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73 いくら美人でも恋人にはなりたくない。
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グレゴリー王子も言っていた通り、相手を恋に落とすにはグイグイいくべきだという考えはわかる。
わかるのだが、さすがにこれはやり過ぎではなかろうか。
銭田麗花の誘惑――というよりは俺の心を掴もうとしているというよりは外堀を埋めているだけのように感じる――はとどまるところを知らなかった。
料理部に強引に入部して来て、必要以上に親しげに振る舞っただけではない。おそらく取り巻きたちを使って俺と彼女が親しいというありもしない噂を流したり、帰宅後、豪華なディナーパーティーに招待するなどと言って家に押しかけて来て屋敷へ連れ去られそうになったことも何度か。
美少女でお嬢様だからと言って許すわけにはいかないところまで来ていた。
「いい加減にしてください」
「なぜですか? 私は部活仲間として、あなたとお近づきになりたいだけですよ」
「それなら他を当たればいいじゃないですか。どうしてそう俺ばかりこだわるんです」
我慢ならなくなった俺は、思い切ってそんな風に聞いてみた。
それに対する銭田麗花の返答はというと――。
「それを乙女に尋ねるのは、いかがなものかと思いますよ」
そんな、いかにも思わせぶりなものだった。
まだ彼女の真意はわからないが、要は俺を虜にしたいわけだ。だからこんな言動を繰り返す。
「まさか俺を好きだとでも言うんですか。そんなにダニエラから俺を引き剥がしたいと? ……冗談じゃない。ダニエラは勝負に勝ったんだ。これ以上絡んでくるのは、迷惑です」
「もちろん、ダニエラ・セデカンテが気に入らない故というあなたの推測は正しいです。しかし私があなたのことを好ましく思っているのは事実なのですよ、佐川さん」
頬を桜色に染めながら、長身の銭田麗花は俺を見下ろすようにして言う。
それが演技なのか本心なのか、俺にはわからない。わからないからこそ一層警戒を強めた。
「私は今まで様々な異性と出会って来ました。あなたのような庶民から、他国の富豪まで本当に様々です。
その中であなたは異質でした。あなたこそ、花婿に迎え入れるに相応しい男性だと思うのです」
夢見るような瞳で彼女はうっとりと語り続けた。
「もちろん立場は釣り合うようにいたしますとも。そうです、日比野明希さんは社長令嬢でしょう。そこの養子になるお手伝いをして差し上げます。もちろん日比野さんの会社に投資をし、成長させることもしますよ?
もちろん資金問題だけでお付き合いするというのは私としても望ましくないので、まず恋人になりましょう。ゆっくりでも構いません、愛を育んで行ってから、幸せな結婚生活を迎えようではありませんか。
正体不明の自称お嬢様についていくより、私との未来は安全安心ですよ」
……途中から何かのセールスを聞かされているようだった。
彼女の言い分は、まあわかる。異世界人であり、不正な戸籍しか持っていないダニエラと結婚するより、別の女性を選んだ方がいいのだろう。
だがそうだとしても、あまりに銭田麗花の話は俺としては受け入れ難いものだった。
厄介な絡み方をされた覚えしかない銭田麗花を恋人にするなど、絶対に嫌だ。
きっと彼女の恋人の座に座りたい男はいくらでもいると思うので、彼らに譲ろうと思う。
「……前生徒会長から本当に好意を向けられてるとしたら光栄なことだとは思いますけど、辞退させてもらいます。俺、口約束だけど婚約者がいるし、ダニエラに絶賛片想い中なんで」
「――――」
「美人だからって誰にでも惚れるわけじゃないんです。俺、そんなに浮気性じゃないですから」
俺はできる限りの言葉で、拒絶を伝えた。
伝えた……のだが。
「わかりました。残念ですが、仕方ありませんね。ではまた明日」
少しも傷ついた様子なく、まるで何もなかったかのように笑顔を見せ、立ち去って行ってしまった。
……ああ、きっとまだ何か奥の手があるんだろうな。
それを悟ってしまった俺は、これは意外と彼女は本気なのかも知れないと思い始めていた。
わかるのだが、さすがにこれはやり過ぎではなかろうか。
銭田麗花の誘惑――というよりは俺の心を掴もうとしているというよりは外堀を埋めているだけのように感じる――はとどまるところを知らなかった。
料理部に強引に入部して来て、必要以上に親しげに振る舞っただけではない。おそらく取り巻きたちを使って俺と彼女が親しいというありもしない噂を流したり、帰宅後、豪華なディナーパーティーに招待するなどと言って家に押しかけて来て屋敷へ連れ去られそうになったことも何度か。
美少女でお嬢様だからと言って許すわけにはいかないところまで来ていた。
「いい加減にしてください」
「なぜですか? 私は部活仲間として、あなたとお近づきになりたいだけですよ」
「それなら他を当たればいいじゃないですか。どうしてそう俺ばかりこだわるんです」
我慢ならなくなった俺は、思い切ってそんな風に聞いてみた。
それに対する銭田麗花の返答はというと――。
「それを乙女に尋ねるのは、いかがなものかと思いますよ」
そんな、いかにも思わせぶりなものだった。
まだ彼女の真意はわからないが、要は俺を虜にしたいわけだ。だからこんな言動を繰り返す。
「まさか俺を好きだとでも言うんですか。そんなにダニエラから俺を引き剥がしたいと? ……冗談じゃない。ダニエラは勝負に勝ったんだ。これ以上絡んでくるのは、迷惑です」
「もちろん、ダニエラ・セデカンテが気に入らない故というあなたの推測は正しいです。しかし私があなたのことを好ましく思っているのは事実なのですよ、佐川さん」
頬を桜色に染めながら、長身の銭田麗花は俺を見下ろすようにして言う。
それが演技なのか本心なのか、俺にはわからない。わからないからこそ一層警戒を強めた。
「私は今まで様々な異性と出会って来ました。あなたのような庶民から、他国の富豪まで本当に様々です。
その中であなたは異質でした。あなたこそ、花婿に迎え入れるに相応しい男性だと思うのです」
夢見るような瞳で彼女はうっとりと語り続けた。
「もちろん立場は釣り合うようにいたしますとも。そうです、日比野明希さんは社長令嬢でしょう。そこの養子になるお手伝いをして差し上げます。もちろん日比野さんの会社に投資をし、成長させることもしますよ?
もちろん資金問題だけでお付き合いするというのは私としても望ましくないので、まず恋人になりましょう。ゆっくりでも構いません、愛を育んで行ってから、幸せな結婚生活を迎えようではありませんか。
正体不明の自称お嬢様についていくより、私との未来は安全安心ですよ」
……途中から何かのセールスを聞かされているようだった。
彼女の言い分は、まあわかる。異世界人であり、不正な戸籍しか持っていないダニエラと結婚するより、別の女性を選んだ方がいいのだろう。
だがそうだとしても、あまりに銭田麗花の話は俺としては受け入れ難いものだった。
厄介な絡み方をされた覚えしかない銭田麗花を恋人にするなど、絶対に嫌だ。
きっと彼女の恋人の座に座りたい男はいくらでもいると思うので、彼らに譲ろうと思う。
「……前生徒会長から本当に好意を向けられてるとしたら光栄なことだとは思いますけど、辞退させてもらいます。俺、口約束だけど婚約者がいるし、ダニエラに絶賛片想い中なんで」
「――――」
「美人だからって誰にでも惚れるわけじゃないんです。俺、そんなに浮気性じゃないですから」
俺はできる限りの言葉で、拒絶を伝えた。
伝えた……のだが。
「わかりました。残念ですが、仕方ありませんね。ではまた明日」
少しも傷ついた様子なく、まるで何もなかったかのように笑顔を見せ、立ち去って行ってしまった。
……ああ、きっとまだ何か奥の手があるんだろうな。
それを悟ってしまった俺は、これは意外と彼女は本気なのかも知れないと思い始めていた。
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