鎌倉和田塚あやかし写真館

葉月七里

文字の大きさ
47 / 63
第5話 時空少年と人拐い鬼

7

しおりを挟む
鬼はものすごい速度で走って行く。
このままだと、光一郎くんも拐われてしまう。
気づくと、私も全力で駆け出していた。
自慢じゃないが、高校のときのマラソン大会ではビリから2番目の鈍足だ。
そんな私だが、自分でも信じられない速度で鬼を追っかけていた。
火事場の馬鹿力ってやつかもしれない。

だが、なかなか鬼との差はなかなか縮まらない。
子供を担いで逃げる鬼と、鬼の形相で必死にそれを追う私。
まわりの見物人は、やんややんやと囃し立てる。

そのとき。ふと、閃いた!

私は走りながらストラップを握り締めると、投げ縄の要領でカメ吉をぐるぐると回転させた。
そしてはずみを付けて、逃げる鬼の背中に向けカメ吉を思いっきり投げつけるーー

自慢じゃないが、高校のとき体育での砲丸投げの成績は0.5mだ。ダントツでビリの成績。
ーーにもかかわらず、カメ吉は特別な力を得たかのように、豪速球で鬼の背中にヒットした!
やはりこれぞ、ホンモノの火事場の馬鹿力だ。

鬼はのけぞって、その場に倒れこむ。
鬼の手から放れた光一郎くんも、はずみでころころと路面を転がった。

鬼はすぐに起き上がり片膝をつきながら、ぜいぜいと肩で息をしながら立ち尽くす私の方へと振り向いた。その目は怒りで真っ赤に光り輝いている。

「おまえ、いったい何者だ」

まるで地を這うような低く太い声だ。
ふだんの私なら、恐ろしくて泣きながら逃げてただろう。
だけど、気持ちが高ぶっていたからかどうかはわからないが、不思議と恐怖感はなかった。

「光一郎くんを連れて行くのは、絶対に許さないからっ!」

そのまま鬼と私はしばらく睨み合ったままだった。
やがて鬼は、すっと立ち上がると、燃えるような目で私を見下ろす。

「……おまえの顔は覚えた。いずれおまえも必ず拐ってやる」

そう言うと、瞬きをする間にふっと消え失せた。
はっと気づくと、その姿はどこにもない。

とたんに全身の力が抜けた。呼吸はぜいぜいと荒く心臓が早鐘を打つ。
あたりを見渡すと、起き上がろうとする光一郎くんの姿が視界に入った。

「光一郎くんっ!!」

あわてて駆け寄り、その小さな体を抱きしめた。

「大丈夫っ!? 怪我は!?」
「うん、ぼくは大丈夫だよ」

光一郎くんはおでこを擦りむいて少し血が滲んでいたが、それ以外は無事のようだ。
ポケットからハンカチを取り出して、血をそっと拭ってあげる。

「でも、オニは逃げちゃった……」

くやしそうに唇を噛み締めている。
その姿を見てるうちに、はっと閃くことがあった。

「だけど光一郎くん、鬼が本当にいた証拠は押さえたよ」
「証拠?」

不思議そうな表情を見せる光一郎くんにウインクして、路上に転がりボロボロになったカメ吉を拾い上げる。
レンズは割れてしまい、ボディも傷だらけだ。
それでも電源を入れると、背面のモニタに画像が表示された。

さっき撮った忌々しい鬼の顔、そしてその鬼に掴みかかる光一郎くんの後ろ姿。

「ほら、これが鬼がいたって証拠だよ。これをお父さんに見せれば、きっと信じてもらえるって」

光一郎くんの顔に、みるみる明るさが灯った。出会ってから初めて見せる表情だ。
私はカメ吉からメモリーカードを取り出すと、それを光一郎くんに手渡した。

「おねえさん、ありがとう」
「いいえ礼には及びません。これも消怪団の仕事だからねっ」
「消怪団……?」
「鎌倉の悪いあやかしを退治するんだ。消怪団は君が作るんだよ。もっと大きくなったらね!」

光一郎くんは不思議そうな顔をしながらも、わかった、と答える。

「……で、ひとつ気になることがあるんだけど」
「なに?」
「私はちゃんと、もとの時代に戻れるんでしょうか……?」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...