鎌倉和田塚あやかし写真館

葉月七里

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第4話 月光に長く棚引く追い人の影

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長かった梅雨が明け、灼熱の太陽の光が降り注ぐ季節となった。
休日の昼、私はクーラーをがんがんにかけながら、ベッドの上でだらだらとスマホをいじっている。

サヤカがSNSを更新していた。
てか、SNSの女王サヤカは、今やほぼ毎日、より頻繁に新しい写真を次々とアップすることで人気が急上昇しており、ここのところフォロワーやいいねの数もうなぎ上りだ。

『今日は湘南海岸にきてまーす。暑いけど、やっぱり海はサイコー!』

そんなコメントとともに、波打ち際でアロハのハンドサインをするビキニ姿のサヤカの写真が添えられていた。
いいねの数は優に1000を超え、その下に、フォロワー達のたくさんの賞賛コメントが並んでいる。

『サヤカちゃん、ビキニが似合う!』
『スタイル最高だね!』
『もっと、水着の写真アップして!』

などなど、さながら人気アイドル扱い。

「ふんだっ!」

私はスマホに表示された、サヤカの満面の笑顔に向かって毒づく。
ありもしない『よくないね!』ボタンを、頭の中で激しく1万回連打する。

そんな燃え上がった虚しい嫉妬にふと我に帰り、自分でもあきれてため息をついた。

今日、サヤカはここからすぐ近くの海に来てて、夏を満喫している。
それなのに私はどうだ。
地元だというのにどこにも行かず、だらだらとベッドに寝転がってるだけじゃないか。

「よし、私も出かけるぞお!」

天井に向かって声を張り上げ、気合を入れてみる。
でも、どこへ行くというのだ。
ひとりで水着着て海へ行くのは気が進まないし、休日で混雑した観光名所を汗だくになって回るのもおっくうである。

となると。
やはり、和田塚写真館しか行く場所が思い当たらない。
倉橋さんの笑顔を見るだけでも、なんだか気分が上がりそうだ。
カメラのこと、教えてあげるからいつでもおいでって、言ってたし。
本当は倉橋さんも私に会いたいんじゃないの、って勝手に妄想する。うん、妄想するだけなら誰にも迷惑は掛けてない。

私はもそもそとベッドから起き上がると、洗面所へ向かった。


◆◆◆


カメ吉を首からぶら下げ、汗だくになって鎌倉駅まで歩いてきた。
相変わらず、駅前は大勢の観光客であふれている。
朝から気温は上がり続けて30度を超え、街行く人々もタオルを首に巻いたりうちわで扇いだりして暑さに耐えているようだ。

何気なしにカメ吉を構え、鎌倉駅に向けてシャッターを切る。

ぱしゃこん!

あれ、またあの変な音だ。
画像を確認すると、夜のがらんとした鎌倉駅が写っている。
カメ吉の時計を見ると昨夜の2時。いつの間にか、時刻設定が変わっていたらしい。

やれやれと思いつつ、画像の消去ボタンを押そうとして、その手が止まった。
深夜だというのに、改札の傍に立っているひとりの男の姿が写っている。
そのうつむき加減のひょろっとした姿に、見覚えがあった。

画像を拡大してみると、徐々に男の顔が見えてくる。
暗さとノイズのせいでくっきりとまではいかないが、それが誰かくらいはわかる。

東京に住んでいた時に、つきまとわれていた元彼のストーカーだ。
なぜ、やつが鎌倉に。しかもこんな深夜に?

思わず背筋が寒くなるのを感じた。
顔を上げて注意深くあたりを見渡す。やつの姿は見当たらないが、どこからか見られている感覚がしてならない。
やつから逃げて鎌倉に引っ越してきたのが、バレたのだろうか。
でも、そのことは信用できる僅かな友人しか知らないはずだ。
親友のさとみにしても、ストーキングの経緯を詳しく知ってる彼女が私の居場所をやつに教えるはずがない。

びくびくしながら改札を通り、江ノ電に乗った。
車内は楽しげな観光客であふれているが、その中にやつが紛れてるんじゃないかと思うと落ち着かない。
どこかじめっとした視線を感じてるような気がして、何度も車内を見渡した。

和田塚駅で降りたのは、私を含めて数人。家族連れやお年寄りだけだ。
怪しげな人影は見当たらない。ドアが閉まり、江ノ電が発車するのを見届けて漸くほっと息を吐いた。

和田塚写真館へと歩きながら、スマホでさとみに電話する。

『おう、加奈。どうしたさ?』

いつもの朗らかなさとみの声が聞こえ、少し気分が和らいだ。

『倉橋さんを紹介してくれるんなら、今すぐにでもそっち行くよ』
「またいずれね。それよか、さとみ。最近、ノブオ見かけた?」
『ノブオ? あの日にやっつけてから、それっきりだけど』

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