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第5話 時空少年と人拐い鬼
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◆◆◆
小銭で料金を払いタクシーを降りたとたん、祭囃子(まつりばやし)が耳に飛び込んで来た。
御霊神社前の小さな通りは多くの見物客で溢れかえっている。
私はスマホの画面を見やる。やはり、圏外のままだ。
すぐ脇を、ガラケーを耳に当ててしゃべりながら話す若い男の子が通り過ぎる。
その先で、頭上に手を伸ばして面掛行列の様子を撮影する人々。その人たちが持っているのもどれもガラケーだ。スマホを持ってる人なんて誰一人いやしない。
そして、よーく見ると見物に来てる若い女の子たちのファッションも、どこかレトロだ。
マリンルックのボーダーシャツがやたら目につき、ボトムはレギンスやスパッツ??
改めて自分のスマホに目をやり、カレンダーを開く。
今日の日付はーー
わかってはいたのだが、今更ながら唖然とした。
表示された日付は……今からちょうど15年前だ。
頭の中をおもちゃのアヒルがぷかぷかと浮かぶ。それは、次第にどんどん増えて行って何百ものアヒルが頭の中を覆い尽くしていく。
ぷかぷかぷかぷかぷかぷかぷかぷかぷかぷか……。
「おねえさんっ!!」
男の子の声ではっと我に返った。
「……ごめん、ちょっと現実逃避してた」
「ゲンジツトウヒって?」
「ちょっとね、あまりのことに頭がショートしちゃったのよ。だって、まさか15年前にタイムスリップするなんて思わないじゃない……」
この男の子は、小学生の頃の倉橋さんなのだ。
彼の説明によると、釈迦堂切り通しは年に数回、深い霧が発生した時だけ時空を超えることができる怪異なスポットで、地元では有名だが、知らずに通った観光客に行方不明者が続出したため、のちに閉鎖されたという。
当時、たまたま釈迦堂切り通しでの霧の発生と面掛行列が重なって、彼は現代へとやって来れたのだ。
この時代のお父さんが出張中で不在だったので、未来のお父さんを連れてくるために。
だけど、現代のお父さんは入院中だから、たまたま店番していた私が代わりに過去へとタイムスリップしてしまったというわけである。
この時代の私といえば、長野の実家で暮らしている小学生。
私がここにいると同時に、小学生の私も存在してるはずで……。
ああ、もう何がなんだかわからない。
「おねえさん、だいじょうぶ? なんか白目むいてるけど」
「な、なんとか平常心を保つ努力はしてるよ、今のところ。と、とにかく、その鬼を探そうか」
「うん!」
通りには、昔の装束姿で様々なお面をつけた人々が練り歩いている。
烏に天狗、おかめにひょっとこ。
注意深く目で追っていると……いた。
翁(おきな)の後ろに続いて歩く、鬼の面(つら)をした背が異常に高くがっしりとした体形の男。
よくよく観察すると、明らかに他の面掛男たちとは異なることがわかる。
面がリアルすぎるのだ。被っているというよりは皮膚に密着しているように見える。
つまりそれは、面なんかじゃなく本当の姿ということ。
鬼は見物客を見定めるように、目を配りながらゆっくりと歩いて行く。
「あいつね?」
幼き倉橋光一郎くんは、こくりと頷いた。
その目は憎しみに満ちている。
「じゃあ、まずは証拠写真を撮っとかなきゃ」
私はカメ吉を構えると、レンズを鬼に向ける。
するとその気配を察したかのように、鬼が立ち止まりこちらを向いた。その赤い目はかっと見開いている。
今にも襲いかかってきそうな恐ろしい「気」をひしひしと感じる。
がたがた震えながらも、なんとかシャッターを連続で切った。
と、ファインダーの中の鬼が急にのけぞる。
いつの間にか果敢にも鬼に掴みかかる光一郎くんの姿が、そこにあった。
「かあさんを返せっ!!」
「光一郎くんっ!」
光一郎くんは必死に鬼の体をを殴りつけるが、所詮は子どもの力だ。
鬼はひょいと光一郎くんの体を担ぎ上げると、そのまま列を離れて走り出した。
見物客は、なんだなんだと言いながらも、祭りの余興だと思ってか見てるだけだ。
小銭で料金を払いタクシーを降りたとたん、祭囃子(まつりばやし)が耳に飛び込んで来た。
御霊神社前の小さな通りは多くの見物客で溢れかえっている。
私はスマホの画面を見やる。やはり、圏外のままだ。
すぐ脇を、ガラケーを耳に当ててしゃべりながら話す若い男の子が通り過ぎる。
その先で、頭上に手を伸ばして面掛行列の様子を撮影する人々。その人たちが持っているのもどれもガラケーだ。スマホを持ってる人なんて誰一人いやしない。
そして、よーく見ると見物に来てる若い女の子たちのファッションも、どこかレトロだ。
マリンルックのボーダーシャツがやたら目につき、ボトムはレギンスやスパッツ??
改めて自分のスマホに目をやり、カレンダーを開く。
今日の日付はーー
わかってはいたのだが、今更ながら唖然とした。
表示された日付は……今からちょうど15年前だ。
頭の中をおもちゃのアヒルがぷかぷかと浮かぶ。それは、次第にどんどん増えて行って何百ものアヒルが頭の中を覆い尽くしていく。
ぷかぷかぷかぷかぷかぷかぷかぷかぷかぷか……。
「おねえさんっ!!」
男の子の声ではっと我に返った。
「……ごめん、ちょっと現実逃避してた」
「ゲンジツトウヒって?」
「ちょっとね、あまりのことに頭がショートしちゃったのよ。だって、まさか15年前にタイムスリップするなんて思わないじゃない……」
この男の子は、小学生の頃の倉橋さんなのだ。
彼の説明によると、釈迦堂切り通しは年に数回、深い霧が発生した時だけ時空を超えることができる怪異なスポットで、地元では有名だが、知らずに通った観光客に行方不明者が続出したため、のちに閉鎖されたという。
当時、たまたま釈迦堂切り通しでの霧の発生と面掛行列が重なって、彼は現代へとやって来れたのだ。
この時代のお父さんが出張中で不在だったので、未来のお父さんを連れてくるために。
だけど、現代のお父さんは入院中だから、たまたま店番していた私が代わりに過去へとタイムスリップしてしまったというわけである。
この時代の私といえば、長野の実家で暮らしている小学生。
私がここにいると同時に、小学生の私も存在してるはずで……。
ああ、もう何がなんだかわからない。
「おねえさん、だいじょうぶ? なんか白目むいてるけど」
「な、なんとか平常心を保つ努力はしてるよ、今のところ。と、とにかく、その鬼を探そうか」
「うん!」
通りには、昔の装束姿で様々なお面をつけた人々が練り歩いている。
烏に天狗、おかめにひょっとこ。
注意深く目で追っていると……いた。
翁(おきな)の後ろに続いて歩く、鬼の面(つら)をした背が異常に高くがっしりとした体形の男。
よくよく観察すると、明らかに他の面掛男たちとは異なることがわかる。
面がリアルすぎるのだ。被っているというよりは皮膚に密着しているように見える。
つまりそれは、面なんかじゃなく本当の姿ということ。
鬼は見物客を見定めるように、目を配りながらゆっくりと歩いて行く。
「あいつね?」
幼き倉橋光一郎くんは、こくりと頷いた。
その目は憎しみに満ちている。
「じゃあ、まずは証拠写真を撮っとかなきゃ」
私はカメ吉を構えると、レンズを鬼に向ける。
するとその気配を察したかのように、鬼が立ち止まりこちらを向いた。その赤い目はかっと見開いている。
今にも襲いかかってきそうな恐ろしい「気」をひしひしと感じる。
がたがた震えながらも、なんとかシャッターを連続で切った。
と、ファインダーの中の鬼が急にのけぞる。
いつの間にか果敢にも鬼に掴みかかる光一郎くんの姿が、そこにあった。
「かあさんを返せっ!!」
「光一郎くんっ!」
光一郎くんは必死に鬼の体をを殴りつけるが、所詮は子どもの力だ。
鬼はひょいと光一郎くんの体を担ぎ上げると、そのまま列を離れて走り出した。
見物客は、なんだなんだと言いながらも、祭りの余興だと思ってか見てるだけだ。
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