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第5話 時空少年と人拐い鬼
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鬼はものすごい速度で走って行く。
このままだと、光一郎くんも拐われてしまう。
気づくと、私も全力で駆け出していた。
自慢じゃないが、高校のときのマラソン大会ではビリから2番目の鈍足だ。
そんな私だが、自分でも信じられない速度で鬼を追っかけていた。
火事場の馬鹿力ってやつかもしれない。
だが、なかなか鬼との差はなかなか縮まらない。
子供を担いで逃げる鬼と、鬼の形相で必死にそれを追う私。
まわりの見物人は、やんややんやと囃し立てる。
そのとき。ふと、閃いた!
私は走りながらストラップを握り締めると、投げ縄の要領でカメ吉をぐるぐると回転させた。
そしてはずみを付けて、逃げる鬼の背中に向けカメ吉を思いっきり投げつけるーー
自慢じゃないが、高校のとき体育での砲丸投げの成績は0.5mだ。ダントツでビリの成績。
ーーにもかかわらず、カメ吉は特別な力を得たかのように、豪速球で鬼の背中にヒットした!
やはりこれぞ、ホンモノの火事場の馬鹿力だ。
鬼はのけぞって、その場に倒れこむ。
鬼の手から放れた光一郎くんも、はずみでころころと路面を転がった。
鬼はすぐに起き上がり片膝をつきながら、ぜいぜいと肩で息をしながら立ち尽くす私の方へと振り向いた。その目は怒りで真っ赤に光り輝いている。
「おまえ、いったい何者だ」
まるで地を這うような低く太い声だ。
ふだんの私なら、恐ろしくて泣きながら逃げてただろう。
だけど、気持ちが高ぶっていたからかどうかはわからないが、不思議と恐怖感はなかった。
「光一郎くんを連れて行くのは、絶対に許さないからっ!」
そのまま鬼と私はしばらく睨み合ったままだった。
やがて鬼は、すっと立ち上がると、燃えるような目で私を見下ろす。
「……おまえの顔は覚えた。いずれおまえも必ず拐ってやる」
そう言うと、瞬きをする間にふっと消え失せた。
はっと気づくと、その姿はどこにもない。
とたんに全身の力が抜けた。呼吸はぜいぜいと荒く心臓が早鐘を打つ。
あたりを見渡すと、起き上がろうとする光一郎くんの姿が視界に入った。
「光一郎くんっ!!」
あわてて駆け寄り、その小さな体を抱きしめた。
「大丈夫っ!? 怪我は!?」
「うん、ぼくは大丈夫だよ」
光一郎くんはおでこを擦りむいて少し血が滲んでいたが、それ以外は無事のようだ。
ポケットからハンカチを取り出して、血をそっと拭ってあげる。
「でも、オニは逃げちゃった……」
くやしそうに唇を噛み締めている。
その姿を見てるうちに、はっと閃くことがあった。
「だけど光一郎くん、鬼が本当にいた証拠は押さえたよ」
「証拠?」
不思議そうな表情を見せる光一郎くんにウインクして、路上に転がりボロボロになったカメ吉を拾い上げる。
レンズは割れてしまい、ボディも傷だらけだ。
それでも電源を入れると、背面のモニタに画像が表示された。
さっき撮った忌々しい鬼の顔、そしてその鬼に掴みかかる光一郎くんの後ろ姿。
「ほら、これが鬼がいたって証拠だよ。これをお父さんに見せれば、きっと信じてもらえるって」
光一郎くんの顔に、みるみる明るさが灯った。出会ってから初めて見せる表情だ。
私はカメ吉からメモリーカードを取り出すと、それを光一郎くんに手渡した。
「おねえさん、ありがとう」
「いいえ礼には及びません。これも消怪団の仕事だからねっ」
「消怪団……?」
「鎌倉の悪いあやかしを退治するんだ。消怪団は君が作るんだよ。もっと大きくなったらね!」
光一郎くんは不思議そうな顔をしながらも、わかった、と答える。
「……で、ひとつ気になることがあるんだけど」
「なに?」
「私はちゃんと、もとの時代に戻れるんでしょうか……?」
このままだと、光一郎くんも拐われてしまう。
気づくと、私も全力で駆け出していた。
自慢じゃないが、高校のときのマラソン大会ではビリから2番目の鈍足だ。
そんな私だが、自分でも信じられない速度で鬼を追っかけていた。
火事場の馬鹿力ってやつかもしれない。
だが、なかなか鬼との差はなかなか縮まらない。
子供を担いで逃げる鬼と、鬼の形相で必死にそれを追う私。
まわりの見物人は、やんややんやと囃し立てる。
そのとき。ふと、閃いた!
私は走りながらストラップを握り締めると、投げ縄の要領でカメ吉をぐるぐると回転させた。
そしてはずみを付けて、逃げる鬼の背中に向けカメ吉を思いっきり投げつけるーー
自慢じゃないが、高校のとき体育での砲丸投げの成績は0.5mだ。ダントツでビリの成績。
ーーにもかかわらず、カメ吉は特別な力を得たかのように、豪速球で鬼の背中にヒットした!
やはりこれぞ、ホンモノの火事場の馬鹿力だ。
鬼はのけぞって、その場に倒れこむ。
鬼の手から放れた光一郎くんも、はずみでころころと路面を転がった。
鬼はすぐに起き上がり片膝をつきながら、ぜいぜいと肩で息をしながら立ち尽くす私の方へと振り向いた。その目は怒りで真っ赤に光り輝いている。
「おまえ、いったい何者だ」
まるで地を這うような低く太い声だ。
ふだんの私なら、恐ろしくて泣きながら逃げてただろう。
だけど、気持ちが高ぶっていたからかどうかはわからないが、不思議と恐怖感はなかった。
「光一郎くんを連れて行くのは、絶対に許さないからっ!」
そのまま鬼と私はしばらく睨み合ったままだった。
やがて鬼は、すっと立ち上がると、燃えるような目で私を見下ろす。
「……おまえの顔は覚えた。いずれおまえも必ず拐ってやる」
そう言うと、瞬きをする間にふっと消え失せた。
はっと気づくと、その姿はどこにもない。
とたんに全身の力が抜けた。呼吸はぜいぜいと荒く心臓が早鐘を打つ。
あたりを見渡すと、起き上がろうとする光一郎くんの姿が視界に入った。
「光一郎くんっ!!」
あわてて駆け寄り、その小さな体を抱きしめた。
「大丈夫っ!? 怪我は!?」
「うん、ぼくは大丈夫だよ」
光一郎くんはおでこを擦りむいて少し血が滲んでいたが、それ以外は無事のようだ。
ポケットからハンカチを取り出して、血をそっと拭ってあげる。
「でも、オニは逃げちゃった……」
くやしそうに唇を噛み締めている。
その姿を見てるうちに、はっと閃くことがあった。
「だけど光一郎くん、鬼が本当にいた証拠は押さえたよ」
「証拠?」
不思議そうな表情を見せる光一郎くんにウインクして、路上に転がりボロボロになったカメ吉を拾い上げる。
レンズは割れてしまい、ボディも傷だらけだ。
それでも電源を入れると、背面のモニタに画像が表示された。
さっき撮った忌々しい鬼の顔、そしてその鬼に掴みかかる光一郎くんの後ろ姿。
「ほら、これが鬼がいたって証拠だよ。これをお父さんに見せれば、きっと信じてもらえるって」
光一郎くんの顔に、みるみる明るさが灯った。出会ってから初めて見せる表情だ。
私はカメ吉からメモリーカードを取り出すと、それを光一郎くんに手渡した。
「おねえさん、ありがとう」
「いいえ礼には及びません。これも消怪団の仕事だからねっ」
「消怪団……?」
「鎌倉の悪いあやかしを退治するんだ。消怪団は君が作るんだよ。もっと大きくなったらね!」
光一郎くんは不思議そうな顔をしながらも、わかった、と答える。
「……で、ひとつ気になることがあるんだけど」
「なに?」
「私はちゃんと、もとの時代に戻れるんでしょうか……?」
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