弱国コンサルタント

ひがしの くも

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異世界への転生

ライザルドVSゼクス

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セリオス王国、第一演武場。
首都の中でも最大規模を誇るその施設には、今――国の重臣たちが集まりつつあった。

「……本当に、あの幽霊とゼクス殿が決闘を?」

「まさか、あの男が本気で相手をするとは……」

「いや、あれは“見る価値がある”。王が一目置かれている存在だ。只者ではない」

観客席には、宰相や将軍、各部門の長官たち。
ゼクス直属の近衛騎士団員も多く詰めかけ、その数は数百に上る。

場内に重苦しい緊張が流れる中、静かに一人の男が歩み出た。

銀の髪、全盛期の肉体を宿した魔騎士――ライザルド。

彼は剣を持たず、鎧も纏わず、ただ質素な黒衣のまま、演武場の中心に立つ。

その姿を見た瞬間、多くの者が息を飲んだ。
ただそこに立っているだけで、“只者ではない”と感じさせる雰囲気が、彼にはあった。

続いて、鎧に身を包んだ男――ゼクス・ヴァンハルトが登場。
国最強の騎士にふさわしい風格と迫力をもって、場の空気を一変させる。

アレクシオン・セリオス八世王は特別席に腰を下ろし、静かに見守っていた。

 

「よいか、ライザルド。これはあくまで“力比べ”だ」

「承知しておるよ、ゼクス殿。……私もなるたけ手加減するつもりじゃ」

「その口ぶり、随分と余裕だな。せいぜい後悔せぬようにな!」

ゼクスが叫びと共に駆け出した。

雷の如き踏み込み、風を裂く斬撃――
その一撃一撃が、常人の域を遥かに超えた精度と速さを誇る。

しかし。

「おお……見事な剣筋よ。まこと、美しい」

ライザルドはその刃を、紙一重の距離で避け続ける。
足を動かすことなく、体のひねり、わずかな重心移動だけで。

「なっ……!」

ゼクスはすぐさま剣撃の速度を上げ、連撃に転じた。
しかし結果は変わらない。ライザルドは一歩も動かず、涼しい顔で全ての攻撃を受け流していく。

「これでどうだッ!」

今度は魔法――炎の斬撃、氷の波動、雷の鎖。
近接と遠距離を織り交ぜた巧みな攻撃がライザルドを包囲する。

「おお……お主、魔法も扱えるか。器用じゃのう」

ライザルドは指先をわずかに振り、すべての魔法を無効化するように“いなし”た。
まるで空気を払うように、その膨大な攻撃を、無に帰していく。

観客席がざわめく。

「……ゼクス様の攻撃が、まるで通じていない……」

「嘘だろ……あのゼクス様の強大な魔力を……?」

ゼクスの額には汗がにじみ始める。

「どうしたッ! 逃げてばかりで、怖いのか!? それとも幽体でいた時間が長くて体が動かんのかァ!?」

その挑発に、ライザルドは少し笑みを浮かべた。

「ふむ……よかろう」

彼はゆっくりと右手を掲げた。

「では……ほんの少し、私の力を示して進ぜようかの」

その瞬間――。

大気が、震えた。

何もしていないはずのライザルドの身体から、凄まじい魔力が漏れ出す。
目に見えるほどの魔力の奔流が、空気を波打たせ、演武場全体を包む。

地面が揺れ、石畳が軋み、空気が重く、熱を帯びていく。

「な……なに……これが、魔力……?」

「まるで……世界そのものが怒りに震えているみたいだ……!」

観客席の者たちは一様に立ち上がり、息を呑んだ。

ゼクスは、呼吸ができなくなるほどの圧に耐えながら、膝をつく。
顔を上げたその目に、恐怖ではなく、確信があった。

「……俺の、負けだ」

その言葉は、静かに、だが決して軽くなく、演武場に響いた。

ライザルドは魔力の放出を止め、穏やかな表情でゼクスに近づいた。

「見事な戦いぶりであった、ゼクス殿。負けを素直に認められるのも、また強き者の証」

「……俺の攻撃は、一度たりとも当たらなかった。剣も、魔法も、何一つ……。貴殿が本気を出していれば、俺は……」

「ふふ……それを語るは、無粋というものじゃ」

二人はしばし見つめ合い――そして、ゼクスは深く頭を下げた。

「……貴殿の実力、正しく見極めた。私の傲慢、どうかお許しを」

「ならば、こうして互いの力を認め合えたこと、それで十分じゃ」

ライザルドは手を差し伸べ、ゼクスはその手を素直に握りしめた。

 

アレクシオン王はゆっくりと立ち上がり、拍手を送った。
それに続き、場内全体が、静かな、そして力強い拍手に包まれる。

この日――。

セリオス王国は、かつてない力を持つ“新たな騎士”を得た。

大陸祭典を前にして、ダントツ最下位の国に現れた、伝説の亡霊。
だが今、その存在は、誰よりも確かな希望の光として、王と臣下の胸に刻まれたのだった。
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