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引きこもり115日目

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引きこもり115日目

 日が沈みかけた森の奥でボロボロの女が3匹のヘルハウンドに追われていた。
 森の掃除屋と揶揄される漆黒の猟犬は、確実に女を追い詰めていっていた。

「なぜだ!私は殿下護衛隊長シルキド・フェドだぞ!その私が牢に囚われ、あまつさえ獣如きに追われて良い筈が無い!これも全部あの魔女のせいだ!!」

 走り続けるが、遂に切り立った崖に追い詰められてしまう。

「嫌だ・・・父上・・・レオンハルト・・・」

 炎龍の騒ぎに乗じて牢から脱出してしまったのが運の尽きなのか?
 領地に帰ろうと盗んだ短剣で行商の馬車を襲ったのが原因なのか?
 シルキドが一番の原因だと思ったのはその時に現れた黒い二足歩行のウサギが原因だと思っていた。

 シルキドが行商を襲った場所は領都フェドへと繋がる道であり、平民は自分の命令を聞くと思っていたが、手に持っていた石を投げ付けられるという思わぬ反撃にあった。

 その直後草むらから姿を現した燕尾服の黒ウサギがライトニングの魔法を放ってきたので慌てて近くの森に逃げ込んで今に至る。
 その際にナイフもどこかに落としてしまい、武器は己の手足だけ、泣き言を言いたくなる。

「だれか・・・たすけろ!」

 その刹那、ヘルハウンドは吹き飛び悲鳴を上げて森に逃げ居てく。

「これが仕留め損ねた盗賊?」

「うん・・・クロウサ一号が言っていた・・・」

 そこには黒とピンクの可愛らしいドレスを着た二人の少女が宙に浮かんでいた。

「火魔法はダメ・・・やるなら土で・・・」

「解ってるわよ、アースハンマー!」

 突如土が集まり鎚になって襲い掛かってくる、辛うじて交わすが数を増やし襲ってくる。

「くっ、この!」

 落ちていた石を掴みシータの方に投げつけるが届かず失敗。
 だが、気がそれた間に木々の間に転がるように逃げ込むと、陰に隠れ息を殺す。

「たしか、コッチだよね」

「うん・・・あそこ・・・」

 その言葉に目を目一杯見開き涙を流し震える。

「やばいやばいやばい」

 恐怖で動くことすら出来ず、ガタガタと震え上がるが、

「み~つけた♪」

 その声とともに意識を失ってしまった。

「ねぇこれどうする?」

「アレ山の鉱山・・・」

 即答するシークの示した山は、大の男の奴隷でも泣き喚くと言われる鉱山だった。

「確かに、あそこ人手不足って言ってたね」

「う・・・ん・・・体力あるし・・・面白そう・・・」

「確かに、あれだけ走って、あの石結構重いよね」

 こうして、本人が知らない所でアレ山での鉱山労働が決まったシルキドは今は夢の中だった。

 事の顛末を知らないフランソワはアレ山の生産率が上がった事を素直に喜んでいたとか・・・


同じ日、モミジ

 何時もの様に行商人に成りすましてある村を通りかかった。
 何時もより早く着いたので、何時もの食堂は満席だったため、何時もと違う食堂にした。

「いらっしゃいませ・・・」

 元気の無い声にふとおせっかい心が疼いたモミジは如何したのかと問いかけると。

「ごめんなさい・・・初めてのお客さんに気を使わせるなんて・・・」

「ま、ま、気にしないで言うでござるよ」

「う、うん・・・実はお父さんがギャンブルで物凄い借金をしちゃって・・・明日までに返せないと私・・・借金奴隷にされちゃうの」

 そう切実に話す女の子は年の頃なら12、3歳ぐらい少女であった。

「お父さんは何処でござるか?」

「多分、ギャンブル場だと思うけど・・・」

「はぁ、こんな状態でギャンブル・・・ここの料理はどうなってるんだい?」

「お父さんが夜仕込んだのを私が温めて出してるよ」

 モミジは軽いめまいを覚えつつも一旦食事を頼み、その後でギャンブル場に行くことにした。
 食事はビーフシチューだけ、パンも無いので、客足が少ない理由は直ぐに伺えた。
 ビーフシチューも焦げていてお世辞にも美味しいとは言い難い物であったが残さずたいらげ。
 食後ギャンブル場に少女と向かったモミジは、驚く程にギャンブルに熱中した父親の姿を見つけるのだった。

「よし!よし!・・・あ~」

「お父さん!」

「あれ?ジュリじゃねぇか?金持って来てくれたのか?」

 呆れたことを言う父親にモミジが近づいて行き

「貴殿がこの子の父親でござるか?」

「あん?あんたは?」

「拙者グリーンウッド領内を行商して回っているモミジと申す。
 聞けば今日中に借金を返さねば、この子は借金奴隷になると言うではないか?
 だと言うに何故今もギャンブルに興じているのでござる?」

 モミジの言葉にメンドクサそうに

「これで一発当てれば借金もチャラだ、だから頑張ってるんだよ」

「それは、無理な話でござろう?現に今も負け込んでいるようだ」

 両手をぶらぶらさせながら、モミジを見下すように

「ギャンブルもやった事のねぇ餓鬼が説教垂れてんじゃねぇよ。
もし、てめぇがこの台で勝てたなら、話しぐれぇは聞いてやるがよぅ」

 父親が指したのはルーレットだった。
 モミジはルールを店の人に聞くと、チップを100ゴールド分にかえ、黒の00に全部置いた。

「はは~初心者のやることだねぇ」
 
 と笑う父親を無視して、玉が転がり始める。

「大丈夫でござるよ、これで勝って話を聞いてもらおう」

 結果、モミジの一人勝ちでテーブルの上のチップは全てモミジの物となった。
 納得がいかないとごねる父親に見せ付けるかのように、全てのゲームで勝ち進み、換金時には198万ゴールドになっていた。

「これで話は聞いてもらえるでござるね?」

「おい!ジュリを売ってやるから、その金を寄こせ!」

「は?なにを・・・」

 行き成りそんな事を言い始めた父親に困惑する、ジュリはショックで声も出ないようだった。

「なんなら、店もつけてやる!良いだろ?」

「ダメに決まってる・・・」

「あんたが断ったら、変態貴族に売るだけだ!いいだろう?なぁなぁ!」

 呆然とする二人を置き去りに、父親はモミジの手から金貨の入った袋を引ったくり、ジュリを押し付けるとギャンブル場に戻って行った。


「・・・あの・・・父がすいません」

 頭が膝につくほど頭を下げるジュリにモミジは困ったような顔を向け

「えっと、今回の件は公文書にして、拙者がジュリを引き取ると言う事で良いでござろうか?」

「あ、あの・・・良いんですか?」

「どの道今回の件で事無きを得たとしても、同じ事になりそうな気がするでござる。拙者の気まぐれとしてジュリには読み書き計算を覚えてもらって、本拠地の受付でもしてもらうでござるよ」

 とほほと笑うモミジに再び頭を下げるジュリ、こうして成り行きで領都ハラギリンに本店を構えることになった。

 本店には回復薬の他に、簡易魔道具や簡単な魔剣などを置くことで品揃えを増やし、領都ハラギリンにそれらの品を買い求めるものが増え。
 暫く後に領都ハラギリンは、グリーンウッド1の都市として領都グリーンウッドに名称を変える事になる。
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