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新たなる出会い
剣の宴
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剣術大会の視察初日。
会場に足を運ぶと、すでに大勢の観客が詰めかけていた。
熱気と歓声が渦巻く中、ライザルド一行は観客席の一角に腰を下ろす。
開始を告げる鐘の音とともに、若き剣士たちが次々と登場してゆく。
その中には、客席のゼクスに気付いて、意識的に張り切る者たちの姿もあった。
「ゼクス様……!見ていてくださいッ!」
「この一太刀で名を上げてみせます!」
剣を握る青年たちの目は真っ直ぐに燃えていた。
ゼクスはそれに対して、うなずき、笑みを浮かべる。
その様は、まるで国の未来を見守る父のようであった。
──試合は次々と続いていく。
一回戦のすべてが終わる頃には、陽も傾き、観客席には心地よい疲労感が漂っていた。
「うおお……見応えあったなぁ!」
アルネは目を輝かせながら、身を乗り出す。
「ええ、どの選手も本当に一生懸命でしたね」
ゼクスも頷く。
しかし──
「……あれで精鋭とはのう」
リィナが、ぼそりと漏らす。
その声は思いのほか辛辣だった。
「おぬし、楽しんでなかったのか?」
ライザルドが尋ねると、彼女は眉間に皺を寄せたまま答えた。
「……どの一太刀も、甘い。動きに“型”はあっても、“魂”が感じられませんでした」
「……ふむ、わしも同感じゃ」
ライザルドは腕を組んで、静かに目を伏せた。
──この国の武の水準。
そう言ってしまえばそれまでだが、四年に一度の祭典を見据えるにあたって、もう一段階上の実力者が欲しい。
そんな思いが、二人の心中に渦巻いていた。
その日の宿へと戻った後、みんなが夕食を済ませた後、ライザルドはひとり静かに部屋を出た。
夜風にあたりながら、霊体のまま宵の町を散策する。
魔力を極めた者にとって、ただ風を感じるという時間も、また貴重な修養のひとつである。
──ふと、耳に木刀の打ち合う音が届いた。
音の方へと向かうと、小さな村の稽古場らしき一角に、一人の少女がいた。
年の頃は十五、もしかすると十四か。
まだあどけなさが残る顔立ちのその少女は、誰に見せるでもなく、黙々と木刀を振り続けていた。
正面打ち、袈裟斬り、足捌き、反復──
それらはすべて基礎中の基礎。しかし彼女は一向にやめる様子を見せず、ただひたすらに、己の体に技を刻み込もうとしているようだった。
「……大会では見かけなかったな。誰かの付き添いか、」
そう呟きながら、ライザルドはそっと視線を下ろす。
彼女の掌はすでに血豆で潰れ、木刀の柄には生々しい赤が滲んでいた。
それでも剣を放すことなく、黙々と振るう姿は、見る者の胸を打つ。
──だが。
「……惜しいのう」
ライザルドはほんの少しだけ首を横に振った。
その動きに、剣才の煌めきはなかった。
修練の熱意は痛いほどに伝わる。だが、それと才能とは別物だ。
(努力だけでは届かぬ世界があるのじゃ……それが、武の道)
どこかで、かつて自分が見てきた多くの“挫折”を思い出していた。
夜の風に背を押されるように、ライザルドはその場を後にする。
そして、静かに宿へと戻った。
まだ何かを見逃している気がして、心の奥で微かなざわめきだけが残っていた。
会場に足を運ぶと、すでに大勢の観客が詰めかけていた。
熱気と歓声が渦巻く中、ライザルド一行は観客席の一角に腰を下ろす。
開始を告げる鐘の音とともに、若き剣士たちが次々と登場してゆく。
その中には、客席のゼクスに気付いて、意識的に張り切る者たちの姿もあった。
「ゼクス様……!見ていてくださいッ!」
「この一太刀で名を上げてみせます!」
剣を握る青年たちの目は真っ直ぐに燃えていた。
ゼクスはそれに対して、うなずき、笑みを浮かべる。
その様は、まるで国の未来を見守る父のようであった。
──試合は次々と続いていく。
一回戦のすべてが終わる頃には、陽も傾き、観客席には心地よい疲労感が漂っていた。
「うおお……見応えあったなぁ!」
アルネは目を輝かせながら、身を乗り出す。
「ええ、どの選手も本当に一生懸命でしたね」
ゼクスも頷く。
しかし──
「……あれで精鋭とはのう」
リィナが、ぼそりと漏らす。
その声は思いのほか辛辣だった。
「おぬし、楽しんでなかったのか?」
ライザルドが尋ねると、彼女は眉間に皺を寄せたまま答えた。
「……どの一太刀も、甘い。動きに“型”はあっても、“魂”が感じられませんでした」
「……ふむ、わしも同感じゃ」
ライザルドは腕を組んで、静かに目を伏せた。
──この国の武の水準。
そう言ってしまえばそれまでだが、四年に一度の祭典を見据えるにあたって、もう一段階上の実力者が欲しい。
そんな思いが、二人の心中に渦巻いていた。
その日の宿へと戻った後、みんなが夕食を済ませた後、ライザルドはひとり静かに部屋を出た。
夜風にあたりながら、霊体のまま宵の町を散策する。
魔力を極めた者にとって、ただ風を感じるという時間も、また貴重な修養のひとつである。
──ふと、耳に木刀の打ち合う音が届いた。
音の方へと向かうと、小さな村の稽古場らしき一角に、一人の少女がいた。
年の頃は十五、もしかすると十四か。
まだあどけなさが残る顔立ちのその少女は、誰に見せるでもなく、黙々と木刀を振り続けていた。
正面打ち、袈裟斬り、足捌き、反復──
それらはすべて基礎中の基礎。しかし彼女は一向にやめる様子を見せず、ただひたすらに、己の体に技を刻み込もうとしているようだった。
「……大会では見かけなかったな。誰かの付き添いか、」
そう呟きながら、ライザルドはそっと視線を下ろす。
彼女の掌はすでに血豆で潰れ、木刀の柄には生々しい赤が滲んでいた。
それでも剣を放すことなく、黙々と振るう姿は、見る者の胸を打つ。
──だが。
「……惜しいのう」
ライザルドはほんの少しだけ首を横に振った。
その動きに、剣才の煌めきはなかった。
修練の熱意は痛いほどに伝わる。だが、それと才能とは別物だ。
(努力だけでは届かぬ世界があるのじゃ……それが、武の道)
どこかで、かつて自分が見てきた多くの“挫折”を思い出していた。
夜の風に背を押されるように、ライザルドはその場を後にする。
そして、静かに宿へと戻った。
まだ何かを見逃している気がして、心の奥で微かなざわめきだけが残っていた。
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