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新たなる出会い
ライザルドVSリィナ
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標高三千メートルを超える静寂の山道場。
その朝、空は澄み、風は凪ぎ、山鳥の声だけが微かに響いていた。
「……ぬし、ひとつ、提案がある。」
稽古を終え、汗を拭くリィナに、ライザルドが静かに言葉を投げかけた。
「提案?」
「そうじゃ。わしと――手合わせせぬか。」
その言葉にリィナの眉が動いた。
「……理由を聞こうか。」
「一人きりで型を繰り返す。それは確かに修行の一環じゃが、ぬしはそれを何年続けてきた? それで武を極めたと、誰が判断する?」
リィナは何も言わなかった。
「武の極みとは、自らで語るものではなく、世界が語るもの。己の立ち位置を知りたいなら、まずは他と交わらねばなるまい。」
その言葉に、リィナの蒼緑の瞳が細められた。
彼女は短く息を吐き、袴の裾を整えながら言った。
「……わかった。だが、私は武を誇るためではなく、研ぐために生きている。それを忘れないでくれ。」
「ふむ、それでこそ、ようやく話が通じるわ。」
ライザルドは小さく笑った。
そして道場の外へ出た三人。山肌に拓かれた広場、柔らかな土と苔に覆われた天然の鍛錬場にて。
「では、少々……姿を借りるぞ。」
ライザルドは軽く目を閉じた。すると次の瞬間、その身に光が集まり、肉体が地に立った。
二十代中頃――最盛期の魔法騎士ライザルドの姿が、実体を持って現れる。
「なっ……これは……!?」
リィナが息をのむ。
「詳細はあとで話そう。それよりも――ぬしの求める道を、見せてみよ。」
ライザルドが構えをとる。穏やかな老人口調はそのままに、肉体は若き戦士そのもの。
リィナも静かに構えをとった。
――そして、試合が始まった。
風のように駆けるリィナの踏み込み。流麗な動き、鍛え抜かれた身体のしなり。拳と蹴りはどれも無駄がなく、美しかった。
まるで見えない敵と戦うような、完成された型がそのまま実戦となっていた。
だが――
「ぬしの武、確かに美しい。じゃが――」
ライザルドの声が届く前に、リィナの拳が放たれる。しかしそれを彼は難なくいなした。指一本で流すように。重心をずらすように。足捌きで受け流すように。
「まるで風……!」
リィナが小さく舌打ちを漏らす。
それでも止まらない。攻撃は繰り返される。拳、肘、膝、踵。あらゆる部位を駆使した連撃。それをライザルドは、すべて「無傷で」「一切の力みなく」受け止めていった。
ライザルドが手加減しながら一撃を放つ。
「ふっ……ぬしの防御、甘くはないのう。」
攻撃を受け止めたリィナの受け技は完璧だった。肘で外し、重心を使って流し、反撃に転じる隙を窺う。
五分が過ぎたころ――
リィナの口元に、かすかな笑みが浮かんでいた。
(なんて自由な戦い……こんなにも全力で攻防を繰り返せる相手は……初めて……)
拳を放ちながらも、心の奥底に熱が灯る。
張り詰めた空気の中で、まるで自分が刀鍛冶の炎に晒されているかのような、そんな心地。
型では得られぬ、生きた攻防。読み合い、見切り、間合いの奪い合い。
リィナの心には確かに“歓び”があった。
(ああ……これが――武の交わり……!)
しかし――
「さて、そろそろ、見せてやろうかの……“世界の広さ”というものを。」
ライザルドの声音が一段深く、静かになった瞬間。
ズン、と地が鳴ったような錯覚。
空気が揺れ、結界のような気配が広がる。
彼の周囲に、魔力が満ちた。
「こ、これは……」
圧倒的な“魔”の気配。
全身に鳥肌が立ち、リィナの呼吸が乱れる。
「は……っ、う……ぐ……」
膝が、震えた。体が思うように動かない。心が、逃げたがっている。
「これが……“圧”……!」
次の瞬間、ライザルドの姿がかき消えた。
「――!」
気づけば、目の前。リィナの懐、わずか十センチの至近距離に拳が迫る。寸止めで止まっていたそれは、まさに“死”の実感だった。
リィナの全身から汗が噴き出す。
「わ、私の……負けだ。」
彼女は潔く膝をつき、頭を垂れた。
「……よき武を持っておる。だが、それだけでは、まだ“頂き”には届かぬのじゃ。ぬしには、もっと遠くが見えるはずじゃぞ。」
ライザルドの老いた声音が、彼女の胸に深く刻まれた。
その朝、空は澄み、風は凪ぎ、山鳥の声だけが微かに響いていた。
「……ぬし、ひとつ、提案がある。」
稽古を終え、汗を拭くリィナに、ライザルドが静かに言葉を投げかけた。
「提案?」
「そうじゃ。わしと――手合わせせぬか。」
その言葉にリィナの眉が動いた。
「……理由を聞こうか。」
「一人きりで型を繰り返す。それは確かに修行の一環じゃが、ぬしはそれを何年続けてきた? それで武を極めたと、誰が判断する?」
リィナは何も言わなかった。
「武の極みとは、自らで語るものではなく、世界が語るもの。己の立ち位置を知りたいなら、まずは他と交わらねばなるまい。」
その言葉に、リィナの蒼緑の瞳が細められた。
彼女は短く息を吐き、袴の裾を整えながら言った。
「……わかった。だが、私は武を誇るためではなく、研ぐために生きている。それを忘れないでくれ。」
「ふむ、それでこそ、ようやく話が通じるわ。」
ライザルドは小さく笑った。
そして道場の外へ出た三人。山肌に拓かれた広場、柔らかな土と苔に覆われた天然の鍛錬場にて。
「では、少々……姿を借りるぞ。」
ライザルドは軽く目を閉じた。すると次の瞬間、その身に光が集まり、肉体が地に立った。
二十代中頃――最盛期の魔法騎士ライザルドの姿が、実体を持って現れる。
「なっ……これは……!?」
リィナが息をのむ。
「詳細はあとで話そう。それよりも――ぬしの求める道を、見せてみよ。」
ライザルドが構えをとる。穏やかな老人口調はそのままに、肉体は若き戦士そのもの。
リィナも静かに構えをとった。
――そして、試合が始まった。
風のように駆けるリィナの踏み込み。流麗な動き、鍛え抜かれた身体のしなり。拳と蹴りはどれも無駄がなく、美しかった。
まるで見えない敵と戦うような、完成された型がそのまま実戦となっていた。
だが――
「ぬしの武、確かに美しい。じゃが――」
ライザルドの声が届く前に、リィナの拳が放たれる。しかしそれを彼は難なくいなした。指一本で流すように。重心をずらすように。足捌きで受け流すように。
「まるで風……!」
リィナが小さく舌打ちを漏らす。
それでも止まらない。攻撃は繰り返される。拳、肘、膝、踵。あらゆる部位を駆使した連撃。それをライザルドは、すべて「無傷で」「一切の力みなく」受け止めていった。
ライザルドが手加減しながら一撃を放つ。
「ふっ……ぬしの防御、甘くはないのう。」
攻撃を受け止めたリィナの受け技は完璧だった。肘で外し、重心を使って流し、反撃に転じる隙を窺う。
五分が過ぎたころ――
リィナの口元に、かすかな笑みが浮かんでいた。
(なんて自由な戦い……こんなにも全力で攻防を繰り返せる相手は……初めて……)
拳を放ちながらも、心の奥底に熱が灯る。
張り詰めた空気の中で、まるで自分が刀鍛冶の炎に晒されているかのような、そんな心地。
型では得られぬ、生きた攻防。読み合い、見切り、間合いの奪い合い。
リィナの心には確かに“歓び”があった。
(ああ……これが――武の交わり……!)
しかし――
「さて、そろそろ、見せてやろうかの……“世界の広さ”というものを。」
ライザルドの声音が一段深く、静かになった瞬間。
ズン、と地が鳴ったような錯覚。
空気が揺れ、結界のような気配が広がる。
彼の周囲に、魔力が満ちた。
「こ、これは……」
圧倒的な“魔”の気配。
全身に鳥肌が立ち、リィナの呼吸が乱れる。
「は……っ、う……ぐ……」
膝が、震えた。体が思うように動かない。心が、逃げたがっている。
「これが……“圧”……!」
次の瞬間、ライザルドの姿がかき消えた。
「――!」
気づけば、目の前。リィナの懐、わずか十センチの至近距離に拳が迫る。寸止めで止まっていたそれは、まさに“死”の実感だった。
リィナの全身から汗が噴き出す。
「わ、私の……負けだ。」
彼女は潔く膝をつき、頭を垂れた。
「……よき武を持っておる。だが、それだけでは、まだ“頂き”には届かぬのじゃ。ぬしには、もっと遠くが見えるはずじゃぞ。」
ライザルドの老いた声音が、彼女の胸に深く刻まれた。
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