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35 少しだけ油断した途端の魔道具騒動。
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明希の誘導のおかげでシスコン野郎たちがアニメ部に入ったため、放課後はほぼ彼らと出くわさなくて済むようになった。
ダニエラは二、三日に一度夜這いをかけられて迷惑しているらしいが、正直なところ俺にはあまり関係のない話だ。というかこれ以上巻き込まれたくない。
ダニエラ関連を除けば俺とシスコン野郎の接点などほぼないわけで、ダニエラの背後から投げかけられる殺意のこもった視線さえ我慢すればなんとかなる。
シスコン野郎は、妹のことが絡まなければ別に変人というわけでもなさそうだった。
普通に授業も受けるし正体をうっかり喋るようなこともない。すぐに生徒たちに溶け込んで、「イケメン優等生」を演じ始めた。メイドのサキの方は少し危ういところはあれど、なんとか誤魔化せている様子である。
彼らが転校してきて二、三日した頃には、教室はすっかり落ち着きを取り戻し、誰も騒がなくなった。
これはもしかすると俺の平穏な毎日が戻って来てくれるのではあるまいか。
俺はすぐに、そんな楽観的過ぎる考えをして安心してしまった。
そして学生の本分である勉学、つまり中間テストというものにかまけて、シスコン野郎の存在を完全に脳の隅に追いやってしまったのだ。
だがそれは単なる油断でしかなかった――。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
正体を現したのは彼らが学校にやって来てからちょうど一ヶ月になる日のこと。
じとじとと雨の降る六月初頭の朝、事件は起きた。
「何あれ!!」
「伊湾先輩、それ何ですか」
「すごいすごい!」「それどういう仕組みなんですか教えてください!!」
朝、俺が明希とダニエラと一緒に登校すると、校門前に人だかりができていた。
女子たちが黄色い声を上げてはしゃいでいた。
「何騒いでんだ、あいつら」
「……なんだか嫌な予感がしますわ」
「見て誠哉、あれ、イワンさんじゃない?」
明希の言う通り、女子たちの中心となっているのは俺のクラスメイトでありダニエラの兄であり極度のシスコン男であり異世界人なイワン・セデカンテ――もとい伊湾だった。
「俺もダニエラに同感だ」
そしてそれはもちろん的中していた。
シスコン野郎はなんと、シャボン玉のようなわけのわからない透明の玉の中に立っていたのである。
それは降り注ぐ飴を弾き返している。どうやら雨除けのようだった。
「お兄様、まさか魔道具を!?」
ダニエラが悲鳴のような声を上げた。
――魔道具。
ダニエラが言うにあの男は確か魔道具の発明の天才とかだったはずだ。魔道具というものはいまいち理解できないが、異世界における超高級で希少な便利品だと聞いた。そんなものを現代日本で、しかも大勢に見せてしまったら、騒ぎになるのは必至である。
それどころか、もっと悪い事態にも。
そして大体物事というのは悪い方にいくものである。
これも例外ではなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
セデカンテ兄妹は隠れて魔道具を使っている。
ダニエラは翻訳機、そして兄の方は一体どんなものを持っているのか得体が知れない。
女子たちに注目されたことで調子に乗ったのであろうイワン・セデカンテは、次々に自慢の発明品を披露し始めた。
例えば相手への好感度をグッと上げるための呪具だとか。
魔道具作りに必要になるらしい宝石を生み出すためのアイテムなんてものもあった。
都合の悪いことに、シスコン野郎が入部しているアニメ部の連中はこういうのに目がなかった。
「本当に魔法はあったんだ!」とか「作り方を教えてください」などと言って部活中が大騒ぎ。
明希が必死で収めようとしてもまるで聞こうとせず、部員の一人が新聞部へ情報を持ち込んで、新聞部が取材のためにうちの教室に殺到するという事件が起きた。
「さすがにこれはやばい」ということでダニエラと俺も加わって鎮火に奔走するも間に合うはずもなく、サキがダニエラに厳しく言われて――俺たちではまるで手に負えなかったためである――力づくでシスコン野郎を止めても、もはや手遅れだったのだ。
ダニエラは二、三日に一度夜這いをかけられて迷惑しているらしいが、正直なところ俺にはあまり関係のない話だ。というかこれ以上巻き込まれたくない。
ダニエラ関連を除けば俺とシスコン野郎の接点などほぼないわけで、ダニエラの背後から投げかけられる殺意のこもった視線さえ我慢すればなんとかなる。
シスコン野郎は、妹のことが絡まなければ別に変人というわけでもなさそうだった。
普通に授業も受けるし正体をうっかり喋るようなこともない。すぐに生徒たちに溶け込んで、「イケメン優等生」を演じ始めた。メイドのサキの方は少し危ういところはあれど、なんとか誤魔化せている様子である。
彼らが転校してきて二、三日した頃には、教室はすっかり落ち着きを取り戻し、誰も騒がなくなった。
これはもしかすると俺の平穏な毎日が戻って来てくれるのではあるまいか。
俺はすぐに、そんな楽観的過ぎる考えをして安心してしまった。
そして学生の本分である勉学、つまり中間テストというものにかまけて、シスコン野郎の存在を完全に脳の隅に追いやってしまったのだ。
だがそれは単なる油断でしかなかった――。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
正体を現したのは彼らが学校にやって来てからちょうど一ヶ月になる日のこと。
じとじとと雨の降る六月初頭の朝、事件は起きた。
「何あれ!!」
「伊湾先輩、それ何ですか」
「すごいすごい!」「それどういう仕組みなんですか教えてください!!」
朝、俺が明希とダニエラと一緒に登校すると、校門前に人だかりができていた。
女子たちが黄色い声を上げてはしゃいでいた。
「何騒いでんだ、あいつら」
「……なんだか嫌な予感がしますわ」
「見て誠哉、あれ、イワンさんじゃない?」
明希の言う通り、女子たちの中心となっているのは俺のクラスメイトでありダニエラの兄であり極度のシスコン男であり異世界人なイワン・セデカンテ――もとい伊湾だった。
「俺もダニエラに同感だ」
そしてそれはもちろん的中していた。
シスコン野郎はなんと、シャボン玉のようなわけのわからない透明の玉の中に立っていたのである。
それは降り注ぐ飴を弾き返している。どうやら雨除けのようだった。
「お兄様、まさか魔道具を!?」
ダニエラが悲鳴のような声を上げた。
――魔道具。
ダニエラが言うにあの男は確か魔道具の発明の天才とかだったはずだ。魔道具というものはいまいち理解できないが、異世界における超高級で希少な便利品だと聞いた。そんなものを現代日本で、しかも大勢に見せてしまったら、騒ぎになるのは必至である。
それどころか、もっと悪い事態にも。
そして大体物事というのは悪い方にいくものである。
これも例外ではなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
セデカンテ兄妹は隠れて魔道具を使っている。
ダニエラは翻訳機、そして兄の方は一体どんなものを持っているのか得体が知れない。
女子たちに注目されたことで調子に乗ったのであろうイワン・セデカンテは、次々に自慢の発明品を披露し始めた。
例えば相手への好感度をグッと上げるための呪具だとか。
魔道具作りに必要になるらしい宝石を生み出すためのアイテムなんてものもあった。
都合の悪いことに、シスコン野郎が入部しているアニメ部の連中はこういうのに目がなかった。
「本当に魔法はあったんだ!」とか「作り方を教えてください」などと言って部活中が大騒ぎ。
明希が必死で収めようとしてもまるで聞こうとせず、部員の一人が新聞部へ情報を持ち込んで、新聞部が取材のためにうちの教室に殺到するという事件が起きた。
「さすがにこれはやばい」ということでダニエラと俺も加わって鎮火に奔走するも間に合うはずもなく、サキがダニエラに厳しく言われて――俺たちではまるで手に負えなかったためである――力づくでシスコン野郎を止めても、もはや手遅れだったのだ。
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