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新たなる出会い
雲上の道場
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出発から三週間。
ライザルド一行は、これまでに四つの町を訪ね歩いたが、逸材と呼べる者には出会えていなかった。
鍛錬に励む若者は多かったが、いずれも「光」が足りぬ――そうライザルドは感じていた。
そんな中、二日前に訪れた五つ目の町で、ある噂が耳に入った。
「あの山の頂上近くに、昔の道場が残っていてな……もう誰も住んでないと思ってたんだが、最近になってまた、誰かが通ってるって話でさ。見かけたやつが言うには、朝から晩まで一人で型を打ってるらしい」
その山の名は〈テンザ峰〉。標高3811メートル。人の住むには厳しすぎる環境だ。
「ふぉっふぉ……山の上で修行とは粋じゃな。どんなやつか楽しみじゃ。」
ライザルドは目を細め、ひとつ楽しげに笑った。
「山登りは得意じゃありませんが……」
ゼクスが苦笑いを浮かべる横で、見習い騎士のアルネは目を輝かせていた。
かくして、三人はテンザ峰への登山を始めた。
一日目はふもとの山道を進み、日没と共に中腹で野営。
風は冷たく、夜は凍えるような寒さだったが、霊体であるライザルドはあくびをひとつしただけで動じない。
「夜は星が綺麗じゃのう」と言って空を見上げるていた。
そして二日目――
岩場を越え、濃霧に包まれた尾根を進むと、山肌に苔むした木造の建物が見えた。
それが、噂の廃道場だった。
「……思うたより、荒れとるな」
ゼクスがつぶやくとおり、外壁はひび割れ、屋根もところどころ崩れている。
しかし、道場の前に立った瞬間――
シュッ――バン!
空気を切り裂く鋭い音が、中から聞こえてきた。
続けて、凛とした掛け声が山間に響く。
「はっ! ふっ……!」
三人は目を見交わし、静かに戸を開ける。
中にいたのは、一人の若き女性だった。
灰がかった青緑色の長い髪を後ろで束ね、端正な顔立ちに冷たい気品を宿したその姿は――
まさに絶世の美女と呼ぶにふさわしかった。
気高く、触れがたく、山の空気と同化したような孤高の美しさ。
その顔立ちと同じくらい、動きにも一切の無駄がなく、鬼気迫る気迫があった。
そして何より――その型に、ライザルドは息を呑んだ。
(……美しい……)
型の一挙手一投足に、無駄はなく、破綻もない。
まるで見えぬ相手と対峙しているかのような“想像力”と“精度”があった。
攻防の流れを再現しながら、極限まで研ぎ澄まされた動きが続く。
「……ふぉ……これは、これは……」
思わず漏れた声に、女性がふり返る。
一瞬の警戒が走ったが、敵意がないと察すると、彼女は静かに構えを解いた。
鍛え抜かれた身体と、澄んだ瞳――まるで山の清流のような冷ややかさと、どこか深い闘志を感じさせる。
「……誰?」
その声は低く、張りがあった。
ゼクスが軽く頭を下げ、状況を説明しようとするが――
「うむ。わしが口に出す方が良かろう」
ライザルドが一歩、前へ出る。
「わしはライザルド。この国の王命にて、三年後の〈グラフェス〉に挑むべく、人材を探しておる。
そなたの武のありよう、見事じゃ。もしよければ、我らと共に――」
「断る」
即答だった。
「……ほう?」
ライザルドの眉がわずかに上がる。
「この大陸の者である以上、グラフェスのことは知っている。しかし“祭り”などに出るために、私はこの地に来たのではない。
私は“武道家”であって、“競技者”ではない。己を高める、武の道を極めるためだけにここにいる。
人に勝つためではなく、己を超えるために、日々を過ごしている。
……興味も、関心もない」
語気は強くなかったが、芯のある拒絶だった。
ゼクスが押し黙る中、ライザルドはしばし沈黙し、やがて小さく笑った。
「ふぉっふぉっふぉ……見事なまでの“頑固者”じゃのう。だが、それもまた“強さ”の一つよ」
そう言って、無理には勧めなかった。
(この者……間違いなく、武の高みに近い。……であるがゆえに、今はまだ、“戦う理由”を持たぬか)
「……名を聞いてもよいかの?」
ライザルドがそう問うと、女性は一拍置いてから、答えた。
「……“リィナ”だリィナ ヴァイス。」
その瞳は、まっすぐだった。
道場の中に再び、静寂が訪れる――。
ライザルド一行は、これまでに四つの町を訪ね歩いたが、逸材と呼べる者には出会えていなかった。
鍛錬に励む若者は多かったが、いずれも「光」が足りぬ――そうライザルドは感じていた。
そんな中、二日前に訪れた五つ目の町で、ある噂が耳に入った。
「あの山の頂上近くに、昔の道場が残っていてな……もう誰も住んでないと思ってたんだが、最近になってまた、誰かが通ってるって話でさ。見かけたやつが言うには、朝から晩まで一人で型を打ってるらしい」
その山の名は〈テンザ峰〉。標高3811メートル。人の住むには厳しすぎる環境だ。
「ふぉっふぉ……山の上で修行とは粋じゃな。どんなやつか楽しみじゃ。」
ライザルドは目を細め、ひとつ楽しげに笑った。
「山登りは得意じゃありませんが……」
ゼクスが苦笑いを浮かべる横で、見習い騎士のアルネは目を輝かせていた。
かくして、三人はテンザ峰への登山を始めた。
一日目はふもとの山道を進み、日没と共に中腹で野営。
風は冷たく、夜は凍えるような寒さだったが、霊体であるライザルドはあくびをひとつしただけで動じない。
「夜は星が綺麗じゃのう」と言って空を見上げるていた。
そして二日目――
岩場を越え、濃霧に包まれた尾根を進むと、山肌に苔むした木造の建物が見えた。
それが、噂の廃道場だった。
「……思うたより、荒れとるな」
ゼクスがつぶやくとおり、外壁はひび割れ、屋根もところどころ崩れている。
しかし、道場の前に立った瞬間――
シュッ――バン!
空気を切り裂く鋭い音が、中から聞こえてきた。
続けて、凛とした掛け声が山間に響く。
「はっ! ふっ……!」
三人は目を見交わし、静かに戸を開ける。
中にいたのは、一人の若き女性だった。
灰がかった青緑色の長い髪を後ろで束ね、端正な顔立ちに冷たい気品を宿したその姿は――
まさに絶世の美女と呼ぶにふさわしかった。
気高く、触れがたく、山の空気と同化したような孤高の美しさ。
その顔立ちと同じくらい、動きにも一切の無駄がなく、鬼気迫る気迫があった。
そして何より――その型に、ライザルドは息を呑んだ。
(……美しい……)
型の一挙手一投足に、無駄はなく、破綻もない。
まるで見えぬ相手と対峙しているかのような“想像力”と“精度”があった。
攻防の流れを再現しながら、極限まで研ぎ澄まされた動きが続く。
「……ふぉ……これは、これは……」
思わず漏れた声に、女性がふり返る。
一瞬の警戒が走ったが、敵意がないと察すると、彼女は静かに構えを解いた。
鍛え抜かれた身体と、澄んだ瞳――まるで山の清流のような冷ややかさと、どこか深い闘志を感じさせる。
「……誰?」
その声は低く、張りがあった。
ゼクスが軽く頭を下げ、状況を説明しようとするが――
「うむ。わしが口に出す方が良かろう」
ライザルドが一歩、前へ出る。
「わしはライザルド。この国の王命にて、三年後の〈グラフェス〉に挑むべく、人材を探しておる。
そなたの武のありよう、見事じゃ。もしよければ、我らと共に――」
「断る」
即答だった。
「……ほう?」
ライザルドの眉がわずかに上がる。
「この大陸の者である以上、グラフェスのことは知っている。しかし“祭り”などに出るために、私はこの地に来たのではない。
私は“武道家”であって、“競技者”ではない。己を高める、武の道を極めるためだけにここにいる。
人に勝つためではなく、己を超えるために、日々を過ごしている。
……興味も、関心もない」
語気は強くなかったが、芯のある拒絶だった。
ゼクスが押し黙る中、ライザルドはしばし沈黙し、やがて小さく笑った。
「ふぉっふぉっふぉ……見事なまでの“頑固者”じゃのう。だが、それもまた“強さ”の一つよ」
そう言って、無理には勧めなかった。
(この者……間違いなく、武の高みに近い。……であるがゆえに、今はまだ、“戦う理由”を持たぬか)
「……名を聞いてもよいかの?」
ライザルドがそう問うと、女性は一拍置いてから、答えた。
「……“リィナ”だリィナ ヴァイス。」
その瞳は、まっすぐだった。
道場の中に再び、静寂が訪れる――。
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