わたしの可愛い悪役令嬢

くん

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1・目覚め

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 え~っと……一旦整理してみよう。




 わたしは商社の営業部でそれなりに実績も挙げてこのままいけば昇進ももうすぐ……の、ちょっと週末引きこもり気味のOLだった……はず。

 うん、確かにそうだった。そうだったはず……なのに。





 まだ明るくなるには早い静かな時間、何がきっかけか分からないが急にOLだった自分の記憶が溢れてきた。夢にしてはリアル過ぎるその記憶。

 起きるにはまだ早い。夢かな?位に思いたかったがふと、その記憶の中から衝撃的なあることを思いだし、ベッドから飛び起きた。



 わたしは自分の姿を鏡に写しその姿を凝視した。



 そこに写っているのは、もうすぐ10歳になる男の子。しかも、その子を私はOL時代から知っている。

 なんの事はない、自分のやっていた乙女ゲームに出てきた、所謂『攻略対象』。自分もちょっとお気に入りだった男の子だ。

 おかしいな、こーゆう時はヒロインとか悪役令嬢になるんじゃないのかい?神さまってば何してくれてんのよ!

 なんて事を呟いても神さまが答えてくれる訳もなし。



 わたしはため息をひとつついた。



 自分はエウレン侯爵の長子、クルーディス・エウレン。

 ここが乙女ゲームの世界ならクルーディスは12歳でコートナー伯爵家の令嬢、アイラヴェントと婚約することになっている。そのアイラヴェントはご他聞に漏れず、悪役としてヒロインに立ちはだかる事になり、ヒロインがクルーディスルートを選べば彼女はヒロインと対立し悪役としてクルーディスが彼女を断罪しなければならない。アイラヴェントはクルーディスルートではヒロインに対して行った拉致監禁、脅迫等の罪で投獄され、最後には確か精神的におかしくなってしまう令嬢は獄中死だった……はず。




「うわぁ……ひっどいわ」




 ゲームとはいえおかしくなって獄中死はないだろう。今だからそう思うが、確かに自分もそのルートを頑張った!結構人気があったツンデレなクルーディス!彼を攻略するためにネットで裏情報もかき集めた!でもそれはあくまでもゲームだからでリアルに人が死ぬのはいただけない。今思うと酷い終わり方だと改めて感じる。

 今の自分は画面の向こうで好きなことだけ言ってられる立場ではない。当事者なのだ。

 思わず頭を抱えてしまっても仕方がないだろう。

 自分が『攻略対象』の一人として今ここで生きている事を……納得はし難いが認めるしかない。




「リアルに可愛いわ、クルーディス……」





 複雑な思いで自分の姿を再確認する。

 黒みがかった藍色のさらりとした髪。まだあの切れ長の涼やかな目元にはなりきれてはいないけど、一般的に見てとても可愛い部類の顔立ち。まだ子供だからなのか今のところツンデレ要素は出ていないと思う。

 しかしどんなに可愛い子だとしても自分は絶対攻略する事が出来ない事はわかる。どんなに可愛くてもそれじゃただのナルシストだ。




 ……ま、前向きに考えなければ。




 兎にも角にも自分は男の子で、ゲームであれば攻略対象の一人。

 もしヒロインに自分が選ばれたら女の子を一人獄中死させる未来がやって来る……みたい。

 例えどんな令嬢であれ自分が誰かを死に追いやるなんて絶対嫌だ。選ばれなければいい……しかし、それを決めるのは自分ではない。ヒロインなのだ。彼女の好みで決まってしまう。自分がゲームをしていた時の事を棚に上げ、まだ見ないヒロインの可愛らしさの中の恐ろしさに身震いをする。どうにかして避けられないか……。ん?と言う事は……。






「選ばれてもヒロインを好きにならなきゃいいんじゃない?」





 そうだよ!好感度が上がってヒロインを好きになるから令嬢の獄中死とか発生するけど、好感度さえ上がらなきゃそうはならないのではないか。自分の考えに少し気持ちが明るくなる。

 よし!そうならない様に今から対処法を考えなければ!


 となると、一番いいのは自分が婚約者とずっといい関係を保つ事……かな。

 二人の間にヒロインの入る隙がなければ上手く行くんじゃない?ほら、わたし自身が婚約者の事を愛していればヒロインになんて目がいかなくなるし、婚約者も獄中死なんて事にはならないじゃない!うわぁわたしやるじゃんあったまいー!

 わたしは自分の考えに自画自賛した……ところでハタと気づいた。




「アイラヴェント……って、確か……」




 自分がクルーディスを攻略した時の記憶を辿ると、ヒロインに立ちはだかるだけあって分かりやすく王道の悪役なのだ。

 プライドの高い伯爵の名を嵩に着た鬱陶しい悪役。彼女は取り巻きを引き連れて分かりやすくヒロインを貶めていく。クルーディスルートでは本当に随所でイライラさせてくれた、ある意味自分のポジションに忠実な悪役を披露してくれていたのだ。

 しかもこの令嬢はクルーディスルートだけでなく他のルートでもヒロインの邪魔をしてくれる、製作者側の都合に合わせた便利な子なのだ。

 うわ。何かとてつもなく可哀想なポジションなんだけど……。 あれ?確かもうひとり悪役令嬢いなかったっけ。アイラヴェントが正々堂々と悪さをするタイプなら、もうひとりの悪役令嬢は裏で色々と画策をして自分が表には出てこない美少女だったっけ。クルーディスルートにはあまり関わってこなかったので記憶も曖昧だけど……その子もこの世界にいるのかしら。

 いや、それより直接関わるアイラヴェントの方よね。

 ここがゲームの世界とリンクしてるなら、わたしはアイラヴェントと婚約する事になるだろう。そんでもって16歳になったらヒロインとも出会っちゃうんだろう。

 クルーディスルートの中で関わる女の子はヒロインとアイラヴェント位……って事は。





「究極の2択……って事?」





 何か全身の力が抜けてついがっくりと四つん這いになってしまった。

 誰かを死に追いやるヒロインか、プライドだけは高いイライラする令嬢か。




 なんだこりゃ。神さまひどくない?

 きっとこれって異世界に転生してるとかそーゆー事なんだろうけど、可愛い10歳の男の子にこんな選択させんなよ!

 しかも中身は平日は仕事ばっかしてて休日は引きこもりの残念な女をいくら好きだったゲームの世界でも攻略対象側にしなくてもいいじゃないか!




 ひとしきり毒づいたらわたしは深呼吸をしてみる。

 考えなくても答えは最初から決まっているのだ。






 わたしには誰かを死なす程の心の強さは持っていないのだから。







◆ ◆ ◆

読んでいただきましてありがとうございます。
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