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それぞれの試練

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「何なのよ全く、信じられない! あの女を攫ってくれたまではいいけれど、本当にその後は最悪だわ! 大体何なのよ、あの最後の捨て台詞は!!」

 レイは心底腹立たしげに怒鳴っていた。
 兄に対して相当怒っているのだと思ったが、

「でもまあ考えてみれば、私がお兄様の立場でも同じことを言ったわね。別にどうなったっていいもの、あんなヤツ」

(いいのかよ!? どういう兄妹だこいつら!)

 本当にその神経が知れない、やはり関わり合いたくはない。

「あーあ、ちょっと外に出ただけでも砂まみれになるのに、今日は最悪。私一旦部屋に戻るから、後はよろしく頼むわ。守地くんやあの女のことは、何かあれば逐一伝えて頂戴」

 男たち数人を置いて、レイが歩き去っていく。


(あいつらの行き先のどれかに、アキラの居場所が……)

 そうは思ったが、潜んでいた部屋からはなかなか出て行けそうにない。

 レイはすでに、ユウトがここへ入り込んでいることに気付いている……恐らくはその出方を待っているに違いない。
 今、不用意に動くのは危険だと判断したが、はやる気持ちを抑えきれない。

「どうすりゃいいんだよ……」

 頭を抱えた、その時だった。

「キミ」

「君だよ、君」

「おい、そこの少年」

 立て続けに聞こえた突然の声に、ユウトは驚いて大きな声を出しそうになった。

 慌てて口を押さえると、慎重に声のした方へと目を凝らしてみる。
 薄暗い部屋の奥の方に、なにやら鉄格子が見える。

(牢屋……? 誰か入れられてるのか)

 更に目を懲らして見て、ユウトは思わず吹きそうになった。
 体格のいい男が五人、身動きが取れない程みっちりと牢屋に詰まっている。

(お、おい……入れすぎだろこれ、他になかったのかよ?)

 あまりに緊張感の無いことを考えてしまった。

「君はあれかな、誰かを捜しに来たのかい」

 また声を掛けて来る。 

「そ、その通りです。攫われた連れを探しに来たんです。あの、あなた方は……?」

「我々も人を捜しにここへ来た。マイハニーを……キャサリンを捜してここまで来たのだよ」

「マイハニー? キャサリンて……あ!」


 ユウトはやっと、本来の目的へと遂に辿り着いた。 
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