに傾倒しているだけであり、ちょっとした切っ掛けで傾倒の対象が変わるのだ。
現に俺は〈死霊のハラワタ〉から〈悪魔のイケニエ〉へと、次々に人を引き込むことができた。〈死霊のハラワタ〉に関係のない、この社会で生きづらい者もやって来た。悪魔主義というコンセプトは、想像以上に多くの人々を惹きつけた。
組織は順調に拡大していき、このままいけば、本当に〈死霊のハラワタ〉を壊すことができると思った。
そう、実のところ俺は、〈死霊のハラワタ〉に復讐しようとしていた。青臭い正義感もあったけれど、きっと本心は、俺達がそうされたように、〈死霊のハラワタ〉を滅茶苦茶にしてやりたいという子供じみた衝動だった。
そして俺は失敗する。拡大した組織はもはや、俺の手に負えなくなっていた。俺は所詮、世間知らずの子供に過ぎなかった。創始者とは云っても名ばかりで、もっと悪賢い連中につけ込まれて、組織を乗っ取られていた。
〈死霊のハラワタ〉のときと――亜愛のときと――まるで同じだ。
気付けば、組織は犯罪集団と化していた。子供たちの誘拐と非人道的な人体改造まで知ったとき、俺は決意して、組織を自ら壊そうとした。しかし、それさえも中途半端に終わった。俺ひとりの力でできることなど、たかが知れていた。
俺のもとに残ったのは、亜愛と、義吟だけだった。
これが二年前の話。
探偵事務所GAOを立ち上げるまでの、失敗にまみれた俺の人生の話だ。
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