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Kitty編
5. おるすばん
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朝目が覚めて、最初に確認するのは現在時刻ではなく、ソラの存在だ。
裸のままぴたーっとくっついている時もあれば、猫の姿で僕の上に乗って寝ている時もある。その身体が『ヒトガタ』でも、猫でも。起きてすぐ、無意識に手を這わして傍にいる事を確かめてしまう。
猫の時はゴロゴロと鳴る、喉の音をくすぐったく思いながらもふもふの手触りを楽しみ。『ヒトガタ』の時はソラが身を捩って甘い吐息を洩らすまで、スベスベの肌をどこまでもなぞっていく。
今日のソラは『ヒトガタ』で、僕に背を向けて寝ていた。『背を向けて』というのは初めてで、寂しさを感じながら擦り寄り脇から胸へと手を滑らせると、たまたま触れた所は小さな柔らかい粒だった。中指の先で円を描くようになぞると、寝言のようなもごもごした声にだんだんと艶がかかり、また二人だけの世界に……なるはずが…。
「ケイ…ぼく、きょうはそとですごす。だからよびのいえのカギかしてほしいの」
寝起きの悪いソラが僕より先に起きていたらしい事にも驚いたけれど、突然そんな事を言われて、訳がわからなかった。
まさか僕は恋人から、距離を置こう、と言われている状況なのか。
「外で過ごす?ダメダメ!今寒波が来てるんだよ?ソラはもう家猫だから外の寒さには耐えられないよ」
そう言ってるのに、ベッドからするりと抜け出ようとするソラの、細い手首を慌てて掴まえて腕の中に戻す。
服を着ないソラの為に、エアコンはつけっぱなしだ。快適な温度に慣れている身体は、外に出た瞬間凍えてしまうに決まっている。
「……じゃあぼく『精気』もらうのやめる」
「やめる…って?」
「『せっくす』やめる」
これは、ただ事ではない。
やっぱり、3日に1回で良いと言われたのに毎日は執拗かったか。そんな冗談を言おうとしたのに、ソラの綺麗なグリーンの瞳がうるうるになっているのを見て、心臓が跳ね上がった。
「どうしたの?僕の事、嫌になった?」
「ちがう!ちがうの!…ケイ…このごろげんきないでしょ。まいにちぼくに『精気』わけてるから…」
そういえば、バイト先の先輩にも顔色が悪いと言われた。ソラも心配している?しおしおしているのは可愛いけど…。
「わかった!今日はもう『せっくす』しないから!だから、ね?外には行かないで?ソラ、部屋から出たらダメだよ?」
「うん」
「今日は、バイト先の先輩と焼き肉食べに行くから。沢山食べて栄養摂るから!だから部屋でゆっくりしてて?」
「うん…ぼく、おるすばんしてるね」
バイト先の同僚たちと焼き肉を食べに行き、焼酎を何本空けただろう。先輩が酔っぱらって眠ってしまいそうなので、歩けるうちに先輩の家に移動する事になった。
そこでまた酒を飲み、僕は“家に帰らなきゃ”と思いつつ、気が付けばもう脚に力が入らなくて寝てしまったのだ。
どのくらい経ったのだろう。身体がゾクリとして、目が覚めた。
もしかして、風邪を引いた?いや、酔いが醒めた後の寒気だろう…。今、何時だ?と、時計を見たらもうすぐ朝になる。
「は…?ヤバ…。ソラ、大丈夫かな」
先輩の家から僕の家は、公園を挟んでそんなに離れていない。歩いて帰れる距離だ。シラフになってみれば急にソラの事が心配になり、僕はいてもたってもいられなくなった。そして、先輩の部屋をささっと片付け飛び出した。
やけに寒い。早朝の冷え込みに吐く息も真っ白だ。と思ったら、雪が降っていた。街路樹の枝には、もう積もっている。
僕は近道の公園に入って、横切ろうと広場に出た。
広場は街灯と雪明かりに、ほんのり明るくなっていて、だからその、こんもりとした膨らみは目を引いた。
何故だろう。
目が離せなくて、胸騒ぎがした。嫌な予感で頭の中が一杯になり、突き動かされるように走って膨らみの傍に、膝をついた。
見覚えのあるグレーのスウェットと、黒いニット帽が雪に埋もれている。
「……ソラ?」
わずかにそれが、動いた、気がした。
「ソラ!!」
急いで雪とスウェットをかき分けた。そこには、ぐったりとした三毛猫が横たわっていた。
「な…何で…こんな所に…!」
“ ごめん…なさい。おきにいりの…ふくとぼうし…ゆきに、ぬれ…ちゃって……”
「そんな事は…!」
“ ケイ…むかえにきたんだ…おるすばん…さみしくて。『ヒトガタ』で、でてきたのに…くるまにぶつかって…ねこに…もどっちゃって……”
薄暗くて怪我の具合は良く見えないが、ソラの口許の白い毛が所々赤黒く染まっている。
急いでブルゾンの中に入れた。スウェットと帽子を拾い、履いてきたのだろうサンダルは、片方しか見当たらないけれど探す時間は惜しい。
「すぐに家に着くからな?それから、病院に…救急車で…」
ソラを動物病院に連れていくべきか、『ヒトガタ』にさせて人間の病院へ向かうべきなのか…。
どっちだ…どっちに連れて行けば…!
家に着いて、風呂場に直行する。洗面器にお湯を溜めて…ソラを懐からそっと取り出した。泥と固まった赤黒い血で汚れた部分をそっと洗う。ソラが、光の灯っていない目をうっすらと開けた。
"……また、たすけて…もらっちゃった…"
「ソ、ソラ!もう少しで病院が開くから、頑張って?猫のままでいいから!」
"……うん。ありがとう。ぼく、がんばる…"
「ソラ、ごめん!ごめんね?おるすばん…」
"ケイ?"
「ん?なに?」
"だいすき…あいしてる……"
「うん…!うん!愛してるよソラ!」
裸のままぴたーっとくっついている時もあれば、猫の姿で僕の上に乗って寝ている時もある。その身体が『ヒトガタ』でも、猫でも。起きてすぐ、無意識に手を這わして傍にいる事を確かめてしまう。
猫の時はゴロゴロと鳴る、喉の音をくすぐったく思いながらもふもふの手触りを楽しみ。『ヒトガタ』の時はソラが身を捩って甘い吐息を洩らすまで、スベスベの肌をどこまでもなぞっていく。
今日のソラは『ヒトガタ』で、僕に背を向けて寝ていた。『背を向けて』というのは初めてで、寂しさを感じながら擦り寄り脇から胸へと手を滑らせると、たまたま触れた所は小さな柔らかい粒だった。中指の先で円を描くようになぞると、寝言のようなもごもごした声にだんだんと艶がかかり、また二人だけの世界に……なるはずが…。
「ケイ…ぼく、きょうはそとですごす。だからよびのいえのカギかしてほしいの」
寝起きの悪いソラが僕より先に起きていたらしい事にも驚いたけれど、突然そんな事を言われて、訳がわからなかった。
まさか僕は恋人から、距離を置こう、と言われている状況なのか。
「外で過ごす?ダメダメ!今寒波が来てるんだよ?ソラはもう家猫だから外の寒さには耐えられないよ」
そう言ってるのに、ベッドからするりと抜け出ようとするソラの、細い手首を慌てて掴まえて腕の中に戻す。
服を着ないソラの為に、エアコンはつけっぱなしだ。快適な温度に慣れている身体は、外に出た瞬間凍えてしまうに決まっている。
「……じゃあぼく『精気』もらうのやめる」
「やめる…って?」
「『せっくす』やめる」
これは、ただ事ではない。
やっぱり、3日に1回で良いと言われたのに毎日は執拗かったか。そんな冗談を言おうとしたのに、ソラの綺麗なグリーンの瞳がうるうるになっているのを見て、心臓が跳ね上がった。
「どうしたの?僕の事、嫌になった?」
「ちがう!ちがうの!…ケイ…このごろげんきないでしょ。まいにちぼくに『精気』わけてるから…」
そういえば、バイト先の先輩にも顔色が悪いと言われた。ソラも心配している?しおしおしているのは可愛いけど…。
「わかった!今日はもう『せっくす』しないから!だから、ね?外には行かないで?ソラ、部屋から出たらダメだよ?」
「うん」
「今日は、バイト先の先輩と焼き肉食べに行くから。沢山食べて栄養摂るから!だから部屋でゆっくりしてて?」
「うん…ぼく、おるすばんしてるね」
バイト先の同僚たちと焼き肉を食べに行き、焼酎を何本空けただろう。先輩が酔っぱらって眠ってしまいそうなので、歩けるうちに先輩の家に移動する事になった。
そこでまた酒を飲み、僕は“家に帰らなきゃ”と思いつつ、気が付けばもう脚に力が入らなくて寝てしまったのだ。
どのくらい経ったのだろう。身体がゾクリとして、目が覚めた。
もしかして、風邪を引いた?いや、酔いが醒めた後の寒気だろう…。今、何時だ?と、時計を見たらもうすぐ朝になる。
「は…?ヤバ…。ソラ、大丈夫かな」
先輩の家から僕の家は、公園を挟んでそんなに離れていない。歩いて帰れる距離だ。シラフになってみれば急にソラの事が心配になり、僕はいてもたってもいられなくなった。そして、先輩の部屋をささっと片付け飛び出した。
やけに寒い。早朝の冷え込みに吐く息も真っ白だ。と思ったら、雪が降っていた。街路樹の枝には、もう積もっている。
僕は近道の公園に入って、横切ろうと広場に出た。
広場は街灯と雪明かりに、ほんのり明るくなっていて、だからその、こんもりとした膨らみは目を引いた。
何故だろう。
目が離せなくて、胸騒ぎがした。嫌な予感で頭の中が一杯になり、突き動かされるように走って膨らみの傍に、膝をついた。
見覚えのあるグレーのスウェットと、黒いニット帽が雪に埋もれている。
「……ソラ?」
わずかにそれが、動いた、気がした。
「ソラ!!」
急いで雪とスウェットをかき分けた。そこには、ぐったりとした三毛猫が横たわっていた。
「な…何で…こんな所に…!」
“ ごめん…なさい。おきにいりの…ふくとぼうし…ゆきに、ぬれ…ちゃって……”
「そんな事は…!」
“ ケイ…むかえにきたんだ…おるすばん…さみしくて。『ヒトガタ』で、でてきたのに…くるまにぶつかって…ねこに…もどっちゃって……”
薄暗くて怪我の具合は良く見えないが、ソラの口許の白い毛が所々赤黒く染まっている。
急いでブルゾンの中に入れた。スウェットと帽子を拾い、履いてきたのだろうサンダルは、片方しか見当たらないけれど探す時間は惜しい。
「すぐに家に着くからな?それから、病院に…救急車で…」
ソラを動物病院に連れていくべきか、『ヒトガタ』にさせて人間の病院へ向かうべきなのか…。
どっちだ…どっちに連れて行けば…!
家に着いて、風呂場に直行する。洗面器にお湯を溜めて…ソラを懐からそっと取り出した。泥と固まった赤黒い血で汚れた部分をそっと洗う。ソラが、光の灯っていない目をうっすらと開けた。
"……また、たすけて…もらっちゃった…"
「ソ、ソラ!もう少しで病院が開くから、頑張って?猫のままでいいから!」
"……うん。ありがとう。ぼく、がんばる…"
「ソラ、ごめん!ごめんね?おるすばん…」
"ケイ?"
「ん?なに?」
"だいすき…あいしてる……"
「うん…!うん!愛してるよソラ!」
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