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プロローグ
千年の剣が消えた日
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光に包まれたその瞬間、ライザルドの五感はひとつずつ静かに消えていった。
重さも、冷たさも、息遣いも失われていく中で、唯一、彼の「意識」だけが虚空に浮かび続けていた。
(……これが……死か……)
そう思った瞬間、ライザルドの精神は異変に呑まれた。
まるで滝が頭上から流れ込むように、怒涛のような「未来の映像」が、彼の脳に流れ込んできた。
それは、時を越えた警告だった。
――まず、5年後。
帝都グランゼルは、未曾有の混乱に包まれる。
王家の統治は続いていたが、各地の諸侯たちはざわめき始めていた。
「奴がいないならば、もはや従う理由はない」
「統一は、あの化け物がいたから成り立っていたのだ」
彼らが言う“奴”――それこそが、ライザルド・ヴェルシュタインだった。
《千年の剣》と称され、すべての国の軍事力を凌駕した存在。
その絶対的な力により、大陸12国は戦をやめ、王の下に平伏した。
だが、ライザルドの死を境に、秩序は音を立てて崩れていく。
最初に牙を剥いたのは、かつて「竜の血を継ぐ者たち」と呼ばれた東の王国【ドラウゼル】。
続いて、寒冷の大地を支配する北方帝国【ヴェルナーク】が独立を宣言。
さらには、かつて魔族の拠点とされた黒の渓谷を根城にする秘密結社【ロキフェル教団】までもが活動を再開。
――10年後。
王国軍は疲弊し、反乱軍の旗が各地で翻る。
統一されたはずの大陸は、再び分断され、戦火に包まれ始めた。
ライザルドの像は各地で打ち壊され、「英雄の時代は終わった」と民衆は囁いた。
――50年後。
古の魔族《血鎖王(けっさおう)ヴァル=ガレオス》が封印より解かれ、再び大地に現れる。
彼は復興した【ロキフェル教団】と手を組み、「神なき世界に裁きを」と叫びながら、王国を次々に侵略していく。
――100年後。
大陸は七つの国に割れ、戦争は日常と化す。
街の鐘は時を告げるためではなく、空襲や侵略を知らせるために鳴るようになっていた。
もはや中央政府は形骸化し、王家は名ばかりの存在となる。
――300年後。
グランゼル王国、完全崩壊。
その末裔たちは、東の海を越えた列国【シェムル連邦】の奴隷市場で売られていた。
“かつて王族だった”という血筋は、今や取引価格を上げるための見せ物でしかなかった。
民は名前を捨て、信仰を捨て、誇りすら捨てた。
かつての英雄譚は“反逆者の幻想”とされ、ライザルドの記録は焚書され、歴史から消されていた。
全ては――
あの一人の英雄が「いなくなった」ことから始まったのだ。
「……なぜだ……」
声にならない叫びが、虚無に響く。
「私が……消えたことで……こんなにも……」
怒りとも悲しみともつかぬ感情が、胸の奥で渦巻いた。
誇りも、信念も、命を懸けて守ったものも……すべてが崩れ去っていく未来。
(……こんな結末のために、私は剣を取ったのか……?)
涙も出ない。
けれど、心は確かに――泣いていた。
そのとき、空間がぐにゃりと歪んだ。
視界が崩れ、音が消え、意識が急速に深淵へと引き込まれていく。
どこまでも深く、暗く、底知れぬ場所へ。
そこでライザルドの意識は、完全に――断たれた。
重さも、冷たさも、息遣いも失われていく中で、唯一、彼の「意識」だけが虚空に浮かび続けていた。
(……これが……死か……)
そう思った瞬間、ライザルドの精神は異変に呑まれた。
まるで滝が頭上から流れ込むように、怒涛のような「未来の映像」が、彼の脳に流れ込んできた。
それは、時を越えた警告だった。
――まず、5年後。
帝都グランゼルは、未曾有の混乱に包まれる。
王家の統治は続いていたが、各地の諸侯たちはざわめき始めていた。
「奴がいないならば、もはや従う理由はない」
「統一は、あの化け物がいたから成り立っていたのだ」
彼らが言う“奴”――それこそが、ライザルド・ヴェルシュタインだった。
《千年の剣》と称され、すべての国の軍事力を凌駕した存在。
その絶対的な力により、大陸12国は戦をやめ、王の下に平伏した。
だが、ライザルドの死を境に、秩序は音を立てて崩れていく。
最初に牙を剥いたのは、かつて「竜の血を継ぐ者たち」と呼ばれた東の王国【ドラウゼル】。
続いて、寒冷の大地を支配する北方帝国【ヴェルナーク】が独立を宣言。
さらには、かつて魔族の拠点とされた黒の渓谷を根城にする秘密結社【ロキフェル教団】までもが活動を再開。
――10年後。
王国軍は疲弊し、反乱軍の旗が各地で翻る。
統一されたはずの大陸は、再び分断され、戦火に包まれ始めた。
ライザルドの像は各地で打ち壊され、「英雄の時代は終わった」と民衆は囁いた。
――50年後。
古の魔族《血鎖王(けっさおう)ヴァル=ガレオス》が封印より解かれ、再び大地に現れる。
彼は復興した【ロキフェル教団】と手を組み、「神なき世界に裁きを」と叫びながら、王国を次々に侵略していく。
――100年後。
大陸は七つの国に割れ、戦争は日常と化す。
街の鐘は時を告げるためではなく、空襲や侵略を知らせるために鳴るようになっていた。
もはや中央政府は形骸化し、王家は名ばかりの存在となる。
――300年後。
グランゼル王国、完全崩壊。
その末裔たちは、東の海を越えた列国【シェムル連邦】の奴隷市場で売られていた。
“かつて王族だった”という血筋は、今や取引価格を上げるための見せ物でしかなかった。
民は名前を捨て、信仰を捨て、誇りすら捨てた。
かつての英雄譚は“反逆者の幻想”とされ、ライザルドの記録は焚書され、歴史から消されていた。
全ては――
あの一人の英雄が「いなくなった」ことから始まったのだ。
「……なぜだ……」
声にならない叫びが、虚無に響く。
「私が……消えたことで……こんなにも……」
怒りとも悲しみともつかぬ感情が、胸の奥で渦巻いた。
誇りも、信念も、命を懸けて守ったものも……すべてが崩れ去っていく未来。
(……こんな結末のために、私は剣を取ったのか……?)
涙も出ない。
けれど、心は確かに――泣いていた。
そのとき、空間がぐにゃりと歪んだ。
視界が崩れ、音が消え、意識が急速に深淵へと引き込まれていく。
どこまでも深く、暗く、底知れぬ場所へ。
そこでライザルドの意識は、完全に――断たれた。
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